忍者ブログ
ADMIN]  [WRITE
成人女性を対象とした自作小説を置いています。
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


 暁登の実家までは、暁登の車で向かった。中古か新車かわからないが、少なくとも樹生の知らない車だった。もちろん暁登が運転した。樹生は助手席に座り、夜の街を眺めた。商店やビルや家々の明かりが窓の外に流れていく。残像ばかりちらついた。
 そういえば暁登の家族構成を知らないことに気付く。訊ねると、暁登はふっと笑った。あざ笑った、という表現が正しいような笑みだ。
「……なに、」
「あんたにようやく訊かれたな、と思っただけ。おれに関わることに興味がないんだと思ってたから」
 そんなことはない、と思ったが、確かにこれまで訊いたことはなかった。本人が語らないなら聞かなくていい、と思っていた。いままでは。
「……いや、いきなり実家ってのに、ちょっと心構えをしておきたいから」
 暁登は「まあそうだよな」と頷き、家族の事を話しだした。
「ばあちゃんと、両親と、姉ちゃんと姉ちゃんの旦那と、妹。おれ入れて七人だな」
 その数には驚く。姉がいることは知っていたが、核家族なのだと思い込んでいた。
「――お姉さんの旦那さんってのは、婿養子ってこと?」
「そう。おれが家には残りたくないと言ったら、姉貴が、なら婿取るって言ってくれた。有言実行の所が凄いよな」
「……」
「ばあちゃんは今年で九十歳、両親はまだ定年前で働いてる。母親は看護師で、父親は車の修理ってか、ロードサービスの仕事をしてる。姉貴と義兄さんは職場結婚。妹はいま高校三年生。進学したいって言ってるから、受験生だよ」
 慌ただしいんだ、と暁登は言う。だがその表情は柔らかかった。その表情を見て、樹生はしようもない焦燥感に駆られた。
「家が狭くてね」
 暁登のその台詞は、家に到着したときにはっきりと判明した。「どうぞ」と樹生を迎えてくれた暁登の母親の勧めで家の中に入る。リビングルームには暁登の家族が勢揃いしていて驚いたが、カウチに寝そべっていた暁登の姉の腹が大きくて、二重に驚いた。
「すみませんね、こんな格好でお客さんをお出迎えして」と謝ったのは暁登の義兄だ。
「――臨月、ですか」
「ええ。予定ならもう生まれてるんです」
「えっ」
 寝そべる暁登の姉は「なかなかお腹から出てこないんですよー」とのんびり言い、暁登の母親が「初産は遅れるって言うからね」と言った。
「あなたせっかち?」と言われて意味が分からず、ひとまずせっかちではないので「いいえ」と答えた。
「残念ね。せっかちな人にお腹触ってもらうと早く生まれるって言うのにね」
 面食らいながらも、さあさあどうぞどうぞと勧められるがままに座卓に座る。暁登も隣に座した。こっそりと「家が狭いって、家族が増えるからか?」と訊くと、暁登は「うん」と頷いた。
「部屋がないんだ」
「だからひとり暮らし?」
「それだけじゃないけどね。一度、ちゃんと外で、ひとりで暮らしてみたかった」
 ぼそぼそと話していると、食卓に料理が並び始めた。「毎月の月初めは中華の日でね、今日は餃子」と樹生の隣に座った暁登の父親が説明してくれる。家庭内で包んだものを、ホットプレートで焼きながら食べるらしい。暁登の父親が「酒は飲めますか」とビールを片手に言うので、暁登を窺う。暁登は「泊まってけばいいよ。明日送ってくから」と言うので、グラスを受け取った。

→ 76

← 74


拍手[11回]

PR
この記事にコメントする
お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
Beiさま(拍手コメント)
おはようございます。
暁登の家族、ようやく登場です。暁登がどんな家庭で育ったかを考えた時、ある意味「樹生とは真逆」を想像しました。おおらかで明るい家族です。温かみに触れて来たからこその繊細な性格というのが、塩谷暁登です。
この家族のことについては、もう少し続きます。本日の更新もどうぞお楽しみに。
拍手・コメント、ありがとうございました。
粟津原栗子 2018/06/29(Fri)06:34:10 編集
«秘密 76]  [HOME]  [秘密 74»
プロフィール
HN:
粟津原栗子
性別:
非公開
自己紹介:
成人女性に向けたBL小説を書いています。苦手な方と年齢に満たない方は回れ右。
問い合わせ先→kurikoawaduhara★hotmail.co.jp(★を@に変えてください)か、コメント欄にお願いいたします。コメント欄は非公開設定になっています。

****
2022*08*11-21
暑いですね。番外編短編、ちょこっと更新しています。

2021*12*04-2022*03*17
お久しぶりです。短編長編更新。
短編「さきごろのはる」
短編「月の椅子」
短編「みんな嬉しいお菓子の日」
長編「ファンタスティック・ブロウ」
短編「冬の日、林檎真っ赤に熟れて」

2021*08*16-08*19
甘いお菓子のある短編「最善最愛チョコレート」更新。
カウンター
カレンダー
04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
フリーエリア
最新コメント
最新記事
フリーエリア
ブログ内検索
忍者ブログ [PR]

Template by wolke4/Photo by 0501