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成人女性を対象とした自作小説を置いています。
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 一連の動作を瑛佑は表情も変えずに目撃した。内心は驚きでいっぱいであったが、珍しくはない。ただ、知った顔で、男同士、というパターンは初めてだった。
 堂々として、馴れた風だった。その先や背景をあれこれ考えようとして、やめた。個人情報はあまり深追いしない方がいい。男が二人エレベーターに連れ立って乗った。瑛佑がいまホテルマンとして把握しておくべき事柄は、そこまででいい。
 夕闇が濃くなり、宿泊客でロビーが混雑し始めた。同時に式も終了し、あふれ出た人でせわしくなる。結婚式の出席者の何組かはここへ宿泊し、他は帰るか別の宿へ向かう。神経質にチェックしたがトーマはロビーに現れなかった。宿泊名簿にも該当する名前はない。
 普段の勤務終了時刻より十五分遅れて夜勤スタッフと交替した。夕方五時を過ぎたところだ。降り続く雨のせいで辺りはひたひたと暗く、寒かった。
 携帯電話をチェックしてみたが、秀実からの連絡はなかった。明日は休みだ。約束としては部屋を訪ねることになっているが、具体的な話まではしていない。電話をかけるか、でもめんどくせえなと思いながら職場を後にすると、不意に「瑛佑さん」と声をかけられた。ホテルの裏口すぐにある雑居ビルの軒、ポーチに据えられた常夜灯の下トーマが引き出物の紙袋を提げて立っていた。
「こんばんは、花屋です」
「――どうしたんだ、」
「……いや、式で花を分けてもらったから、この間のお返しにあげようと思って」
 雨の中待っていたらしい。胸に挿した花を瑛佑に差し出した。昼間のロビーでははっきりと青いと見えた花は、オレンジ色の光の下では黒ずんで見えた。
 ありがとう、と受け取るにはためらわれた。お返しに花をあげようなどとは思っていないのは分かる。口実だ。この男になにを言うべきか迷っている瑛佑に、トーマはため息をつきながら「や、本当は違う」と首を横に振った。髪が揺れる。洗い髪を適当に乾かしたまま、整髪剤はなにもつけていない。髪がさらりと動き、わずかの間をおいて石鹸のにおいが届いた。
「さっき…その、目が合ったので……」
 言いにくそうに目を伏せる。瑛佑はトーマを見据えて様子を窺った。
「瑛佑さんの勤め先があのホテルだってのは、知らなかったんです。…なんていうか、その、さ」
「?」
「色々分かっちゃいましたかね、て……」
 言われて思い当たるふしは特になかった。知人が男とエレベーターでキスをしていたことか。瑛佑としては、式の最中にトーマが男と二人で部屋に消えたことなど大して気に留める事柄ではなかったが、トーマは明らかに気にしている。苦虫をかみつぶしたことはないが、こういう顔のことか、という表情でいる。
 こんなところで立ち話をしても仕方がないので、部屋に誘った。どこか店に寄ってもいいが、雨降りなので早く帰ってシャワーと着替えがしたい。泊まるあてがないなら来るかと訊くと、トーマは弱り切った顔でちいさく「行きます」と頷いた。どうしていいか、本人もよく分かっていない様子だ。
 どこへも寄らずに部屋に戻った。鍵を開ける前に、飼い猫の存在を明かさなかったことを思い出し、話した。アレルギーでもあればこの雨の中をまた追い出す羽目になるが、トーマは表情を緩め「ネコ、好きですよ」と答えた。「触りたい」
「飼ったことある?」
「あります、中学の頃。空きっ原にいたのを放っておけなくて、黙って拾った。でも交通事故ですぐ死にました。つらかった」
「泣いた?」
「恥ずかしいすけど……泣きました。――なまえ、なんていうんすか」
「トーフ」
「豆腐?」
「そう、トーフさん」
 飼い猫――トーフは、瑛佑の帰宅の際には必ず扉へ寄ってくる。外へ出してほしいのではなく、瑛佑の帰宅を出迎えるためだ。今夜も玄関で待っていた。明かりをつけると、首輪についた鈴が軽やかに鳴った。「トーフ、ただいま」
 まっしろな毛並みに、片耳にだけ焦げた茶色がアクセントになっているメスネコだ。挨拶をしながら、トーマは「白いからトーフ?」と瑛佑に聞いた。人懐こいネコは、トーマにも人見知りせずに喉を鳴らす。
「おしょうゆ垂らした豆腐が食いたい、って思ったらしいよ。名付け親は」
「瑛佑さんが名づけたんじゃないんすか?」
「前に付き合ってた人の飼い猫。旅行好きで、しょっちゅう俺に預けてくんだ。あんまり俺に預けるから俺の方が懐かれて、いいよ飼うからって言って、いまに至る」
「――元カノの、ネコ、」
「そう言う言い方をすると未練がましい感じがするよな。全然そんなじゃないんだ」
 飼い猫の餌鉢とトイレをチェックし、手早く後片付けをする。人が来る予定ではなかったから物が散らかり、換気もしていない。脱ぎっぱなしの衣類を手に取り、部屋にひとつしかない椅子をあけた。


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おはようございます
 出遅れ名人、如月久美子です~。

 でも!
 更新されてるの、気付いたからにはバシバシ読んでいきますよ~(ウザくてすみません…)。
如月久美子 URL 2013/11/05(Tue)07:03:09 編集
Re:如月久美子さま
おはようございます。もう本当に無沙汰をしてしまい…(深々とお辞儀)

> 出遅れ名人、如月久美子です~。
> でも!
> 更新されてるの、気付いたからにはバシバシ読んでいきますよ~(ウザくてすみません…)。

出遅れ名人だなんてw 朝っぱらからPCの前で吹いてしまいました(笑)
これからしばらく通常更新の予定です。もうね、文字も行間も多くて「本当にwebで人に読ませたいの?」みたいな仕様になっていますが、ぜひ遊びにいらしてください。

コメントありがとうございました。嬉しいですw

栗子
【2013/11/05 08:07】
ellyさま(拍手コメント)
こんにちは。いつもありがとうございます!

青い花を胸に挿している男、という図がまず書きたかったのでした。タイトル通りですね。このモチーフは繰り返し出す予定です。
そして謎の多い男トーマくん。を、特に警戒心もなく(笑)家に引き入れてしまう瑛佑くんです。この後どうなるのかーというのは本日また更新ですので、どうぞお楽しみにw
待ち遠しい、というようなお言葉をたくさんの方から頂いて嬉しい限りです。本当にありがとうございます!

それから、お願いの件は了解です。というようなメールをまた後程送らせて頂きます。お待ちください。

拍手・コメントありがとうございました。またぜひw
粟津原栗子 2013/11/05(Tue)08:02:44 編集
プロフィール
HN:
粟津原栗子
性別:
非公開
自己紹介:
成人女性に向けたBL小説を書いています。苦手な方と年齢に満たない方は回れ右。
問い合わせ先→kurikoawaduhara★hotmail.co.jp(★を@に変えてください)か、コメント欄にお願いいたします。コメント欄は非公開設定になっています。

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