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成人女性を対象とした自作小説を置いています。
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 光線は次第に春に傾くが、まだ冬が冬でいたいと駄々をこねて泣いている、そんな風の吹き方のする夜に電話があった。これには樹生の方からも連絡を取ろうとしていたから、こういうタイミングってあるもんだな、と思う。
 最後に会ったのは十一月で、声を聞いたのは先月の初旬。これだけ長いこと姉となんの連絡も取らない、という日々はいままでにはなかった。
「茉莉、」という発音さえ久しぶりで、なんだか噛み締めるような響きになる。姉もそれを聞いて思うことがあったようで、『あんたなんて声出すのよ』と呆れながらも身内の気安さで答えた。
『そんなに淋しそうな声出さないでよ。何かあった?』
「ペア解消に陥ってるからな」
『え? 一緒に暮らしてるかわいい子と?』
「うん。喧嘩した」
 するすると話をする弟のことが珍しいらしい。姉はしばらく黙ったが、ややあって『ばかね』と言った。
『そんなに好きならさっさと孕ませて結婚すれば?』
「うーん、そうなってくれると話は早いけどね。そうもいかないから」
『なに、あんたのセックスが下手でセックスレスにでもなってるの、』
「うるせ」
 くだらない言い合いでくだらなく笑う。その親しい感覚も久しぶりだった。
『色々と訊きたいことあるけど直接会って聞くわ』と姉は言う。
『三月の一週目の日曜日、空いてない?』
「えーと待って、シフト見る」
 樹生は通勤用の鞄に押し込んだままになっているシフト表のコピーを取り出す。日付を確認すると、その日は休みになっていた。
「OK、空いてる。いつもの墓参り?」
『それもしたいけどね。冬の間、全然行ってないから』
「茉莉、行ってなかったんだ」
『あんた行った?』
「いや、全然」
 母さんが淋しがるわ、と茉莉は言った。樹生も、そうだな、と返す。
『車出してほしいの。ドライブしましょう』
「――Kまで?」
『そうね、Kへ』
 Kと言えば「あの男」の居場所だと茉莉が言っていた土地だ。いよいよ復讐に向かってことを起こすのか。おれはどうしたらいいんだろうなとぼんやりと考えたが、どうも思考が鈍る。
 だが姉は『お茶しましょ』と言った。
『パンとコーヒーとカレーが美味しいっていう有名なカフェがあるのよ。そこに行ってみたくてね。でもKってまあまあ遠いじゃない。あんたに連れてってもらおうと思って』
「え?」
『何よ』
「いや、……」
 裏も表も何もない台詞に、面食らった。しばらく考えて、「いまKまでの道って開いてんのかな?」と、本当に訊きたいことからずれた発言をする。
『開いてる?』
「あっちって雪降るだろ、ここより。道路が開いてるのかなと思って」
『知らない。でも雪道ぐらい平気でしょ、郵便屋さんは』
「んー、まあ」
『カフェも冬季閉鎖じゃないから、ってことはどうやってだか人が来るんでしょ。じゃあ、そういうことでよろしく』
 いつも待ち合わせる駅前に朝八時に集合、という話でまとまって、電話は切れた。


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プロフィール
HN:
粟津原栗子
性別:
非公開
自己紹介:
成人女性に向けたBL小説を書いています。苦手な方と年齢に満たない方は回れ右。
問い合わせ先→kurikoawaduhara★hotmail.co.jp(★を@に変えてください)か、コメント欄にお願いいたします。コメント欄は非公開設定になっています。

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