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成人女性を対象とした自作小説を置いています。
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 布団はいつも通り、ベッドとベッド下に用意する。透馬が上で瑛佑が下。室内灯を消しても、枕元にスタンドを用意してしばらく本を読んでいた。秀実の失恋会の際に高坂から借りたミステリーをまだ読み切っていない。こういうものは途切れ途切れで読んではだめだと分かっていて細切れに読んでしまい、時間がいつまでもかかっている。
 さすがに眠くなって電気を消そうとすると、透馬が瑛佑の名前を呼んだ。先に寝たと思っていた。ベッド上を見ると、透馬が寝そべったままこちらを見ているのが暖色の明かりの下で分かった。
「……眠れないか」
「……いや、」
「……一緒に寝たい?」
 キスも出来ないままの淡いつきあいだが、始めてみて分かったのは、透馬は睡眠までの導入が長いようだ、ということ。それから要望を口にすることをためらう。くっついて寝たい、とでも言えばいいのに、一歩引く。
 もう一度言い聞かせるように「一緒に寝よう」と言い、布団から離れる。ちょっとそっち詰めて、とベッドに潜れば透馬は窓際へ身体をずらし、声をあげて笑った。
 もうひとつ分かったことがある。体温がちょっと低い。身体がいつも冷たい。
 瑛佑の体温が高いのか、と思ったが、透馬の平熱が三十六度を下回ると聞いて、あ、そりゃ寒い、と思った。そういえば、指先はいつも冷たい。先程風呂に入って温まったと思った手足は、ひんやりとつめたかった。
「こんなんじゃ眠れないだろう」
 広めのものをつかっているとは言え、シングルベッドに二人は狭い。横向きで向き合いながら指に触れると、透馬は「瑛佑さんが熱いんですよ」と反論した。
「運動して筋力つけて代謝あげると、平熱も上がって来るものらしいよ」
「ええー……」透馬は運動が苦手、だという。「やっぱ鍛えないとだめすかね。ヒデくんとこ?」
「別に秀実のところじゃなくても。職場にサークルとか、ないの?」
「バレーボールぐらいはあるみたいですけど、あんまり職場の人間でつるんだりしないですよ」
 息のかかる距離でぼそぼそと会話をする。触っているうちに透馬の体温がじわじわと上がって来るのが分かって、安心する。
 喋っているうちに眠くなってきた。目の前に横たわっている透馬が、大きくなったり小さくなったりする。単純に身体と身体が足し算されているから、足先からぬくい。透馬が「瑛佑さん」と呼んだのも、夢の中なのか現実なのか判別がつかなかった。
 くちびるにひどくやわらかいものが当たった。キスだった。
 驚いて目を見開くと、もう少し、という風にくちびるを押し付けてきて、離れた。すぐさま照れてあっちの方向へ向くので、毛布を巻き込んで持って行かれて瑛佑の足がはみ出てしまった。「おい」と声をかけると、「おやすみ」と返ってくる。「透馬」と呼んでも応えない。
 毛布を引っ張った際に触れた透馬の頬は火照って熱く、また照れてんのか、と思うと瑛佑も急に恥ずかしくなった。
 身動き取れないまま固まっていると、透馬が身じろいで、くるりとこちらを向いた。額と額が触れて吐息と吐息が混ざったので、もう一度、かるくキスをした。久々の、夢中になる感触だ。飼い猫と分かち合う体温もいいが、しっかりと頼りあるものに触れて発する熱もいい。
 手をつないで眠った。夜半、透馬のしっかりと深い寝息を眠りと眠りの合間に聞いた。吐息までちゃんと温かかった。


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konさま(拍手コメント)
いつもありがとうございます!

このお話はとにかく冬を意識して書いています。(物語上ではだいぶ季節がずれてきていますが。)外はいてつくほど寒いけれど、二人で過ごす内側は暖かい、というような。ほっこり感をお楽しみ頂けて嬉しいです。
一方でまだまだこのお話は続きます。konさんの仰る通り、透馬くんはまだ一抱えも二抱えもあるような…?
しばらく彼等にお付き合い頂きたいと思います。どうぞよろしく。

拍手・コメントありがとうございました!
粟津原栗子 2013/12/05(Thu)07:57:35 編集
お名前のなかった方(拍手コメント)
↑いつもこんな書き方ですみません(笑)

ちょうどいい時期に突入した二人、とでも言いましょうか。まだ恋愛に乗り切らなくて、でもお互いが大切というじりじりしている頃。書いてて楽しかったですw
本日も更新ですのでぜひお付き合いくださいね。
ありがとうございました!
粟津原栗子 2013/12/05(Thu)07:59:55 編集
プロフィール
HN:
粟津原栗子
性別:
非公開
自己紹介:
成人女性に向けたBL小説を書いています。苦手な方と年齢に満たない方は回れ右。
問い合わせ先→kurikoawaduhara★hotmail.co.jp(★を@に変えてください)か、コメント欄にお願いいたします。コメント欄は非公開設定になっています。

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