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成人女性を対象とした自作小説を置いています。
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「なんだ真城綾」父親はさも苦々しげに言った。
「いえ、あなたがあまりにも大声で話すものだから、皆が気にしているんです。それに透馬のことだったら、私も全くの無関係ではありませんから」
「いや、関係ない。透馬はここから引っ越させる。今日あす中にでも引き上げる。なにか異論が?」
「ありますね。透馬が嫌がっている」
 綾は優しい顔で透馬を見た。すがる思いで透馬は頷く。父親は「ここは環境が悪すぎるのだ」とため息を吐きながら言った。
「しかるべき保護者もいない。食事も満足に与えられない」
「私がいます。食事なら、透馬が自分から望んで用意してくれている。自発的にやろうとするものほど、伸びるものです。この数ヶ月で格段に上達している」
 普段の食事を綾が特に褒めることはなかった。そんな風に評価されていたとは知らなかった。
 父親は「それに問題がある」と当然ながら譲らない。
「料理など覚える必要がない。勉強も遅れている」
「そんなことはありません。料理は一人で生きる術を身につけることであるし、栄養学的にも道徳的にも学ぶことが多い。学校だって問題ありません。学習指導要領にきちんとのっとった教育をしています。そして重要なのは、あなたも先ほどおっしゃいましたが、透馬が自分から学校に通っている、という事実です」
 綾は饒舌で弁が立った。下手をすれば最低限の挨拶のみで一日を終えてしまういつもの倍も三倍も一息に喋る。一瞬、父親は言葉に詰まった。上手な反論を思いつかなかったらしく、「おまえのような男の傍にいてもね」と皮肉を吐いた。
「――良かったな、父親が死んで」
 綾の眉がわずかに動いた。明らかに綾を侮蔑する発言に、透馬の身体にざあっと怒りが湧く。「伯父さんにあんた、なんてこと」
「親に向かってあんた、とはなんだ透馬」
 一睨みされて言葉を失う。
「おまえは黙っていなさい、透馬」
「黙っていなさい、とは酷い。透馬自身のことに透馬自身が黙っていられるはずがないでしょう。そもそもあなたは、よそでの苛立ちやストレスを透馬にあてこすっているだけだ。子どものやることと変わらない」
 子ども、と言われて父親は怒りをあらわにした。みるみるうちに透馬の大嫌いな形相になる。
「真城綾、透馬の養育費を支払っているのはこちらだ。透馬にも貴様にも決定権はない」
「心の問題を金で解決しないで頂きたい」
「は、」父親は嘲る息を吐いた。「解決するだけの金もないからな」
「もうやめて」
 制したのは母親の誓子だった。聞いていられなくなったとばかりに首を横に振る。
「もうやめて。お願いだから、透馬の気持ちを聞いてちょうだい」
 そう言って誓子は透馬の傍へ近寄った。
「……透馬、どうしたい?」
「透馬の意見は聞いていない」父親は険しい表情で言ったが、誓子が毅然と「いいえ」と言い放った。
「透馬、どうしたい?」
 家に戻るか、この家にいるか、全寮制の学校へ転校するか。答えはもうひとつしかなかった。
「おれ、ここがいい」
「――話にならん」
 透馬にそう答えて、父親は席を立った。「彩湖、帰るぞ」


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プロフィール
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粟津原栗子
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非公開
自己紹介:
成人女性に向けたBL小説を書いています。苦手な方と年齢に満たない方は回れ右。
問い合わせ先→kurikoawaduhara★hotmail.co.jp(★を@に変えてください)か、コメント欄にお願いいたします。コメント欄は非公開設定になっています。

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暑いですね。番外編短編、ちょこっと更新しています。

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