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成人女性を対象とした自作小説を置いています。
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 夕暮れがだいぶ早くなっている。夕方、まだ早い時間ではあるけれど町並みが暗闇に沈みかけ、信号機や外灯のライトが目にまぶしいと感じる。次第に上昇してゆくゴンドラ内の、窓際に寄ってそれをずっと見ていた。なんにもない町。特に高い建築物があるわけではなく、どこにでもある家々が連なり、たまに借地の畑があいだに入る。どんよりと広がる雲は一日中そうで、空さえも平々凡々としている。
「この遊園地開園直後の頃はよく来たよな」と暁永が綾に言った。振り向くと、向かいに腰かけてやはり外側を見ていた綾が暁永を見ないまま頷いた。
「ここ、いつからあった?」
「おれと綾が中学の頃だっけ、出来たの」
 やはり無言で綾が頷く。
「さっき二十周年とかいう張り紙見たよ」
二人だけで会話をしているのがなんだか悔しくて、積極的に口を出した。暁永が「そうそうそんくらい」と笑う。
「子どもだけで行っちゃいけないって学校側がうるさくてさ。でも内緒で、二人で行った。あん時も綾は絶叫系がだめで」
「違うさ。おまえが無理やり乗らせるからあれでだめになったんだ」
 ようやく口を挟んだ綾は、半笑いしていた。
「そうだっけ」
「そうだよ」
 がこん、と音がしてちょうど真上までやって来た。あとは降りてゆくだけだ。今度は反対側の景色が見たくて、綾のいる座席へ寄った。
「――思い出した、あの時も観覧車だけはおまえ喜んだんだ」
 暁永が嬉しそうに言う。綾は「まあな」と言うだけで、それ以上の会話は続かない。透馬と一緒に町並みを黙って眺めていた。
 観覧車から降りると、土産物の一帯を通り過ぎて帰るように道順が誘導されている。べつに引き返してもいいのだが、時間も良かったので食事をして帰ろうと言う話になった。
 ふと綾と暁永が同時に足を止めた。二人の目線の先には移動式の花屋のワゴンがあった。隣で遊園地のオリジナルキャラクターが風船をくくりつけた花を来園者に配っている。
 もらう人間がいないのか、ずいぶんと余っていた。「どうぞお持ちください」と言って女性スタッフと着ぐるみが男三人組にも容赦なく花と風船を寄越してくる。透馬は青を、綾は白を、暁永は赤の風船をそれぞれに貰って、そのトリコロールの色合いは遊園地のテーマカラーにあつらえてあるのだが、綾が「フランスだな」と呟き、暁永が吹いた。
 薄いビニールに包まれた花は一種類だけだった。花弁のしっかりとしたガーベラ。これも色とりどりだった。綾と暁永がしげしげとそれを眺め出す。
「花だ」
「花だな」
「やっぱこうやってもらうといいもんだよな」
「ああ」
 二人の会話は、どうもさっきから要領を得ない。二人だけで成立している辺りが気に食わない。それを聞いてよいものなのかどうか、迷う。迂闊に口を挟むと「うるさい」と怒られる――そういう理不尽さをいままで味わって来たせいで、透馬の基本には「遠慮」が組み込まれてしまっている。
 結局、花の話は聞けなかった。牛丼を食べて帰り、帰宅後は透馬の部屋にみっつの風船を押し付けられた。花は綾が引き取った。三本の花をきちんとスケッチブックに描き留めていたことを、後になって知った。


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粟津原栗子
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成人女性に向けたBL小説を書いています。苦手な方と年齢に満たない方は回れ右。
問い合わせ先→kurikoawaduhara★hotmail.co.jp(★を@に変えてください)か、コメント欄にお願いいたします。コメント欄は非公開設定になっています。

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