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my only orange
――O snow, which sinks so light
――Brown earth is hid from sight
――Brown earth is hid from sight
ピアノの椅子に幼い男女が並んで腰掛けている。栗色の髪をふたつお団子に結んだ少女の方が右側に、真っ直ぐな黒髪の少年が左側に座る。鍵盤で手を動かしているのは少年の方で、確かまだ六つか七つと記憶するがピアノを演奏する指にはブレがない。ひとつ年上の少女の方もさらに豊かに、美しいメロディーを儚く響かせる。幼い後ろ姿に似合わぬ技巧に、毎度のことながらどきりとする。
この冬、このどこか物悲しいようでひどく美しい歌をこの姉弟は熱心に練習していた。姉が歌をうたい、弟がピアノを奏でる。こんな年端もいかない子どもにはもっと子どもらしいメロディーがあるような気がしてしまうのは、だが偏見というものだろう。いつまでもドレミの歌ばかりうたってはいられない。むしろ純粋さそのままの声と技巧で歌える音律がある。
そうは言ってももっと明るいクリスマスソングでも仕込めないものかね、とここにはいない彼らの両親に対して思ってしまう。
歌が響き、ピアノが余韻を残して音がやむ。それからふたり揃ってくるりとこちらを振り返った。暖の顔を見て少女の方は天使そのものかのようにやわらかく微笑み、少年は途端に険しい顔つきになった。来やがったな、という顔。
案の定、少女――樋口新南(ひぐちにな)が弾む声で「ダン」と呼ぶのと同時に、少年――樋口論(ひぐちろん)は「なんでおまえが来るんだよ」と文句を述べる。ああそうですか、おまえ呼ばわり。あとでお母さんに言うからな。
子ども相手に本気で怒っても仕方がないと分かっていて、暖はどうしても手加減が出来ない。
「はいだめ。論はファール。大人相手に『おまえ』を使ってはいけません。紗羽さんもケントさんもそんな態度は教えてないだろう?」
「おまえが来るなんて聞いてないっ」
「はい、ダブルファール。仏の顔も三度まで、というお釈迦様のありがたい言葉を今日は覚えようか。どんなに嫌いな相手でも目上の人間に対しておまえ呼ばわりはだめだ。あと一回言ったら退場だよ」
「ここはおれの家だ! 出ていくのはおまえの方!」
「スリーファールでアウト。退場だな。おれは気分を悪くしてこの家から出ていくから、残念ながらあなたの大好きなトーミは来ない」
そう言うと、ぐ、と論は怒りを堪え、それ以上言うのをためらった。だがそれは日本語を諦めたにすぎない。新南が「ロン、謝ろう?」と少年の肩に手を添えたが、論は怒りをありったけの英語に訳した。
「(おまえなんかピアノも弾けないエイリアンのくせに!)」
「(なるほど、正しいよ。確かにおれはあなたたちにとっちゃ異星人だ)」
「(やめて、やめて!)」
新南が泣きそうな顔で止めるのがかわいそうで、暖は瞬時に表情を緩めた。敵意がないことを示すように両方のてのひらを向け、「だけどリーガルだと思うよ」と日本語で答えた。
「新南、お父さんは? 今日は客じゃなくて記録で呼ばれてるんだ」
「ダドはキッチンだよ。ダンが来たらそっちへ来てほしいって言ってた」
「ありがとう、上がらせてもらうね。ああ、論」
呼ぶと少年はそれでも仏頂面をこちらに向けた。
「謝らないなら、鴇田さんに今日の予定をキャンセルしてもらうようにいまこの場で連絡する」
「……」
「せっかくのクリスマスにと鴇田さんはあなたがたのためにピアノの練習をしていたけど、それもキャンセルだ。あなたがたは鴇田さんのピアノを聴けない。セッションも出来ない。残念だね」
「なんでおまえが決めるんだよ! トーミのことはトーミが決めるんだ!」
「決まるんだ。おれが不愉快な思いをすると鴇田さんも不愉快だから」
「リクツで言えよっ!」
「これは理屈じゃない。それを分かるようになるには論はまだ幼い」
「トーミは来るんだ、おまえは帰れっ!」
喚く論に背を向けた。キッチンから何事かとケントが飛び出してくる。
「ああ、みくらさん。ロンはまたなにを騒いでいるの?」
「こいつがトーミは来ないって!」
「こいつって呼んではだめですよ。よくない言葉づかいです」
「あ、」
窓の外に赤いファミリーカーが見えた。樋口紗羽が客人を駅まで迎えに行っていた。鴇田もそこに同乗しているのが見える。
「ほら来た! ダンは嘘つきだ!」
論は嬉しさを隠さずピアノの椅子から飛び降りる。暖の顔を見て勝ち誇ったような顔をしたが、無視してキッチンの奥へと進んだ。
どうせエイリアンですから。暖は頭の中でスティングの有名な曲をくちずさむ。
→ 2
今日の一曲(別窓)
今日のもう一曲(別窓)
この冬、このどこか物悲しいようでひどく美しい歌をこの姉弟は熱心に練習していた。姉が歌をうたい、弟がピアノを奏でる。こんな年端もいかない子どもにはもっと子どもらしいメロディーがあるような気がしてしまうのは、だが偏見というものだろう。いつまでもドレミの歌ばかりうたってはいられない。むしろ純粋さそのままの声と技巧で歌える音律がある。
そうは言ってももっと明るいクリスマスソングでも仕込めないものかね、とここにはいない彼らの両親に対して思ってしまう。
歌が響き、ピアノが余韻を残して音がやむ。それからふたり揃ってくるりとこちらを振り返った。暖の顔を見て少女の方は天使そのものかのようにやわらかく微笑み、少年は途端に険しい顔つきになった。来やがったな、という顔。
案の定、少女――樋口新南(ひぐちにな)が弾む声で「ダン」と呼ぶのと同時に、少年――樋口論(ひぐちろん)は「なんでおまえが来るんだよ」と文句を述べる。ああそうですか、おまえ呼ばわり。あとでお母さんに言うからな。
子ども相手に本気で怒っても仕方がないと分かっていて、暖はどうしても手加減が出来ない。
「はいだめ。論はファール。大人相手に『おまえ』を使ってはいけません。紗羽さんもケントさんもそんな態度は教えてないだろう?」
「おまえが来るなんて聞いてないっ」
「はい、ダブルファール。仏の顔も三度まで、というお釈迦様のありがたい言葉を今日は覚えようか。どんなに嫌いな相手でも目上の人間に対しておまえ呼ばわりはだめだ。あと一回言ったら退場だよ」
「ここはおれの家だ! 出ていくのはおまえの方!」
「スリーファールでアウト。退場だな。おれは気分を悪くしてこの家から出ていくから、残念ながらあなたの大好きなトーミは来ない」
そう言うと、ぐ、と論は怒りを堪え、それ以上言うのをためらった。だがそれは日本語を諦めたにすぎない。新南が「ロン、謝ろう?」と少年の肩に手を添えたが、論は怒りをありったけの英語に訳した。
「(おまえなんかピアノも弾けないエイリアンのくせに!)」
「(なるほど、正しいよ。確かにおれはあなたたちにとっちゃ異星人だ)」
「(やめて、やめて!)」
新南が泣きそうな顔で止めるのがかわいそうで、暖は瞬時に表情を緩めた。敵意がないことを示すように両方のてのひらを向け、「だけどリーガルだと思うよ」と日本語で答えた。
「新南、お父さんは? 今日は客じゃなくて記録で呼ばれてるんだ」
「ダドはキッチンだよ。ダンが来たらそっちへ来てほしいって言ってた」
「ありがとう、上がらせてもらうね。ああ、論」
呼ぶと少年はそれでも仏頂面をこちらに向けた。
「謝らないなら、鴇田さんに今日の予定をキャンセルしてもらうようにいまこの場で連絡する」
「……」
「せっかくのクリスマスにと鴇田さんはあなたがたのためにピアノの練習をしていたけど、それもキャンセルだ。あなたがたは鴇田さんのピアノを聴けない。セッションも出来ない。残念だね」
「なんでおまえが決めるんだよ! トーミのことはトーミが決めるんだ!」
「決まるんだ。おれが不愉快な思いをすると鴇田さんも不愉快だから」
「リクツで言えよっ!」
「これは理屈じゃない。それを分かるようになるには論はまだ幼い」
「トーミは来るんだ、おまえは帰れっ!」
喚く論に背を向けた。キッチンから何事かとケントが飛び出してくる。
「ああ、みくらさん。ロンはまたなにを騒いでいるの?」
「こいつがトーミは来ないって!」
「こいつって呼んではだめですよ。よくない言葉づかいです」
「あ、」
窓の外に赤いファミリーカーが見えた。樋口紗羽が客人を駅まで迎えに行っていた。鴇田もそこに同乗しているのが見える。
「ほら来た! ダンは嘘つきだ!」
論は嬉しさを隠さずピアノの椅子から飛び降りる。暖の顔を見て勝ち誇ったような顔をしたが、無視してキッチンの奥へと進んだ。
どうせエイリアンですから。暖は頭の中でスティングの有名な曲をくちずさむ。
→ 2
今日の一曲(別窓)
今日のもう一曲(別窓)
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手を伸ばして三倉が自分で弄っていた胸の尖りを探る。遠海はなにもしていないのに硬く立ち上がって男を誘っていた。先ほど自分にされたように、三倉の粒を口に含む。ねっとりと舌で潰して育てるように吸うと、真っ赤に充血してますますしゃぶってと言われているみたいだった。
しつこく唇と舌と歯を使って扱く。もう片方も手で揉みしだく。そうすると遠海を受け入れて広がった三倉の奥はひくひくと収縮し、感じているのがよく分かった。
「あ、……ああ、」
「知らなかった。一緒にすると気持ちがいいんですね」
「し、知らない……」
「間違ってる? そんなことないと思う……」
ぐっと前傾して顔を覗き込む。より深く差し込まれ、三倉は悲鳴をあげた。
「言って、三倉さん」
「いいっ、気持ちいいっ……いっぱい触って、」
「うん」
「もっと気持ちよくなりたい……」
「なるよ、」
突き詰めれば際限なく、どこまでものぼって行けそうな長い坂道を三倉と駆け上がる。腰をスライドさせると三倉は喘ぎ、もう齧り付く勢いで乳首を口に含んで内部の収縮を促す。もっと、もっととふたりで互いをせがみ合う。
「あっ、あっ、んっ……きそう、また」
三倉は懸命に自身に手を伸ばしてそこを擦る。内部の締め付けが三倉の沸点の近さを伝えていた。遠海は三倉の足を抱え直し、鋭く、速いリズムで筒を穿つ。さっき出したものが泡立って、室内には信じられない湿度と熱気が満ちている。
――今夜も熱帯夜となるでしょう。
「くる、……鴇田さん、もう、いく……っ」
「……三倉さん、好きですよ」
性器を盛んに扱く手を片方取って、しっかりと繋いだ。
「あんたが大好きです。僕でおかしくなるあんたが、僕はかわいい」
「あっ、ああっ、あああっ、――……!」
激しく突き上げ、指では到底届かない場所で二度目の射精をした。内壁を思い切り濡らす。ほぼ同時に三倉の手の中でも白濁が吹き出す。先ほどより薄い粘度のそれは、三倉の指のあいだから漏れてこぼれる。
激しい収縮と痙攣の収まらないうちに中をぐるりとかき混ぜ、三倉の身体を横抱えにした。片足を持ち上げて性器を揺する。
「な、なに、」
「まだ出来る。足りない」
「うそだよ。だって……んっ」
「三倉さんが触らせてくれないから」
首筋に顔を寄せ、三倉がつけたと思う同じ場所を強く吸った。それすら刺激なのか、内部が蠢く。
「や、無理っ……」
「ごめん、無理でも無理」
「せめてちょっと待って、……んっ、んんっ、」
「待たない……もっと」
がぶりと唇に噛み付いて、キスをしながら腰を揺らす。突き入れると三倉の内部は喜ぶようにうねり、引くと惜しむように絡んだ。快楽に痺れて動かせない身体を、遠海はもう自分の一部かのように扱う。
違うな。一部みたいに溶けちゃってるけどちゃんと違う人の身体だ。だから怖いし、怖いのが気持ちいい。
「もっとしよう……」
それは放課後でも帰りたくなくて、もっと遊ぼうと誘う子どもの毒っぽさに似ていた。
しつこく唇と舌と歯を使って扱く。もう片方も手で揉みしだく。そうすると遠海を受け入れて広がった三倉の奥はひくひくと収縮し、感じているのがよく分かった。
「あ、……ああ、」
「知らなかった。一緒にすると気持ちがいいんですね」
「し、知らない……」
「間違ってる? そんなことないと思う……」
ぐっと前傾して顔を覗き込む。より深く差し込まれ、三倉は悲鳴をあげた。
「言って、三倉さん」
「いいっ、気持ちいいっ……いっぱい触って、」
「うん」
「もっと気持ちよくなりたい……」
「なるよ、」
突き詰めれば際限なく、どこまでものぼって行けそうな長い坂道を三倉と駆け上がる。腰をスライドさせると三倉は喘ぎ、もう齧り付く勢いで乳首を口に含んで内部の収縮を促す。もっと、もっととふたりで互いをせがみ合う。
「あっ、あっ、んっ……きそう、また」
三倉は懸命に自身に手を伸ばしてそこを擦る。内部の締め付けが三倉の沸点の近さを伝えていた。遠海は三倉の足を抱え直し、鋭く、速いリズムで筒を穿つ。さっき出したものが泡立って、室内には信じられない湿度と熱気が満ちている。
――今夜も熱帯夜となるでしょう。
「くる、……鴇田さん、もう、いく……っ」
「……三倉さん、好きですよ」
性器を盛んに扱く手を片方取って、しっかりと繋いだ。
「あんたが大好きです。僕でおかしくなるあんたが、僕はかわいい」
「あっ、ああっ、あああっ、――……!」
激しく突き上げ、指では到底届かない場所で二度目の射精をした。内壁を思い切り濡らす。ほぼ同時に三倉の手の中でも白濁が吹き出す。先ほどより薄い粘度のそれは、三倉の指のあいだから漏れてこぼれる。
激しい収縮と痙攣の収まらないうちに中をぐるりとかき混ぜ、三倉の身体を横抱えにした。片足を持ち上げて性器を揺する。
「な、なに、」
「まだ出来る。足りない」
「うそだよ。だって……んっ」
「三倉さんが触らせてくれないから」
首筋に顔を寄せ、三倉がつけたと思う同じ場所を強く吸った。それすら刺激なのか、内部が蠢く。
「や、無理っ……」
「ごめん、無理でも無理」
「せめてちょっと待って、……んっ、んんっ、」
「待たない……もっと」
がぶりと唇に噛み付いて、キスをしながら腰を揺らす。突き入れると三倉の内部は喜ぶようにうねり、引くと惜しむように絡んだ。快楽に痺れて動かせない身体を、遠海はもう自分の一部かのように扱う。
違うな。一部みたいに溶けちゃってるけどちゃんと違う人の身体だ。だから怖いし、怖いのが気持ちいい。
「もっとしよう……」
それは放課後でも帰りたくなくて、もっと遊ぼうと誘う子どもの毒っぽさに似ていた。
盛んな鳥のさえずり、わんわんと響くセミの声、どこからか聞こえるラジオ体操の音楽。
ああ、夏の朝の音だな、と遠くから徐々に意識をかき集めつつ思う。夏の朝は冬と違って賑やかだ。朝からうるさくて起きていられない。まるで太陽光でさえ音が鳴っているみたいな強さだし。心臓の上になにか重くて熱いものだって乗っかっている。ん? なにが?
目を開けて、胸の上に乗っているのが三倉の頭だと気づいた。遠海の裸の胸にぺたりと頬をつけて、目を開けている。
〈おはよう〉と挨拶、でもその声は寝起きなんかじゃ理由がつけられないぐらいかさかさに掠れていた。
「三倉さん、声」
〈うん、うまく出せない。酷使したから〉
「酷使?」と口にして、すぐ愚問だと気づいた。自分があれだけ使わせたのだから、楽器ならそりゃへばる。オイルでも塗らないと。
「すいません」
〈謝るなよ。毎晩あれだともたないけど、後悔はないし〉
三倉は目を緩め、〈ケモノだったね〉と笑った。
「じゃあ撤回します。……ええと、コンビニで喉飴でも買ってきますか?」
〈うーん〉
遠海の胸の上で三倉は悩む。掠れて高いも低いもてんで統制できないか細い声は、遠海の耳に不思議と気持ちがよかった。悪い感じでくせになる。ああこれか。こういうのがASMRなのかな。三倉はたまったもんじゃないだろうが。
〈氷ある?〉と訊かれた。
「ありますよ」
〈それちょうだい〉
「飴じゃなくていい?」
〈うん〉
起き上がって冷凍庫の製氷機から作り置きの氷を取り出した。何粒かグラスに放り込んで三倉に渡す。三倉はそれを口にして、噛まずにカリコリとしゃぶった。
外には暑くなりそうな気配がすでに満ちている。洗濯物をたくさんしようと思いつき、風呂を沸かしながら家中のものを洗濯機に突っ込んだ。シーツ、タオルケット、電子ピアノの覆い、シャツや下着。
布団も干して、沸いた風呂に三倉と浸かった。キスをされる。氷を舐めていた三倉の口内は冷たく、ひんやりとした舌が気持ちよかった。
水分でいくらかほとけて三倉の声帯も通常に戻りかける。
「そういえば盆休みってやつなのに実家帰ったりしなくていいの?」
遠海の頭をシャンプーで擦りながら三倉が訊く。
「別にいいです。帰らないのはいつものことだし。干物送ってくるぐらいだから元気なのは分かったし、電話もしました。墓参りに行かなきゃって人も特にないですし」
「そっか」
「三倉さんは?」
「どうせ説教が待ってる」
「説教?」
シャワーで泡を流されながら振り向いてしまい、顔にもろ水を浴びた。
「あー、ほら前向く。コンディショナーつけるよ」
「叱られるようなことなにかしたんですか?」
「離婚したからねえ」
うーん、と実に渋い言い草で言われた。
「離婚を決めた時も、あんないい奥さんになにが不満だ、土下座して撤回して来いっておれの話も聞かずに言うような親だからね。離婚した後でちょっと実家に顔出したけど、喧々と諭された。おれの親ってふたりとも定年まで教師やってたの。親父は教頭まで勤めたし、母親はいまでも学童保育施設で働いてる。こうさ、理詰めで諭してくるからなんにも言えねーの」
「……それはまた」
「兄貴はまだ話を聞こうとしてくれたけど、県庁職員なんてやってるぐらいで、堅くて真面目な性格が根っこにはあるんだよね。最終的には、おまえはいつまでもそうやってふらふらしてるからって言われる。労働して、納税して、貯蓄もして、こんなに真面目なのにどこがふらふらだよ。そもそもいまの会社だって就職決めたときはマスコミなんてやくざだからやめろって言われたし」
遠海の家とは全く違う事情に驚いた。
「これで家に帰ったらきっと見合い写真でも待ってるよ。今度こそ失敗するな、的な。どこどこ教育長の娘の写真とかね。だから今年はいーや、って」
「なら今日はゆっくり出来る?」
「出来る出来る。するなって言われてもしてくから。流すよ」
再びシャワーで流され、髪がさっぱりする。三倉はこうやって人の髪を洗うのが好きだし、洗わせるのも好きなので、遠海は三倉から覚えた要領で三倉の髪も洗ってやる。癖毛の三倉の髪は水に当てると余計にうねる。わしゃわしゃと髪を擦ると、鏡に写った三倉はうっとりと目を閉じていた。
目を閉じたまま、「お土産あるよ」と言われた。
「言おうと思ってて忘れてた。おれもお土産あんの。実家から届いたすもも。今年は帰省しないって言ったら嫌味のように大量に送られてきた。だから鴇田さんに押し付け」
「お裾分けって言いません?」
「あなたが好きかどうかも分からないのに言えないでしょ。桃とか葡萄とかメジャーな果物ならともかく」
シャンプーを終えて泡を流し、コンディショナーを揉み込む。「あんまりすももって食べません」と言うと、「実家の辺りは産地なんだ」と答えがあった。
「朝飯で食おう」
「うん」
洗うだけ洗って流し、さっぱりして浴室を出る。遠海が洗濯物を干しているあいだに三倉が朝食を作ってくれた。ニュースを眺めながら朝食を取り、食後に洗っただけのすももを齧った。真っ赤に熟れた様は昨夜の情事を連想した。歯を立てると沈む果肉は、表皮に桃よりも鋭い酸味があり、甘いのだけど、芯のあたりもまた酸っぱい。三倉も本気で歯を立てて食べようとしたらこんな感じかもしれないという想像は、朝にしてはずいぶんと不埒だ。夏休みだからいいか、と思う。
「なんか桃より野生って感じですね。ジビエ食べてるような感じ」
「たまに食うといいんだ」
「これは生食だけ?」
「いや。加工してジャムとかコンポートとか。傷ませないためによくある感じの」
「ああ、なるほど」
「たくさんあるから作らざるを得ないと思う。そしたら食べてね」
「あ、思い出した。こういうのでフルーツポンチって作れますか?」
訊ねると三倉は意外そうな顔つきで、でも「出来るよ」とすんなり答えた。
「缶詰ばっかり入れたおやつだったけど、僕が母親が作ってくれた料理で一番印象に残ってるものです。ガラスの器に色が綺麗で。味よりは色合いが好きだった」
「ああ、なんだか分かるな。いいよ、作ろう」
話しながらも小ぶりなのですぐ食べられた。ふたつ、みっつと続けざまに食べる。手に垂れた果汁を拭こうとして、三倉に手首を取られる。一瞬だけ視線が絡む。濡れた手を三倉に舐められ、また昨夜の危うさが下腹部に戻ってくる。
「……そういう顔してると、また声出せなくされますよ」
「うーん、悪くないと思ってるからいかれてるよな」
「今日どうしますか?」
「そうだなあ」
手を取ったまま三倉はフローリングに寝転んだ。三倉の視線から空がいっぱいに目に入るようで、「すげー青空」と呟く。
「なんか、今日は一択しか出てこない。鴇田さんプランある?」
「ないです。いえ、ある、っていえばあるのかな。その一択」
「あ、でも夕方から店に行くんじゃなかった?」
「夕方からね」
その答えに三倉は満足した様子で、手を伸ばして「来て」と言われる。
「布団干しちゃったな」
「いろんなもんめちゃくちゃ干してたよな。鬼の首を取りに行く桃太郎を見送る婆さんはあんな感じで川で洗濯したと思う」
「なんですか、そのたとえ」
可笑しくて笑う。
「フローリングにじかは痛いですね」
「おれの部屋に来るっていう案もあるんだよ」
伸ばされる腕に縋るように背を丸め、顔を寄せた。額をすり合わせる。三倉の手が遠海の髪をまさぐる。三倉と同じ香りをしているだろう髪。
「この天気ならきっとすぐ乾きます」
「そうだな。すげー青空……」
再び三倉が呟くので、窓の外に顔を向ける。綺麗に晴れ渡った空、夏の熱。カーテンを閉めないでもいまはいいやと思った。
熱帯夜 End.
← 4
まだ更新します。
ああ、夏の朝の音だな、と遠くから徐々に意識をかき集めつつ思う。夏の朝は冬と違って賑やかだ。朝からうるさくて起きていられない。まるで太陽光でさえ音が鳴っているみたいな強さだし。心臓の上になにか重くて熱いものだって乗っかっている。ん? なにが?
目を開けて、胸の上に乗っているのが三倉の頭だと気づいた。遠海の裸の胸にぺたりと頬をつけて、目を開けている。
〈おはよう〉と挨拶、でもその声は寝起きなんかじゃ理由がつけられないぐらいかさかさに掠れていた。
「三倉さん、声」
〈うん、うまく出せない。酷使したから〉
「酷使?」と口にして、すぐ愚問だと気づいた。自分があれだけ使わせたのだから、楽器ならそりゃへばる。オイルでも塗らないと。
「すいません」
〈謝るなよ。毎晩あれだともたないけど、後悔はないし〉
三倉は目を緩め、〈ケモノだったね〉と笑った。
「じゃあ撤回します。……ええと、コンビニで喉飴でも買ってきますか?」
〈うーん〉
遠海の胸の上で三倉は悩む。掠れて高いも低いもてんで統制できないか細い声は、遠海の耳に不思議と気持ちがよかった。悪い感じでくせになる。ああこれか。こういうのがASMRなのかな。三倉はたまったもんじゃないだろうが。
〈氷ある?〉と訊かれた。
「ありますよ」
〈それちょうだい〉
「飴じゃなくていい?」
〈うん〉
起き上がって冷凍庫の製氷機から作り置きの氷を取り出した。何粒かグラスに放り込んで三倉に渡す。三倉はそれを口にして、噛まずにカリコリとしゃぶった。
外には暑くなりそうな気配がすでに満ちている。洗濯物をたくさんしようと思いつき、風呂を沸かしながら家中のものを洗濯機に突っ込んだ。シーツ、タオルケット、電子ピアノの覆い、シャツや下着。
布団も干して、沸いた風呂に三倉と浸かった。キスをされる。氷を舐めていた三倉の口内は冷たく、ひんやりとした舌が気持ちよかった。
水分でいくらかほとけて三倉の声帯も通常に戻りかける。
「そういえば盆休みってやつなのに実家帰ったりしなくていいの?」
遠海の頭をシャンプーで擦りながら三倉が訊く。
「別にいいです。帰らないのはいつものことだし。干物送ってくるぐらいだから元気なのは分かったし、電話もしました。墓参りに行かなきゃって人も特にないですし」
「そっか」
「三倉さんは?」
「どうせ説教が待ってる」
「説教?」
シャワーで泡を流されながら振り向いてしまい、顔にもろ水を浴びた。
「あー、ほら前向く。コンディショナーつけるよ」
「叱られるようなことなにかしたんですか?」
「離婚したからねえ」
うーん、と実に渋い言い草で言われた。
「離婚を決めた時も、あんないい奥さんになにが不満だ、土下座して撤回して来いっておれの話も聞かずに言うような親だからね。離婚した後でちょっと実家に顔出したけど、喧々と諭された。おれの親ってふたりとも定年まで教師やってたの。親父は教頭まで勤めたし、母親はいまでも学童保育施設で働いてる。こうさ、理詰めで諭してくるからなんにも言えねーの」
「……それはまた」
「兄貴はまだ話を聞こうとしてくれたけど、県庁職員なんてやってるぐらいで、堅くて真面目な性格が根っこにはあるんだよね。最終的には、おまえはいつまでもそうやってふらふらしてるからって言われる。労働して、納税して、貯蓄もして、こんなに真面目なのにどこがふらふらだよ。そもそもいまの会社だって就職決めたときはマスコミなんてやくざだからやめろって言われたし」
遠海の家とは全く違う事情に驚いた。
「これで家に帰ったらきっと見合い写真でも待ってるよ。今度こそ失敗するな、的な。どこどこ教育長の娘の写真とかね。だから今年はいーや、って」
「なら今日はゆっくり出来る?」
「出来る出来る。するなって言われてもしてくから。流すよ」
再びシャワーで流され、髪がさっぱりする。三倉はこうやって人の髪を洗うのが好きだし、洗わせるのも好きなので、遠海は三倉から覚えた要領で三倉の髪も洗ってやる。癖毛の三倉の髪は水に当てると余計にうねる。わしゃわしゃと髪を擦ると、鏡に写った三倉はうっとりと目を閉じていた。
目を閉じたまま、「お土産あるよ」と言われた。
「言おうと思ってて忘れてた。おれもお土産あんの。実家から届いたすもも。今年は帰省しないって言ったら嫌味のように大量に送られてきた。だから鴇田さんに押し付け」
「お裾分けって言いません?」
「あなたが好きかどうかも分からないのに言えないでしょ。桃とか葡萄とかメジャーな果物ならともかく」
シャンプーを終えて泡を流し、コンディショナーを揉み込む。「あんまりすももって食べません」と言うと、「実家の辺りは産地なんだ」と答えがあった。
「朝飯で食おう」
「うん」
洗うだけ洗って流し、さっぱりして浴室を出る。遠海が洗濯物を干しているあいだに三倉が朝食を作ってくれた。ニュースを眺めながら朝食を取り、食後に洗っただけのすももを齧った。真っ赤に熟れた様は昨夜の情事を連想した。歯を立てると沈む果肉は、表皮に桃よりも鋭い酸味があり、甘いのだけど、芯のあたりもまた酸っぱい。三倉も本気で歯を立てて食べようとしたらこんな感じかもしれないという想像は、朝にしてはずいぶんと不埒だ。夏休みだからいいか、と思う。
「なんか桃より野生って感じですね。ジビエ食べてるような感じ」
「たまに食うといいんだ」
「これは生食だけ?」
「いや。加工してジャムとかコンポートとか。傷ませないためによくある感じの」
「ああ、なるほど」
「たくさんあるから作らざるを得ないと思う。そしたら食べてね」
「あ、思い出した。こういうのでフルーツポンチって作れますか?」
訊ねると三倉は意外そうな顔つきで、でも「出来るよ」とすんなり答えた。
「缶詰ばっかり入れたおやつだったけど、僕が母親が作ってくれた料理で一番印象に残ってるものです。ガラスの器に色が綺麗で。味よりは色合いが好きだった」
「ああ、なんだか分かるな。いいよ、作ろう」
話しながらも小ぶりなのですぐ食べられた。ふたつ、みっつと続けざまに食べる。手に垂れた果汁を拭こうとして、三倉に手首を取られる。一瞬だけ視線が絡む。濡れた手を三倉に舐められ、また昨夜の危うさが下腹部に戻ってくる。
「……そういう顔してると、また声出せなくされますよ」
「うーん、悪くないと思ってるからいかれてるよな」
「今日どうしますか?」
「そうだなあ」
手を取ったまま三倉はフローリングに寝転んだ。三倉の視線から空がいっぱいに目に入るようで、「すげー青空」と呟く。
「なんか、今日は一択しか出てこない。鴇田さんプランある?」
「ないです。いえ、ある、っていえばあるのかな。その一択」
「あ、でも夕方から店に行くんじゃなかった?」
「夕方からね」
その答えに三倉は満足した様子で、手を伸ばして「来て」と言われる。
「布団干しちゃったな」
「いろんなもんめちゃくちゃ干してたよな。鬼の首を取りに行く桃太郎を見送る婆さんはあんな感じで川で洗濯したと思う」
「なんですか、そのたとえ」
可笑しくて笑う。
「フローリングにじかは痛いですね」
「おれの部屋に来るっていう案もあるんだよ」
伸ばされる腕に縋るように背を丸め、顔を寄せた。額をすり合わせる。三倉の手が遠海の髪をまさぐる。三倉と同じ香りをしているだろう髪。
「この天気ならきっとすぐ乾きます」
「そうだな。すげー青空……」
再び三倉が呟くので、窓の外に顔を向ける。綺麗に晴れ渡った空、夏の熱。カーテンを閉めないでもいまはいいやと思った。
熱帯夜 End.
← 4
まだ更新します。
「ん……」
慣れている、と思った。誰かに触れることに慣れている。それは当たり前の話で、三倉には妻がいたのだし、過去何人かの女性との交際経験があることも聞いている。触れ慣れている人なのに、この人の触れ方を自分はあまり知らなかったといまさらになって思い知った。ついに三倉の唇が遠海の胸の先を啄んだとき、技巧の豊かさに、吐息を漏らさずにはいられなかった。
この器官で男も感じる。三倉にするときは性器や三倉が許してくれる最奥ばかり刺激があればいいのだと思い込んでいた。下手だな、と自分を顧みずにはいられない愛撫を示される。どこだって触れられれば気持ちがよく、ざわざわするなら、そこは性感帯だ。もっと三倉のあちこちを触りたくなり、けれど腕にシャツが絡んでいるので、大人しく三倉の講習を受ける。
張り詰めた胸の先を弄られたまま、三倉の舌は下へ落ちる。臍の窪みを穿つように舐められ声が出た。腹筋が硬くなる。
「……鴇田さん、ここ感じるね」
腹の上で熱っぽい吐息が落ちた。
「変な感じがします」
「それを感じるって言うんだよ」
嬉しそうに笑い、三倉は臍に唾液がたっぷりと溜まるまで舐めた。臍から下への刺激は辛すぎて背をたわめるほどだった。三倉はそれを許さない。わざと下腹を撫で、舐めまわす。下着の中に潜り込んだ指で自分でも驚くほど情けなく息が漏れた。
「すごい、鴇田さんのぐしゃぐしゃ」
「……あんま言わないでください」
「なんで? 恥ずかしいことじゃないよ。かわいい」
ハーフパンツをずらし、露出させた性器を手で包んで、三倉は舐めた。口淫はもう何度もしているしされているからいまさら恥ずかしがることもないけれど、自分だけが一方的に追い詰められる快楽には慣れなかった。脈打つ幹を舌が伝い、硬い丸みまで口に含まれて、また口腔全体に飲み込まれる。あんまりにも喉奥まで届くので、そこまでさせているのがちょっと怖い。快感に悶えて瞑っていた目を開けると、三倉は遠海の性器をすっぽりとしゃぶりつつ、自身の背後に指を這わせ、そこで自慰でもするかのように指を動かしていた。
あんまりの光景にぐらぐらする。くらくらか。むらむら。なんでもいい、とにかく欲情している。あのびっちりと遠海を包み込んでくれる熱い中に入りたい。口の中も気持ちがいいけれど、三倉が自分で慰めているあの場所への恋しさが募る。
「っ、三倉さん……入りたい……」
「まだ待って……」
鴇田のものを口に咥えながら、ひたすら自身を広げて受け入れる準備をしている。たまらなくなり、遠海は腹筋を最大限に使って上体を起こした。三倉が顔を上げる。
「腕、もういい?」
「……だめ」
「じゃあそこ舐めるからこっちに見せて」
「……」
「濡らして広げるから」
可能な限りで三倉の耳に顔を寄せると、三倉はようやく頷く。性器から口を離し、ハーフパンツを脱ぎ、こちらへ向けて足を広げた。指を添えてもそこはまだ狭く、でも欲するようにひくついている。
腕なしでそこへ顔を近づけるのは難しかった。バランスを崩して肩から崩れる。じりじりとにじり寄って三倉の指を舐める。それから指で広げている入り口を舌で辿ると、三倉が息を詰めるのが分かった。
出来るだけ唾液を含ませるように、唇と舌を使ってじゅ、じゅ、と広げる。舌を進ませ、ときにこじ入れる。不自由で力加減が出来ないのがもどかしい。舌先で突くと「あっ」と三倉が声をあげた。膝がびくりと震え、遠海の身体を反射的に挟む。
「指、もっと増やして」
求めると、おずおずと指が追加された。それでも自身の指には限度があり、浅い場所を含むぐらいが精一杯だった。三倉の指を舐めまわし、こじ入れて、広げさせる。ふと上を見ると三倉は片方の手で自身の胸を弄っており、そんなものを見てしまったらもう興奮しない方が無理だった。
「入れたい。触りたい。触らせて、三倉さん」
「んん……」
脳髄への快楽くだんの話を思い出した。だからシャツをようやく解いて、三倉がいま一番感じている場所へ指を這わせ、唾液であさましく濡れたそこを容赦なくかき混ぜた。
「あっ、あっ、んっ……まだ、だめだって、」
「ここに」
三倉の肩を抱き、耳元に唇を押し付ける。
「入れたい。入れたらおれもあんたも絶対に気持ちがいい……」
囁くように言う。脳髄を刺激しますようにと願いながら。三倉はぐずぐずで、でも頑なだった。かぶりを振り、「おれが触る」と聞かない。
「……でも、三倉さんが欲しい。どうしても」
「じゃあいいって言うまで鴇田さんは動かないで……」
のろのろと三倉は起き上がり、再び遠海の身体を倒した。上に乗りかかる。遠海が触れなくても三倉の性器はピンと硬く漲っていて、下走りでぬらりと光っている。あまりの光景に喉が鳴る。
鴇田の性器を奥に当てがい、ふちに潜り込ませ、ゆっくりと腰を下ろした。
「あっ、ああっ、」
「三倉さん、まだ半分だよ」
「分かってる、……突っ張って、」
遠海の腹に手をついて、懸命に腰を落とそうとしている。あんまりのじれったさに遠海は堪えきれなくなって腰を掴み、一気に自身を突き入れた。
「ああああああ……――っ」
「――っ、」
いつもより狭くて、いつもより熱かった。火に直接包まれているみたいで、でもその暑っ苦しい狭い中がひたすらに気持ちがいい。数度激しく突き上げると、三倉は大きく身体を震わせて盛大に射精した。堪えていたものが数度に渡って放出され、頭をのけぞらせて解放の愉悦に痙攣する。
奥歯を噛んでやり過ごすも、過ぎた快楽だった。しぶくように三倉の中に放つ。しばらくの硬直ののちにぐったりと汗ばんだ身体をなんとか抱きとめ、横たわった。三倉は心配になるぐらいに忙しく息をしていた。
「大丈夫?」
「……動くなって、言ったのに、」
汗をびっしりと浮かせて三倉は文句を告げる。こめかみに浮いた汗を舐め、ようやく触れられる喜びに貫かれながら「ごめん」と心にもなく謝罪した。
「だって無理だよ。あんたはこんなになっちゃってるし、僕もこんなになっちゃったし」
「……鴇田さん、気持ちいい? おれめちゃくちゃ触ったけど嫌じゃない?」
「嫌じゃない。……触っていい? 動きたい」
「うん……キスしてよ」
微笑み、三倉の唇の横に吸い付いてから、ようやく唇同士を重ねる。じゅ、じゅ、と水音を響かせる。口の中を舌で思う存分に掻き回すと、三倉は喘ぎ、息をつぎ、また欲しがった。
「……いま、夏休みだから」
「ん……?」
キスの合間に囁く。
「お隣のご夫婦は帰省したっぽい」
「……反対側のご家族は?」
「最近見かけない。旅行に出かけたのかも」
「両隣いないの、」
「うん。だからいっぱい声出していいよ……」
そう言うなり三倉の中に納めていたものを思い切り奥まで突き入れた。三倉が「ああっ」と声を上げる。
「ようやく触れる」
「んっ、んんっ、ふ、」
「声出して。あんたの声を聞きたい」
「あっ、ああっ、やっ……鴇田さんっ……!」
懇願めいた悲鳴も、遠海の欲をただ押し上げるに過ぎない。もっと気持ちよくなって、もっとおかしくなればいい。そう思いながら三倉の足を肩に担ぎ上げ、深く差し込む。太腿を折り畳まれて三倉は苦しそうだったが、やめてとは言わなかった。
← 3
→ 5
慣れている、と思った。誰かに触れることに慣れている。それは当たり前の話で、三倉には妻がいたのだし、過去何人かの女性との交際経験があることも聞いている。触れ慣れている人なのに、この人の触れ方を自分はあまり知らなかったといまさらになって思い知った。ついに三倉の唇が遠海の胸の先を啄んだとき、技巧の豊かさに、吐息を漏らさずにはいられなかった。
この器官で男も感じる。三倉にするときは性器や三倉が許してくれる最奥ばかり刺激があればいいのだと思い込んでいた。下手だな、と自分を顧みずにはいられない愛撫を示される。どこだって触れられれば気持ちがよく、ざわざわするなら、そこは性感帯だ。もっと三倉のあちこちを触りたくなり、けれど腕にシャツが絡んでいるので、大人しく三倉の講習を受ける。
張り詰めた胸の先を弄られたまま、三倉の舌は下へ落ちる。臍の窪みを穿つように舐められ声が出た。腹筋が硬くなる。
「……鴇田さん、ここ感じるね」
腹の上で熱っぽい吐息が落ちた。
「変な感じがします」
「それを感じるって言うんだよ」
嬉しそうに笑い、三倉は臍に唾液がたっぷりと溜まるまで舐めた。臍から下への刺激は辛すぎて背をたわめるほどだった。三倉はそれを許さない。わざと下腹を撫で、舐めまわす。下着の中に潜り込んだ指で自分でも驚くほど情けなく息が漏れた。
「すごい、鴇田さんのぐしゃぐしゃ」
「……あんま言わないでください」
「なんで? 恥ずかしいことじゃないよ。かわいい」
ハーフパンツをずらし、露出させた性器を手で包んで、三倉は舐めた。口淫はもう何度もしているしされているからいまさら恥ずかしがることもないけれど、自分だけが一方的に追い詰められる快楽には慣れなかった。脈打つ幹を舌が伝い、硬い丸みまで口に含まれて、また口腔全体に飲み込まれる。あんまりにも喉奥まで届くので、そこまでさせているのがちょっと怖い。快感に悶えて瞑っていた目を開けると、三倉は遠海の性器をすっぽりとしゃぶりつつ、自身の背後に指を這わせ、そこで自慰でもするかのように指を動かしていた。
あんまりの光景にぐらぐらする。くらくらか。むらむら。なんでもいい、とにかく欲情している。あのびっちりと遠海を包み込んでくれる熱い中に入りたい。口の中も気持ちがいいけれど、三倉が自分で慰めているあの場所への恋しさが募る。
「っ、三倉さん……入りたい……」
「まだ待って……」
鴇田のものを口に咥えながら、ひたすら自身を広げて受け入れる準備をしている。たまらなくなり、遠海は腹筋を最大限に使って上体を起こした。三倉が顔を上げる。
「腕、もういい?」
「……だめ」
「じゃあそこ舐めるからこっちに見せて」
「……」
「濡らして広げるから」
可能な限りで三倉の耳に顔を寄せると、三倉はようやく頷く。性器から口を離し、ハーフパンツを脱ぎ、こちらへ向けて足を広げた。指を添えてもそこはまだ狭く、でも欲するようにひくついている。
腕なしでそこへ顔を近づけるのは難しかった。バランスを崩して肩から崩れる。じりじりとにじり寄って三倉の指を舐める。それから指で広げている入り口を舌で辿ると、三倉が息を詰めるのが分かった。
出来るだけ唾液を含ませるように、唇と舌を使ってじゅ、じゅ、と広げる。舌を進ませ、ときにこじ入れる。不自由で力加減が出来ないのがもどかしい。舌先で突くと「あっ」と三倉が声をあげた。膝がびくりと震え、遠海の身体を反射的に挟む。
「指、もっと増やして」
求めると、おずおずと指が追加された。それでも自身の指には限度があり、浅い場所を含むぐらいが精一杯だった。三倉の指を舐めまわし、こじ入れて、広げさせる。ふと上を見ると三倉は片方の手で自身の胸を弄っており、そんなものを見てしまったらもう興奮しない方が無理だった。
「入れたい。触りたい。触らせて、三倉さん」
「んん……」
脳髄への快楽くだんの話を思い出した。だからシャツをようやく解いて、三倉がいま一番感じている場所へ指を這わせ、唾液であさましく濡れたそこを容赦なくかき混ぜた。
「あっ、あっ、んっ……まだ、だめだって、」
「ここに」
三倉の肩を抱き、耳元に唇を押し付ける。
「入れたい。入れたらおれもあんたも絶対に気持ちがいい……」
囁くように言う。脳髄を刺激しますようにと願いながら。三倉はぐずぐずで、でも頑なだった。かぶりを振り、「おれが触る」と聞かない。
「……でも、三倉さんが欲しい。どうしても」
「じゃあいいって言うまで鴇田さんは動かないで……」
のろのろと三倉は起き上がり、再び遠海の身体を倒した。上に乗りかかる。遠海が触れなくても三倉の性器はピンと硬く漲っていて、下走りでぬらりと光っている。あまりの光景に喉が鳴る。
鴇田の性器を奥に当てがい、ふちに潜り込ませ、ゆっくりと腰を下ろした。
「あっ、ああっ、」
「三倉さん、まだ半分だよ」
「分かってる、……突っ張って、」
遠海の腹に手をついて、懸命に腰を落とそうとしている。あんまりのじれったさに遠海は堪えきれなくなって腰を掴み、一気に自身を突き入れた。
「ああああああ……――っ」
「――っ、」
いつもより狭くて、いつもより熱かった。火に直接包まれているみたいで、でもその暑っ苦しい狭い中がひたすらに気持ちがいい。数度激しく突き上げると、三倉は大きく身体を震わせて盛大に射精した。堪えていたものが数度に渡って放出され、頭をのけぞらせて解放の愉悦に痙攣する。
奥歯を噛んでやり過ごすも、過ぎた快楽だった。しぶくように三倉の中に放つ。しばらくの硬直ののちにぐったりと汗ばんだ身体をなんとか抱きとめ、横たわった。三倉は心配になるぐらいに忙しく息をしていた。
「大丈夫?」
「……動くなって、言ったのに、」
汗をびっしりと浮かせて三倉は文句を告げる。こめかみに浮いた汗を舐め、ようやく触れられる喜びに貫かれながら「ごめん」と心にもなく謝罪した。
「だって無理だよ。あんたはこんなになっちゃってるし、僕もこんなになっちゃったし」
「……鴇田さん、気持ちいい? おれめちゃくちゃ触ったけど嫌じゃない?」
「嫌じゃない。……触っていい? 動きたい」
「うん……キスしてよ」
微笑み、三倉の唇の横に吸い付いてから、ようやく唇同士を重ねる。じゅ、じゅ、と水音を響かせる。口の中を舌で思う存分に掻き回すと、三倉は喘ぎ、息をつぎ、また欲しがった。
「……いま、夏休みだから」
「ん……?」
キスの合間に囁く。
「お隣のご夫婦は帰省したっぽい」
「……反対側のご家族は?」
「最近見かけない。旅行に出かけたのかも」
「両隣いないの、」
「うん。だからいっぱい声出していいよ……」
そう言うなり三倉の中に納めていたものを思い切り奥まで突き入れた。三倉が「ああっ」と声を上げる。
「ようやく触れる」
「んっ、んんっ、ふ、」
「声出して。あんたの声を聞きたい」
「あっ、ああっ、やっ……鴇田さんっ……!」
懇願めいた悲鳴も、遠海の欲をただ押し上げるに過ぎない。もっと気持ちよくなって、もっとおかしくなればいい。そう思いながら三倉の足を肩に担ぎ上げ、深く差し込む。太腿を折り畳まれて三倉は苦しそうだったが、やめてとは言わなかった。
← 3
→ 5
「高校でまだ地元にいたころ、ちょっと遠くの文書館に調べ物があって行ったんだ」
と三倉が食器を洗いながら言う。遠海はそれを隣で拭って仕舞う。
「電車で行ったんだよね。夏休みに。山がすぐそこに迫ってるような田舎町で、最寄駅は無人駅だった。ワンマン列車に乗ったの。駅からホームまでは地下通路潜らなきゃいけなくて、歩いてたんだけど、上りの階段にびっしりと枯れ葉が落ちてて」
「枯れ葉? 夏なのに?」
「な、そう思うよな。変だなと思いながら上がってて気づいたんだ。葉っぱじゃなくて蛾だった。羽のでかい茶色い蛾」
思い出して気持ちが悪かったのか、隣でぶるりと身体を震わせた。ぷつぷつと鳥肌が立って毛が逆立っているのが傍にいるから分かる。
「大量発生したのに困って薬剤散布でもしたんだろうな。延々と蛾の死体を避けながら階段上ってホームまで行ったよ。あれ以来おれ、蛾はダメ。もー無理。ちょうちょも苦手」
「道理で」遠海は笑った。「夏場窓を開けるのを嫌がるな、とは思ってた」
「虫は大丈夫なんだよ。Gのやつだって華麗に処理出来る。でも蛾は無理なんだよなあ。網戸に張り付いてる裏っかわ見るとどんなにちっちゃいやつでも寒気がする。誘蛾灯ってあるじゃん。スーパーとかキャンプ場でばちばち言ってるやつ。あれはもー、恐怖。モスラが実際に双子の妖精で呼ばれた日なんか、どんなにいい蛾だろうが双子を呪うよ」
「じゃあ夏の夜や田舎は辛いですね」
「あの絵知ってる? 速水御舟の『炎舞』。多分、目にすれば見たことあるって思うんだ」
きゅ、と水道を止めて三倉は手を拭う。思い描くような顔つきで「日本画で、炎に蛾が舞い込んで踊ってるみたいな絵」と言った。
「あ、国語便覧に載ってたかな。飛んで火に入る夏の虫、みたいな絵?」
「ああ、多分それ。あの絵見るとさ、ぞくぞくすんだよね。作者は焼かれてしまうのに炎にやって来る虫の浅はかさとか、はかなさとか、そういうものを描きたかったのかなって想像するんだけど、おれにはあの無人駅大量死骸事件以降、どうしてもこう、全ての蛾をこうやって駆逐せよ! って思えちゃって。火炎放射器ぶっ放す爽快感って言うのかな」
皿を拭いながら笑ってしまった。
「死に際描かれてるみたいだなって。あのときの蛾もこうやって焼却しちゃいたい、みたいな。方々から怒られそうだからあんまり人には言わないけどね」
「感想なんて人それぞれなんですから、怒られはしないと思いますけど」
「こういう、ぞわぞわするけどスカッとするっていうのもASMRに定義されるのかな?」
「それはちょっと判断しかねますけど……」
意外な苦手と性癖を知って面白かった。裏側のくすぐられると弱い部分をさらけ出された、という感覚。
冷凍庫からレモンのスライスの乗ったシャーベットを取り出して、ひとつを三倉に渡す。
「鴇田さんはそういうのない?」
「苦手なもの?」
「というか、後ろめたいのにくせになっちゃうもの?」
隣室に移り、ベッドの上で壁に背を預けてシャーベットの蓋をめくる。しばらくシャクシャクとシャーベットを口にして考えたが、思い浮かぶものはどうやってもひとつしかなかった。
「三倉さんかな……」
「おれ?」
「他人に距離を許すこと自体が嫌で、傍にいられると落ち着かないんですけど、結局境界を許すし、触りたいんですよね」
「ああ、」
あなたはそうか、と三倉はレモンのスライスを大きな口を開けてひと口で食べてしまう。
「触る、触らせる、許す、許されるっていうことが、背徳」
「まあ、普段から誰にでも許せる距離じゃないよね。あなたの場合は、とりわけ境界が強固ではっきりしているし」
「この部屋にこんなにひっきりなしに同じ人が来ることはなかったし、ましてやそれを心地いいと思うようなことはなかった」
三倉にだったら土足で踏み荒らされても喜んでしまいそうで怖い。その怖さまで気持ちいいと思える――紛れもない背徳。
「なんていうのか、あなたはさ。欲求が薄いように見えるんだよね。断絶しているっていうか、隔絶してるっていうか」
残ったシャーベットを三倉は手の中でたださくさくとかき混ぜている。
「断絶?」
「おれのことを好きだって言ったり、いまみたいなことをさらっと口にするくせに、肉体は変化しません、知りません、みたいな」
「そうかな?」
「甘えたがるくせに、突き放してもぐずらないっていうのか。お利口さんで聞き分けのいい子。そういう子どもだったのかなって思うとき、よくあるよ」
「よくわからないですけど、そうだとしたら、やっぱり自己防衛なんだと思います」
「それ、前にも言ってたね」
「うん。欲求は口にしない。しても断られるならさっさと諦める。例えば手を繋ぎたくて手を伸ばしても、振り払われたら傷つくし、いざ触れても恐怖があったり逃げたくなったりするときもある。自分から触れたいと思うのにね。だから言わなかったり、諦めたり、誤魔化してたりしてたんですけど」
溶けかかったシャーベッドをひと息に飲み干した。残った氷の粒を噛み砕く。三倉はまだシャーベットをかき混ぜている。
「欲求が消えるわけじゃないし、なくなるわけでもない。むしろろ過されて純粋なその成分だけになって固まってずっと胸に残ってるみたいな……それをあんたには粉々にされるんです。それはものすごく怖いことなのに気持ちがいい」
「……そういう、日ごろは要求が薄い人がさ、燃え盛ったりしてると、すごくクるよな」
三倉は笑った。官能の混じる笑みだと分かった。混ぜていたシャーベットはすでに液体で、三倉はその甘ったるい砂糖水を口に含む。頬を取られ、キスをされた。甘露のような甘い水を舌で移されて、背筋が震えた。
「甘い?」
「……甘ったるい」
試すような目で問われ、ぞくぞくする。全部。どこまでも。あなたに許します。脳内に掠めた言葉は、けれど口にしなかった。三倉の口を塞ぐ。三倉も体重をかけ、遠海の膝の上に乗りかかる。夢中でするキスにもうレモンが香らなくなっても、心地よさだけを求めてただ唇を押し付け合う。
長い年月をかけて精製されていた遠海の胸のしこりは、こうやっていとも簡単に三倉に崩される。三倉のシャツの裾から手を入れると、三倉も同じように遠海のシャツの裾に手を掛けた。
そのままめくられ、首を抜いて脱がされる。両腕にわだかまったシャツを腕から抜こうとすると、それをやんわりと制され、体重をかけて後ろに倒された。
「――三倉さん?」
「いつもは触ってくれって思ってるし、あんまり触られるのも嫌なのかなと思って実は遠慮してる」
「え?」
馬乗りになった三倉は、遠海の腕の自由を奪うことでなにか嬉しそうな顔をする。
「でもおれだって触りたいんだよね。おれがいいって言うまで、今日はこのまんまね」
「あ、ちょ……」
抗いはキスで封じられた。別に無理やり拘束されているわけではないし、ちょっと腕をよじれば簡単にシャツなど解ける。けれど三倉が望むからされるままになる。それに普段は感じない三倉からの圧を感じた。いつもなら遠海を受け入れようとしてくれている舌が、遠海を飲み込もうとしている。
角度を変えて何度もくちづける、そのあいだに三倉の手があらぬ場所に這った。普段なら遠海を気遣ってしっかりと触れようとしないことを今日は試みているらしい。キスをしながら胸板をさわさわと撫でられ、鎖骨を辿られる。そのまま骨を手繰って肩の先から二の腕、一の腕へと指が下る。触れることを楽しむ三倉の感触が慣れず、やっぱりやめてくれと言おうか腕の拘束を解いて抵抗しようか迷う。
迷うあいだに三倉のキスは遠海の唇を離れ、首筋へまわった。耳の後ろを舐められ、そのすぐ下をジッと噛んで吸われる。ねぶるように首筋を下り、鎖骨のくぼみに舌が這わされる。指は絶えず遠海の胸の先をくすぐり、もてあそび、ぷくりと膨れると、あっさりと指の腹で捏ねられてしまった。
← 2
→ 4
と三倉が食器を洗いながら言う。遠海はそれを隣で拭って仕舞う。
「電車で行ったんだよね。夏休みに。山がすぐそこに迫ってるような田舎町で、最寄駅は無人駅だった。ワンマン列車に乗ったの。駅からホームまでは地下通路潜らなきゃいけなくて、歩いてたんだけど、上りの階段にびっしりと枯れ葉が落ちてて」
「枯れ葉? 夏なのに?」
「な、そう思うよな。変だなと思いながら上がってて気づいたんだ。葉っぱじゃなくて蛾だった。羽のでかい茶色い蛾」
思い出して気持ちが悪かったのか、隣でぶるりと身体を震わせた。ぷつぷつと鳥肌が立って毛が逆立っているのが傍にいるから分かる。
「大量発生したのに困って薬剤散布でもしたんだろうな。延々と蛾の死体を避けながら階段上ってホームまで行ったよ。あれ以来おれ、蛾はダメ。もー無理。ちょうちょも苦手」
「道理で」遠海は笑った。「夏場窓を開けるのを嫌がるな、とは思ってた」
「虫は大丈夫なんだよ。Gのやつだって華麗に処理出来る。でも蛾は無理なんだよなあ。網戸に張り付いてる裏っかわ見るとどんなにちっちゃいやつでも寒気がする。誘蛾灯ってあるじゃん。スーパーとかキャンプ場でばちばち言ってるやつ。あれはもー、恐怖。モスラが実際に双子の妖精で呼ばれた日なんか、どんなにいい蛾だろうが双子を呪うよ」
「じゃあ夏の夜や田舎は辛いですね」
「あの絵知ってる? 速水御舟の『炎舞』。多分、目にすれば見たことあるって思うんだ」
きゅ、と水道を止めて三倉は手を拭う。思い描くような顔つきで「日本画で、炎に蛾が舞い込んで踊ってるみたいな絵」と言った。
「あ、国語便覧に載ってたかな。飛んで火に入る夏の虫、みたいな絵?」
「ああ、多分それ。あの絵見るとさ、ぞくぞくすんだよね。作者は焼かれてしまうのに炎にやって来る虫の浅はかさとか、はかなさとか、そういうものを描きたかったのかなって想像するんだけど、おれにはあの無人駅大量死骸事件以降、どうしてもこう、全ての蛾をこうやって駆逐せよ! って思えちゃって。火炎放射器ぶっ放す爽快感って言うのかな」
皿を拭いながら笑ってしまった。
「死に際描かれてるみたいだなって。あのときの蛾もこうやって焼却しちゃいたい、みたいな。方々から怒られそうだからあんまり人には言わないけどね」
「感想なんて人それぞれなんですから、怒られはしないと思いますけど」
「こういう、ぞわぞわするけどスカッとするっていうのもASMRに定義されるのかな?」
「それはちょっと判断しかねますけど……」
意外な苦手と性癖を知って面白かった。裏側のくすぐられると弱い部分をさらけ出された、という感覚。
冷凍庫からレモンのスライスの乗ったシャーベットを取り出して、ひとつを三倉に渡す。
「鴇田さんはそういうのない?」
「苦手なもの?」
「というか、後ろめたいのにくせになっちゃうもの?」
隣室に移り、ベッドの上で壁に背を預けてシャーベットの蓋をめくる。しばらくシャクシャクとシャーベットを口にして考えたが、思い浮かぶものはどうやってもひとつしかなかった。
「三倉さんかな……」
「おれ?」
「他人に距離を許すこと自体が嫌で、傍にいられると落ち着かないんですけど、結局境界を許すし、触りたいんですよね」
「ああ、」
あなたはそうか、と三倉はレモンのスライスを大きな口を開けてひと口で食べてしまう。
「触る、触らせる、許す、許されるっていうことが、背徳」
「まあ、普段から誰にでも許せる距離じゃないよね。あなたの場合は、とりわけ境界が強固ではっきりしているし」
「この部屋にこんなにひっきりなしに同じ人が来ることはなかったし、ましてやそれを心地いいと思うようなことはなかった」
三倉にだったら土足で踏み荒らされても喜んでしまいそうで怖い。その怖さまで気持ちいいと思える――紛れもない背徳。
「なんていうのか、あなたはさ。欲求が薄いように見えるんだよね。断絶しているっていうか、隔絶してるっていうか」
残ったシャーベットを三倉は手の中でたださくさくとかき混ぜている。
「断絶?」
「おれのことを好きだって言ったり、いまみたいなことをさらっと口にするくせに、肉体は変化しません、知りません、みたいな」
「そうかな?」
「甘えたがるくせに、突き放してもぐずらないっていうのか。お利口さんで聞き分けのいい子。そういう子どもだったのかなって思うとき、よくあるよ」
「よくわからないですけど、そうだとしたら、やっぱり自己防衛なんだと思います」
「それ、前にも言ってたね」
「うん。欲求は口にしない。しても断られるならさっさと諦める。例えば手を繋ぎたくて手を伸ばしても、振り払われたら傷つくし、いざ触れても恐怖があったり逃げたくなったりするときもある。自分から触れたいと思うのにね。だから言わなかったり、諦めたり、誤魔化してたりしてたんですけど」
溶けかかったシャーベッドをひと息に飲み干した。残った氷の粒を噛み砕く。三倉はまだシャーベットをかき混ぜている。
「欲求が消えるわけじゃないし、なくなるわけでもない。むしろろ過されて純粋なその成分だけになって固まってずっと胸に残ってるみたいな……それをあんたには粉々にされるんです。それはものすごく怖いことなのに気持ちがいい」
「……そういう、日ごろは要求が薄い人がさ、燃え盛ったりしてると、すごくクるよな」
三倉は笑った。官能の混じる笑みだと分かった。混ぜていたシャーベットはすでに液体で、三倉はその甘ったるい砂糖水を口に含む。頬を取られ、キスをされた。甘露のような甘い水を舌で移されて、背筋が震えた。
「甘い?」
「……甘ったるい」
試すような目で問われ、ぞくぞくする。全部。どこまでも。あなたに許します。脳内に掠めた言葉は、けれど口にしなかった。三倉の口を塞ぐ。三倉も体重をかけ、遠海の膝の上に乗りかかる。夢中でするキスにもうレモンが香らなくなっても、心地よさだけを求めてただ唇を押し付け合う。
長い年月をかけて精製されていた遠海の胸のしこりは、こうやっていとも簡単に三倉に崩される。三倉のシャツの裾から手を入れると、三倉も同じように遠海のシャツの裾に手を掛けた。
そのままめくられ、首を抜いて脱がされる。両腕にわだかまったシャツを腕から抜こうとすると、それをやんわりと制され、体重をかけて後ろに倒された。
「――三倉さん?」
「いつもは触ってくれって思ってるし、あんまり触られるのも嫌なのかなと思って実は遠慮してる」
「え?」
馬乗りになった三倉は、遠海の腕の自由を奪うことでなにか嬉しそうな顔をする。
「でもおれだって触りたいんだよね。おれがいいって言うまで、今日はこのまんまね」
「あ、ちょ……」
抗いはキスで封じられた。別に無理やり拘束されているわけではないし、ちょっと腕をよじれば簡単にシャツなど解ける。けれど三倉が望むからされるままになる。それに普段は感じない三倉からの圧を感じた。いつもなら遠海を受け入れようとしてくれている舌が、遠海を飲み込もうとしている。
角度を変えて何度もくちづける、そのあいだに三倉の手があらぬ場所に這った。普段なら遠海を気遣ってしっかりと触れようとしないことを今日は試みているらしい。キスをしながら胸板をさわさわと撫でられ、鎖骨を辿られる。そのまま骨を手繰って肩の先から二の腕、一の腕へと指が下る。触れることを楽しむ三倉の感触が慣れず、やっぱりやめてくれと言おうか腕の拘束を解いて抵抗しようか迷う。
迷うあいだに三倉のキスは遠海の唇を離れ、首筋へまわった。耳の後ろを舐められ、そのすぐ下をジッと噛んで吸われる。ねぶるように首筋を下り、鎖骨のくぼみに舌が這わされる。指は絶えず遠海の胸の先をくすぐり、もてあそび、ぷくりと膨れると、あっさりと指の腹で捏ねられてしまった。
← 2
→ 4
「耳掃除なら耳かきがありますよ。綿毛つき」
「いやー、だめなんだよね、耳かき。綿毛なんかもってのほか。おれウェットだからか出来るだけ綿棒が良くて」
「ウェット?」
分からない話に首を傾げる。
「あ、知らない? 耳垢ってドライとウェットに分かれるって」
「知らないです」
「日本人はドライが多いって話だしね。ええとね、耳垢が湿ってんの。だから普通の耳かきで掃除するより、水分を吸い取るイメージで綿棒使った方がおれの場合はすっきりするんだよね。だからおれは耳掃除は綿棒派。綿毛のほわほわなんか、べたべたしちゃうし」
「へえ。綿棒あったかな……」
探すとどこかで貰った救急キットの中に綿棒が入っていたので、それを渡す。――前に思いついて、つい、「掃除してあげましょうか」と言っていた。
三倉が目を丸くする。
「おれの耳?」
「いや、僕も人の耳掃除したことないのでうまく出来るかわかんないんですけど。ただ母との電話で、よく父の耳掃除をしたと言われて。そういえばそれは僕もちいさいころに見たことがある風景だったなと思い出して」
「してみたくなった?」
「はい」
「じゃあしてもらおうかな」
三倉は嬉しそう、というよりは面白そうな顔をした。興味深い事柄に負ける顔。遠海は床に正座し、三倉がそこに頭を乗せる。向けられた耳にそっと綿棒を差し込んだ。痛くはしたくなかったから慎重に進める。「水分を拭き取るイメージでいいから」と三倉は指示する。
内壁に綿棒の先を当て、すこし擦る。ごそごそとやっていると、黙ってされるままになっていた三倉は不意に「ASMRって知ってる?」と訊いた。
「いえ。なにかの略?」
「えーとね、Autonomous Sensory Meridian Response……合ってんのかな? 若い人には結構浸透してるらしいんだけど」
「訳せません」
「脳が気持ち良くなっちゃう反応、て感じ」
耳から綿棒を抜き、逆側を向くよう示す。恋人とはいえ膝の上に人の頭が乗る感覚には慣れず、動かれるとちょっと落ち着かなかった。
「聴覚や視覚の刺激で、気持ちいいとか、ぞわぞわするけど嫌じゃないとか、そういう感覚のことらしい。ささやき声とか、キーボードのタイピングとか、焚き火の音とか、綿棒擦る音とか」
「ああ」
それでいま思いついたのかと納得した。反対側の耳に綿棒を突っ込まれている三倉は、遠海の膝の上で気持ちよさそうに目を細める。猫なら喉でも鳴りそうだ。
「そういう動画もあるらしいよ」
「綿棒の動画?」
「綿棒には限らないだろうけど。人気なんだって。不眠の夜にいいとか、リラックスするとかさ。……なんか、そういうことをテーマにコラム書こうかなと思って調べはじめたはいいんだけど、これ絶対に性的快感も含むだろと思って書くのはやめた。気持ちいい音って、やっぱりこうどこかに背徳感はあるよな。病みつき、っていうか。食欲でもなんでも、欲求っていうものそもそもが快楽を求める行為だから。さすがにね、週刊誌のコラムだったら書けたかもしんないんだけど」
と三倉は呟く。くすぐるように綿棒を動かすと、彼は鼻から息を吐いて笑った。これも三倉にはそのASMRになるのか、と思いながら綿棒を抜いた。
「ありがと」
「すっきりしました?」
「うん、した。上手だね」
「元々は器用な性質だと思うんです。微妙な力加減が分かるというか。やったことがないだけで」
「おれもしてあげようか」
「綿棒?」
「鴇田さんのASMRになるかな?」
起き上がった三倉は意地悪そうに笑ったが、先ほど片付けかけた耳かきを指差し、「するなら耳掃除がいいです」とリクエストした。
「ああ、いいよ」
三倉の膝の上に今度は遠海が横になる。晒された耳に新品の耳かきが滑り込んできた。「ドライの人の耳垢がおれには不思議」と頭上で三倉は楽しそうだった。さりさりと耳かきで皮膚を掻かれ、遠海も気持ちがよくて目を閉じる。こんな風に誰かに耳掃除をしてもらった経験って実はないのかもしれない。そりゃ全くないわけはないのだろうけど、幼少期、気づけば自分で耳掃除はしていた。
何度か耳かきが細い器官を出入りし、ほわほわと綿毛でくすぐられ、「逆ね」と言われて身体を反転した。三倉の腹側に顔が向く。さっき自分はこれをさせたけど、これって結構な距離だよな、と自覚した。もしなにも着ていなかったらまんま自分は三倉にむしゃぶりつけるような距離。
耳かきが押し込まれ、やさしく掻かれる。気持ちがよくて下腹がむずむずした。仕上げに綿毛の部分でほこほこと耳を払われ、遠海は瞬間的に三倉の腰を掴んだ。
「こら、動くと危ない」
真剣に嗜める口調で三倉は耳かきを抜いたが、遠海はそこから離れなかった。顔を三倉の下腹部に押し付ける。ぐりぐりと鼻先を埋めると、シャワーを浴びて清潔なにおいでいる三倉の、三倉自身のにおいが奥底でした。
「ちょっと、鴇田さん、」
制止を振り切ってなおも三倉の股間に顔を押し付ける。刺激にやわく膨らんでくるのが分かった。「だめだってば」と髪を引っ張られ、鴇田は顔を上げた。
「めし食おうよ。……どうしたの? 甘えたいの?」
「うん」
「お?」
「そりゃ僕だって性欲はあるんですよ。なんかぐらぐらする」
「ぐらぐら」
「くらくら? むらむらかな」
「そりゃ大変だ」
三倉は笑った。でもだから、と言って触れさせてはくれなかった。
「めし食ったら獣になろうよ。きっちり窓閉めて」
「別にいま窓閉めたっていいんですよ」
「せっかく美味そうな魚あるんだし、まずは飲もうよ。鴇田さんが触りたがってるのおれは嬉しいけど、でも腹も減ってるし。おれは強欲だからね。食欲も性欲もどっちも満たしたいんだ」
冷蔵庫から新しいビールを、とあしらわれて離れる。こういうときは年の功というのか経験値の差なのか、やはり三倉には敵わない。敵う気もないけど。
テレビをつけて夕飯を食べた。ニュースでは今夜も熱帯夜でしょうと告げている。日暮れのままに部屋の明かりを消していたが、食べ終えてようやく明かりをつけた。途端に虫が寄って来て網戸に貼りつくのを三倉が嫌がる。窓を閉めて冷房を入れた。
← 1
→ 3
「いやー、だめなんだよね、耳かき。綿毛なんかもってのほか。おれウェットだからか出来るだけ綿棒が良くて」
「ウェット?」
分からない話に首を傾げる。
「あ、知らない? 耳垢ってドライとウェットに分かれるって」
「知らないです」
「日本人はドライが多いって話だしね。ええとね、耳垢が湿ってんの。だから普通の耳かきで掃除するより、水分を吸い取るイメージで綿棒使った方がおれの場合はすっきりするんだよね。だからおれは耳掃除は綿棒派。綿毛のほわほわなんか、べたべたしちゃうし」
「へえ。綿棒あったかな……」
探すとどこかで貰った救急キットの中に綿棒が入っていたので、それを渡す。――前に思いついて、つい、「掃除してあげましょうか」と言っていた。
三倉が目を丸くする。
「おれの耳?」
「いや、僕も人の耳掃除したことないのでうまく出来るかわかんないんですけど。ただ母との電話で、よく父の耳掃除をしたと言われて。そういえばそれは僕もちいさいころに見たことがある風景だったなと思い出して」
「してみたくなった?」
「はい」
「じゃあしてもらおうかな」
三倉は嬉しそう、というよりは面白そうな顔をした。興味深い事柄に負ける顔。遠海は床に正座し、三倉がそこに頭を乗せる。向けられた耳にそっと綿棒を差し込んだ。痛くはしたくなかったから慎重に進める。「水分を拭き取るイメージでいいから」と三倉は指示する。
内壁に綿棒の先を当て、すこし擦る。ごそごそとやっていると、黙ってされるままになっていた三倉は不意に「ASMRって知ってる?」と訊いた。
「いえ。なにかの略?」
「えーとね、Autonomous Sensory Meridian Response……合ってんのかな? 若い人には結構浸透してるらしいんだけど」
「訳せません」
「脳が気持ち良くなっちゃう反応、て感じ」
耳から綿棒を抜き、逆側を向くよう示す。恋人とはいえ膝の上に人の頭が乗る感覚には慣れず、動かれるとちょっと落ち着かなかった。
「聴覚や視覚の刺激で、気持ちいいとか、ぞわぞわするけど嫌じゃないとか、そういう感覚のことらしい。ささやき声とか、キーボードのタイピングとか、焚き火の音とか、綿棒擦る音とか」
「ああ」
それでいま思いついたのかと納得した。反対側の耳に綿棒を突っ込まれている三倉は、遠海の膝の上で気持ちよさそうに目を細める。猫なら喉でも鳴りそうだ。
「そういう動画もあるらしいよ」
「綿棒の動画?」
「綿棒には限らないだろうけど。人気なんだって。不眠の夜にいいとか、リラックスするとかさ。……なんか、そういうことをテーマにコラム書こうかなと思って調べはじめたはいいんだけど、これ絶対に性的快感も含むだろと思って書くのはやめた。気持ちいい音って、やっぱりこうどこかに背徳感はあるよな。病みつき、っていうか。食欲でもなんでも、欲求っていうものそもそもが快楽を求める行為だから。さすがにね、週刊誌のコラムだったら書けたかもしんないんだけど」
と三倉は呟く。くすぐるように綿棒を動かすと、彼は鼻から息を吐いて笑った。これも三倉にはそのASMRになるのか、と思いながら綿棒を抜いた。
「ありがと」
「すっきりしました?」
「うん、した。上手だね」
「元々は器用な性質だと思うんです。微妙な力加減が分かるというか。やったことがないだけで」
「おれもしてあげようか」
「綿棒?」
「鴇田さんのASMRになるかな?」
起き上がった三倉は意地悪そうに笑ったが、先ほど片付けかけた耳かきを指差し、「するなら耳掃除がいいです」とリクエストした。
「ああ、いいよ」
三倉の膝の上に今度は遠海が横になる。晒された耳に新品の耳かきが滑り込んできた。「ドライの人の耳垢がおれには不思議」と頭上で三倉は楽しそうだった。さりさりと耳かきで皮膚を掻かれ、遠海も気持ちがよくて目を閉じる。こんな風に誰かに耳掃除をしてもらった経験って実はないのかもしれない。そりゃ全くないわけはないのだろうけど、幼少期、気づけば自分で耳掃除はしていた。
何度か耳かきが細い器官を出入りし、ほわほわと綿毛でくすぐられ、「逆ね」と言われて身体を反転した。三倉の腹側に顔が向く。さっき自分はこれをさせたけど、これって結構な距離だよな、と自覚した。もしなにも着ていなかったらまんま自分は三倉にむしゃぶりつけるような距離。
耳かきが押し込まれ、やさしく掻かれる。気持ちがよくて下腹がむずむずした。仕上げに綿毛の部分でほこほこと耳を払われ、遠海は瞬間的に三倉の腰を掴んだ。
「こら、動くと危ない」
真剣に嗜める口調で三倉は耳かきを抜いたが、遠海はそこから離れなかった。顔を三倉の下腹部に押し付ける。ぐりぐりと鼻先を埋めると、シャワーを浴びて清潔なにおいでいる三倉の、三倉自身のにおいが奥底でした。
「ちょっと、鴇田さん、」
制止を振り切ってなおも三倉の股間に顔を押し付ける。刺激にやわく膨らんでくるのが分かった。「だめだってば」と髪を引っ張られ、鴇田は顔を上げた。
「めし食おうよ。……どうしたの? 甘えたいの?」
「うん」
「お?」
「そりゃ僕だって性欲はあるんですよ。なんかぐらぐらする」
「ぐらぐら」
「くらくら? むらむらかな」
「そりゃ大変だ」
三倉は笑った。でもだから、と言って触れさせてはくれなかった。
「めし食ったら獣になろうよ。きっちり窓閉めて」
「別にいま窓閉めたっていいんですよ」
「せっかく美味そうな魚あるんだし、まずは飲もうよ。鴇田さんが触りたがってるのおれは嬉しいけど、でも腹も減ってるし。おれは強欲だからね。食欲も性欲もどっちも満たしたいんだ」
冷蔵庫から新しいビールを、とあしらわれて離れる。こういうときは年の功というのか経験値の差なのか、やはり三倉には敵わない。敵う気もないけど。
テレビをつけて夕飯を食べた。ニュースでは今夜も熱帯夜でしょうと告げている。日暮れのままに部屋の明かりを消していたが、食べ終えてようやく明かりをつけた。途端に虫が寄って来て網戸に貼りつくのを三倉が嫌がる。窓を閉めて冷房を入れた。
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プロフィール
HN:
粟津原栗子
性別:
非公開
自己紹介:
成人女性に向けたBL小説を書いています。苦手な方と年齢に満たない方は回れ右。
問い合わせ先→kurikoawaduhara★hotmail.co.jp(★を@に変えてください)か、コメント欄にお願いいたします。コメント欄は非公開設定になっています。
****
2022*08*11-21
暑いですね。番外編短編、ちょこっと更新しています。
2021*12*04-2022*03*17
お久しぶりです。短編長編更新。
短編「さきごろのはる」
短編「月の椅子」
短編「みんな嬉しいお菓子の日」
長編「ファンタスティック・ブロウ」
短編「冬の日、林檎真っ赤に熟れて」
2021*08*16-08*19
甘いお菓子のある短編「最善最愛チョコレート」更新。
問い合わせ先→kurikoawaduhara★hotmail.co.jp(★を@に変えてください)か、コメント欄にお願いいたします。コメント欄は非公開設定になっています。
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