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帰宅するまでほぼ無言で、「無口上手」の透馬も喋らなかった。途中、コンビニエンスストアに寄りたいと言って入ったが、透馬の向かった生活雑貨のコーナーにいたたまれなさを感じて、瑛佑は意味もなくドリンクを選んでいた。外で待っていればよかったと思いながら二人分の清涼飲料水を購入した。
部屋まで戻り、飼い猫にいつもの挨拶をして、風呂を入れ替わりでつかう。抵抗があって、二人とも風呂上りでも服はきちんと着た。すべての準備万端、あとは実践するだけ、というムードのない状況に、そうするしかなくてつい笑った。「なんだろうな、これ」
「あ、瑛佑さんちょい待った」
ベッドに微妙な間をあけて腰かけると、透馬が立って鞄を引っ張り出した。
「先に群青、見ていいすか」
「――ああ」
どうぞ、という意味合いで頷くと同時に包みをひらく。冴え冴えと白い蛍光灯の下では群青は黒ずんで見え、それでも透馬が小瓶を振ると時折気まぐれに煌く。冬の夜空を閉じ込めたような瓶。これは冬、透馬の誕生日にあげたかったと今更思った。
「嬉しいな」隣に腰かけた透馬が、瓶をかざしながら幼く言う。「群青ですよ、群青」
言い方がたまらなく思えて、瑛佑は手で顔を覆いながら後ろへひっくり返った。
「瑛佑さん?」
「喜んでくれて、ほんとうに何よりだ」
「……瑛佑さんも嬉しい、すか」
「嬉しいよ」
「そか……」
こん、と小瓶をローテーブルに置く硬い音がやけに耳に響いた。透馬がそっと覆いかぶさってくる。手を伸ばしてうなじに触れ、後ろ髪を指で弄る。ごく軽くくちびるを触れ合わせ、二度目、瑛佑の方から舌を伸ばした。
透馬の呼吸が一瞬詰まったのが分かった。多分いま目を開けたらびっくりしているまんまるの黒目にぶち当たる、とまぶたの裏に想像する。
透馬も積極になり、くちびるを離して舌だけ絡ませ合い、また深く入り込む。吐息が湿り、唾液で口の周りがべとべとになっても続く。口蓋を舌でなぞられるとむずむずして、疼きが背骨のてっぺんから終わりまで流星のように駆け下りた。
「でも今日は、触るだけにします」
至近距離で、透馬はそう宣言した。
「……触るだけ?」言葉の曖昧さに、瑛佑は首をひねった。
「おれのこと触れますか、瑛佑さん」
瞳が不安げに揺れる。男同士ははじめてだと言うことを、瑛佑以上に気を遣っているらしかった。透馬も緊張している、と分かると、なんかだほっとした。そうだ、人間同士の行為だ。透馬は絶対に自分を雑に扱わない、むしろ怖がって必要以上に丁寧に触るのだろう。と考えると、もうどこまででも許せてしまえる気がした。
ばかだな、と言うと、透馬はせつなそうに笑った。きゅうっと胸が絞られる笑顔だ。近くでその表情をするのはずるい、と思った。
「たくさん触っていいですか」
「いいよ……おれもそうするから」
キスを再開した。
透馬の身体が、瑛佑にすっかり乗りかかる。足の間にしっかりと身体を差し込んで、股間と股間を密着させ、ごく軽く揺すられた。びくんと身体をふるわせるとキスが止まり、見下ろされた。
肘を瑛佑の耳の横について、ぽってりと赤く濡れた唇で「止まんない」と囁いた。下半身はゆらゆらと動いている。性器は徐々にかたちが変わり始めていた。
「キス、きもちいい、よね」
「ああ」
「……もっとします」
いちいち言わないでも、と思ったが言わなかった。目を閉じると、くちびるを優しく食まれる。投げ出していた右手にはいつの間にか透馬の左手が絡み、深く握り合っていた。
透馬の動きが次第に大胆になってくる。
自由な手が瑛佑の身体をまさぐって、着ていたスエットの下でゆっくりと脇腹を撫でられた。こんな時でも透馬の指はつめたく、身体が竦んで寒気のような性感が走った。腰があまったるく揺れる。透馬は瑛佑の足を大きくひらかせ、突くように、性器と性器を布越しに擦り合わせる。硬くなった性器が下着の中でひたすら窮屈だった。
これをなんとかしたい。
「――あー、と、あの、」
「……」
「触ります、ね……」
だからいちいち言わないでいい。かろうじて「ばか」と答えたがかすれて音声にはならなかった。透馬は後ろへずり下がり、瑛佑のスエットと下着を下げる。ごく、と息を飲む音が聞こえた。
「……たまんね、」
言うなり、透馬は瑛佑の腰元へ屈み込み、先端を舐めた。
「――あっ、ちょ、……透馬っ……」
触るだけって言わなかったか。抗議の意味合いで透馬の名前を呼んだが、無視された。ちろちろと舌をよく使って上から下まで舐めまわされ、また先端へ戻ってねっとりと銜え込まれた。完全な勃起を、愛おしむように舌で包む。先端の窪みを突かれたり、くびれのすぐ下をくすぐられたりと技巧豊かでもたない。口をすぼめ圧をかけられるとまた良くて、いい位置に足を持ってゆきたいのにスエットの位置が中途半端でもどかしい。
くちびるを上下に激しく動かされ、頭が真っ白に霞む。「透馬、透馬、」と行為の一時中断を申し出た。
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粟津原栗子
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自己紹介:
成人女性に向けたBL小説を書いています。苦手な方と年齢に満たない方は回れ右。
問い合わせ先→kurikoawaduhara★hotmail.co.jp(★を@に変えてください)か、コメント欄にお願いいたします。コメント欄は非公開設定になっています。
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暑いですね。番外編短編、ちょこっと更新しています。
2021*12*04-2022*03*17
お久しぶりです。短編長編更新。
短編「さきごろのはる」
短編「月の椅子」
短編「みんな嬉しいお菓子の日」
長編「ファンタスティック・ブロウ」
短編「冬の日、林檎真っ赤に熟れて」
2021*08*16-08*19
甘いお菓子のある短編「最善最愛チョコレート」更新。
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