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成人女性を対象とした自作小説を置いています。
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 口の中に吐き出された白濁を飲み下す。脱力して荒く息を吐きながらも、夜鷹は「おまえな」と呆れた口調だった。
「おれが病気持ってるかも分かんねえのに、セーフティセックスをする気はねえのか」
「ないよ。夜鷹だから。それに夜鷹のことだから、奔放だったんだろうけど、その辺りはきっちりしてたんだろ」
「……おまえのも見せろ、」
 手を引かれ、ベッドの上に乗り上げた。夜鷹の上に重なり、シャツを脱ぐ。下着も脱ぎ去って裸体を晒すと、夜鷹は目をさらにきつくさせた。
「Can I kiss you?」
「Yes, please. ……なんで急に英語だ?」
「Emblasse-moiもいいな」
「何語なんだよ」
「大学の第三外国語で習わなかったか?」
「習ってないな。おれは中国語だった」
「なら好性感啊が燃えるか」
「フツーに日本語にしてくれないか。……夜鷹、焦ってる?」
「焦るだろ。おまえのことだから急にやめるとか言い出してもおかしくねえ。必死に口説いてんだよ」
「分かるように口説けって」
 苦笑しつつ減らず口の夜鷹の唇を忙しく奪う。
「やめない。次の瞬間この星の自転が止まりますって言われてもやめないから大丈夫だ。安心して日本語で口説いてくれ」
「脱がせろよ、青」
「……いいよ」
 夜鷹のシャツのボタンを外し、上半身を露出させる。肩のガーゼに障りそうで、体勢を入れ替えて青が下になった。上に重なった夜鷹が、青の頬を包む。吐息が混ざり合う。夜鷹は少し笑っている。口を塞いで音を立てた。キスの合間に呼ばれる「青」がどんな睦言よりも胸を騒がせる。
 じゅ、じゅ、とキスをしている合間に、夜鷹のズボンから下着まで脱がせた。濡れた性器は硬さを取り戻し、青の腹に触れる。夜鷹は熱心に唇を吸いながら、青の性器に触れた。そこもとうに硬く兆し、夜鷹に触れられて身体に痺れが駆け抜ける。
「浅野としたのか」と至近距離で訊ねられた。
「はじめは。……でもすぐにセックスレス。おれが千勢には興奮できなかった」
「おまえにガキが出来たらそいつをもらってやろうと思ってた」
 夜鷹は意地悪く笑う。
「男でも女でも。昔話の魔女みたいに。塔の上に閉じ込めておれしか知らないようにする」
「怖いな……」
「最悪の不幸を味わわせてやろうと思ったが、そうならなかったな」
 じゅ、と音を立てて頬を吸われた。青は夜鷹からキスを受けながら身体を撫でまわし、腰を掴んで尻を揉んだ。
 夜鷹が甘やかな吐息を鼻から漏らす。
「夜鷹こそ、おれ以外に本気になったやつぐらい、いただろう」
「いたよ。本気ではなかったが、まあ、いいやつだった」
 それは予想済みの答えであったにしろ、青の胸は塞いだ。
「わりと続いたが、暴動騒ぎで離れた。傷、治ったかな」
「その人も怪我を?」
「腹を撃たれてね。おれよりひどい怪我だった」
「……惜しいと思うか?」
「思わない。あいつの人生だ」
 その声音は、さっぱりと乾いていた。ああ、信頼していた人だったのだな、と分かる。夜鷹が他人は他人だと言い切る人間は、実のところさほど多くない。近い人ほど離したがる。それは実感であり、言い聞かせであるのかもしれなかった。
 残酷なようで、真実を突きつける夜鷹の優しさだ。
「おい、青。集中しろよ」
「……してるよ」
「このままおまえボトムにいるとおれが突っ込むぞ」
「それは断る。だって仕方がないだろう。夜鷹を下手に下になんかして、傷に障ったらどうする」
「浅野としたのが最後?」
「……そうでもない」
「いい。健全だ」
 夜鷹は伸び上がり、勝手にベッドのヘッドボードに置かれた物入れを探る。ティッシュだの時計だの目薬だの、雑多なものが適当に投げ込まれた箱だ。中身を探り、夜鷹は「ねえな」とこぼした。潤滑剤の類ならこの部屋では使いようがないので、準備がない。
「ハンドクリームとかそういうのも。キッチン行けば油があるか?」
「もっといたわりのあるやり方がいいよ。三分クッキングじゃないんだから」
「いまから薬局行くのか」
「舐めてやるからこっちに向けろ」
「サービスがいいな」
「おれのもしゃぶってくれ」
「As you say」
 互い違いになるように身体を入れ替え、向けられた性器を舐め、尻たぶを割って最奥に舌を這わせた。夜鷹は熱心に青の性器を咥える。水音が響き、外の雨音より卑猥に部屋を満たした。
 濡らした部分に、指を這わせる。唾液を足しながら指を進める。夜鷹の身体は情事に素直で、青の指を飲み込み、欲しがってひくついた。ここだと思う箇所を押すと、くぐもった声が上がり、性器ピンと漲った。
「ここだな」
「あ、……青、」
「痛かったら言って」
「痛い方がいい……」
「そういう趣味か?」
 茶化して訊ねると、夜鷹は青の性器をしゃぶりはじめた。
「夜鷹、」
「……痛い方がいいだろ。おれとおまえが、別の身体でセックスしてるんだって、嫌でも分かる」
 それは夜鷹らしい言い分で、だが青は「嫌だ」と抗った。
「痛みより快楽を得たい。自分勝手でいいから、お互いに気持ちがいいと思うことをしたい。……どうせ身体が溶けてひとつになるなんて結果は待ってないんだ。傷はつけたくない」
「痛くてもひとつになるなら、そっちを取る?」
「別個体だから快楽ってものがあるのかな」
「……そうかもしれないな」
 唾液を足して指を差し込み、広げて指を足す。それで頃合いというころには、夜鷹は性感に耐えきれず、青の腹に崩れていた。
「夜鷹、起きろ」
 半身を起こして、ぐずぐずになった夜鷹をこちらに向かせる。
「入りたい。おまえが上になってくれ。傷を掴みたくはないから」
「……騎乗位がお好みとか、とんでもねえ変態だな」
「夜鷹」
「分かってるよ……」
 夜鷹は起き上がり、青の性器の上に最奥をあてがった。丸い先端が夜鷹の中に潜り込んでいく感覚は、鳥肌が立った。締め付けられてくらくらする。夜鷹も声を上げ、ゆっくりと落としていた腰は、最終的にはいきなり奥まで収まった。夜鷹の中心からとろりと透明な体液が溢れる。
「青っ……」
 腕を伸ばし、しがみつかれた。青はその身体をしっかりと抱きとめる。夜鷹の耳たぶを食み、耳の中に舌を差し入れる。夜鷹は震え、太腿を強張らせ、吐息を漏らす。腰を揺すると嬌声が上がった。
 お互いが気持ち良いように腰を揺らす。強烈な刺激にはもの足りず、ようやく繋がったけれど、喉はずっと渇いている。望んでいたことが叶えられる充足感よりも、はるかに飢えを感じていた。それは夜鷹も同じだったと思う。
 もっと、もっと夜鷹の一番近いところへ行きたい。皮膚一枚をまだ探る。裏の裏まで。
 夜鷹の黒い目が、間近で青を見つめている。視線を外さないまま唇を重ねた。このまま死んでも後悔するほど渇いていた。飢えがひどい。夜鷹との同化を、やはり自分はどこかで望んでいる。
 だが別々の身体を持って生まれたから、そうはならないんだろう。
「動けよ……」とせがまれた。
「夜鷹が動け」
「……変態、」
「そんなにマイナーなプレイはしてないよ」
 青の腹に手をつき、腰を上下させる。熱心に快楽を追う夜鷹を見ているのはとても良いものだったが、次第に我慢ならなくなり、夜鷹の手首を掴んで下から突き上げた。夜鷹が声を上げる。大きく揺さぶると、痙攣して、夜鷹は白濁を散らした。締め付けに耐えきれず、青も夜鷹の中に遠慮なく放つ。あっけなく迎えた絶頂はあまりにもシンプルで、セックスの純粋なエッセンスだけを抽出して放ったかのようだった。
 放出のこわばりが解け、脱力した夜鷹は青の上にぺたりと肌を合わせて倒れ込んできた。
「はじめておまえとした」と言うと、夜鷹は「ああ」と頷いた。
「なんだろうな、この感じ。……一番野性的な部分だけ汲み取られたっていうか。してみたらすごくシンプルだったと気付かされた感じだ」
「おまえはおれのもので、おれはおまえのもの、っていう勘違いが吹き飛ぶだろう」
「飛ぶ。……誰としてもこんな感覚はなかった。ずっと物足りないっていうか、ますます飢えるっていうか。ーー夜鷹は夜鷹で、おれはおれなんだな」
 そう言うと、夜鷹は青の髪を撫でた。優しく梳くように撫でられる。
「愛してるよ、青」
 それは学生時代と寸分変わらぬ意味合いで、青はやはり焦燥に駆られる。他人は他人、夜鷹は夜鷹。夜鷹は青に境界を示す。青も夜鷹には距離を許す。ふたりの最大許容値の際の際。
 隣り合っているけれど、絶望的な溝がある。これ以上はもう近づけない。この先どんなに肌を合わせても、合わせなくても、それは変わらない。
 悲しくなるほど残酷な愛情を放つセックスだと思った。夜鷹の愛し方が、染みる。
 体勢を入れ替え、夜鷹を下に組み敷いた。肩のガーゼに鼻先を寄せ、顔を見合い、キスをする。
 まだ出来るかと問うと、夜鷹は満足げに笑って「来いよ」と青を誘った。



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プロフィール
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粟津原栗子
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非公開
自己紹介:
成人女性に向けたBL小説を書いています。苦手な方と年齢に満たない方は回れ右。
問い合わせ先→kurikoawaduhara★hotmail.co.jp(★を@に変えてください)か、コメント欄にお願いいたします。コメント欄は非公開設定になっています。

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