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 暁登の実家までは、暁登の車で向かった。中古か新車かわからないが、少なくとも樹生の知らない車だった。もちろん暁登が運転した。樹生は助手席に座り、夜の街を眺めた。商店やビルや家々の明かりが窓の外に流れていく。残像ばかりちらついた。
 そういえば暁登の家族構成を知らないことに気付く。訊ねると、暁登はふっと笑った。あざ笑った、という表現が正しいような笑みだ。
「……なに、」
「あんたにようやく訊かれたな、と思っただけ。おれに関わることに興味がないんだと思ってたから」
 そんなことはない、と思ったが、確かにこれまで訊いたことはなかった。本人が語らないなら聞かなくていい、と思っていた。いままでは。
「……いや、いきなり実家ってのに、ちょっと心構えをしておきたいから」
 暁登は「まあそうだよな」と頷き、家族の事を話しだした。
「ばあちゃんと、両親と、姉ちゃんと姉ちゃんの旦那と、妹。おれ入れて七人だな」
 その数には驚く。姉がいることは知っていたが、核家族なのだと思い込んでいた。
「――お姉さんの旦那さんってのは、婿養子ってこと?」
「そう。おれが家には残りたくないと言ったら、姉貴が、なら婿取るって言ってくれた。有言実行の所が凄いよな」
「……」
「ばあちゃんは今年で九十歳、両親はまだ定年前で働いてる。母親は看護師で、父親は車の修理ってか、ロードサービスの仕事をしてる。姉貴と義兄さんは職場結婚。妹はいま高校三年生。進学したいって言ってるから、受験生だよ」
 慌ただしいんだ、と暁登は言う。だがその表情は柔らかかった。その表情を見て、樹生はしようもない焦燥感に駆られた。
「家が狭くてね」
 暁登のその台詞は、家に到着したときにはっきりと判明した。「どうぞ」と樹生を迎えてくれた暁登の母親の勧めで家の中に入る。リビングルームには暁登の家族が勢揃いしていて驚いたが、カウチに寝そべっていた暁登の姉の腹が大きくて、二重に驚いた。
「すみませんね、こんな格好でお客さんをお出迎えして」と謝ったのは暁登の義兄だ。
「――臨月、ですか」
「ええ。予定ならもう生まれてるんです」
「えっ」
 寝そべる暁登の姉は「なかなかお腹から出てこないんですよー」とのんびり言い、暁登の母親が「初産は遅れるって言うからね」と言った。
「あなたせっかち?」と言われて意味が分からず、ひとまずせっかちではないので「いいえ」と答えた。
「残念ね。せっかちな人にお腹触ってもらうと早く生まれるって言うのにね」
 面食らいながらも、さあさあどうぞどうぞと勧められるがままに座卓に座る。暁登も隣に座した。こっそりと「家が狭いって、家族が増えるからか?」と訊くと、暁登は「うん」と頷いた。
「部屋がないんだ」
「だからひとり暮らし?」
「それだけじゃないけどね。一度、ちゃんと外で、ひとりで暮らしてみたかった」
 ぼそぼそと話していると、食卓に料理が並び始めた。「毎月の月初めは中華の日でね、今日は餃子」と樹生の隣に座った暁登の父親が説明してくれる。家庭内で包んだものを、ホットプレートで焼きながら食べるらしい。暁登の父親が「酒は飲めますか」とビールを片手に言うので、暁登を窺う。暁登は「泊まってけばいいよ。明日送ってくから」と言うので、グラスを受け取った。

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Beiさま(拍手コメント)
おはようございます。
暁登の家族、ようやく登場です。暁登がどんな家庭で育ったかを考えた時、ある意味「樹生とは真逆」を想像しました。おおらかで明るい家族です。温かみに触れて来たからこその繊細な性格というのが、塩谷暁登です。
この家族のことについては、もう少し続きます。本日の更新もどうぞお楽しみに。
拍手・コメント、ありがとうございました。
粟津原栗子 2018/06/29(Fri)06:34:10 編集
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粟津原栗子
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自己紹介:
成人女性に向けたBL小説を書いています。苦手な方と年齢に満たない方は回れ右。
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