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ベッドルームに隣合うゲストルームで夕食を取った。給仕をつけることもできるがいかがなさいますかと訊ねられ、青は断った。「こちらで好きにやりますので」と言うと、女将は「では順にお料理お運びいたします」と言って、品書きと追加オーダー用のメニューだけ置いて下がった。
「いいのか? お触り自由だったかもしんねえのに」と向かいで夜鷹が笑う。
「必要ない」
「ノーパンしゃぶしゃぶって世代じゃねえんだよな。あれ一回行ってみたかった」
「夜鷹のいた国ってさ、もっとえげつないのあるだろ」
「ブタ箱の飯は食いたかねえんだよ」
「パソコンに違法AVダウンロードしといてよく言うよ」
品のない会話に反して料理は贅を尽くしていた。旬の食材が一流の板前の手で、こだわり抜かれた器に盛られて出てくる。「カニの時期じゃねえところが惜しい」と夜鷹は漏らしたが、普段食べられないような新鮮な海産物は酒をすすませた。地酒も別に頼んで手酌でやりながら料理を楽しむ。シメの茶漬けまで抜かりなく、量も適量で、もてなしの精神に溢れたコース料理だった。
食器が下げられ、青は再び露天風呂に浸かった。雲が途切れ、ちらちらと星が見えた。流す程度で風呂を出て、ベッドに倒れ込む。
隣のベッドで夜鷹は持参した文庫本をめくっていたが、青が戻ってきたのを見て本を放る。ふーっと息を吐いた。荷物を漁り、小さめの紙袋を投げて寄越す。重量物が入っていて、青の背中に当たって顔をしかめた。
「もっとおれを大事にしてくれないか」
「こんなに大事にしてるのにな。今夜はちゃんと用意してきたんだぜ。夜はこれからだろ」
大方の中身の想像がつきつつ、紙袋を改める。未開封のラブローションのボトルが無造作に入っていた。
紙袋をベッドサイドのテーブルに置く。「風情がない」と軽く笑うと、ベッドに寝転んだ夜鷹は「これでも誘ってるんだけど」とガウンの裾をずり上げて肌を露出させた。
「肉欲だけはな。どうにもなんねえ。無理やりやったりやられたりはレイプだが、好きでもなんでもないやつと合意の上でのセックスなんざざらにある話だ」
「聞き捨てならないな。誰が誰を好きじゃないって?」
「おまえに触れられたら天国見てすぐいっちまうって言ってるんだよ……」
夜鷹の声は艶を帯びていた。青はベッドに寝転がる夜鷹の元へ移動して、その身体の上に重なる。組み敷いた身体に纏う衣類を解く。露出した鎖骨に鼻先を寄せ、音を立てて吸い、顎を掴んで顔を見合わせた。眼鏡を外さないままの夜鷹の目。唇はもう条件反射で勝手にひらく。唇を合わせると夜鷹は笑い、自ら舌を差し入れてきた。
体液を交換し、舌を絡ませるだけ絡ませて、顎の裏側まで舐める。手を伸ばして室内の明かりを絞った。ガウンの袖を腕から抜き、青も自らガウンを脱ぐ。
夜鷹の身体に舌を這わそうとすると、やんわりと制された。
「夜鷹?」
起き上がって、青を下にして、夜鷹は青の腰を抱いた。性器をねっとりと口腔に包まれ、熱く弾力のある舌の刺激に息が詰まる。
「……――っ、」
青は夜鷹の髪を掴む。梳いてなぞるを繰り返す。夜鷹は頬をすぼめ、顔全体を上下に動かして青の性器を熱心にしゃぶった。先端のちいさな孔にまで舌先をこじ入れようとする動きに、腰が勝手に跳ねる。
ますます硬さを増し、嵩を増し、分泌を促される。どこで覚えたのか、夜鷹は巧みだった。ずいぶんと奥にまで届いて、自身の快楽と夜鷹の身体の構造を一度に教え込まれる。
「夜鷹」髪を引っ張った。
「もういい。出るから、」
「あえは」
しゃぶったまま喋られ、それはそれで息の当たりや舌の動きが異なり、息を詰めた。わざと音を立てて青の性器を離し、それでも唇は先端に触れたまま、夜鷹はにやりと笑って青を見上げた。
「出せよ。飲んでやるから」
べろりと先端を舐め、また喉奥まで一息に飲み込まれる。青はどうしようもなく、夜鷹に追い詰められる。夜鷹の頭を掴むと、自ら腰を突き入れた。乱暴な動きに夜鷹はくぐもった声をあげたが、えづきはしなかった。むしろ吸引するように絞られ、限界を迎えて吐精する。
口内に受け止めた白濁を、夜鷹は楽しそうに飲み込んだ。唇に白く垂れているものまで、指で掬って口に含む。まだ硬度を保つ性器はまた口に含まれ、しっかりと吸い上げられた。余さず飲み込んで満足したか、こちらは身がもたない。
「ご馳走様でした」
と丁寧に食後の挨拶までする。嫌味なのに、夜鷹に言われると愛を囁かれたような気がするから青は面映い。起き上がり、夜鷹と目線を合わせると、遠慮なくくちづけた。自身で出したものだとはいえ、美味しいとは言えない味のする夜鷹の口内をしゃぶる。ぴちゃぴちゃと音を立て、そのまま夜鷹を押し倒した。
夜鷹の性器に触れると、膨らんで硬さを保っていた。興奮の在りどころが分かって嬉しかった。首筋や胸板、胸の尖り、脇腹と撫でたり舐めたりしながら性器を刺激する。膝を割って最奥を晒し、ローションを封切って垂らし、指をゆっくりと差し込んだ。
「――足りねえ。おまえは優しすぎる」と夜鷹は不満を漏らした。
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U駅で降りると、駅前広場には噴水が湧いていた。山間の温泉地で、だが距離的には海も近い。まずは旅館に向かう。夜鷹の予約した宿はこの辺りの最上級クラスの宿で、しかもスイートの洋間だった。青はもはやただ夜鷹にひっついているだけだ。
通された部屋は二十四時間湧きっぱなしの露天風呂もついている豪勢ぶりだった。広い部屋の調度品は品よく技巧が凝らされている。食事はこのままここで取れるし、景色自慢の大広間へ行ってもいい。旅館の主人の話では、メニューはその日の食材の仕入れで決まるという。
温泉街を歩くつもりでいて、なんだか疲労感に襲われて広すぎるベッドに沈む。こんな部屋、妻と行った新婚旅行でもなかった。「意外と安くて残念だよ」と隣のベッドで荷物を散らかしながら夜鷹が漏らす。「やっぱり田舎だからな。おもてなしは最上級でも割安で済んじまう。これがKの高級老舗旅館ならもっとしたな」
「じゃあいまからKに行くか?」
「風呂入ろうぜ。露天」
誘われて頷く。備え付けの露天風呂からは渓谷が見渡せた。夕景の時刻と重なり、雲間から差し込むオレンジ色の斜光が夜鷹の素肌を照射した。
「傷」とのびのび湯に浸かる夜鷹の右肩を指した。
「痕が残るな」
「仕方ねえ。肉えぐれてるからな。よくこんな早くに塞がったもんだよ」
「銃痕のある日本人てなかなかヤクザだよな」
「スパで自慢になる」
「夜鷹、来い」
素直に応じて、夜鷹は青の元へざぶざぶと音を立てて寄ってきた。その裸身を正面から抱きしめる。熱い肌から湯の香りがする。
夜鷹も青の背に腕をまわし、首筋に顔を寄せた。青は夜鷹の右肩に手を這わせ、指で傷痕をなぞった。ぷっくりと膨れて、体温の上昇に乗じてグロテスクな色合いを見せていた。
「痛いか?」
「いや。疼く感じはずっとあるけど、痛くはない」
指でなぞっていたそこに舌を這わせる。舐めると舌先に傷の形態が知れた。夜鷹という形をくるむ3Dマップでも作るなら、舐めるのが一番正確に作り上げられそうだな、と思った。
「――傷が治ったら」
「ん?」
帰るのか、と訊こうとしたが、思うようには音声にならなかった。言い詰まって黙る。誤魔化すように傷を舐めたが、青の訊きたいことを察したか「休暇も終わるな」と夜鷹が答えた。
心臓が嫌な音で軋む。恐ろしい「単位」の「淋しさ」を胸に流し込まれたように、息苦しくなった。
髪をまさぐっていた夜鷹は身体をそっと離し、目線を合わせた。瞬間的に青に寄り添おうとしているのだと悟り、ますます辛くなる。
夜鷹はにやりと笑い、「ひどい顔だな」と言った。
「休暇の具体的な期間は決まってない。その都度調整してるだけだが、治ったから、復帰の話は出ている。ボスはもっとゆっくりしてていい、とは言っているけどな。当面は、の話で、いずれは帰るさ」
「……危険な地域に?」
「いや、あそこにはもう戻れんだろう。人も土地もだいぶ荒れていまは渡航も制限されている。うちの研究所はそこらにルートがある。そっちに回されるか、研究所本体勤務か、ひとまずどちらかだろうな」
「また遠地か?」
「ボスの采配次第」
「こっちにはない?」
「おれが望んでいない」
あっさりと夜鷹は言い放った。青は夜鷹の肩に縋るように額を押し付ける。そうしても夜鷹が考えを変えないと分かっていて、青は肌をすり寄せる。
夜鷹の手が青の背中を軽く叩いた。ぱちゃぱちゃと湯が跳ねる。青が淋しがることを承知で、夜鷹は慰めを口にせず、ストレートに物を言う。忖度はされない。それが夜鷹だ。
「近くにいて欲しいんなら、よそを当たりな」
「いやだよ。夜鷹以外にいるか」
「なら淋しいって言葉は、また我慢しとくんだな」
頬をするりとなぞられる。
「おれは好きに生きるから、おまえも好きにやってみな。おまえみたいなタイプはさ、歳と共に軽くなる」
「……ほかの誰も抱くな」
「そりゃお互い無理な話なんじゃねえの?」
「おれはもう夜鷹以外を知りたいとは思わない」
「肉欲は愛情とはまた次元が違う」
「だとしても、その相手は夜鷹でしか考えたくないんだ」
「……まあな。分からねえ気持ちじゃねえ。ーーなら、おまえこそ」
は、と夜鷹は笑った。
「淋しさとか普通に負けてあっさり再婚なんかすんじゃねえぞ。堪えろ。てめえの身体はてめえで慰めるんだ。いいか、これだけは信じろ。おれはおまえを愛している。それを疑うのはおまえの迷いで、弱さで、だがそうやって悩むのがおまえという人間だ。それすらもおれは愛している」
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札束を見て夜鷹は露骨に態度を変えた。いち、に、と数え出す手を止める。駅前ですることではなかった。返すべきだと思い、静万に電話をかけたが出ない。出るつもりもないのだろう。
「今夜の宿変えようぜ」と夜鷹はにやにやと笑いながら言った。
「……ばか、なに言ってんだ。返すぞこんな金」
「やめとけよ。向こうだってほいほい返されたりはしないだろう。ずっと渡したかった金なんじゃないか? 浅野の示談金だろ」
「大金すぎる」
「うまい菓子だからな。賞味期限切れる前に食っちまおうぜ。どうせおまえはこれを寄付するとかあほなこと言い出す」
「おまえと使うのか?」
「おれの方がいい使い方を知ってるからな。それに浅野の弟は『前嶋と』って言ったんだろ? 厚意には甘えないと」
「あつかましいって言うんだよ」
夜鷹は宿に連絡を入れ、今夜の宿泊をキャンセルした。キャンセル料さえ気にしない。「行ってみたかった」とスマートフォンの画面を見せられたが、もうどうにでもなれとろくに画面も見ずに頷いた。夜鷹はその場で新たな宿に連絡を入れる。平日だったおかげか、梅雨時のせいか、あっさりと予約は完了した。
「さ、移動だ。その前に昼飯食っとくか」
「……もうお好きにどうぞ」
呆れてものも言えず、ただ夜鷹の後についていく。夜鷹がひょいとくぐったのはまわるそぶりを微塵も感じさせない寿司屋の白いのれんだった。メニューの一切すらなく、店名だけでは寿司屋かどうかも分からない。どうせ値段はすべて時価とかで、あからさますぎると眉を顰めたが夜鷹は悠々とカウンター席に腰掛けた。
「いまはシロエビなんだっけ。ホタルイカは終わったか?」
「おまえな」
「こないだまでいたとこ、山の中すぎてそれはそれで楽しかったけどな。海鮮なんか絶対に食えなかった。さすが青、いい仕事するよ」
昼食にしてはあまりにも豪華な食事を取り、肝の冷えるような額の昼食代をキャッシュで払う。膨れた腹で私鉄の乗り場へ向かい、U行きの急行に乗る。夜鷹は前の座席の裏に差し込まれた車内用の冊子をめくり、楽しそうに青の肩に頬をすり寄せた。
「海に行きたいなら、ここから南下してKにでも行った方が良かったんじゃないか? あっちの方がなんて言うか海沿いだし、都会だろ?」
「なんだおまえ、Kに行きたかったのか。芸者遊びがしたかったか?」
「芸者遊びがしたいのは夜鷹の方だと思ったんだけどな」
そう言うと夜鷹は青の肩口に唇を寄せ、「芸者はひん剥けねえしな」と呟いて軽く齧った。薄いシャツ越しに吐息が染みる。
「ここって地質学的には面白すぎる土地だからな。学生時代にも歩いたけど、また歩いてみたくなった」
「ああ、そういう興味」
「三十八億年前に遡るようなこの星の歴史が表れている地形や地層だ。海あり山あり、高低差のおかげで水が循環して湿潤。循環するから生物が育って土地も豊かだ。つまり飯もうまい。Kのきらびやかさも悪くねえけどな」
「Uって学生の頃に行ってたよな、夜鷹」
「よく覚えてるな。トロッコ乗って山も歩いた。あのときUじゃあせっかくの温泉街だってのに貧乏旅で堪能できなかった。今回は贅を尽くしてやる」
「リベンジか」
「山向こうはNだぜ。懐かしいか」
そう訊ねられ、青はそっと首を振った。
「郷愁みたいなものはない。考えてみればもう、東京の方がNより長く暮らしてるんだ」
夜鷹は肩から離れたが、手は取られた。指をたわむれにくすぐり、絡ませる。やけに甘えたがる感じがした。
「三十八億年前って、地球はどんな頃だったんだっけ」
「生命が誕生した頃だよ。海ん中に単細胞の誕生。天文学的に三十八億年は若いのか」
「ビッグバンが百三十八億年前だからな。その一億五千年後にファーストスターが生まれた、と言われている。一番古い星はそれぐらいの年齢だ」
「天文の分野って気が遠くなるような数字を平気で口にするよな。年齢の単位じゃねえよ」
「そういう学問なんだ。地質だって相当なものだと思うけど。……光年で話をするなら、三十八億光年先は遠い。観測できないとされていたけど、でも何年か前に観測できたと話題になった。銀河が存在するんだ」
「三十八億光年離れた場所に?」
「そう。地球サイズとか、もっとでかい星がわんさか集まってる銀河らしい」
「三十八億年かかってようやく見に行ける場所にか」
「おれたちがいまいる距離なんて『近い』じゃ表せないぐらい近いんだ」
隣を向いた。夜鷹もこちらを見た。視線が絡む。
「天文学的には、奇跡の距離だ」
「近い、な」
「身体の距離はね。でも心理的な距離は三十八億年経っても夜鷹にたどり着ける気がしない」
「淋しいか?」
「多分おれは一生、淋しい」
「単位が違うんだろうよ。おまえの淋しさは光年じゃ表せねえんだ」
「単位の差?」
首を傾げると、夜鷹は目をうっすらと細めた。
「エネルギー表記だけでも、カロリーだとか、ジュールだとか、馬力だとかな。それぞれの尺度で暮らしてる。足に障害があれば3cmの段差でも困難が生じるが、大抵は難なく超える。その人だけの単位や生活なんだろう。おれはおまえの淋しさをそういうものだと思ってる」
「……夜鷹の単位では『淋しさ』ってなんだ?」
訊ねると夜鷹は笑った。
「好きに生きてることだろうな」
夜鷹は前を向き、また青の肩にもたれる。青も頭を寄せた。そのままUまで短い眠りについた。
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→ 36
「墓な、移そうと思うとる」と運転しながら静万は言った。
「もう古くてな。墓地の位置も悪いからなかなか来んし。千勢も十三回忌でちょうどええてな。市の方で新規霊園の区画販売が始まっててん、そこ申し込んだ。墓石も新しくするつもりじゃ。やけん、吾田はええタイミングで来てくれた。……墓参りなんて、よう決心してくれたと思う」
「ずっと行かないわけにはいかないとは思っていたから。それだけだ」
「今日はこっちに泊まりか? 魚介は自慢や、その辺の居酒屋でもええもん出る。せっかくやし、食うてけ。地酒もええのがあるしよ」
車は市街地を離れ、山道に差し掛かった。雨は小雨程度で済んでいる。木々の緑に遮られて空が見えない。そういう道をガタガタと進んで、着いた先は随分と長い階段のある寺だった。
「あっちにも道があって、階段登らんで行ける。急なんは変わらんけどな。そっちにしとくか?」
「いや、このまま石段のぼるよ」
「なら墓地に向かうな」
長い階段を上り切るとさすがに息が切れた。墓地の入り口にある水桶と柄杓を取り、水を汲んで静万の案内で墓と墓のあいだをすり抜ける。奥まった場所に古ぼけた墓石の区画があった。「浅野家」と彫られているが、よく見ればこの辺一帯に同じく「浅野家」と書かれた墓石が並ぶ。これは案内がなければ見分けがつかないな、と静万に感謝した。
柄杓で水をかけ、花を整え、線香を上げる。墓石の前で長く手を合わせて目を閉じた。こういうとき、故人と近ければ話しかけるものだろうかとずっと考えていて、いざ墓を目の前にして、口にできる言葉はなかった。ただ心中で千勢に言い訳じみた謝罪が浮かぶ。答えがないのは承知、死とはそういうことで、残されて生きるのも同じことだ。
雨こそ降っていなかったが、湿気は凄まじく、じっとりと霧吹きでも噴きかけたような汗が肌に滲む。かたく瞑った目を開けて、墓石を正面から見直す。両脇に添えたばらの花はちっとも似合わなかったが、それが千勢に向けた青の答えなのだから仕方がない。
妻は死んだ。青以外の男と共に死んだ。青にはそれが罰に思え、母にとっては青への符号でしかなかった。それに収まりをつけたくてここへ来た。今後ここへ来ることは、もうないと思う。
立ち上がると身体中を一斉に血がめぐり直すのが分かった。背後に控えていた静万が「済んだか?」と声をかける。
「済んだ。ありがとう」
「いや、それはこっちじゃけ。ありがとうな、吾田」
静万の表情は固く整え直されていた。
「そして姉の非礼を、心からお詫びいたします」
そう言って静万は深く頭を下げた。綺麗に九十度のお辞儀をされて、青は覚悟していたことだとは言え、やはりうろたえた。
「本来ならば吾田さんには両親揃って謝罪をしなければなりませんが、合わせる顔がないと父はふがいなく、母もうろたえるばかりで重ねて申し訳ない限りです。こちらの心中を察してくださいとあつかましいことは言いません。が、浅野の家の跡取りとして、私が一族を代表して謝罪することでどうかお納めください。誠に申し訳ございませんでした」
地面に頭をこすりつける勢いだったので、肩を押してそれだけはやめさせた。
「静万、こっちにも千勢に対する言い分があるんだ。言い訳、かな。改まった口調はもういいから、さっきまでの態度に戻ってくれ」
「両親は、心から悔いても悔やみきれない、と申しています。私もそう思います」
「だから、もういいからさ。そういうのは望んでいないんだ。……ちょっと、どこか座ろう」
辺りを見渡して、結局は墓地を見渡せる御堂の縁に腰掛けた。
「おれにとって千勢は、ただひたすらに優しい女性だったんだ」
そう言うと静万は淋しそうな瞳で、だがなにも言わなかった。
「彼女と過ごした時間は、ヒーリングだった。おれもこうやって人並みにやっていけるんだ、と思える時間。千勢はわがままを言わず、おれに頷いて、笑いかけてくれた。辛い時は黙って傍にいてくれたんだ。そういう人だった。彼女と喧嘩をしたことは、一度もなくてね」
静万は俯く。
「でもそれっておかしい、とおれは気づかなかった。気づかないぐらい、目を塞いでいた。彼女にも欲求や不満がきちんとあって、笑いたくない夜も、怒り出したい朝も、泣きたい昼だってあったはずなんだ。それがおれと彼女のあいだには存在しなかった。お互いに不満を口にできないぐらい、臆病なまま、上辺で過ごした四年間だったんだよ。静万から見て千勢はどうだった? ただ大人しくしとやかなだけの女性じゃなかったはずだ」
「……まあ、好いた男の手前猫かぶっとんのかな、てのは、思う時あったよ。千勢は家族に対しては、大胆で、大きな態度で出る時もあった」
「そうだろう? だからきっと彼女が死ななくても、離婚はあり得た話だったと思う。……おれがずっとよそを向いていたのに、それを隠して接していたことに、彼女はきっと気づいていた。だからあんな結果になったとは言わないけど、でもきっと彼女と一緒に死んだ男性は、彼女が感情や欲求をさらけ出せる人だったんじゃないかな、と思う。そうだといい、という願望も含んでいるけどね。……おれには出来なかった関係性だ。不倫はよくないことだった。これは絶対だ。間違っている。でもおれには彼女を責める理由はないし、責める気持ちも湧かない。こうなってしまったのは、おれにも原因があった」
「……原因てなんじゃ? 吾田にも浮気相手がいたか?」
「浮気ではない。これは間違いがない。けれど彼女を愛していたわけではなかった」
「ほうけ。でもまあ、よくある話と違うか? どこの夫婦にもあるっちゅうか。おれだって嫁さんと始終一緒におったらかなわん。感情のぶつけ合いとか勘弁じゃし。でも話さないとあかんことあるしな、そうやって歩み寄る工夫はすんのじゃけど。折り合い言うたらいいかな」
「おれたちは歩み寄りや折り合いさえなかったよ」
静万は黙った。
「上辺の手触りの良さだけ選んで一緒に暮らした、それだけなんだ」
「千勢が実家に帰省した時な、『青さんの本当の心は私とは違うところにある』とおふくろにこぼしてた。一回だけじゃったが」
「……」
「それはなんとなく前嶋かな、とおれは思うた。言わんかったけどな。それはそれでいいんじゃ。なんでも許されるわけやないこと分かるし、きっと吾田も堪えることが多かっただろうから」
静万は立ち上がり、深く頭を下げた。
「これで終いじゃ。もう吾田はうちに一切関わらんでええ。うちも関わらん。そういう縁もあるっちゅうことじゃ。縁切り、と言ったらええか?」
静万は顔を上げる。
「どうか元気で。もう、ええから」
「うん。……ありがとう。おれもそのつもりはない」
「ならそれでよかろ。戻ろか。小さい街じゃけん、前嶋のやつ暇してんのと違うか?」
「どうかな。あいつは小さいことで遊ぶのが上手いから。あんな性格のくせにな、……昔からそうだ」
サマースクールの頃を思い出した。雲の流れ方とか、先生の咳払いの癖とか、素数を見つけるとか。退屈を知らない性格の、幼い夜鷹。
桶と柄杓を返し、墓地を後にする。長い階段を下り、駐車場で車に乗り込む。「駅前でええかな?」と言われて頷く。
駅のロータリーで降ろされた際、紙袋を渡された。
「両親から。嫌でなければ食ってくれ。なんなら前嶋と分けたらいい。この辺の銘菓じゃ。うまいぞ」
それぐらいなら、と思って受け取った。
「じゃあ、ほんまにさいならや。吾田、本当にありがとう」
「いや、こちらこそ世話になった」
「ほな行くわ」
「ああ」
窓から手を出してひらひらと振り、車は駅のロータリーを抜けて去っていく。紙袋を手に、夜鷹のスマートフォンに電話をかけた。夜鷹はあっさりと捕まり、バスで駅まで戻ると言って通話は切れた。
待ち時間のあいだ、紙袋の中身を取り出す。やけに重たい菓子だと思った。団子か大福の類ならそうかもしれない。箱は桐箱だった。包装を解き、空腹のままにひとつ口にしようとして、底板の位置と底の位置が合わないことに気づいた。いじっていると底板のはずが外れる。
バスが到着し、夜鷹が姿を見せる。青はベンチの上ですっかり固まっていた。夜鷹の手が肩に触れる。
「おい、青」
「夜鷹」
「あ?」
真っ黒な目が、青を捉える。
「底に小判が敷き詰められているってこと、現代でもあるんだな」
「意味が分かんねえ」
和菓子の入った桐箱の底板の下に、札束がぽんと収まっていた。手渡ししたのでは青は受け取らないだろうからとあえて黙って寄越したのだろう。
手切れ金のつもりだと分かる。もしくは慰謝料か。だが途方に暮れた。
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「もう古くてな。墓地の位置も悪いからなかなか来んし。千勢も十三回忌でちょうどええてな。市の方で新規霊園の区画販売が始まっててん、そこ申し込んだ。墓石も新しくするつもりじゃ。やけん、吾田はええタイミングで来てくれた。……墓参りなんて、よう決心してくれたと思う」
「ずっと行かないわけにはいかないとは思っていたから。それだけだ」
「今日はこっちに泊まりか? 魚介は自慢や、その辺の居酒屋でもええもん出る。せっかくやし、食うてけ。地酒もええのがあるしよ」
車は市街地を離れ、山道に差し掛かった。雨は小雨程度で済んでいる。木々の緑に遮られて空が見えない。そういう道をガタガタと進んで、着いた先は随分と長い階段のある寺だった。
「あっちにも道があって、階段登らんで行ける。急なんは変わらんけどな。そっちにしとくか?」
「いや、このまま石段のぼるよ」
「なら墓地に向かうな」
長い階段を上り切るとさすがに息が切れた。墓地の入り口にある水桶と柄杓を取り、水を汲んで静万の案内で墓と墓のあいだをすり抜ける。奥まった場所に古ぼけた墓石の区画があった。「浅野家」と彫られているが、よく見ればこの辺一帯に同じく「浅野家」と書かれた墓石が並ぶ。これは案内がなければ見分けがつかないな、と静万に感謝した。
柄杓で水をかけ、花を整え、線香を上げる。墓石の前で長く手を合わせて目を閉じた。こういうとき、故人と近ければ話しかけるものだろうかとずっと考えていて、いざ墓を目の前にして、口にできる言葉はなかった。ただ心中で千勢に言い訳じみた謝罪が浮かぶ。答えがないのは承知、死とはそういうことで、残されて生きるのも同じことだ。
雨こそ降っていなかったが、湿気は凄まじく、じっとりと霧吹きでも噴きかけたような汗が肌に滲む。かたく瞑った目を開けて、墓石を正面から見直す。両脇に添えたばらの花はちっとも似合わなかったが、それが千勢に向けた青の答えなのだから仕方がない。
妻は死んだ。青以外の男と共に死んだ。青にはそれが罰に思え、母にとっては青への符号でしかなかった。それに収まりをつけたくてここへ来た。今後ここへ来ることは、もうないと思う。
立ち上がると身体中を一斉に血がめぐり直すのが分かった。背後に控えていた静万が「済んだか?」と声をかける。
「済んだ。ありがとう」
「いや、それはこっちじゃけ。ありがとうな、吾田」
静万の表情は固く整え直されていた。
「そして姉の非礼を、心からお詫びいたします」
そう言って静万は深く頭を下げた。綺麗に九十度のお辞儀をされて、青は覚悟していたことだとは言え、やはりうろたえた。
「本来ならば吾田さんには両親揃って謝罪をしなければなりませんが、合わせる顔がないと父はふがいなく、母もうろたえるばかりで重ねて申し訳ない限りです。こちらの心中を察してくださいとあつかましいことは言いません。が、浅野の家の跡取りとして、私が一族を代表して謝罪することでどうかお納めください。誠に申し訳ございませんでした」
地面に頭をこすりつける勢いだったので、肩を押してそれだけはやめさせた。
「静万、こっちにも千勢に対する言い分があるんだ。言い訳、かな。改まった口調はもういいから、さっきまでの態度に戻ってくれ」
「両親は、心から悔いても悔やみきれない、と申しています。私もそう思います」
「だから、もういいからさ。そういうのは望んでいないんだ。……ちょっと、どこか座ろう」
辺りを見渡して、結局は墓地を見渡せる御堂の縁に腰掛けた。
「おれにとって千勢は、ただひたすらに優しい女性だったんだ」
そう言うと静万は淋しそうな瞳で、だがなにも言わなかった。
「彼女と過ごした時間は、ヒーリングだった。おれもこうやって人並みにやっていけるんだ、と思える時間。千勢はわがままを言わず、おれに頷いて、笑いかけてくれた。辛い時は黙って傍にいてくれたんだ。そういう人だった。彼女と喧嘩をしたことは、一度もなくてね」
静万は俯く。
「でもそれっておかしい、とおれは気づかなかった。気づかないぐらい、目を塞いでいた。彼女にも欲求や不満がきちんとあって、笑いたくない夜も、怒り出したい朝も、泣きたい昼だってあったはずなんだ。それがおれと彼女のあいだには存在しなかった。お互いに不満を口にできないぐらい、臆病なまま、上辺で過ごした四年間だったんだよ。静万から見て千勢はどうだった? ただ大人しくしとやかなだけの女性じゃなかったはずだ」
「……まあ、好いた男の手前猫かぶっとんのかな、てのは、思う時あったよ。千勢は家族に対しては、大胆で、大きな態度で出る時もあった」
「そうだろう? だからきっと彼女が死ななくても、離婚はあり得た話だったと思う。……おれがずっとよそを向いていたのに、それを隠して接していたことに、彼女はきっと気づいていた。だからあんな結果になったとは言わないけど、でもきっと彼女と一緒に死んだ男性は、彼女が感情や欲求をさらけ出せる人だったんじゃないかな、と思う。そうだといい、という願望も含んでいるけどね。……おれには出来なかった関係性だ。不倫はよくないことだった。これは絶対だ。間違っている。でもおれには彼女を責める理由はないし、責める気持ちも湧かない。こうなってしまったのは、おれにも原因があった」
「……原因てなんじゃ? 吾田にも浮気相手がいたか?」
「浮気ではない。これは間違いがない。けれど彼女を愛していたわけではなかった」
「ほうけ。でもまあ、よくある話と違うか? どこの夫婦にもあるっちゅうか。おれだって嫁さんと始終一緒におったらかなわん。感情のぶつけ合いとか勘弁じゃし。でも話さないとあかんことあるしな、そうやって歩み寄る工夫はすんのじゃけど。折り合い言うたらいいかな」
「おれたちは歩み寄りや折り合いさえなかったよ」
静万は黙った。
「上辺の手触りの良さだけ選んで一緒に暮らした、それだけなんだ」
「千勢が実家に帰省した時な、『青さんの本当の心は私とは違うところにある』とおふくろにこぼしてた。一回だけじゃったが」
「……」
「それはなんとなく前嶋かな、とおれは思うた。言わんかったけどな。それはそれでいいんじゃ。なんでも許されるわけやないこと分かるし、きっと吾田も堪えることが多かっただろうから」
静万は立ち上がり、深く頭を下げた。
「これで終いじゃ。もう吾田はうちに一切関わらんでええ。うちも関わらん。そういう縁もあるっちゅうことじゃ。縁切り、と言ったらええか?」
静万は顔を上げる。
「どうか元気で。もう、ええから」
「うん。……ありがとう。おれもそのつもりはない」
「ならそれでよかろ。戻ろか。小さい街じゃけん、前嶋のやつ暇してんのと違うか?」
「どうかな。あいつは小さいことで遊ぶのが上手いから。あんな性格のくせにな、……昔からそうだ」
サマースクールの頃を思い出した。雲の流れ方とか、先生の咳払いの癖とか、素数を見つけるとか。退屈を知らない性格の、幼い夜鷹。
桶と柄杓を返し、墓地を後にする。長い階段を下り、駐車場で車に乗り込む。「駅前でええかな?」と言われて頷く。
駅のロータリーで降ろされた際、紙袋を渡された。
「両親から。嫌でなければ食ってくれ。なんなら前嶋と分けたらいい。この辺の銘菓じゃ。うまいぞ」
それぐらいなら、と思って受け取った。
「じゃあ、ほんまにさいならや。吾田、本当にありがとう」
「いや、こちらこそ世話になった」
「ほな行くわ」
「ああ」
窓から手を出してひらひらと振り、車は駅のロータリーを抜けて去っていく。紙袋を手に、夜鷹のスマートフォンに電話をかけた。夜鷹はあっさりと捕まり、バスで駅まで戻ると言って通話は切れた。
待ち時間のあいだ、紙袋の中身を取り出す。やけに重たい菓子だと思った。団子か大福の類ならそうかもしれない。箱は桐箱だった。包装を解き、空腹のままにひとつ口にしようとして、底板の位置と底の位置が合わないことに気づいた。いじっていると底板のはずが外れる。
バスが到着し、夜鷹が姿を見せる。青はベンチの上ですっかり固まっていた。夜鷹の手が肩に触れる。
「おい、青」
「夜鷹」
「あ?」
真っ黒な目が、青を捉える。
「底に小判が敷き詰められているってこと、現代でもあるんだな」
「意味が分かんねえ」
和菓子の入った桐箱の底板の下に、札束がぽんと収まっていた。手渡ししたのでは青は受け取らないだろうからとあえて黙って寄越したのだろう。
手切れ金のつもりだと分かる。もしくは慰謝料か。だが途方に暮れた。
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墓参りをしたいと申し出ると、目的のT駅には千勢の弟が迎えに来てくれると言うので甘えることにした。どこで着替えられるのかが分からなかったので、一応東京駅から喪服だった。夜鷹は墓参りまでするつもりもないと言うが、それでもシャツにスラックスとそれなりの格好で来てくれた。
だが新幹線内ですでに一杯やっている。「どうせおれ付き添いだし」とのたまう。先日、夜鷹の傷は無事に抜糸となった。いままでは飲むと傷が熱を持つと言って控えていたが、本人的には晴れて解禁ということらしい。
飲んで、食べて、寝て、起きるころには目的地に着いた。夜鷹を引っ張って新幹線ホームを後にする。こんなに短期間にあちこちする機会もなかなかなかったな、と思った。千勢の実家には何度か訪れているが、事故以降に交渉はない。
T駅で降りる。改札口で千勢の弟が青に気付いて手を挙げて合図をくれる。「静万(しずま)」と声をかけた。
「無沙汰ですまない。これは東京土産だ。ご家族で良ければ」
「いや、気を遣わせたな。よう来ちゃった。車はあっちじゃ」
そこで静万は夜鷹を見て、目元を緩ませた。
「理工学部の前嶋だな。地質専攻の。連れがいる言うとっけ、やっぱり前嶋やったか」
「知り合いだったか?」
夜鷹は愉快そうな顔をする。
「千勢はさ、一浪してあの大学に進学したから歳としては一個上なんだ。静万は千勢の一個下の弟で、同い年だよ。あの大学に現役合格してるから、千勢と静万は姉弟だけど同じ学年であの大学に通ってた」
「それはまた随分と金のかかるお話で」夜鷹があの目つきでものを言う。人を小馬鹿にした顔。
「おれは理数の専攻やったし、前嶋が知らんのも無理ないな。吾田とは寮で一緒やったけ、知っとる仲だ。まあ、吾田はほとんど寮におらんかったけどな」
「いまはなにをしているんだ?」
「地元の高校で数学教えとる。今日は休みを取った。さ、行くで」
静万の後について駅の構内を抜ける。駐車場に停めてある車に乗り込んだ。「山寺じゃけん、ちょっと道が悪い。気分悪なったら言えよ」と言って、車は発進した。
「途中、どこかで花が買えるかな。あとできれば千勢の好きだった和菓子も」
「ああ、なら街中通ろか」
スムーズな運転で駅を後にし、途中の花屋でオレンジ色のばらの花束を作ってもらった。仏花ではなんだか嫌で、それよりも千勢がよく着ていたコートの裏地がこんな柄だったと思って選んだ。和菓子屋にも寄る。水桶に投げ込まれた水まんじゅうを夜鷹は手にして、あっという間に購入し、つるりと口にする。
「いるか?」と青に訊いた。
「欲しい」
「ほらよ」
夜鷹の手で口にまんじゅうが押し込まれた。よく冷えていて弾力と甘さが心地よかった。見ていた静万に「ええなら行こか?」と声をかけられ、車に乗り込む。だが夜鷹は乗らなかった。
「夜鷹?」
「おれは浅野の墓に手を合わせる義理も情もないからな。この辺で遊んでる」
そう言って青が引き止める間もなく路地を曲がって行ってしまう。「なんだあいつ」とぼやくと、静万はそっと笑った。
「気ぃ遣てくれとんのかな。あいつ、変わらんな」
「気を遣うような優しさはないよ、あいつには」
「でも吾田に付きおうてこんなとこまでよう来てくれたと思う。あいつやて仕事あるじゃろ。いまなにしとん」
「大学付きの地質研究所の勤務だよ」
「日本やないんじゃない?」
「休暇でこっちに来てる」
「なら尚更ありがたい話じゃ」
行こか、と再度告げられ、今度こそ車は発進した。車内では気遣ってか、ちいさくラジオが流れていた。
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プロフィール
HN:
粟津原栗子
性別:
非公開
自己紹介:
成人女性に向けたBL小説を書いています。苦手な方と年齢に満たない方は回れ右。
問い合わせ先→kurikoawaduhara★hotmail.co.jp(★を@に変えてください)か、コメント欄にお願いいたします。コメント欄は非公開設定になっています。
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暑いですね。番外編短編、ちょこっと更新しています。
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お久しぶりです。短編長編更新。
短編「さきごろのはる」
短編「月の椅子」
短編「みんな嬉しいお菓子の日」
長編「ファンタスティック・ブロウ」
短編「冬の日、林檎真っ赤に熟れて」
2021*08*16-08*19
甘いお菓子のある短編「最善最愛チョコレート」更新。
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