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成人女性を対象とした自作小説を置いています。
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 あらかた素人プロファイルをしてみて、やっぱり分からん、でもプレゼントって嬉しいもんだなと結論に行き着いたところで、母に電話をかけた。透馬のサプライズでどうせ目は覚めていた。長いコールの末に電話に出た実母は、「せっかくクリスマスのランチを楽しんでいたのに」と責める口調ではなく楽しげに、文句を言った。
『メリークリスマス、瑛佑』
「メリークリスマス。プレゼント届いたよ、ありがとう」
『あなたのも届いたわ。レストランのディナー券。……この分じゃまだ彼女は出来てないのね』
 瑛佑自身は他人にプレゼントを贈ることを楽しみとしない。まず発想がない。恋人がいた頃は「毎年お母さんとプレゼントを贈り合うなんて素敵なイベント、楽しまないでどうするの!」と叱られて、彼女がセンスよく選んだ品物を贈ったものだが、別れて以降は当然つきあいがない。結果、母親いわく「拍子抜けする」品々を贈ってしまう。貰って不可ではないけれど、決して可でもないような。
「余計なお世話だよ」
『仕方ないの、あなた方の年齢はなにをどうやったって余計なお世話を焼かれるのよ。やれ彼女は、独身か、結婚しないのか。したらしたで嫁とはどうだ、子どもは。子どもが出来たら次は二人目は、ってね。その辺は女の方が蛇の道かしら。――ともかくみんな通る道だから諦めなさい』
 離婚してからも「もう一度ぐらいどうだ」と言われる始末なんだから、と母は嘆いた。『世話焼きたがってもらえるうちがいいのよ』
「あのさ話変わるんだけど、小さい頃飾ってたクリスマスツリーって覚えてる?」
『ツリー……ああ飾ったわねそんなの。引越す時に処分しちゃったけど。飾るつもり? なら買いなさいよ』
「いや、あれに飾ってたオーナメントどうしたかな、って。……捨てた?」
『ほんとうに急になんなの、瑛佑』
「あのオーナメントの木馬が好きだったって、今年の冬は思い出したから。懐かしくなった」
 透馬からプレゼントが届いたから、ますますそう感じたのだ。それにしても誕生日がクリスマス当日だったとは。瑛佑の直感大当たりだったことがなんだか嬉しい。いま宝くじを買ったら当たるかもしれない。ちょうどテレビを賑わせているシーズンなのだし。
 少しして母親が電話口でため息をついた。「処分しちゃったわよあんなの」やけに重たげに言う。
『だってあれは、あなたのお父さんが私にくれたものだからね』
「――――え、そうなのか」父が贈ったもの。思いもよらなかった。
『そうよ。結婚前に、デートで街歩いてて雑貨屋にあってね、かわいくて。それで買ってもらったの。でも別れたから。物に罪はないけれども、別れた夫の買ってくれたもの、というか『ああこんなの買ってもらったわね』っていちいち回想するのが嫌なの、私はね。瑛佑がそんなに気にいっていたとは意外だったわ。ごめんなさいね』
 さして悪いとは思っていない口ぶりで言う。彼女の行いはいつもまっすぐで思い切りがいい。後悔なんてものは滅多にしない。
『でもあれ、まだ作ってるんじゃないかしら』
しかし意外なことを言い出した。
「え?」
『ドイツのメーカーだけど、日本にも事業展開していたと思ったわ。探してみたら?』
 そして母は、後でメーカー名をメールで教える、と言って電話を終えた。じきに携帯電話が振動し、メーカー名と会社のホームページと思われるアドレスが送られてきた。瑛佑よりも先にスマートフォンに変えた母だ。こういうことをそこらの若者よりもよっぽど上手に使いこなせる、老いとは無縁の五十代だ。
 指定されたURLをひらくと、直でファブリックのページに飛んだ。食器やリビング雑貨を扱うメーカーでデザイン受賞も数々、言われてみればこれ見たことあるな、というグラスや置き時計もあった。しかしクリスマスオーナメントの項目はない。同じページを閲覧していると思しき母から追記のメールが来て、「いまは作ってないみたいね。直販サイトよりwebショッピングやオークションで探してみるとあるかしら」といくつかの通販サイトのURLが羅列してあった。
 結論から言えば、木馬はなかった。あったがオークションで落札済みであったり、やたらと値の張るアンティークとして売られていたりする。どうしても欲しかったわけではないが、手に入らないと思うとがっかりした。
 木馬のオーナメント自体はけっこうある。その中からこれがいい、と思うものを見つけたので、試しに購入することにした。星や人形やりんごといった木製のオーナメントのセットだ。クリスマスは今日、明日以降の受け取りでどうするんだと思っても、心が煌いている。普段滅多に物欲を刺激されることがないので、珍しい。
 あくびが出た。まだ寝たい。
 ベッドへどさりと横たわり、透馬からのプレゼント、というか透馬いわく透馬自身への誕生日プレゼントであるブランケットを引っ張る。口元へ当てて息を吸い込むと、新品特有の、少しだけ脂っぽいウールのにおいがした。嫌いじゃない。布団の上にブランケットを重ね、飼い猫と一緒に布団へ潜りこむ。眠りに落ちる寸前、母からのワインを開けるときには透馬を誘うといいかもしれない、と思った。


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粟津原栗子
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自己紹介:
成人女性に向けたBL小説を書いています。苦手な方と年齢に満たない方は回れ右。
問い合わせ先→kurikoawaduhara★hotmail.co.jp(★を@に変えてください)か、コメント欄にお願いいたします。コメント欄は非公開設定になっています。

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