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成人女性を対象とした自作小説を置いています。
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「大学卒業するまで、あと二年半とか、そんなか? それでその後はどうする。この街に戻って来てもおまえの望むような就職先はないだろう。大学の傍にいた方が生活は成り立つ。そうやって、離れる? おれは、いつまで待てばいい」
 醜い言い訳だな、と思った。自分のわがままのために、慈朗を傍に置きたがっている。
「おれにも生活がある。いまさら、他の都道府県の教員採用試験受け直しておまえとあっちで暮らすっていうような生活のことは、考えられないよ。おれはこの家でずっと暮らす。それはおまえがいようといまいと、きっと変わらん」
「……」
 さすがに慈朗も黙った。うつむき、言葉を探っている。
 みっともない、と自分に呆れる。いままで散々慈朗をほったらかしてきたのに、いざ慈朗が傍にやって来たら離したくないと思ってしまう。自分に嫌気が差す。
 だがそれほどの恋なのだと自覚もした。それほどこの男を好いてしまっている。
「先生の気持ち、無視するわけじゃない」と慈朗がようやく言葉を発した。
「会いに来る。時々になっちゃうかもしんないけど、絶対にこの家に来るから。だから先生、そのときはおれのことちゃんと抱いて、甘やかして」
「……」
「おれ、先生とはずっと一緒にいたいんだ。恋がこれなら、生涯一回こっきりでこれがいい。先生の傍にちゃんと戻って来る。戻って来るから、いまは、……離れなきゃいけない」
 もっともな意見だった。お互いが潰れ合わないための、慈朗の真っ当な判断。
 いつの間にかそんな思考ができるようになったんだな、と思った。
 恋人はいつまでも高校生のままじゃない。状況を汲んで、感じ取り、実感して、それを糧にまた先へ進む。そんな人間を応援してやれないはずがない。自分が出来ることはこの若者の背をきちんと押してやることだ。
 それは教師としての役割よりは、大人としての役割だと思った。つくづくこの男には内省を促される。そしてそれは嫌なことでは決してなかった。
 理は大きくため息をついた。
「――仕方がないよな」
 慈朗のまっすぐな瞳とぶつかる。
「おれのわがままは通せない。おまえが望んでるんなら、……おまえの将来をつぶすわけにはいかないんだ」
 理はがりがりと頭を掻いた。
「早く一人前の大人になってくれ」
「……」
「おれはさっさとじじいになっちまう。おまえ、じいさんとなんか暮らせないだろ」
「言ったろ、おれは先生と生涯一緒にいたいんだ」
 言葉では自信ありそうでも、慈朗は理の肩口にまた縋りついて来た。首筋に頬が当たる。
「この家でちゃんと理と暮らせるように、頑張るから」
「……ああ」
「だから待ってて。待たせてばっかりでごめん。でも、もっとおれ、頑張るから」
「……なら、」
 理は息をつく。慈朗の肩先に頭を載せた。
「おれは待つしかないな。――さっさとしろよ。時間は有限だ」
「うん」
 分かってる、と言って慈朗は理の肩にぐりぐりと額を押し付けた。
 それから数日後、慈朗は実家に戻った。療養生活は順調に回復したことで幕を閉じ、その春には慈朗は大学に戻った。
 春休み、夏休み、という節目のときには帰って来て、理の家にしばらくいた。そしてまた出ていく。卒業を迎え、慈朗は大学での実績が認められ、有名フォトグラファーのアシスタントの職に就いた。フォトグラファーは旅をしながら写真を撮る、というスタイルだったので、大学時代以上に慈朗との距離が出来た。
 それでもしつこく待った。ちょっと暇が出来るとやって来る恋人を、理は丁寧に愛した。絆という言葉は照れくさくて好きじゃないが、ふたりを繋ぐのは恋慕のほか、まさにそれだった。
 きちんと将来を考えて恋人は頑張っている。それを思えばやりきれないことはない、と、理もまた日々の生活を営んだ。



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マロンさま(拍手コメント)
読んでくださってありがとうございます。楽しんでいただけていますでしょうか?
男女間での恋愛と、同性同士の恋愛とはやはり根本的なところが異なるのではないのかな、と私は思っています。男女であれば「違い」に惹かれますよね。ですが同性同士は(様々な「セクシュアリティ」で違いはあるにしろ)やはり同じ体、同じ性を持ちますので、そこには共感や一体感があるように思うのです。マロンさんの仰る通り、男女間でしたらこんな割り切った話は出来ないかもしれません。やはり行きつく先は生殖であり、子孫を残すことですので、離れたくないと恋愛初期に思うことは当然のように思います。一方、同性同士はそこに枷がありません。全くないとは言いませんが、お互いを「パートナー」として見る傾向が強いように思うのです。そういう関係を、私はとても羨ましく思います。思いのほか子どもじみた感覚のある柾木と、急激に成長して大人びた思考を持つ慈朗とは、やはりお互い以外にいないようにも思います。私にとっても羨ましい関係で、理想を書いているのかもしれません。
物語はこれで過去の振り返りを終えまして、明日からは現在に戻ります。「永久共犯」の更新も残すところ3回となりました。最後までお付き合いいただけると嬉しいです。
秋が深まってきましたね。文中、季節のずれがある点はお許しください。ですがその季節に想いを馳せて読んでくださると、書き手としては最高に嬉しいことです。
拍手・コメント、ありがとうございました。またお気軽に。
粟津原栗子 2019/08/25(Sun)21:48:50 編集
プロフィール
HN:
粟津原栗子
性別:
非公開
自己紹介:
成人女性に向けたBL小説を書いています。苦手な方と年齢に満たない方は回れ右。
問い合わせ先→kurikoawaduhara★hotmail.co.jp(★を@に変えてください)か、コメント欄にお願いいたします。コメント欄は非公開設定になっています。

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