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成人女性を対象とした自作小説を置いています。
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 四月もそろそろ終わり、春の大型連休に向けて多忙になっている頃、唐突に実母が上京した。こちらに出張で来たついでに息子の顔も見に、と言った。平日で、まだ休みを申し出やすくて幸いだった。ホテル内の展望レストランで昼食を済ませ、どんなところに住んでいるのか見てみたいと言うので、部屋に連れてきた。
「女っ気がないかなと半分あきらめていたけれど」
 広々と相変わらずもののない瑛佑の部屋をじっくりと眺める。「友だち来てた? 秀ちゃんじゃないわね。花に詳しい人?」
 ベッド下に敷きっぱなしの来客用の布団を眺め、それからキッチンの出窓に飾られたブルーグレイのクレマチスの切り花に目を留め、ひっそりと笑ってそう言う。クレマチス、なんて花の名前を瑛佑は知らなかったが、透馬が持ちこんで教えてくれた。家に花は捨てるほどあるから、と言ってこうしてちょくちょく持ってきては、なにかの器に活け、置いてゆく。
「どうして友だちだと思ったの」
「親しくやってるみたいだけど、女っぽくはないから」
「花も?」
「活け方にこだわりを感じるのよね。こういうのは男よ」
 母親の目には良しと映ったようだ。彼女は女である自分と、女らしい女を嫌う風がある。アクセサリーの類は絶対に身に着けないし、服装もシンプルなモノトーンが多い。同じくモノトーンの服装が多い高坂を連想するので、女版高坂、と勝手に命名している。
 鋭い観察眼にどきりとしたが、恋人、と訂正するかどうすべきか迷っているうちに母親は「この椅子は変わらないのね」と言ってさっさと椅子に腰かけてしまった。母親気取りも嫌いな人で、息子の部屋にやって来ても特になにもしない。(もっとも、息子の部屋に来ること自体、惑星の衝突級に稀なことだ。)薬缶をコンロにかけて、紅茶を入れた。この紅茶は職場のティールームで購入したもので、香りのよさに母親も嬉しそうだった。
 手土産、と言って母親がここへ来る途中で買った干菓子の小箱も開け、向かいに三本足のスツールを持ち出してそこへ腰かけた。こうすれば目線が同じになる。なんとなく彼女の前では、うかうかと床であぐらをかこうなんて真似が出来ない。大学教授、という肩書のせいかもしれない。
「What’s new? 最近なにか楽しいことは?」
「ドラマを見てる、かな」
「あら珍しい」
「見たい、って言われて。イギリス製作のテレビ番組、これ訳してよって言われながら」
「そのお友達の趣味なのね」
「字幕もあったんだけどな」
 微妙に会話を噛みあわせないのが、二人の流儀だ。
 透馬が持ってきたDVDだ。職場で話題になってるんだよ、と言っていた。けっこう小難しいことを喋るドラマで、同時訳に夢中になり、瑛佑にとってもいいトレーニングになっている。
あとは透馬と出かけた飲食店でくじが当たって一回分の食事券があるとか、秀実が彼女にぞっこんでのろけるのでやっぱりうるさいとか、母の日に義母になにを贈るべきか悩んでいるとか、日常から外れない日常の話をした。


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プロフィール
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粟津原栗子
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自己紹介:
成人女性に向けたBL小説を書いています。苦手な方と年齢に満たない方は回れ右。
問い合わせ先→kurikoawaduhara★hotmail.co.jp(★を@に変えてください)か、コメント欄にお願いいたします。コメント欄は非公開設定になっています。

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