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成人女性を対象とした自作小説の物置です。
こんにちは。
オリジナル小説ブログ「構想上の樹海」にお越しいただきありがとうございます。
以下、注意書きです。お読みになり、大丈夫だと認識された方のみ閲覧ください。

*当ブログは一部詳細な性描写などを含みます。記事に指定された年齢に満たない方やそういった表現に不快感のある方は閲覧をおやめください。

*男同士の恋愛感情が主です。そういったものに興味がない、不快である等の方、回れ右です。

*小説の権利は粟津原栗子に帰属します。無断で持ち出したり転用したりということはおやめください。本当に凹みますので。

*頂いたコメントには1日以内には返信をしているつもりですが、遅れてしまったりなんだりあるやもしれません。また、こちらで怪しいあるいは不快だと判断したものに関しては消しています。ご了承ください。
(秘密コメ大歓迎ですw ただし秘密コメ返信欄がないため、お返事は頂いた記事に頂いたお名前をそのまま用いております。「名前も隠して!」の方、その旨一言添えてください。)

*基本的にリンクはフリーです。ただし、当ブログは一部に性描写を含みますので、その辺りを考慮して自己判断でお願いいたします。特にバナーなどは作っていません。「貼るよー」って一言コメントいただけるとありがたいです。

では、「構想上の樹海」をお楽しみください。


あわづはらくりこ。


作品リスト (更新順。Old↑/New↓)

*雨の日の微熱
20歳も歳の離れた僕と槙村さんの恋物語。

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*野ばら
高校を卒業したばかりで何も知らない僕が出会ったその人は、野ばら。 

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*どれほどの喜びか
山荘で出会った倉田と葵の短編。 

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*日常が日常でなくなる瞬間
・セックスから始まった、僕らの不器用な関係。(続編あり。目次よりどうぞ)
「くるおしい、いとおしい。」 

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・私にはお父さんが3人います。
「ハロー、マイ・ダディ」

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*高遠4兄弟の騒々しくも麗しい日々(休載中)
高遠家は父子家庭の5人家族。仲が良すぎるくらい、騒がしくて楽しい日々を送っています。

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*オトノナイセカイ
完全な静寂に支配されながら、お前は音を紡ぐ。
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*cafe sunny funnyの寧日
珈琲を飲みながら、君としたい話、たくさん。
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*さかなとあかいばらのはな
夏の盛り、15歳になったばかりの京が見たもの。
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*色の無い世界
目蓋を閉じたって、見えてしまう、この世界。
いっそなくなってしまえば。何もかも。
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*おやすみなさい、また明日。(連載中)
春から始まった、鶯太郎ののんびり新生活。
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◎短編メイン(随時更新)
*甘いお菓子のある短編
男の子だって甘いものがスキ!!
各カプのSSもコチラ。 15万hitお礼SSもこちらから。

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*四季にまつわるいくつかのお題
季節に関係する色んな短編。
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*恋の降る一週間
各曜日にまつわる色んな短編。しんどかったり幸せだったり、それでもみんな恋をするんです。
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*花と歌、空は青
色や歌や花をモチーフにした短編。
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◎企画モノ
*BL観潮楼参加企画
テーマに沿って、たくさんの書き手描き手さんが色んなお話・絵を更新されています。
粟津原の参加作品は
コチラから。

*ばとん、お遊び
遊んだりぼやいたり。10万hitお礼ばとんもコチラ

*スパークリング・レモン&ライム・ビター
1周年記念祭。「pp」(カワムラナルミさま)とのコラボ企画。
高校生ふたりの甘酸っぱい恋を、「スパークリング・レモン」「ライム・ビター」として、
それぞれのサイドで更新。
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*Melting Moments(随時更新)
「pp」(カワムラナルミさま)とのあまい短編集。
それぞれのサイドでおはなしを更新です。
目次へ

拍手[55回]

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 6月はすぐにやって来た。大洋は相変わらずだ。新聞配達のバイトに行き、学校に行き、ゼミに出席して、制作し、バイトがあればまた行って、家で飯を食う。そのうち3回くらいは星野を思い出してため息をついていた。七穂の言う通り、すぐに忘れられるものじゃないし、すぐに次の恋へ進めるわけじゃない。そんな自分に呆れている。
 星野の元へ行かなくなると、急に時間が空いた。空いたので家にいる時間が多くなった。家の人間にはあまり慣れぬようだった。瑤子はうざそうに顔をしかめたし、七穂は鶯太郎をかばうように身を横へずらす。鶯太郎は心配そうな顔つきだし、有田は苦笑した、いつも通りなのは家にいない笙子とエリだけだ。

 なんとなく気象庁が梅雨入りを宣言して、でも雨もろくに降らない年だった。その日は休日で、大洋は半裸だった。なんだかじっとりと汗ばんで気持ちが悪いと言った鶯太郎の文句で、そういえばこの家にはプールがあると、思い出したのだ。

「あるの!?」
「離れの向こうだからお前は行かないか。今のうちに掃除して水張っとけば、すぐに遊べるようになんじゃない?」
「うわ、家にプール!!」

 はしゃいだ鶯太郎がかわいい、と思う。(でも手を伸ばしかけてやめた。七穂に噛みつかれる勢いで睨まれたからだ。)時間も空いていたので、早速皆でプール掃除をすることにした。大洋と鶯太郎、七穂と瑤子の4人。そんなのは面倒臭いと瑤子は嫌そうな顔をしていたが、エリがおやつにと白玉の冷菓子を作り出すと、まんざらでもない顔で腰を上げた。
 まるいかたちをした小さめのプールだが、4人が一斉に掃除をし出しても手が足りない。最初はTシャツ姿だったが濡れに濡れて、最終的には脱いだ。鶯太郎も同じで、瑤子は端からタンクトップ一枚で、脱がないのは七穂だけだ。からかってホースの水をぶっかけてやった。掃除と言うよりは、完全に水遊びだ。
 久々にはしゃいだ気がする。すっかり気付かなかった。
 書斎の片づけをしていた有田が「星野くん来たよ」と呼びに来た。大洋は勢いよくホースを落っことした。操縦者を失ったホースはあちこちに水を振りまき、有田にも盛大に引っかかったが、それどころじゃない。

「―――えっ?」
「だから、星野くんが来たんだって。居間に通したけど」
「っつか、え? 俺に??」
「お前以外に誰に会いに来るんだよ」

 眼鏡を拭きながら、有田が胡散臭そうに顔をしかめた。なんでどうして、今頃になって。「やめる」と宣言した日からもう1か月近く経っていて、星野から何一つ連絡がなかった身としてはとうに忘れられた、俺はまだこんなに苦しいのに、と思っていた。
 慌てすぎて一度転んだが、家まで走った。今日こそこの家の広さが恨めしかったことはない。ああなんで俺プールになんかいたんだろう。妙なことまで考え始める。思考はまとまらない。
 50m6秒の俊足を生かして居間まで全速力の超特急だったのに、いたのはエリだけだった。おやつ作りを終え、園芸の本を読んでいる。星野は、と訊くより先に部屋を指差された。大洋の部屋がある、北の方角だ。

「――ありがとっ!!」

 やっぱり全速力で走り抜ける。階段を駆け上がり、手すりに身体をぶつけながら、なんとか自室へ辿りつく。確かに星野はいた。窓際で、窓の外、皆が集まっているであろうプールのある方角を見ていた。

「…………えっ?」
「大洋、」

 思わず声が出てしまった。星野は髪をばっさりと短くしていたからだ。今まであれだけうっとうしかった前髪も後ろ髪も、小ざっぱりと短くなっている。星野にはありえない髪形に大洋は目を丸くした。
 驚いたのは振り向いた星野も同じらしかった。名前を呼んではくれたが、大洋の姿を見て目を逸らした。そういえば上に何も着ていない。慌ててクローゼットからタオルとTシャツを引っ張り出した。
 しばらくお互いに喋れないまま、沈黙。星野は大きく深呼吸を2回繰り返すと、「この部屋は変わらないね」と、そっと言った。

「…この部屋、好きだよ。日は当たらない設計になってるけど、その代わり大事なものが置ける。収納も他より多いし」
「そのための部屋らしいからな。俺は物が多いから、助かってる。安くしてくれてるし」
「この家にいた頃、この部屋に入り込むの、好きだった」
「しょっちゅう入り込まれてた」

 大洋は家自体の鍵さえかけてあれば七穂に侵入されて添い寝されようがどうでもいいので、部屋の鍵はほぼ開けっ放しだ。掛けるとしても、決まった場所に隠しておく。星野はそこだけ積極的だった。油断して欠伸などしながら部屋に入ると星野が隅っこで小さくなって本を読んでいた、ということは割としょっちゅうだったのだ。
 そのたびにどれだけ好きだと思ったか。居場所を見つけるとちゃんとくつろいだ顔を見せる。いじらしく、かわいい。

 でも、と星野は区切った。また目線を下へ落とす。

「好きすぎてどうしようもないことって、ある」
「……」
「この家を出たのは分かんなくなったから。…大洋と近すぎて、どうしていいのか分かんなかった。向かい同士の部屋なら、本当に会いたいときに、……簡単にこうやって、入り込めちゃうんだ」

 どん、と心臓が跳ねた。星野の方からそっと大洋の腕を掴み、頭を預けてきたからだ。
 驚きすぎて、瞬時に体温が上がって、まともな音声を発することも出来なかった。

「―やめるなんて言わないで」
「――――」
「今頃だけど、…僕は、ちゃんと、大洋が好きなんだ」


  


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拍手[40回]

「ばかだなあ」
「いーの、もう、ムリ」
「好きなのやめるとかさ、出来るわけないのに。それこそ未練じゃん」
「分かってんだから責めんなよ」

 帰宅した勢いで七穂を取っ捕まえ、そのまま飲んでいる。人知れず終わらせる方法もあっただろうが、とにかく誰かに話して共有したかった。バイトも大学も、サボった。夜通し付き合った七穂は眠そうだったが、酒が嫌いな人間ではないので(外出先で飲まないだけだ)、なんのかんのと言いながら自分もぐびぐびとやっている。
 七穂はこんななりで28歳とか言うが(20代だと言うのが驚きだ)、生きてる分ぐらいの恋愛の経験値はある。学生時代からわずか数年の社会人生活のあいだに本気で付き合った人もいた。全く気持ちを分かってもらえないわけではない。
それに有田に話すよりは、七穂の方が気が楽だ。星野と七穂が同い年で仲がいいこともあり、この件に関して大洋はいつも七穂を頼りにしている。
 「まあ確かに星野くんも分かんないけどさ」、と七穂は同調した。

「引っ込みすぎなのか、大洋が押しすぎだったのか、……どっちもか。もっと星野くんの準備を待ってあげられたら良かったのにな」
「なんだよ、準備、って」
「つまり、気持ちの整理のことで星野くんはずっと引っ込んでたんでしょ? シノくんが好き、でも昔の話、でも忘れられない、って苦しんでる。それ分かってて好きなのは、それが前提だったんだ。そこをさぁ、押しまくるとかさぁ」
「…もう終わったんだからあんまり掘り返すなよ」
「総括だよ。…まあ、当分、好きでしょ」
「……」
「シノくんに蹴っ飛ばされて勢いで、みたいな流れけど、無理だよね。すぐ忘れるとかね」
「…あー」

 急激に寂しくなった。こんな奴、とも思うけど、隣に座る七穂の肩に頭を預けた。「気色悪いよ」とは言ったが七穂も事情は嫌と言うほど把握している。黙ってそのままになっててくれた。
 仮に七穂に恋をしてみたらどうだろう。絶対にありえないけど、星野よりは反応が返ってくるだろう。そこまで考えて落ち込んだ。仮定の話とはいえ、七穂を相手に考えるなんて。自分はよっぽどこの恋に打ちひしがれているらしい。
 大洋よりも大きな身体が、大きく息を吸い、大きく息を吐いた。その動きが大洋にも伝わる。呆れられているのだ。でももう、どうでもいい。恋は終わった。

「…そういえばお前、鶯太郎とはどうなの」
「ちょっと仲良くなった。前に比べれば怖がられなくなったし。前進」

 うへへ、と楽しそうに七穂が笑う。怖がらせたのは七穂の行動ゆえだが、その後は順調らしい。鶯太郎もよく七穂さん七穂さんと慕っている。
 俺も鶯太郎にしようかな、と漏らしたら、思い切りわき腹に肘が入った。

「―――ぅぐっ、ってぇ!!」
「やめてよね! 絶対になしだからね!! ありえないからね!!!」
「…分かってるって、……」

 腹を抑えつつ、ずるりと七穂にもたれかかる。再び「ぜっっったいになしだよっ!!」と七穂が耳元で大きな声を出したが、寂しさに負けて七穂の大きな身体に粘土細工のように絡まりこんだ。勢いのまま七穂の膝に上半身を預ける恰好になると、急激に酔いが回る。そのまま目を閉じた。
 なんだよぉ、と我ながら情けない声が出た。酔っぱらっている。だって七穂に安心するとか、異常でしかない。

「……気色悪ィ。なにべたべたしてんだ、おまえら」
「…まだ飲んでたんだ」
「あ、おかえりっ!!」

 全く気が付かなかったが、瑤子と鶯太郎が学校から帰宅した。今日は鶯太郎の部活がなかったようで、珍しく帰宅が一緒になったらしい。制服姿の高校生ふたりは見ていて清々しいが(特に瑤子はいま変身中だし)、それに構っている余裕はない。
眠くて仕方がなく、このまま寝たかった。七穂がいそいそと立ち上がってしまうので、床に変に崩れたままになっていた。

「…大洋くん、大丈夫ですか?」
「いーのいーの、ただの失恋の酔っ払いだから」
「熊と大洋でデキたらいいんじゃねぇの?」

 瑤子がいつもの口調で言い捨てる。絶対にごめんだと思っていたが、もう口に出すのも億劫だ。
 寝るなら部屋に行った方がいいよ、と鶯太郎が気付いた。それにも応えられない。

「……めんどうくさい」
「大洋くん、」
「………なんでおれじゃだめだったんだろ」

 優しく置かれた手が、星野のそれと重なった。華奢で、いつも冷たくて、白い手。つい手を引いた。ちょっと引っ張っただけだったが、大げさな悲鳴が上がった。

「あーっ!! さわるなぁっ!!!」

 叫び声とともに鶯太郎が引き剥がされる。げしっと蹴り飛ばされ、でも立ち上がるのは面倒で、クッションを引き寄せるとその場で丸くなる。
 
 なんでだめだったんだろ。はじめから合わなかったのか。

 目元が急に熱くなる。ほんの少しだけ誰にも分からぬよう、大洋は泣いた。
 

  




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大洋くんはそこそこに大きいですが、文句なくでかいのが七穂さん。身長もそうだけど身体の厚みもあるのでしょう。
大洋くんそんな熊さんに甘える、の巻。安心毛布的なアレ。
この二人、なんだかんだで仲はいい。

こういうの書けて楽しいです。もう40話でまだこんなとこですけども。

拍手[37回]

 星野の引越し先は店から歩いて10分程度のアパートだ。白金邸にいた頃よりははるかに通勤時間が短縮されたが、家賃を同等にしようとするとどうしても部屋のグレードは下がるようだった。古いコンクリート2階建ての、1階の端、ワンルーム。何度も通っているし送ってもいるので、無意識でも星野の部屋に辿りつける。
 部屋には灯がともっていた。カーテンの隙間からオレンジ色の光が漏れ出ている。この部屋のドアチャイムは壊れて使用不可能なため、いつもノックだ。2回。星野はすぐに出てきた。
 部屋着姿だ。いつもよりラフな服装のおかげで、白い首筋が露わになっている。思わずかじりつきたくなるのをこらえ、「遅くにごめん」と精一杯で笑ってやった。
 部屋に上げようと星野は玄関を退こうとしたが、大洋は首を振った。すぐに立ち去るつもりだった。

「さっき、篠川さんに説教された」

 少しだけ星野の顔がこわばった。意識的に息を吐いて、自分を落ちつけようとした。本当は心臓が鳴りまくっていて、大洋に余裕なんかない。

「なんでこんな風になってるのか、そういえば避けられてばっかりで、聞いてなかった」
「…うん」
「俺のこと、やっぱり好きになれない?」
「……」

 スムーズに答えが返って来るとも思わなかったが、星野の反応のなさには愕然としていた。否定がなければ、肯定と同じことだ。ここに来るまでに散々考えたことを、もう一度通して頭の中でめぐらせてみる。結論は同じだ。

「前に『やめよう』って言ったの、あれは、俺とはこういう付き合いも出来ないってことか。…俺があなたが好きでデートに誘うのも好きだと言うのも、付き合いも全部、『やめよう』?」
「……というか、僕が、……大洋には似合わない…だから、」
「…同じこと、ずっと言ってるよな。そうだな、うん、」
「……」
「分かった、俺もやめる」
「…………えっ?」

 悲鳴みたいな声だった。きょとんと星野が顔を上げ、大洋を真正面からとらえる。ああ、本当に好きだ。好きでたまんないのにな。
 そっと手を伸ばす。拒まれなかったから、大洋にしたら最大限に優しく星野の肩を抱き寄せた。

「あなたを好きなの、やめる」
「……やめる、って、」
「もう来ないし店にも行かないし誘ったりしない。好きだとか、困ることも言わない」
「……」
「疲れたわ、さすがに。本当はあなたと恋人になりたかったけど、おしまい」

 一度腕に力をこめ、ぎゅう、と抱きしめてから、ぱっと離す。
 ほんの一瞬だけ星野の身体が離れていく大洋を追いかけた気がした。そうだといいな、と期待しているからそう思えたのかもしれない。

「じゃあ、オヤスミナサイ」
「――待っ」

 振り返れば未練が湧く。湧けばまた繰り返し、無駄に疲労するのも見えている。反応のない相手を口説き続けるのはさすがにもう大洋でも無理だ。
 答えずに振り切ってアパートを出た。自分の忍耐を褒め称えたいぐらいだ。帰って飲もう。ふらふらと、大洋は歩き出した。


  
 

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拍手[38回]

 立ち上がりかけて、「もうちょっと飲まない?」と篠川に引き止められた。時間が時間だったので鶯太郎を七穂に預け(「食うなよ」、と念を押した)、篠川と二人で店に残る。このために七穂がいて良かった気がする。多分はじめから、篠川は大洋と話をするつもりだった。
 不味くて仕方がなかったのでビールをやめてジンジャーエールを頼んだ。篠川が笑う。「飲まないな」と言い、自分は銘柄を変えてもう一杯ビールをお代わりした。

「…家に帰んなくていいんすか」
「まあ、たまには出来た嫁も子どもも分かってくれるさ。言ったのはお前だろ、彫刻の話は後だ、って」

 嬉しそうに頬を緩ませ、篠川は3月の展示会の話をしてくれた。見に来てくれたのは知っていたがうまく都合が合わず、それ以降会う機会もなかったのでこんな時期になってしまっていた。

「どうでした?」
「良かったよ。やっぱお前に彫刻勧めて正解だった。あの作品、会員推挙になったんだろ?」
「準会員推挙、です」
「おっと。でもやったな」

 自分のことのように篠川は誇らしげだ。大洋も笑い返す。「おめでとう」とグラスを重ねられればますます胸は苦しくて、篠川を慕う自分と嫌う自分に嫌気が差す。
 油絵をやっていた大洋に「立体やってみれば?」と言ったのが篠川だ。星野を通じて知り合った篠川だが、本人も芸術が好きな人間だったのでアドバイスは突飛なようで的確だった。帰国してやはり行き詰っていた大洋にそう言って、彫刻の展覧会などに連れまわし、結果、大洋は彫刻科に入り直した。
 今でもあの時の台詞はありありと思い出せる。大洋が100号のキャンバスいっぱいに描きつけた油絵を見て、「この色が彫刻で出せたらすげえ面白いと思うんだけどな」と言ったのだ。
 3月の展示会は、出展しても審査に通らないと展示とならない。会員になるには会役員からの推薦が必要で、準会員でさえも何年も出展しているのに叶わない人がいる。その中で、たった2年で、大洋は推薦をもらえた。篠川の勧めで彫刻を始めてから、改めて自分のいる世界が楽しくなった。本当に、篠川のおかげだった。
 だから星野が篠川を想う気持ちも無理はないと思う。明るく逞しく周囲を良い方向へ巻き込んでいく篠川。星野の気持ちを知っていても、自分には婚約者がいるからと気持ちに応えようとしなかった、その潔さも篠川らしくて好きだった。
 結婚直前になって篠川が星野に傾きかけているのも、分かってはいた。婚約者に内緒でこっそり贈ったアンティークのボタンのことを聞いて納得もしたし、憤りもした。大洋が知る限り星野と篠川は結婚前に一夜、通じている。いつもうつむきがちの星野だが、泣いているのを見たのは後にも先にもあの時だけだった。
 篠川はビールを一口飲むと、「それにしても心配だ」と言った。

「星野の奴、また閉じこもりかけてないか? お前、ちゃんと外に連れ出してるか? なんだよ喧嘩って」
「…別に篠川さんには関係ないです」
「俺が言うのもおかしいけど、あのボタンな、全然なんにも、大した意味なんかないんだぞ」

 今度こそカメオのボタンの話だと分かった。大洋の身体が一瞬こわばる。
 「あんなのただの思い出だ」と、篠川はまた一口ビールを流し込んだ。

「でも大事にしてるのは、分かる」
「それなりに値打ちはあるし、星野は物をないがしろにする人間じゃない。あれぐらい、するだろ」
「…そうかな、」
「そうなんだよ」

 篠川本人の口から聞いたことはなかった。だからだろうか、言ってることがどうも疑わしく感じる。

「あれはさ、じいさんが趣味で集めてたとかで、死んだときに遺品から出てきた奴でさ。そんなにいいもんだとは知らなかったし、星野が直しに使えばいいと思って、俺が持ってるよりはって、それぐらいの意味合いだったんだ。あとで値打ちが分かって、星野は慌てたけど、そんな程度のもんだよ」
「…けど、」
「それでも俺が贈ったもんだし、まだこだわってるかどうかは、星野から直接聞いてくれ。―なあ、本当に心配なんだよ」

 篠川が大洋の方を向いた。並んで座っていたので、顔を上げても目が合うことはなかったのに、合った。
 穏やかだった。眉をすっかり八の字にさせて、「あいつ痩せただろ」と困った風に言った。

「俺が結婚してお前が付きまとうようになって、ちょうどあいつが白金家から引っ越す直前だったから、ええと、冬か、1月ぐらい。ふっと見てさぁ、ああなんか綺麗だなって思ったんだよね。惜しくなった」

 ぎょっとした。ぬけぬけと「惜しくなった」など、篠川の口には似合わない。もうちょっとで掴みかかりそうになるのをなんとかこらえ、ジンジャーエールで誤魔化した。
 テーブルに置かれた篠川の左手の指輪が、妙に眩しかった。知らせるように(怒りも含めて)手の甲を思い切りつねり上げると、篠川が笑いながら「ギブギブ」と身体をよじらせた。

「そういうこと言ってると、罰が下りますよ」
「まあ、聞けよ。だからさ、綺麗だって思ったのはつまりさ、手が届かないってことだ」
「はあ」
「お前が連れまわしていいもん食わせてるのかな、って思ったんだよ。それでその後、引越しがあって、お前の展示会とか、色々、…別に今日久々に見たわけじゃないけど、真っ白でちっさくなってるじゃん。お前ら全然喋んないどころか顔も合わせないし、七穂の話じゃ喧嘩とか言うし。…何やってんのかなって思ったんだよ」

 よし、言った。長く息を吐いた末にそう言うと、篠川は残りのビールを飲み干す。そして「言ったから帰るわ」と立ち上がった。時計を見る。22時を過ぎていた。

「俺から言われるとキツイだろ」
「篠川さん、お節介すぎる」
「ほぉらな」

 食事も含めた代金をきっかりテーブルに置く。おごってやれなくて勘弁な、と言う。どこまでいい男だ。諦めて、大洋は息をつく。

「お前、どうする?」
「これ飲みながらもう少しここにいる」
「ん。じゃー、お疲れさん。また展示会のDM持ってこいよ、行くから」
「お節介シノカワ」

 もう一回、今度は嫌悪の色を思い切り含ませて言ってやる。篠川は背中で笑いながら店を去る。
 携帯電話を取り出し、メール画面を立ち上げる。あて先は星野。件名は打たずに、直接本文に「寝てる?」と打って送った。
 10分ぐらいして、返信が来た。「起きてる」という簡潔な返事を見て、大洋は短く、鋭く息をつく。

『これから行っていい?』

 返事を待たないまま、大洋も店を出た。


  

 

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プロフィール
HN:
粟津原栗子
性別:
非公開
自己紹介:
オリジナル小説(BL)書いてます。苦手な方は回れ右。
鶯太郎くんののんびり新生活「おやすみなさい、また明日。」17時にのんびり更新中。

****
20120404:樹海カップリング投票始めました。12時間置くと再び投票できます。10月5日までの半年間。コメント及び投票結果は今のところ私(管理人)しか見れません。遊んでやってくださいw
他、こここうしてほしいとかこれこうがいいとかご意見あればメールフォームよりお寄せください。よろしくお願いしますー

20120329:のんびりまったりやる気ない(そんなこともない)感じで新しいお話始めました。良ければー
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