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 待っているから、と言っておいて、待ち続ける気はなかった。きちんと把握しなければ逃し続ける。一通りうなだれきってから首を振って立ち上がり、瑛佑は違うナンバーをコールした。
 三度目の着信音の途中で、新花が『はい』と応答した。
「……透馬、いまそちらに?」
『いえ。一緒ではない、という意味だけれど』
「どこにいるか、知ってます?」
『大方の目星は』
 ひとまずそこで安心した。
「新花さん、以前おれの味方をしてくれると言いましたよね」
『ええ、言ったわ』
「透馬のことなんですが、」
『……そんな気がしてたの。いま、立て込んでいるから。今度はあの子なにをやらかしたの?』
「別れよう、と言われました」
『なにそれ』
 新花は大きくため息をつく。
 なにが立て込んでいるのか。透馬をFに駆り立てるなにかがそちらにあるのだ。
「でもおれはそれを容認してはいないんです。話し合いたいんですが、透馬はこちらにいないと言うし、とにかく帰らないの一点張りです。……透馬がかたく隠しているなにかがなんなのか、知りたいです」
『いまこの場でいい? 会って話す方がいい?』
「いますぐ聞いて状況が変わるなら、いま。変わらないなら、直接お会いしたいです」
『ん、そうね……』電話の向こうで新花はふっと笑った。『冷静で結構だわ。頼りがいがあるわね』
『会いに来れるかしら』
「はい、行きます」
『じゃあそうしましょう』
 新花の方は時間はいつでもいいという話だった。瑛佑の次の休みは明後日だ。翌日の晩、仕事を終えてすぐ特急列車に乗り、F県の新花の元へ向かった。新花は駅まで車で迎えに来てくれていた。
「そういえばどうして別れようなんて言われた?」
 車内にて別れ話の理由を訊かれ、瑛佑は「浮気されました」と答えた。
「――らしいです。おれは現場を見ていないし、透馬の言い分も怪しいので信じてはいませんが。でも透馬は、この通りのろくでなしなので別れようって」
「浮気って、有崎と、ってこと?」
「知っているんですか」
「透馬とも有崎とも付き合いが長いからね。でも私も瑛佑さんと同じで、透馬はそんなことしてないと思う。というか、できっこない」
 実際のところは分かんないけど、と言いつつも新花の口調はきっぱりと歯切れ良かった。
「有崎、いま別の若い男に夢中のはずだし」
 新花の言い方にぎょっとした。
「そんなことまでご存知なんですか」
「大学が一緒でお互い顔を知ってるだけ。アオイの一部じゃ噂になってたのよ、透馬と有崎。それを最近は聞かなくなった上にそういう話を耳にしたの」
 確かに瑛佑の元へやって来た有崎には、あたらしい男がいた。新花の言葉に、確証はなくても正直ほっとした。本人がyesと言っている以上、事実があったのかもしれないのだが。
 なんなら有崎に訊けばいいのか、と考え、首を振った。新花に頼めば可能だろうが、そうまでして確かめても本意と外れる。知りたいのは透馬と有崎の関係よりも、透馬が別れ話を切り出した本当の理由だ。
「それに透馬は、瑛佑さんのことが本当に好きでたまんないのよ。別れようって言うぐらい」
 そうだったとして、そこが理解できない。なにも説明されないまま一方的に宇宙人ぶりを発揮されても困る。透馬の真意をきちんと知りたい。
 ふと、車のライトに照らされてなにか金色のものが映った。スピードに負けじとよく見ればそれは商業施設の看板で、瑛佑がそれを見終える直前には青色に変わり、闇に霞んで見えなくなった。いまの光り方を、瑛佑は過去に見たことがあった。花だ。
 瑛佑の視線の先に気付いていたらしく、新花が「アオイの技術よ」と説明した。
「花と同じ原理で、ああいう広告にもつかってるの」
「目立ちますね」そういえば瑛佑の住んでいる街でも、ちらほらと目にするようになった色合いだ。
「気味が悪いわ」
 ばっさりと言い捨てた新花になにも返せなかった。
「あの色はみんな嫌ってる。嫌ってるけど、青と黄色なんて補色、強烈だから脳に残っちゃうの。本当の青い花の美しさを青井は信じてないのよ」
 確かに人工物ならではの毒々しさを持つ色だとは思っていた。それにしても新花の言葉の迫力は凄まじかった。
「透馬も、嫌いなんですか」
「アオイのあの色の花? 嫌いに決まってる」
「じゃあ、あれはなんだったんでしょうね。透馬が置いてったスケッチブックに、青い花の押し花が挟んであって」
「嘘、スケッチブック?」
 ミラー越しに新花と目が合った。
「でも透馬の描いた絵ではなさそうなんです。サインが」
「もしかして、真城?」
 その通りだった。瑛佑は頷く。実物は鞄に押し込んであって、いまそれは後部座席に乗っている、と新花に話す。
「後で見せて。多分、その花は本物の青い花なんだわ」新花は言い切った。
「真城が大事にしてた花を、透馬が持ってるんだ」
「……よく、分からないですが、」
「着いたらちゃんと話す」
 あと五分くらいで着く、と言う。
「あの、透馬は、いまどこに」
「帰って来てはいないわ。もっとも、帰っては来れないけれどね。多分、友達のところに」
 新花の向かった先は真城家ではなく、別の場所にある一軒家だった。真城の家とはまた趣の違う、ごく一般的な二階建て木造住宅。「別宅」と新花が笑う。
「透馬から聞いたかしら。旦那の家よ」
 家の中から髭面の、やや頭髪の薄い髭面の男が出てきて「いらっしゃい」と頭を下げた。まなざしのやわらかな、純朴そうな男だった。
「今夜はここに泊まっていって」
「ありがとうございます。お世話になります」
「さて、……どう話そうかな、」
 通された居間で、新花は視線を左上にあげて思考をめぐらす。家の主人がコーヒーを持ってきてくれたのを機に、ようやく口をひらいた。
「真城の家は取り壊しが決まってね」
 寝耳に水だった。まったく知らぬ話に、瑛佑は耳を疑った。「え?」
「あの家は青井の持家でね。青井がそうと決めたから、取り壊し。明日には業者が入って、あそこは更地になるそうよ」
「そんなに簡単に?」
「古い家だしね……」
 透馬と過ごした三日間を想う。ここで透馬が育ったのか、と感動し、庭で焼き肉をして無茶なセックスもした家。あの古く懐かしい家が取り壊しだなんて。
 新花はコーヒーをこくりと飲んで、息を吐いた。
「あのね瑛佑さん。透馬はね、ずーっとずっと好きな人がいて、ほしいものがあって、でもそれをことごとく阻まれている可哀想な子なのよ」
 すきな人、ほしいもの。それは瑛佑ではなくおそらくは有崎でもない別の誰かだ。
 だが瑛佑の心はもう、透馬を好きでいる。笑顔が見たいと思っている。透馬の嘘を、本心を、誰よりも知りたいと望んでいる。


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明けましておめでとうございます
 昨年は不義理にしていることも多く、申し訳ありませんでした。
 元気いっぱいに帰ってきましたので、またお邪魔したいと思います(いや、邪魔はしません、大人しくしてます…)。

 今年もよろしくお願いいたします!
如月久美子 URL 2014/01/01(Wed)08:55:12 編集
Re:如月久美子さま
> 昨年は不義理にしていることも多く、申し訳ありませんでした。
> 元気いっぱいに帰ってきましたので、またお邪魔したいと思います(いや、邪魔はしません、大人しくしてます…)。
>
> 今年もよろしくお願いいたします!

ご丁寧にありがとうございます!心配しましたよー!よかったですよー!!!
私こそなんのアクションも起こさない1年だったような気がします。また邪魔をしないようにお邪魔しますのでよろしくお願いいたします。(ニホンゴムズカシイネ!)

よい1年になりますよう。


栗子
【2014/01/01 12:49】
佳子さま(拍手コメント)
いつもありがとうございます。
そしてあけましておめでとうございます。

瑛佑くんに関してファンがたくさん増えてとても嬉しいです。芯の強い人なので、透馬くんから絶対に逃げないということに透馬くんは早く気付いてほしいものですが…
第2部以降もお付き合いくださいね。
拍手・コメントありがとうございました!
粟津原栗子 2014/01/01(Wed)08:59:11 編集
ellyさま(拍手コメント)
あけましておめでとうございます。笑

第1部はかなりせつない終わり方になってしまいましたが、ひとまずこれでおしまいです。透馬くんがかたくなに隠している何か、を第2部では明らかにしていく予定です。
瑛佑くん、かっこういいですよね!(笑)こんな時でも揺るがず、本当に大人だなと思います。冷静さは時に恋愛のハードルですが、そことのバランスも取れている人なので、余計に頼もしいと言うか。どうか透馬くんをお願いします、という気持ちでいます。

こちらこそ今年はたくさんお世話になりました。また本年もよろしくお願いします!
粟津原栗子 2014/01/01(Wed)09:07:01 編集
ねこさま(拍手コメント)
いつもありがとうございますw

第2部、まだ手直しが入っていなくて、公開できる状態ではありませんがいずれまた。今月15日ぐらいをめどにしています。お待ちくださいね。
今以上に地味なんですが、あの、遊びにいらしてください(笑)
拍手・コメントありがとうございました!
粟津原栗子 2014/01/01(Wed)09:09:59 編集
みずきさま(拍手コメント)
あけましておめでとうございます!
そしてなんとパソコンが…!だ、大丈夫でしょうか。そんな中わざわざ来てくださって恐縮です(笑)

先の展開を読まれていらっしゃいましたかー
やっぱり、パズルのピースがはまる二人とは言っても、こんなにかみ合ってしまったら怖いと思うんです、特に透馬くんは。過去になにがあったのかはこれからですが、「大人」な瑛ちゃん(笑)にはしっかりとしっぽ掴んでいてほしいと思います。走れ!って感じです。

サーバーが重たくてうまくメールを送れません。お返事遅くなっていますがそのうちお返事いたしますので、どうかお待ちください。
拍手・コメントありがとうございました!
粟津原栗子 2014/01/01(Wed)19:15:43 編集
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プロフィール
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粟津原栗子
性別:
非公開
自己紹介:
成人女性に向けたBL小説を書いています。苦手な方と年齢に満たない方は回れ右。
問い合わせ先→kurikoawaduhara★hotmail.co.jp(★を@に変えてください)か、コメント欄にお願いいたします。コメント欄は非公開設定になっています。

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