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3. 透馬(現在)


 中学以来の友人である柿内の家からは真城の家がよく見える。真城の家の方が若干高台で、そこから平地へとなだらかになる手前に柿内の実家があるのだ。特に二階、柿内の自室から真城の家の表側が見える。巨木に成長した庭木に囲まれて鬱蒼としてはいるが、真城の家は広い。簡単に見つけられる。
 いまそこには白いビニールがかけられている。もうもうと立ち煙をあげて、解体の真っ最中だ。庭木はとっくに根からなぎ倒され、茶けた土が露わになっている。すさまじい破壊力は突き刺す痛みで胸を抉ってくる。
 朝からずっと、柿内の部屋の窓から見ていた。この家には少し前から世話になっている。真城の家の取り壊しが決まって以降、いてもたってもいられずにFへ来たはいいが肝心の宿を考えていなかったから、柿内が変わらず実家暮らしを続けていてくれてほんとうに助かった。
 市内の大型スーパーで生鮮食品の仕入れ担当として働く柿内は、今日は非番だという。窓の外をしきりに気にする透馬とは裏腹に遅くまで寝ていたが、起きて、携帯ゲーム機をいじっている。それも飽きて、趣味であるデジタル一眼レフカメラを取り出し、手入れをはじめた。
 カシャッ、と硬質なシャッター音が自分へ向けられていると気付いて、透馬は柿内の座っているベッドの方角を見た。瞬間にまたシャッター音。
「勝手に撮んな」
「もうそろそろ終わる頃じゃねえの、家の解体」
「……いや、まだ業者が出入りしてる」
「花、しおれちまうぜ」
 部屋の片隅に投げた花束を見て、柿内が言う。
 花は今朝、柿内の勤め先へ出向いて購入してきた。二十四時間とはいかないが早朝から深夜まで営業しているありがたいスーパーの一角、忘れ去られどうでもいいようにしなびた花々が売られているのは昔から変わらない。大体は急な葬式用の白や黄色の菊で、だが春先になればチューリップやカーネーションの切り花も売る。いまは十一月、気の早いクリスマスへ向けてポインセチアの鉢もあったがそれは目的に見合わずやめた。透馬がようやく選び出したのは(というかそれしか選択肢がなかったのだが)うすいピンクのトルコキキョウとカスミソウという、変わり映えしないスタンダードな花束だった。
 この花を家の跡地に手向けてやるつもりだった。こんな花しか用意できなかったが、それぐらいの儀式をしたい。恋と夢の終わりだから。
 花束を見て、瑛佑を思い出した。初対面の瑛佑が抱えていたのも同じ花だったが、色合いは全然ちがう。グリーンとホワイトでまとめられたシンプルな花が、瑛佑という大人の優しさにそれはそぐっていたように思う。
 一昨日、ひどい電話をしたことを後悔している。待っているから、と言ってくれたがどうしてそんなにやさしいのか。嘘をついた透馬を責めなかった。それより前に好きだと言ってくれた、本当かな。ずっと透馬の告白をただ受け入れるだけだった人が自分から「好きだ」と――ばかなことをした。会いたい。
 だがもうそれはしないと決めた。瑛佑のような潔さで恋は出来ない。いまはそれどころじゃなかった。真城の家が、ついに、壊されてしまう。
 時計を見ると午後二時をまわっていた。解体業者は一日で作業を済ませてしまうつもりなのだろうか。これからが分からないが、十一月もこの時間だともう日暮れが迫る。山際だから夕方が早いのだ――出かける支度をはじめる。
 柿内の家から真城の家まで歩いて十分弱。上着を着始めた透馬を見て、柿内も立ち上がった。今日は付き合ってくれる約束だ。


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クリスマスローズ
ああ、やっと透馬くんの現在に戻ってきましたね。


見かけるたびに、何という花だろうと思っていました。クリスマスローズ。

可憐ではあるけれど、「ローズ」という名前を持つには寂しそうで
今の私には、透馬くんのイメージに近いのですが、
恥ずかしそうにかすかに下を向いて咲くあたり、
むしろ、綾のイメージでしょうか?


早く、瑛佑くん、おいで!
Bei 2014/02/12(Wed)12:51:49 編集
Re:Beiさま
お返事遅くなってしまい申し訳ありません。いつもありがとうございます。

>ああ、やっと透馬くんの現在に戻ってきましたね。
>見かけるたびに、何という花だろうと思っていました。クリスマスローズ。
>可憐ではあるけれど、「ローズ」という名前を持つには寂しそうで
>今の私には、透馬くんのイメージに近いのですが、
>恥ずかしそうにかすかに下を向いて咲くあたり、
>むしろ、綾のイメージでしょうか?

第3部の始まりは絶対に花の数を二本にしようと思っていました。また、花言葉もぴったりくるかな、と思い、クリスマスローズです。
いつでも寄り添っていてほしいな、と思って選んだ花です。(と、好みです。笑)
ちなみに「ローズ」とついていますがキンポウゲ科の花だそうです。キンポウゲ科の花はやさしいものが多い気がしています。


>早く、瑛佑くん、おいで!

もうみなさん心待ちにしていることですよね(笑)
瑛佑くんとの再会まで、あとちょっとです。お楽しみに!
コメントありがとうございましたw
【2014/02/13 08:58】
プロフィール
HN:
粟津原栗子
性別:
非公開
自己紹介:
成人女性に向けたBL小説を書いています。苦手な方と年齢に満たない方は回れ右。
問い合わせ先→kurikoawaduhara★hotmail.co.jp(★を@に変えてください)か、コメント欄にお願いいたします。コメント欄は非公開設定になっています。

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