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成人女性を対象とした自作小説を置いています。
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 瑛佑と秀実が同級生の間柄から義兄弟の関係になったのは十一年前、二人が二十歳になった年だ。二人は同じ中学に通い、クラスは一年だけ一緒だった。座席が近かったのでわりあいよく話をした。クラスが離れても話をしたし、マンガやゲームの貸し借りもした。お互いに片親同士だったのでそういう話題も出来た。家に泊まりに行ったこともある。
 高校で別れても最寄駅までの通学路が同じだったので、顔は合わせた。大学でいよいよ離れたのだが、成人式で帰省した日に再会した。そこで義兄弟になることをお互いの親から明かされた。瑛佑の父親と秀実の母親が再婚する、という内容だった。
 瑛佑の両親は瑛佑が小学四年生の頃、秀実の両親は秀実が中学へ上がる前に離婚した。伴侶のいない生活を送っていた瑛佑の父親と秀実の母親の出会いは、中学校の保護者会だ。お互い旅行好きの趣味が一致し、意気投合した。
 そのうち子どもの手が離れたら、二人で好きなだけ旅行しましょうと決めていたそうだ。七年間の交際から結婚へ結びつけた両親は、約束通りにどこへでも行く。好きに動けるのは六十歳台まで、という人から聞いた話を信じて、海外へだって行く。
 まさか友人の母親と自分の父親が男女の仲になっていたとは、なかなか想像しなかった。確かに二人とも独り身ではあったけれど、親のこういうことを想像するのは生々しい。だが秀実は単純に喜んだ。瑛佑の方が誕生日が三ヶ月早いので、兄ちゃんだ、と。おれは頼りになる兄貴が欲しかったからすっげえ嬉しい、と屈託なく言うから、瑛佑もそれで良いことにした。
 男同士の話が出来る父ちゃんもほしかったんだ、と言って瑛佑の父親にもすぐに懐いた。臆面なく「おとうさん」と呼び、また「家族は近くにいるものだ」と自前の考えを主張した。別にあえてそうしたわけではないが、なんとなく近くで暮らしている。電車で二駅の距離に住み、行き来が多い。だから突然部屋に呼び出され鍋をしようと言われるのも、驚くことではない。
 鍋会から十日ほど経ち、十一月に入った。昼休みにかかってきた電話で、秀実は「トーマが出てっちゃってつまらない」と淋しそうに言った。
 トーマ、と言われるまで、瑛佑は先日の男のことは思い出さなかった。
『チエちゃんがやきもち焼いて、トーマを追い出しちゃったんだ』
 チエちゃん、というのが秀実の現彼女の名前だ。会ったことはなく、名前でしか知らない。嫉妬深い、という新たな情報がインプットされたが、すぐ忘れる気がする。
「じゃあ、家に帰ったのか」
『それは知んない。あいつあちこちに仮宿持ってる奴だから、単におれのところが飽きたのかもしんねえし。でも、なんかな。すっげえ居心地っていうか、人心地? が良くてさ。気も合うし、このままルームシェアとかさ、おれはどうかなって思ってたんだけどな』
「そんなに仲良かったか」
 先日の様子を思い浮かべてみる。確かに二人ともすっかりくつろいでいて、気心が知れ切っている雰囲気があった。
『すげー淋しいから、遊びに来いよ、えーすけ』
「彼女のとこ行けよ」
『チエちゃんなあ。あれ以来ちょーっとご機嫌損ねて、なんか面倒になってきた』
「合コンのことなんかばれたらおまえ殺されそうだな」
『だって『来ない?』って訊かれたら『行く』って言うだろう?』と秀実は言い訳した。この男は平然とそういう台詞を口にするのだが、元が馬鹿でつまりハッピーな性格なので憎めない。秀実はさらにいまの悩みや心配をつらつらと語って聞かせてくれる。レストランに頼んでバックヤードまで運んでもらったハヤシライスを食べながら適当に相槌を打った。秀実の電話は用件がなくても長い。
 トーマが出て行ったことか或いは彼女とうまくいっていないことかが、打撃になっているようだった。いつもより早口に喋り、「淋しい」と「つまらない」と「トーマまた来ないかなあ」を繰り返した。もう昼休みが終わるから切る、と言ってもあとちょっと渋る。仕方がないので次の休みは部屋に行くからと宥めて、ようやく通話を終えた。
 秀実の淋しがりは、度が過ぎている。雨の日に知人に宿を貸して、そのまま住みつかれる方がどうかと思うのに、よっぽどトーマにはいてほしかったのか。自分なら、と考える。誰かと暮らす想像を今までしたことがない。ないからおそらく、三十代の今でもひとりだ。
 数日後、ホテルの斎場で結婚式が一件あった。連日の寒暖差のおかげで庭の紅葉が見事だったが、雨で庭に出ることは叶わなかった。
 新婦はアオイ化学工業の社長令嬢で、新郎とは幼い頃からの許嫁だったと言う。アオイ化学工業と言えば、染料や顔料、派生して塗料や化学薬品を扱う一流企業だ。最近では植物に独特の染・着色を施す技術で、ちょっとした話題になった。
 豪華な式だった。次々とハイヤーが到着し、きらびやかな衣装の人間がたくさん出入りした。ウェディング部署のスタッフもいつになく気合を入れ、客を迎え入れる。その中のひとりにトーマがいた。
 と言っても瑛佑はフロントスタッフである。ウェディング会場とは受付口が異なるため、直接対応をしたわけではない。式の途中、式場から出てきてロビーの数人掛けのソファに腰かけた男を、いつもの癖でチェックした。オールバックの前髪と銀縁の眼鏡のおかげですっかり別人だったが、数秒遅れてトーマだと気付いた。
 疲れた風に頬に手を当てうなだれている。一服するために式場を抜け出て来たか。そうやって十分ほどした頃、ひとりの男がトーマの前に立った。
 立ち姿の優雅な男だった。歳の頃は三十代後半、背はさほど高くないが均整がとれている。仕草が流麗で、高い地位と給料を示すように高価な時計と礼服を身に着けていた。
 男もトーマも胸に青い花を挿していた。ウェディングスタッフが来場者にこれを配っているのを先ほど確認している。アオイ化学工業が新開発した青い花に違いなかった。
 やって来た男に仏頂面を向けながらも、トーマは立ち上がった。男が先に歩き、トーマがわずか後ろを続く。揃ってエレベーターに乗り込む瞬間、男がトーマの白いタイを引っ張った。引き寄せられ、トーマは顔を男に近付ける。影が重なる。
 直後、男の頭の向こうに見えたトーマがこちらに気付いて目を大きくあけた。
 遮るように扉が閉まり、エレベーターは上へ向かった。



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そ、そんなとこ見ちまうと…
えーすけさんじゃなくても、気になってしまいます。
お互いちょっと気まずいですね。
トーマはえーすけさんに、何かアクション起こすかな?

栗子さん!続きが気になって気になって、明日の更新が待ち遠しくてたまりません。早く続きをお願いします。これからしばらく、こんな待ち遠しい日々が続くと思うと、毎日が楽しみです。
Bei 2013/11/04(Mon)00:26:26 編集
Re:Beiさま
いつもありがとうございます。

>えーすけさんじゃなくても、気になってしまいます。
>お互いちょっと気まずいですね。
>トーマはえーすけさんに、何かアクション起こすかな?

びっくり、しますよね。そりゃそうです。私なら顔に出ますが瑛佑くんはどうなんでしょうか。そこらへんはまた本日!ですw

>栗子さん!続きが気になって気になって、明日の更新が待ち遠しくてたまりません。早く続きをお願いします。これからしばらく、こんな待ち遠しい日々が続くと思うと、毎日が楽しみです。

わははありがとうございますw
長いお話なら、やっぱり定時に続きが読めるのが楽しみだよなあと読者の観点で私も思います。それを私のブログで味わって頂けて誠に光栄です。
Beiさんの毎日の楽しみ、の期待に沿えるようなお話をがんばります。よろしくお願いします。

コメントありがとうございました。またぜひw

栗子
【2013/11/04 08:42】
美冬さま(拍手コメント)
ようこそおいでくださいました!
これから一応毎日17時更新を目指して頑張りますので、どうぞよろしくお願いしますw

そうです、パラダイスの本編です。(続編を先にあげるってどういう行為なんだといまさら…笑)
彼等もそのうち本編に登場してきますので、こちらもお楽しみに。
「花と群青」はまたパラダイスの彼等と色味がだいぶ違う(予定)です。恋の仕方もちがってきます。どんな風に展開してゆくのか、お付き合いくださいませ。

コメント励みになります。ありがとうございましたw
粟津原栗子 2013/11/04(Mon)08:37:28 編集
プロフィール
HN:
粟津原栗子
性別:
非公開
自己紹介:
成人女性に向けたBL小説を書いています。苦手な方と年齢に満たない方は回れ右。
問い合わせ先→kurikoawaduhara★hotmail.co.jp(★を@に変えてください)か、コメント欄にお願いいたします。コメント欄は非公開設定になっています。

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