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付き合いはじめの一か月は無難に、というか今まで通りに日が過ぎた。透馬が瑛佑の部屋へやって来て、夕飯を作ってくれたり、DVDを見たりゲームをしたり、泊まっていったりする。だがそれはそれまでと同じ範疇で、会う頻度が特別多くなったわけでもなかった。
メールはたくさんした。時間が許せば、電話もした。これも今までと変わらず、主に透馬が一方的に喋り瑛佑が聞いている図式だ。ただ、電話の最後に透馬の言う「好きだよ」にはなんとも答え難く、「うん」としか頷けないでいるのが現状だ。
誰かに報告するほどのことでもないと思っていたが、高坂には話した。ちょうど時間が合ってどこか飲みに行くかという話になり、どうせならうちに来いよと言われ、高坂の自宅で飲んだ。夏人は仕事でいなかった。「いい人できたか」の裏のない聞き方にそこで首を横に振るのも不自然な気がして、話した。
透馬と付き合っている、と言うと、高坂は面食らっていた。「そりゃおまえ」で一度絶句し、手元に残っていたアイルランドビールを一気に飲み干して、「良かった、な?」と疑問形で瑛佑を覗き込んだ。
「驚かせましたね」
「だっておまえ、そっちもいける人間だと思わなかったから……ってまあ、そっか。そうだよな、その辺りなんていうか、リベラルだったな」
「おれもこうなるとは思いませんでした」
「好きなの?」
「……好きか、と訊かれるとまだ、」
瑛佑の歯切れ悪い答えに、高坂は「押し切られたか」と天井を仰いだ。
「そういうわけではないですよ」
「あんまり……勧めないけどな。おれだったら、おまえを好きになった時点で絶対に辛い、から諦める」
「どうしてです?」
「そりゃ女いけるからだよ。毎日どこの女にかっさらわれるか分かんないのに想い続けてるなんて、発狂して死ぬ方が先だよ」
そこまで言うだろうか、と驚いた。恋など、何年もしていないから感覚が鈍くなっているのかもしれなかった。男が女が、というよりも透馬と、なんだと思っている。透馬個人のことを嫌とは思わない。傍にいてくつろいで笑うならそれがいい。
「夏人がヘテロだったら、諦めました?」
その質問にも高坂は「諦める」と答えた。きっぱりとした口調がやけに痛々しい。高坂と夏人の経緯をよくは知らないが、高坂も後ろ向きな人間なんだな、とビールを舐めながら思った。
「――てか、男同士でなにをどうやんのか、わかってる?」
「なにをどう、とは」
「まさか青井透馬だって、お手て繋いで寝るだけでしあわせです、とは思っちゃいないだろ」
高坂の台詞に、思わずグラスを口元に運ぶ手が止まった。実のところあまり考えていなかった。透馬をどう笑わせるかに腐心しすぎていて。
高坂に言われると急に現実味を帯びる。男同士のやり方、セオリーがあるかどうか知らないが、知識としてはぼんやりと知っている。聞いた話で、ぐらいだ。それを透馬と自分が実践するのだと思うとつい考え込んでしまう。嫌悪感はないのだけど、戸惑いやためらいはきっとある。
高坂が「悪い、いじめすぎた」と黙考を続けている瑛佑に笑った。
「ま、カップルの数だけかたちややり方があるんだし。しあわせにやっといてよ」
そう結んで、ふと玄関先に目をやる。ほぼ同時に夏人が帰宅した。腕時計を確認すると、いつの間にか午前一時をまわっていた。
「夏、夏、」高坂が途端に意地悪い顔で夏人を呼び寄せた。「瑛佑、いい人出来たらしいぞ。しかも相手がさ。聞いてやれよ」
「うん、本人から聞いた」至って静かに夏人が答えた。思わず瑛佑も顔を上げる。
「あれ、そうなのか。本人って、」
「透馬くん」
「ほんとだ、本人だ」高坂が頷く。そう言われると、恥ずかしい。
「この間、夜だったな。店に来たんだ。客の少ない夜で余裕があったから、話をした」
「いつの間に」高坂が答えたが、心の中で瑛佑も同じ相槌を打っていた。
「手料理で意中の人を落とすのはアリですか、って真面目な顔で訊かれて、うちでやってる料理教室の案内をしたよ。彼、料理するんだよな。面白かったよ」
「面白かった、って?」
「こんな気合いれてめし作ろう、ってのははじめてだって。浮かれてんだか悲しいんだか分かんなくて、ここ痛い、もたないですって顔しかめてた。その様子がさ、微笑ましかったっていうか」
夏人は胸の真ん中をとんと突いて瑛佑を見た。他人の目から見た透馬を聞かされると、ゆらゆらと心許ない気持ちになった。高坂が「ふうん」とにやけた顔を瑛佑に向ける。
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暑いですね。番外編短編、ちょこっと更新しています。
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お久しぶりです。短編長編更新。
短編「さきごろのはる」
短編「月の椅子」
短編「みんな嬉しいお菓子の日」
長編「ファンタスティック・ブロウ」
短編「冬の日、林檎真っ赤に熟れて」
2021*08*16-08*19
甘いお菓子のある短編「最善最愛チョコレート」更新。
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