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「したかった? その、昔の婚約者さんと?」
「うん。おれは家族が欲しかったから」
自分だけの家族、自分だけのもの。樹生自身が作り出した、樹生を癒してくれる、樹生の居場所だ。それにとても憧れていて、手にしたいと渇望していた。
そしてそれは水尾とでしか作れないと思い込んでもいた。だからそこ婚約を解消せねばならなかったときは、心から絶望して、でもそれが自分と言う人間の運なのだと、どこか醒めた気持ちで思っていた。
そういうある種の諦めの良さがもしかしたら水尾との仲をここまで遠くしたのではないかと、今、思い至る。
同僚は静かに樹生の言葉を待っている。いい態度だなと思う。仕事では持ち前のうっかりを発してそれのカバーに時間をかける事があるのだが、一家の主としてはいい資質を持っていそうだと思った。不意に早の顔が浮かび、その隣で怖い顔をしていた、――けれどそれは見た目の話で、実はおおらかに微笑んでいた優しい人、の顔が浮かんだ。あれこそ、と思う。
あれこそ、樹生が心から欲しいと思った他者との関係だった。
「でも、今思えば、『家族』ってのに幻想があったのかも」
「幻想」
「うん。『家族』がいればなんでも出来て、普通で、当たり前で、あったかくて、淋しくなくなるんだと思ってた」
「岩永さん、淋しいんだ?」
「おれは極度の淋しがりだよ。図体がでかいから、あんまりそう見えないみたいだけど」
同僚は「そうだったんだ」と笑った。
「誰かといても淋しいもんは淋しいし、むしろ感情のぶつかり合いは面倒臭いし」
「うん、分かるな」
「……でも、だからってひとりがいいってのは、やっぱりどうしても思えないんだ」
「うん、」
「ひとりは嫌だな……」
もうあの雨の日のような、唐突な別れと猛烈な孤独感は味わいたくない。水尾との別れを決意した時の、心の中に大穴が空いたような虚ろで理不尽なやるせなさも嫌だ。
暁登と再会した日の、暁登の頼りなく丸まって震える背中の強烈な切なさ、滲み出る淋しさ。そんなのも感じたくはない。出来ることならそれは自分の力で温め、甘やかし、守りたい。そう思う。
暁登に会いたい。顔が見たい。目を覗き込みたい。抱きしめたい。肌が恋しい。声が聞きたい。
「ばか」でもなんでも、いつもの呆れた口調で、でも笑って欲しい。
不意に同僚が「おれ、一度離婚してるんだよね」と言うので、樹生は驚いた。
「え、バツイチってこと?」
「そ。若気の至りかなあ、付き合ってた彼女に子どもが出来ちゃったから慌ててデキ婚したんだけど、結局その子どもは流れちゃってね。籍入れたけどぜーんぜんうまくいかなくなってしまいにはおれといるとプレッシャーなのかなんなのか過呼吸起こすようになっちゃって。若かったしね。金もなかった。あっさり離婚」
「……知らなかった、」
「十代の話だもん。まだこの会社じゃなかったし」
同僚はひとしきり苦笑いをしてから、「しばらくひとりでいいかな、って思ったりはしたんだけど」と穏やかに話す。
「やっぱり結局は誰かの傍にいたくなった。あれ、なんだろうな。突然やって来る人恋しさ」
「……うん、」
「だから今、それが叶って、おれはハッピー。そのうち関係は変わるかもしれないけど、その時また考えるんだ」
「そか」
「うん」
樹生はしばらく口元に手を当てて思案していたが、やがて立ち上がる。
「帰るわ。ありがとう」
そう言うと、同僚は「うん」と手をひらひら振って樹生を見送った。
→ 51
← 49
「うん。おれは家族が欲しかったから」
自分だけの家族、自分だけのもの。樹生自身が作り出した、樹生を癒してくれる、樹生の居場所だ。それにとても憧れていて、手にしたいと渇望していた。
そしてそれは水尾とでしか作れないと思い込んでもいた。だからそこ婚約を解消せねばならなかったときは、心から絶望して、でもそれが自分と言う人間の運なのだと、どこか醒めた気持ちで思っていた。
そういうある種の諦めの良さがもしかしたら水尾との仲をここまで遠くしたのではないかと、今、思い至る。
同僚は静かに樹生の言葉を待っている。いい態度だなと思う。仕事では持ち前のうっかりを発してそれのカバーに時間をかける事があるのだが、一家の主としてはいい資質を持っていそうだと思った。不意に早の顔が浮かび、その隣で怖い顔をしていた、――けれどそれは見た目の話で、実はおおらかに微笑んでいた優しい人、の顔が浮かんだ。あれこそ、と思う。
あれこそ、樹生が心から欲しいと思った他者との関係だった。
「でも、今思えば、『家族』ってのに幻想があったのかも」
「幻想」
「うん。『家族』がいればなんでも出来て、普通で、当たり前で、あったかくて、淋しくなくなるんだと思ってた」
「岩永さん、淋しいんだ?」
「おれは極度の淋しがりだよ。図体がでかいから、あんまりそう見えないみたいだけど」
同僚は「そうだったんだ」と笑った。
「誰かといても淋しいもんは淋しいし、むしろ感情のぶつかり合いは面倒臭いし」
「うん、分かるな」
「……でも、だからってひとりがいいってのは、やっぱりどうしても思えないんだ」
「うん、」
「ひとりは嫌だな……」
もうあの雨の日のような、唐突な別れと猛烈な孤独感は味わいたくない。水尾との別れを決意した時の、心の中に大穴が空いたような虚ろで理不尽なやるせなさも嫌だ。
暁登と再会した日の、暁登の頼りなく丸まって震える背中の強烈な切なさ、滲み出る淋しさ。そんなのも感じたくはない。出来ることならそれは自分の力で温め、甘やかし、守りたい。そう思う。
暁登に会いたい。顔が見たい。目を覗き込みたい。抱きしめたい。肌が恋しい。声が聞きたい。
「ばか」でもなんでも、いつもの呆れた口調で、でも笑って欲しい。
不意に同僚が「おれ、一度離婚してるんだよね」と言うので、樹生は驚いた。
「え、バツイチってこと?」
「そ。若気の至りかなあ、付き合ってた彼女に子どもが出来ちゃったから慌ててデキ婚したんだけど、結局その子どもは流れちゃってね。籍入れたけどぜーんぜんうまくいかなくなってしまいにはおれといるとプレッシャーなのかなんなのか過呼吸起こすようになっちゃって。若かったしね。金もなかった。あっさり離婚」
「……知らなかった、」
「十代の話だもん。まだこの会社じゃなかったし」
同僚はひとしきり苦笑いをしてから、「しばらくひとりでいいかな、って思ったりはしたんだけど」と穏やかに話す。
「やっぱり結局は誰かの傍にいたくなった。あれ、なんだろうな。突然やって来る人恋しさ」
「……うん、」
「だから今、それが叶って、おれはハッピー。そのうち関係は変わるかもしれないけど、その時また考えるんだ」
「そか」
「うん」
樹生はしばらく口元に手を当てて思案していたが、やがて立ち上がる。
「帰るわ。ありがとう」
そう言うと、同僚は「うん」と手をひらひら振って樹生を見送った。
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プロフィール
HN:
粟津原栗子
性別:
非公開
自己紹介:
成人女性に向けたBL小説を書いています。苦手な方と年齢に満たない方は回れ右。
問い合わせ先→kurikoawaduhara★hotmail.co.jp(★を@に変えてください)か、コメント欄にお願いいたします。コメント欄は非公開設定になっています。
****
2022*08*11-21
暑いですね。番外編短編、ちょこっと更新しています。
2021*12*04-2022*03*17
お久しぶりです。短編長編更新。
短編「さきごろのはる」
短編「月の椅子」
短編「みんな嬉しいお菓子の日」
長編「ファンタスティック・ブロウ」
短編「冬の日、林檎真っ赤に熟れて」
2021*08*16-08*19
甘いお菓子のある短編「最善最愛チョコレート」更新。
問い合わせ先→kurikoawaduhara★hotmail.co.jp(★を@に変えてください)か、コメント欄にお願いいたします。コメント欄は非公開設定になっています。
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暑いですね。番外編短編、ちょこっと更新しています。
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