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成人女性を対象とした自作小説を置いています。
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 理の足の間に身体をまるくして丁寧に性器を舐めていた慈朗だったが、理が「もう来い」と言うと下唇を舐めて、理の膝の上に乗りかかって来た。
 この瞬間はいつも「喰われる」と思う。慈朗が理を捕食しにかかっていて、理もそのことを歓迎している。
 理の腰に跨り、雄をすっかり腹に収めて、慈朗は目を瞑って快感を堪えていた。膝立ちになってなんとか腰を動かしている。自分だけがいいように動くリズムは理には少し物足りないが、目の前の痴態は充分興奮した。ん、ん、と慈朗の甘い声が鼓膜を舐める。
 少し動いて慈朗はあっけなく射精した。ふたりの腹のあいだを汚して、慈朗はくったりと理の上体に身体を預けて来た。
「早いな」と感想を漏らす。理はまだいっていない。
「……久しぶりだから……あっ、んぅ」
 恋人が甘い声で啼いたのは、理が慈朗の中からずるりと性器を抜いたからだ。
「……終わるの?」淋しいような響きで慈朗が尋ねる。
「久しぶりだから、ゆっくりやりたいだけ。……後ろ向け」
 指示されて、慈朗はのろのろと理に背中を向けた。理は慈朗の綺麗な背中を見るのが好きだ。肩甲骨を軽く食み、背後から慈朗の最奥にゆっくり挿入する。
 それから慈朗の腰を引かせて、背面座位の格好で慈朗を抱きしめた。前にまわした手で足をひらかせ、慈朗の性器に手をやる。そこは半立ちで震え、理の愛撫を待っていた。
「――あ、理」
「ん?」
 慈朗が身体を捩って後ろを向いた。キスが欲しいと口をあけてねだる。その物欲しげな唇にかぶりついた。その間にも理の手は慈朗の胸をまさぐったり膝を撫でたり性器を舐るように扱いたりと忙しい。キスをしながらどこもかしこも触ってやらないと気が済まないのは、理の性分だった。
 はじめは目を閉じていたキスも、薄目をあけてするようになった。目を逸らした方が負け、みたいに、いつの間にか闘争心みたいなものが芽生えている。子どもみたいな無邪気さで、ふたりは互いを齧る。口蓋をくすぐられて背筋がぞくぞくして、お返しに理は慈朗の舌の先を噛む。
 目を見あいながら唇を離す。それから慈朗をすっぽりと抱き込み、理は慈朗の肩口に額をつけて目を閉じた。慈朗が理の腕をぺちぺちと叩く。
「雨、やまないね」と慈朗がこぼした。梅雨前線にすっぽりと覆われ、停滞した雨雲がずっと雨を降らせている。空港から帰宅する道中ずっと雨降りで、行為をはじめてからはいっそう止む気配がない。理は雨音が好きだ。降られるのはかなわないのだが、音を聞いている分にはいい。いろんな雑音を消してくれる。
「雨の日って、犯罪率が上がるって聞いたことがある」言ったのは慈朗だった。
「逆の意見も聞いたことがあるけどな。雨の日は犯罪率が下がる」
「おれが読んだのはインターネットの記事だったんだけど、雨の日は太陽光で生成されるホルモンの分泌がないから、それが原因で苛々して、犯罪率が上がるんだって」
「まあ、薄暗いし気分も暗いし、犯罪に走りたくなる気持ちになるのかもな。多少後ろめたいことをしてもばれなさそうな雰囲気、とか」
 ふと、いましているようなことがそうだろうか、と思った。年の離れた元・教え子を抱いている。
「……おれみたいなやつか」
「なんか後ろめたいことしてるのか? 理」
「んー、まあ後ろめたいって言ったらさ」腰を軽く揺する。「これだろ」
「……後ろめたい? おれとだと」
「セックス自体がそういうもんだよな。晴れたビーチで開放的な気分で堂々とってわけにはなかなかいかない社会なわけだし。それが男女だろうと、同性だろうと変わらん」
「……でもおれ、理とすんの、好きだよ」
「それは嬉しいね」
「本気にしてない?」
「してるって。おまえはいつも百パーセントでものごとを喋るなって、……感心してんだ」
 そう言うと、慈朗は少し膨れて、むくれた。子ども扱いしているわけではないのだが、恋人はそう捉えるときがある。むしろこちらとしては忘れていたことにはっと気付かされるような気持ちになるのに、それはどうしても伝わらない。これが歳の差というものなのかもしれない。
 慈朗が理とのセックスを好きなら、理だってどうしたって好かずにはいられないのに、そのことが慈朗にはなかなか伝わらない。その、ぴったりとは添えない感覚。どうやっても隔たる溝を感じるたび、自分でない誰かを愛しているのだ、という実感が沸く。
 慈朗の性器と理を受け入れてくれている入り口とのあいだをたわむれに撫でると、慈朗の身体が途端、びくりと跳ねた。
「あっ、そこ……っ」
「ここが?」意地悪いな、と思いつつも尋ねる。
「そこ、……だめだ、理」
「でもここを触ると、中がすごい」
「……言うなってば……」
 理の手を払い、慈朗はまたキスをねだる。キスをするのに首を捩らないといけないから、慈朗はこの体位をいつも嫌がる。キスの好きな慈朗らしい理屈だ。理は背中や髪の生え際に口をつけて吸いたいと思うから、背中からの方がちょうどいい。
 焦れた慈朗が理の腕から逃れ、収めていたものを引き抜いた。向かい合わせに身体を対面させて、慈朗からキスをされる。慈朗は理の性器を何度か扱き、自身の腹に再び収めた。根元までびっちりと銜え、額に浮いた汗を理は舐める。
「……よく食うな」
「え?」
「いや、なんでもない」
「理、疲れてる? ……途中で運転代わればよかったね、おれ」
「疲れてんのはおまえの方だろ。ホノルルからエコノミーで長距離飛んでさ。おれはさほど疲れてない。教師って職業は体力勝負だからな。――いつも通りだ」
「でもなんか、やっぱ、……長いから、」
 快楽の淵ぎりぎりまで詰めておいて、放出には届かない恋人のことを慈朗は心配した。もともと遅漏寄りなので理のするセックスは大概長いのかもしれない。しつこく身体に触れたがる癖もある。慈朗は理とのセックスが好きだと言うが、受け入れている方も大変だろうとは思う。思うが、軽いスポーツでもたしなむかのように、さっと済ませてシャワーを浴びて眠る、というようなことが、理には出来ない。
 もったいないんだ、と言うと、慈朗は眩しそうに目を細めた。
「気持ちがいいことは長く続いてほしい、おれはな。欲深いんだろ、人より、多分」
「おれもそうだよ……」
「まあ、さすがに今日は長いな」
 慈朗の腰を抱え、ベッドに押し倒した。慈朗の上になって体勢が変わったことで、性器の当たりも変わり、慈朗は悲鳴のようなせつない声を上げた。
「動くぞ」
「理、」
 慈朗に呼ばれて顔を覗き込む。慈朗は手のひらで理の頬を包んだ。
「全然、後ろめたいことなんかないよ」
「……」
「おれ、理とだったら晴れたビーチでもいいよ」
「それおれは、ごめんだな」
 ぐちゅぐちゅと音をさせて動きはじめる。
「おまえとは、こういう日に雨の音聞きながらぐらいが、いちばんいい」
 と言ったが、慈朗の耳にはもう入っていないようだった。慈朗は理の動きに合わせて足を揺らめかせ、内腿をふるわせる。性器に手をやると理が触ってなくても自ら扱いていた。
 そこは慈朗自身の好きにさせて、理は腰を動かす。これでもういちばん幸福なのだからいいと思う。後ろめたいことを許される日に、最愛を抱く。


(10)

(12)



拍手[8回]

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「大学卒業するまで、あと二年半とか、そんなか? それでその後はどうする。この街に戻って来てもおまえの望むような就職先はないだろう。大学の傍にいた方が生活は成り立つ。そうやって、離れる? おれは、いつまで待てばいい」
 醜い言い訳だな、と思った。自分のわがままのために、慈朗を傍に置きたがっている。
「おれにも生活がある。いまさら、他の都道府県の教員採用試験受け直しておまえとあっちで暮らすっていうような生活のことは、考えられないよ。おれはこの家でずっと暮らす。それはおまえがいようといまいと、きっと変わらん」
「……」
 さすがに慈朗も黙った。うつむき、言葉を探っている。
 みっともない、と自分に呆れる。いままで散々慈朗をほったらかしてきたのに、いざ慈朗が傍にやって来たら離したくないと思ってしまう。自分に嫌気が差す。
 だがそれほどの恋なのだと自覚もした。それほどこの男を好いてしまっている。
「先生の気持ち、無視するわけじゃない」と慈朗がようやく言葉を発した。
「会いに来る。時々になっちゃうかもしんないけど、絶対にこの家に来るから。だから先生、そのときはおれのことちゃんと抱いて、甘やかして」
「……」
「おれ、先生とはずっと一緒にいたいんだ。恋がこれなら、生涯一回こっきりでこれがいい。先生の傍にちゃんと戻って来る。戻って来るから、いまは、……離れなきゃいけない」
 もっともな意見だった。お互いが潰れ合わないための、慈朗の真っ当な判断。
 いつの間にかそんな思考ができるようになったんだな、と思った。
 恋人はいつまでも高校生のままじゃない。状況を汲んで、感じ取り、実感して、それを糧にまた先へ進む。そんな人間を応援してやれないはずがない。自分が出来ることはこの若者の背をきちんと押してやることだ。
 それは教師としての役割よりは、大人としての役割だと思った。つくづくこの男には内省を促される。そしてそれは嫌なことでは決してなかった。
 理は大きくため息をついた。
「――仕方がないよな」
 慈朗のまっすぐな瞳とぶつかる。
「おれのわがままは通せない。おまえが望んでるんなら、……おまえの将来をつぶすわけにはいかないんだ」
 理はがりがりと頭を掻いた。
「早く一人前の大人になってくれ」
「……」
「おれはさっさとじじいになっちまう。おまえ、じいさんとなんか暮らせないだろ」
「言ったろ、おれは先生と生涯一緒にいたいんだ」
 言葉では自信ありそうでも、慈朗は理の肩口にまた縋りついて来た。首筋に頬が当たる。
「この家でちゃんと理と暮らせるように、頑張るから」
「……ああ」
「だから待ってて。待たせてばっかりでごめん。でも、もっとおれ、頑張るから」
「……なら、」
 理は息をつく。慈朗の肩先に頭を載せた。
「おれは待つしかないな。――さっさとしろよ。時間は有限だ」
「うん」
 分かってる、と言って慈朗は理の肩にぐりぐりと額を押し付けた。
 それから数日後、慈朗は実家に戻った。療養生活は順調に回復したことで幕を閉じ、その春には慈朗は大学に戻った。
 春休み、夏休み、という節目のときには帰って来て、理の家にしばらくいた。そしてまた出ていく。卒業を迎え、慈朗は大学での実績が認められ、有名フォトグラファーのアシスタントの職に就いた。フォトグラファーは旅をしながら写真を撮る、というスタイルだったので、大学時代以上に慈朗との距離が出来た。
 それでもしつこく待った。ちょっと暇が出来るとやって来る恋人を、理は丁寧に愛した。絆という言葉は照れくさくて好きじゃないが、ふたりを繋ぐのは恋慕のほか、まさにそれだった。
 きちんと将来を考えて恋人は頑張っている。それを思えばやりきれないことはない、と、理もまた日々の生活を営んだ。



(9)

(11)







拍手[10回]


 朝、先に目覚めていたのは慈朗の方だった。
 理はつま先が冷たくて眠りから浮上し、ふと腕を動かしたら隣になにもないので慌てて起きた。徐々に冬が迫る時期、朝の冷え込みは裸体には辛く、慌ててシャツを探して着込む。慈朗は部屋のどこにもいなかった。廊下へ出ると、通称「ベランダ」と呼んでいるガラス張りの物干しスペースにいた。窓を開けているようだ。窓枠に肘をついて、朝の冷気に身体を当てている。
 昨夜の幸福感とは逆に、横顔の輪郭がひどく淡く、脆い。なにか気に病むことがあるのかと焦り、「慈朗」と名を呼んでベランダに出た。
 振り向き、ひらひらと手を振る。そしてまた外の方を向いてしまった。
「寒くないか」尋ねながら傍へ寄る。
「先生の身体ってさ、熱いよね」
「そうかな」
「先生が毎年夏に風邪ひくのって、身体が熱すぎるせいなのかなって隣で寝てて思った。冬の方が調子いいっていうのは、身体があったかいからなのかな、って」
「よく分からん理屈だな」
「おれは、痩せちゃってから体温調節がうまくいかなくて、なんかずっと寒い。この冬、大丈夫かな」
「さあ……」
 慈朗がなにを言いたいのかがよく分からず、曖昧にしか相槌を打てなかった。冷たい風が窓から容赦なく吹き込んでくる。今日から十二月に入った。
「シャワー浴びた?」
「うん」
「じゃあおれも浴びてくる。それからめしにしよう」
「うん……」
 慈朗の頭をぽんぽん、と軽く叩いて理は階下に降りる。
 熱い湯を浴びて、昨夜の名残を落とす。久しぶりのセックスは、久しぶりすぎて加減を誤った気がしている。自分では精一杯でやさしくしたつもりだが、慈朗は辛くなかっただろうか。そういう危惧を持たせるような朝の雰囲気だった。なにかまた物憂げに、考え込んでいる。
 それでも自分が考えても仕方がないと思いなおし、身体をざっと洗って浴室を出た。台所に慈朗の姿はなかった。まだ二階の物干し場でぼんやりしているんだろうか。とりあえず白米を炊き味噌汁を煮て、卵を焼いた。梅干しや白菜の浅漬けも添える。休日の朝にこんなにしっかりとは普段なら作らないが、理は腹が減っていた。
 階下から慈朗を呼ぶ。返事がない。頭の後ろを掻きながら二階へと上がる。やっぱりまだ物干し場にいた。「朝飯にしよう」と告げると、うん、と頷いて慈朗は理の腕に縋りついて来た。
「なんだよ」
「……」
「どうした」
 慈朗は答えない。やたらと理の身体に引っ付いて、甘えてくる。その髪をくしゃりと撫でる。やわらかな髪は、冷え切っていた。
「先生、あのね」
 理の肩に頭を押し付けて、慈朗がようやく喋る。
「おれ、やっぱり帰る」
「――」思いがけない決断に、正直動揺した。
「……なぜ?」
「このまんまじゃ、だめになるから」
「ならないさ」
「なるよ。おれ、先生にきっとすっかり依存して、この家から出たくなくなる。写真とか大学とかどうでもよくなる。よくなって、中途半端に辞めちゃったりして、きっとろくなことにならない」
「……そこまで危惧が具体的なら、そうならないように気をつければいいんじゃないのか」
「そうだよね。でもおれは、自信がない。弱い人間だから」
 そうかな、と思ったが、慈朗の言葉を待った。
「先生の傍、気持ちがいいよ。どうしてもっと早くここに来なかったのかな、って思った。もっと早く来てたら、おれは先生にちゃんと愛してもらえるんだって分かってたら、それが自信になって、あっという間に大学に戻れてたかも」
「……」
「先生があんな風におれを抱くんだなって分かって、嬉しくて、でもいまのおれは弱いから、溺れちゃいそうだ。ずっと先生の傍にいたいし、先生にまた触りたい。先生にも触ってほしいって思う。『理』ってたくさん呼んでみたい。けど、……それだけじゃいけない」
「……ああ」
「それに、いずれ大学に戻るなら、先生とはまた遠距離になる。そんなにしょっちゅうこっちに戻っては来れないし。……いまのうちに、先生と一緒にいられたこの二週間の記憶大事に仕舞って、復学の準備、したい」
「でも、……それにしたってもう少しここにいたっていいと思う。復学はもちろん、将来的なこととして見据えて行動する。けど、ここでもう少し休んでたって……」
「そしたらだめになっちゃうよ、おれ」
「……」
「だから、帰る。実家でもう少し休んで、来春からまた大学に行くんだ」
「行きたい」ではなく、「行くんだ」だった。その決意は、本人の将来に関わることで、冷静な判断だと思った。だが理の胸にはすうっと冷たい風が吹き抜ける。
「おまえが大学に戻ってさ」
 理は慈朗の腕を剥がし、僅かに距離を置いた。


(8)


(10)



拍手[7回]

「力抜いてろ」
「え、――あ、……や、……」
 一気に身体をずらしてそこに唇をつけた。せんせいっ、と慈朗が口にする。嫌がるようで甘い響きが鼓膜にせつなく、理の下半身にも血をみなぎらせる。それでも大事に、大切に、と言い聞かせ、そこを熱心に舐めた。舌でつつき、こじ入れ、性器も指で刺激して、先端からあふれる体液を足してまた舐める。
 シーツにしがみついて慈朗は必死で羞恥に耐えている。次第に指を入れられるようになった。中指一本、なめらかに受け入れる。背中を舐めつつ抜き差しして、ひろげて、指を増やす。また唾液を足して指を動かす。この辺り、と目論見つけて内壁の一点を押してやると、慈朗の身体が素直に跳ねた。途端、萎えかけていた性器が力を戻して立ちあがる。
 そこを何度か集中してこすった。身体の反応に追いついていないのか、慈朗自身は声をこらえて目を固く瞑っている。だが身体は明らかに発熱しているし、理の指もスムーズに受け入れるようになった。理は慈朗の身体をまたひっくり返す。後ろからの方が負担がないというのは分かっていても、正面から抱きたかった。
 ごろりと仰向けになった慈朗は、は、は、とすでに呼吸が荒い。性器をぴんと立たせ、胸の先も尖らせて脱力しているさまは凶悪にそそるものだった。「せんせい」と涙目で訴える。理は慈朗の膝を立たせ、あいだに身体を割り入れた。
 慈朗の手を取る。スウェットと下着をずらして剥きだした性器を慈朗に触らせると、慈朗は熱いものでも触ったかのようにびくりと手を引っ込ませた。それでも手を引っ張って触らせる。
「……あっつい」と自分の身体のことか、理の身体のことか、とにかく慈朗はそう感想を述べた。
「これ、入れるの?」
「ああ」
 不安そうな顔を見せたとして、それでも「大丈夫だ」とかなんとか言い含めて、自身の欲を追求するんだろうなというのは考えなくても分かることだった。だったとしても、慈朗のことを大事に扱いたい。壊すのか、あやすのか。心中で揺れる理に、だが慈朗はへらりと笑った。嬉しそうに笑みを見せたのだ。理からもたらされるのはすべて快感で、怖いことも痛いこともない、と理を信じ切っている。
 その全幅の信頼に、理はほっと息を吐いた。自分は大丈夫だ。慈朗からの信頼を手に、絶対にこの男を裏切らず、大切にする。そうやって人を愛する。
 性器を触らせていた手は繋いで、慈朗の最奥に先端をぴたりとつけた。理の性器もすでにぬめっている。互いの体液でぬめるそこを何度か性器で舐めるように往復して、先端をそっと慈朗に潜り込ませる。
 ん、と慈朗から声が漏れた。それでも力がこもり、性器が押し戻される。つないだ手をまた握りしめて、理は上体を倒して慈朗にのしかかる。「慈朗」と耳元で囁くように名前を呼んだ。
「力抜いて、……入れさせてくれ。もうおれも、さすがに切羽詰まってる」
「……いま、名前」
「ん?」
「おれの名前、呼んだ」
「いつも呼んでるだろ」
「いつもは苗字だから、……下の名前知ってるのかな? って、思ってた」
「おまえだっていつも『先生』だろ。おれの名前知ってるのか?」
 情事の合間にぼそぼそと交わす会話だから、ふたりとも声は興奮で変に上擦ったり、低すぎたりしている。けれど大事な確認だった。
「あや」と慈朗が舌っ足らずに呼んだときは、さすがに背筋に危ういものが走った。
「理、だよ。ちゃんと知ってる」
「偉いな」
「ずっと呼んでみたかった」
「じゃあ呼んでくれ」
「理も呼んでね」
「ああ」
 目を合わせて、キスをした。何度でもするし、何度だってする。キスをしながら腰を揺すって、性器を入り口で遊ばせる。慈朗の足はようやく加減を覚えて、理の腰に巻き付いて来た。
 つながる態勢がちゃんと整えば、スムーズに入った。狭くて熱くて、ひどく心地がよかった。一瞬、目の前に星が飛ぶぐらいの快楽で、こうするのを待って自分の三十何年間はひとりだったのか、と納得した。
 慈朗を見れば、目を瞑って口で呼吸をしていた。痩せすぎの胸が上下している。たわむれに胸の先の粒を引っ掻くと中がますます締まった。食われそうだな、と思う。理が慈朗をむさぼっているようで、実は慈朗も理をちゃんと捕食しにかかっている。
 おれにも食わせられるとこがあるんだったら、いい。
 しばらくはむやみに掻きまわすのもやめて、あちこちを舐めたり触ったりした。時折腰を小刻みに動かした。慈朗がキスをせがむので、キスが好きか、といたずらめかして訊いてやる。慈朗は素直に頷いた。「だって先生のキス、気持ちいい」
「『先生』、な」
「……癖で、」
「仕方ない。ずっと『先生』と『雨森』だったから……」
 言いながらキスをする。キスをしながら腰をなまめかしく揺らす。自分が気持ちよくなるように動き、慈朗もそれに応えるように体位を探っている。次第に中が緩み、理は唇を離した。慈朗の頭の横に手を突き、本格的に注挿をはじめる。
「ふ、ん……んぁ」
 慈朗ももう、声を我慢することはしなかった。甘い声が漏れはじめる。性器に手をやると固く、熱くて、安心した。手でそこを刺激しながら理は腰を突き入れた。
「あ、あ……ん、」
 いったん性器を引き抜いて、理をしゃぶっていた口を舐める。唾液を足すように穴の中に舌を入れ、性器を扱く。そしてまた入れた。今度は容赦なく奥まで突き込んだ。
「ん、んん、……あっ、」
 慈朗が抱きしめろと腕を伸ばすので、応えて思いきり痩身を抱いた。キスをして喉を舐めて汗を浮かせて雫が流れる。体液という体液を交わらせて、真剣に快感だけを追い求めている。心地よく、腹の奥がずきずきといつまでも痛んだ。放出が近い。慈朗もいつの間にか自身の性器に理の手をかぶせ、擦っている。
 絶頂は、慈朗を片腕で思いきり抱きしめて迎えた。遠慮なく慈朗の中に放つ。信じがたい快楽だった。慈朗の性器にまわしていた手も盛んに擦って、慈朗を二度目の頂まで上げる。
 痙攣が収まっても、ぬかるんだそこから抜け出るのが嫌だった。呼吸が荒く、キスが出来ない。慈朗の上にすっかり脱力していると、慈朗の腕が伸び、理の髪に触れた。
 理の頭や背中を、ぽんぽん、とあやすように軽く叩く。
「ほんとうだ」と理の下で慈朗は呟いた。
「痛くなかった。気持ちよかった」
 髪を引っ張るように、くしゃりと握られる。そういえばこれはいつも眠る前に自分が慈朗にしている動作だと気付いた。



(7)

(9)



拍手[7回]


 目頭と鼻すじのあいだ、頬、耳、と唇を下ろしていく。もう止められないし、止まる気もなかった。それまで我慢していたわけでもないが、疲れて弱っているやつ相手にあからさまな発情を示すのも引けて、慈朗と共寝する夜でも気付かないふりをしていた。沸きあがる水をせき止めていればいつか決壊して流れる。それが今夜、理の身に起こっている。慈朗の考えや想いまで無視して突っ走ってしまいそうで怖くなるような、凶暴な欲がどんどんあふれる。
 唇と唇が触れあう直前、吐息まで混ざりあっているのに、理はかろうじて自分をとどめた。
「嫌なら離れろ」
「……」
「もうおれは、無理だ。止まる気もない。いま離れなかったらおまえがどんなにやめろと言っても、やめない。めちゃくちゃになるよ、おまえ」
「……先生って、その、……セックスしたことあるんですよね」
「あ? そうだな」
「おれは、ええと、……したことが、なくて」
「別に恥ずかしいことじゃない。それに、しないという選択をして生涯を終える人もいる」
「でもおれは、先生としてみたい」
「そうか」正直な言い分に微苦笑する。
「先生には触りたいし、……先生がどんなふうに触るのか、知りたい」
「うん」
「痛いかな」
「痛くはしない。趣味じゃないんだ」
「キス、したいです……前にしてくれたみたいなやつ」
「――うん」
 ようやく唇同士を合わせる。慈朗はかたく唇を結んでいたが、「くち、あけろ」と言うと素直に口を開けた。そこに齧りついて、舌を入れる。どうしていいのか分からないでいる慈朗の腕を自分の首の後ろへ巻き付けさせ、縮こまっている舌を舌で引きずり出して、絡める。やがて水音がするキスになると、慈朗は呼吸のリズムが分からずに、苦しそうに喘いだ。
 唇を離し、至近距離で見つめ合い、また目蓋に唇を押し付けて、今度は耳を舐める。身体が熱く、理は上体を起こして布団を剥いだ。着ていたTシャツも裾に指を引っ掻けて脱ぐ。再び慈朗の上に重なると、慈朗は下腹の辺りを押さえていた。
「痛いとこでもあるのか?」
「痛いってか、……おれなんかもう、変で、」
「ああ、」
 慈朗の手の先は膨らんで形を変えていた。そこを衣類の上から理も探る。形に沿って何度か手を往復させるとそこはあっさりと勃起した。慈朗のシャツの裾から手を入れると、慈朗の身体もしっかりと熱かった。
 顎に齧りつき、舐めて、首筋を辿りながら、手は慈朗の身体をまさぐった。慈朗の身体はどこもかしこも痩せて骨が浮いていて、そのことにとてつもなく胸をしぼられ、愛さずにはいられなかった。脳がそうしろと指令を出しているはずなのに、舌と手は独立した別々の生き物になったかのような貪欲さだった。慈朗のシャツをずり上げて胸を晒し、硬くなり始めた粒を口に含む。舌で弄ると慈朗は呼吸を荒くした。せんせい、と慈朗が呼ぶ。せんせい、せんせい、と掠れた声はどんどん上擦っていき、へその辺りまで舌を下ろすと、「あ」と吐息ひとつこぼして慈朗は身体を痙攣させた。
 荒い呼吸で様子がそれまでと違う。脱力した身体を探って分かった。慈朗は下着の中で吐精していた。
「……せんせい、……」
「下、脱がす。腰浮かせろ」
「あ、だめ、触るな、……汚い、」
「汚くないだろ」
「……恥ずかしい」
「――そういう、汚いってとこも恥ずかしいってとこも見せ合うのがセックスなんだよ。おれとしたいんなら観念しろ」
 構わずスウェットと下着を一緒に下ろす。自らの精液で濡れる性器はピンク色をしていて、再びかたく形を変えつつあった。直接触れるとびくりと脈打つ。下腹を舐めながら手で刺激していると、性器はすらりと立ちあがった。
 若いからか、興奮に対する回復が早い。でもそれは口にしなかった。言えば恥ずかしがって触らせてもらえなくなさそうで、それは理の意に反する。
 下へ下へと身体を辿り、性器の脇から太腿へ、内側を舐め下ろす。足をひらかせると最初は抵抗したが、閉じようとする足の間に身体を割り込ませると観念して、てのひらで顔を覆い、声を殺して耐えていた。漏らすまいとする声も、理が内腿を舐めれば震えて漏れる。切羽詰まった声がたまらなかった。
 手でぐちゃぐちゃと性器を弄りながら、慈朗の身体をひっくり返した。Tシャツをたくし上げ、肩甲骨のあいだに鼻を寄せる。ぽこぽこと浮いた脊椎をひとつずつ舐めては吸った。慈朗は身体を折り曲げ、顔を覆って小刻みに震えていた。
 尻まで下りてくると、さすがに身を捩ってこちらを見た。抵抗があるようだった。
「嫌か」
「……」
「大丈夫だから」
 それは大人によくある言い分で、なにを大丈夫だと言ってるんだろうな、と呆れつつ、それでも慈朗とこうしているいまをやめる気にはならない。安心させるように唇に顔を寄せると、慈朗の方からキスをしてきた。唇をついばみながら足をひらかせ、尻たぶを割る。窄まった入り口に指を這わせてそこをしばらく撫でた。時折押すと、きゅ、と力が入って理を拒む。指の第一関節まで入れば上等で、そこはなかなか理を受け入れなかった。


(6)


(8)




拍手[8回]

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プロフィール
HN:
粟津原栗子
性別:
非公開
自己紹介:
成人女性に向けたBL小説を書いています。苦手な方と年齢に満たない方は回れ右。
問い合わせ先→kurikoawaduhara★hotmail.co.jp(★を@に変えてください)か、コメント欄にお願いいたします。コメント欄は非公開設定になっています。

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2022*08*11-21
暑いですね。番外編短編、ちょこっと更新しています。

2021*12*04-2022*03*17
お久しぶりです。短編長編更新。
短編「さきごろのはる」
短編「月の椅子」
短編「みんな嬉しいお菓子の日」
長編「ファンタスティック・ブロウ」
短編「冬の日、林檎真っ赤に熟れて」

2021*08*16-08*19
甘いお菓子のある短編「最善最愛チョコレート」更新。
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