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成人女性を対象とした自作小説を置いています。
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 晴れているのに寒い。晴れた方が寒い。逆を言えば、雪の日の方が暖かい。そういう日を冬が来るたびに幾日か迎えるのに、毎年のことながら引っ掛かりを感じる。瑛佑だけだろうか。
 晴れていれば暖かいと頭のどこかで思い込んでいる。だから外へ出て冷たい風に吹かれ鳥肌を立て、ようやくああ冬だったと気付く。乾いた空を見上げれば確かに寒いと思うのに、部屋に長く差し込む光を、夏と同等のものだとつい勘違いする。
 少しだけ、透馬みたいだなと思った。晴れているのに寒い。明るいのに淋しい。笑うのに苦しんでいる。図々しいのに怖がり。
 クリスマスシーズンが終わり、ニューイヤーシーズンも終わり、成人式も終えて、ようやく連休が取れた。
 一日は実家に顔を出して義母の手料理をご馳走になった。二日目はマンションに戻り、秀実と透馬と鍋会の予定だ。秀実が言いだした。昼ごろから瑛佑の部屋で、という約束で、午前中は透馬と買い出しだ。駅近くの商店街の入り口で透馬と待ち合わせた。
 新年、あけてからは透馬と会うのは初めてだ。待ち合わせ場所でうつむき加減に立っている透馬を遠目で見て、あ、冬そのものだ、と思った。整った顔立ちが、孤独で寒々しい。早く温めてやらないと立ち姿そのままで凍ってしまいそうだ、と。
 いったいなに抱えてんだよおまえ、と思える危うさ。引きこんでしまう魅力。「透馬」と声をかけると、透馬は顔を上げて表情を一瞬空にしてから、情けない笑顔を見せた。吐き出した白い息が空へのぼって消える。
「――瑛佑さん、寒ぃです」
「悪い、どこか屋内にしておけばよかったな」
「いや、文句言ってみたかっただけです。あけましておめでとうございます」
「――ふ、おめでとうございます」
 軽く頭を下げ合った後、寒いならどこか入るか? という瑛佑に透馬は首を横に振った。早く鍋がしたい、と嬉しそうに言う。自販機でカフェオレを買って渡し、飲みながら商店街で必要なものを買い込んだ。大根、しいたけにんじん、白菜。鰯と鶏肉、豆腐、エビ、出汁用にワタリガニ、贅沢に牡蠣。デザートにアイスクリーム。
 酒の類は秀実が買って持ち込む手筈だ。部屋へ戻り、さあてやりますよと透馬が袖を捲って台所に立った。三人座れる座卓の用意をしつつ、透馬の手元を覗きにゆく。
「日野くんに鰯のつくねの作り方聞いたんです」
 シメの雑炊用に米をセットしながら、透馬が言った。いつの間にやら仲良くなっていたらしい。
「あの人、和洋中なんでもいけんですね」
「透馬もいけそうだけど」
 立って見ているだけで申し訳ない気もするが、透馬ひとりでよく動く。手際がいい。またにんじんを飾り切りしている、と微笑ましい気持ちになった。
「瑛佑さんがいけない、ってところがおれには意外なんですよね。ぱぱって料理出来ちゃいそう」
「手伝いならいくらでも。父子家庭だったけど、おれも親父も料理はあんまり得意じゃなかったんだよな。メシ食いに行くか買いに行く方が多かった」
「生活乱れたりしなかった?」
「それがさ、しなかったんだよ。そこらへんうちの親父は細かくて、カロリー計算自分でする人だったから。スポーツも好きだったしな」
「へえ、おれのところと逆ですね」
 会話に、違和を感じた。おれのところ、というのが引っかかった。透馬の家庭、というよりも透馬とごく親しい誰か。透馬と父親では絶対にない誰か。突っ込もうかどうしようか悩んだが透馬は鰯をさばくのに集中していて、瑛佑の方を向かない。
 玄関のインターフォンが鳴った。と同時に鍵があいて、秀実が「おっすみんな元気かー」と上機嫌に入って来た。すぐにトーフが反応してそちらへ歩いてゆく。ワンルームだし秀実相手なので、瑛佑はもうわざわざ出向かない。
 有能な調理係のおかげで秀実が「腹減った!」と騒ぎ出す前に熱い鍋が出てきた。ビールをグラスに注いで、乾杯をする。母親からもらったワインもあけた。出汁がうまいからと至って薄味のそれは、好みで三種類のたれをつけて食べるようにしてある。(この辺りの知恵を夏人から拝借してきたようだ。)素材の味が豊かで、特に白ワインに合った。


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Lさま(拍手コメント)
お久しぶりです!
ようこそおいでくださいましたw
時報と共にやって来て頂けたなんて、とても嬉しいですw

毎度のことながらLさんから頂くコメントは素敵すぎてため息がでます。今日もなんて美しいお言葉を頂戴してしまったんでしょうか!
もう今のところなんのラブも萌えもないお話なんですが(多分BL枠を思い切り外れている…)、大丈夫でしょうか。今回ほど「丁寧」を意識して書いたお話はないように思います。引き続きお付き合いくださると幸いです。
ところで22話の更新日、私も鍋にしました。ビール・日本酒・白ワインとそろい踏みで、大変美味しく頂きました。
そろそろこういうものが美味しくなる時期ですね。Lさんもぜひ。
(食い気ばっか…)

拍手・コメントありがとうございました。
またぜひおいでください。励みになります。
粟津原栗子 2013/11/23(Sat)07:48:37 編集
プロフィール
HN:
粟津原栗子
性別:
非公開
自己紹介:
成人女性に向けたBL小説を書いています。苦手な方と年齢に満たない方は回れ右。
問い合わせ先→kurikoawaduhara★hotmail.co.jp(★を@に変えてください)か、コメント欄にお願いいたします。コメント欄は非公開設定になっています。

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