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「みょうがって好きなんだけどさ。食べると口の中が痺れてきて、冷たいもの食べると苦味を感じたりするようになるんだよね」
「あ、味覚障害だよ。アナフィラキシー起きてないか?」
「アナフィラキシー? 蜂に刺されて死ぬやつ?」
「そうだね。それはアナフィラキシーの急性期の症状だ。要するにアレルギー反応。好きなのは分かるけど、あんまり摂取するとよくないんじゃないかな」
「えー? みょうがアレルギー? 私もうみょうが食べちゃだめ?」
いたくがっかりしながら四季はつゆの入った器と箸を置いた。食卓には氷に浸したそうめんとつゆ、たっぷりの薬味が用意されている。件のみょうがにオクラ、大葉に鰹節、いりごま。ねぎと七味、梅肉にごま油。みょうがに至ってはザクザクに切り刻んだものときゅうりのスライスをめんつゆで和えた浅漬けのような一品まで用意されている。よっぽど好きなのは伝わったが、話を聞く限りではあまり口にしない方がいいだろう。
夕方の早い時刻、南波家の早めの食事にありついていた。私の向かいには四季がいて、ショートパンツから長い素足を露出させ、プラプラさせながら「ショックだー」と嘆いている。八束はまだ帰宅していない。大家は書類を確認すると言って席を外している。
箸を伸ばし、とうもろこしの天ぷらを齧った。からりと揚がったそれはえっちゃんの家からのお裾分けを調理したという。油ぎりの良い見事な腕前に感服する。
「食べすぎなければ大丈夫かな?」と四季は諦めない。
「うーん、一概にそうと言えないのが食物アレルギーの怖いところだからなあ。やめておいた方が賢明、としか」
「セノくん、待たせたね」
そこへ大家が和室から戻ってきた。手には何枚かの書類がある。
「食事の最中に割ってすまない」
「いえ、勝手にお相伴に預かっているだけですので、むしろこちらこそ」
「セノくんのお話、分かりました。ここに日割りで金額を出したので、これだけ返金するということで」
「……ありがとうございます。急に無茶を言って、本来なら余計に支払うのはこちらの方なのに返金に応じていただいて」
「いえ、私としてはもう少し可能性を探ってはいるんだけどね。まあ、――人には色んな事情があるから」
大家の言葉に、私は深く頭を下げる。四季はちらちらと視線をめぐらすも、察してはいるのか淋しげではあった。
「おじいちゃんもそうめん食べよ?」と大家に四季が声をかける。
「ああ、そうだね。セノくん、ここにだけサインを」
促され、書類に「鷹島静穏」と書いた。これで、とうっすらとした淋しさと清しさを思う。これで、もう、これで。
大家は書類を仕舞いに下がり、戻ってきて食卓に着いた。
「あの倉庫は事故物件だからね」と大家はつゆに薬味をたっぷり入れながら語りかけてきた。
「借り手はそうそういないよ。だから物置き場として当面はそのままでいいとも思うんだけどねえ。あれだけの大きくて重たい資材、どう運ぶおつもりで?」
「大型の免許持ってるので、トラック借りて自力で」
「Tまで?」
「そうですね。長旅ですけど」
「うーん」
大家は考えてたが、不安そうな顔をしている四季の顔を見てにこりと笑い、「八束はまだ帰らないのかな」と話題を変えた。
「あ、そういえば遅いね。夕方には戻るって言ってたけどもう六時になる」
「天ぷらがあるから飲みたいんだけどねえ。セノくん、付きあいませんか?」
「実はそのつもりで来てたんです。八束さんにお土産に酒を買ってくるからって言われていて」
「なんだ。四季、八束に電話してみて」
と大家は言ったが、四季が立ちあがりかけると同時に玄関の扉があく音がした。無遠慮に家の中を進み、足音は私たちの傍までやって来る。台所に続く居間の入り口に、ノータイだがワイシャツ姿の八束が非常に無愛想に、不機嫌に立った。
「おかえりヤツカくん。いま噂してたとこ。遅いね、って」
四季が話しかける。八束はずかずかと居間を進み、荷物を持ったまま台所のテーブルまでやって来た。私はそうめんをすする手を止めて八束を見あげる。剣のある眼差しであたかも怒っているかのようだった。
いや、違う。怒っている。
予想に反して静かな声で、八束は「なぜ黙っていた」と私に詰め寄った。四季も大家も唐突な行動に呆気に取られているが、私だけはその台詞を聞いて、ああとうとうこの時が来てしまったな、と不思議と静かな気持ちで思った。
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暑いですね。番外編短編、ちょこっと更新しています。
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お久しぶりです。短編長編更新。
短編「さきごろのはる」
短編「月の椅子」
短編「みんな嬉しいお菓子の日」
長編「ファンタスティック・ブロウ」
短編「冬の日、林檎真っ赤に熟れて」
2021*08*16-08*19
甘いお菓子のある短編「最善最愛チョコレート」更新。
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