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成人女性を対象とした自作小説を置いています。
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「なんでこんなのしようと思ったんだ」
 息を弾ませながらトーマに聞いた。
「ん? なんとなくです」
「なんとなくで思いつくか」
「小学生の頃さあ、やらなかったんですよね、こういうの。送迎付きで超真面目に学校通ってましたから。誰かと遊びながら歩くの、してみたかった」
「……そう」
 トーマが社長子息だという事実を思い出した。学校もそれなりの私立校に通っていたのだろう。
「ちょっと恥ずかしかったですね。付き合わせて、すいませんでした」
 言いだしっぺの癖にそう笑って、また歩き出した。道はそっちじゃなくてこっち、と言いかけたところに電子音が響いた。トーマが尻のポケットから携帯電話を取り出す。分かりやすい音で、電話が鳴っていた。
 ディスプレイを見てトーマは顔をしかめた。ちょっとすいません、と手をあげてジェスチャーし瑛佑から一歩離れる。気にしている風なので瑛佑は後ろを向いた。そちらに郵便局のポストがあったので、表示を読んだ。
 離れてもこの距離なので、声は聞こえる。トーマは不機嫌そうに「うん、うん」と頷いて、二分で電話を切った。「ごめんおれ行かなきゃならなくなりました」と言った。
「呼び出し、喰らいました」
「仕事?」訊いてはみたが、その可能性は薄いな、と思った。電話口で話す声は砕けており、敬語は一言もつかわなかった。
 瑛佑に、トーマは首を横に振った。
「……みたいなのです」
 昨夜、常夜灯の下で瑛佑を待っていた時と同じ顔をしていた。
「そうか」
「あの、楽しかったんですよ。めしと、宿と、あと遊んでくれて、すげえ楽しかったし嬉しかった」
 必死に言われてなんだか困った。そんなに力いっぱい「楽しかった」を強調しなくても。確かに普段やらない遊びは夢中になれたが、夏休み終了後の子どものようには、興奮は残らない。
 また会えばいいのに、と苦笑した。
「レストランも行きたかったです」
「また次な。今度はちゃんと予約しておくから」
 あらかじめ電話をくれたらサービス出来るから、と言っていた店のオーナーの台詞を思い出す。
「そんな顔するほどのことじゃないだろう」
「――うん、次は絶対。あ、メルアド、」
「秀実に聞いておれからアドレス送るよ。それでいいか」急いでいる風だったので、そう言った。
「うーん、ヒデくん」困った顔の後に、でも笑った。「ま、ヒデくんに気まずい思いしてるんじゃないしね、問題ないです。あの、絶対ですよ」
「分かったから」
「絶対、ぜったいですよ。また遊びましょう、ね」
 そう言ってトーマは手を振り、いまさっき遊びながらのぼった階段を駆け下りてゆく。あれだけ散々念を押しておいて、振り返らなかった。
 不思議な男だと思った。また遊ぼう、の台詞で瑛佑は中学校時代の秀実を思い出した。いまみたいに秀実も、別れ際には必ず「また遊ぼう」と言った。淋しがり屋だから、次の約束が欲しかったのだ。



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粟津原栗子
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自己紹介:
成人女性に向けたBL小説を書いています。苦手な方と年齢に満たない方は回れ右。
問い合わせ先→kurikoawaduhara★hotmail.co.jp(★を@に変えてください)か、コメント欄にお願いいたします。コメント欄は非公開設定になっています。

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