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「――え? おめでとう?」寝起きすぐでこれ、思考がまわらない。
『はい、ありがとうございます』
「なにかいいことあったのか」
『今日誕生日なんです、おれ。二十八歳バースデー』
なんだそりゃ。こうあからさまに祝え! とされたことは秀実相手にもなかなか思い浮かばなくて、テロに近いと思った。「そりゃ、おめでとう」
『で、送った毛布、どうですか?』
「――ってことはやっぱあれおれにくれるものなの? いいよ、すごく気に入った。でもさ」
『良かった。あれ、誕生日プレゼントです』
「……おれの?」意味が全く分からない。
『いえ、おれの』ますます分からない。
電話の向こうで楽しそうな笑い声が響いた。息の音が吹きかかる。
『いや、贈り物って楽しいじゃんね。こういう時期なら尚更さ。プレゼントを贈る楽しみ、っていう誕生日プレゼントです。おめでとうおれ、っつって』
「いや、いや」瑛佑には到底発生し得ない発想だ。「おれが貰ってプレゼントに、なるか」
『本人がなるって言ってんだからなるんですよ。それね、フィンランドのメーカーです。瑛佑さんの部屋にある椅子と同じ会社のプロダクト』
言われて、今ちょうど座っている椅子を見下ろした。よく確認すればブランケットについているタグは見覚えがある。モスグリーンの座面にこのブランケットは、風合いがぴったりくる。
『あんま金ないんでアウトレット品でごめんなさい、ですけど』
「これに合わせて、わざわざ?」ネコの爪痕だらけですっかりみすぼらしくなってしまっている椅子だというのに。
『それ、瑛佑さんの部屋にあったらいいなあと思ったんで。使ってください。使わなくても置いといてください、次に泊まりに行ったときにおれが使うから。トーフの毛だらけになっちゃったら、おれが洗濯するから』
「ちゃんとつかうよ。ありがとな」あんまり切実に言うから、誠意が伝わるように心がけて発音した。透馬が満足の吐息を漏らす。
『良かった。――びっくりしました?』
「した。クリスマスの朝にクリスマスプレゼントが予想しないところから届いたから。でも嬉しいな、こういうの、な」
電話の向こうで照れ臭そうに笑う透馬の表情が、目蓋の裏に想像できた。
「二十八歳おめでとう、いい一年にしてくれ」
『強要してすいません。ありがとうございます』
「おれの誕生日には透馬になにか贈らないとな」
『え、本当に? 瑛佑さん、誕生日いつですか?』
「五月十一日」
『本当にくれます?』
「やるよ。疑うなよ」
『やばい、まじで嬉しい。五月楽しみになってきた』
こっちがプレゼントじゃん、と言って、また笑った。笑いっぱなしのまま電話は続いてしまいそうだったが、「やべもう昼休み終わる、」と言って慌ただしく切れた。携帯電話をベッドの上にそっと置き、改めてブランケットを広げてみる。自分の誕生日にそんな発想をするか? とブランケットを眺めて笑った。全く本当に分からない男だ。
ただ、その突拍子もない考えは、実は相手を和ませることに終始していると徐々に分かって来た。自分本位の興味だけで押し付けてくるものではなく、むしろ逆だ。どうか温かい気持ちになりますようにと必死で祈る姿勢が見える。切実で誠実に、本心ではとても怖がりながら。
秀実とはまた違う動機で他人を求めている。家庭不和と不倫、込み入った事情があるのは承知の上だが、それ以上は瑛佑の想像外、というよりも端から思考の仕方が違うのだ。瑛佑よりもきっとはるかに、あらゆる事象からの感受性が強い。
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『はい、ありがとうございます』
「なにかいいことあったのか」
『今日誕生日なんです、おれ。二十八歳バースデー』
なんだそりゃ。こうあからさまに祝え! とされたことは秀実相手にもなかなか思い浮かばなくて、テロに近いと思った。「そりゃ、おめでとう」
『で、送った毛布、どうですか?』
「――ってことはやっぱあれおれにくれるものなの? いいよ、すごく気に入った。でもさ」
『良かった。あれ、誕生日プレゼントです』
「……おれの?」意味が全く分からない。
『いえ、おれの』ますます分からない。
電話の向こうで楽しそうな笑い声が響いた。息の音が吹きかかる。
『いや、贈り物って楽しいじゃんね。こういう時期なら尚更さ。プレゼントを贈る楽しみ、っていう誕生日プレゼントです。おめでとうおれ、っつって』
「いや、いや」瑛佑には到底発生し得ない発想だ。「おれが貰ってプレゼントに、なるか」
『本人がなるって言ってんだからなるんですよ。それね、フィンランドのメーカーです。瑛佑さんの部屋にある椅子と同じ会社のプロダクト』
言われて、今ちょうど座っている椅子を見下ろした。よく確認すればブランケットについているタグは見覚えがある。モスグリーンの座面にこのブランケットは、風合いがぴったりくる。
『あんま金ないんでアウトレット品でごめんなさい、ですけど』
「これに合わせて、わざわざ?」ネコの爪痕だらけですっかりみすぼらしくなってしまっている椅子だというのに。
『それ、瑛佑さんの部屋にあったらいいなあと思ったんで。使ってください。使わなくても置いといてください、次に泊まりに行ったときにおれが使うから。トーフの毛だらけになっちゃったら、おれが洗濯するから』
「ちゃんとつかうよ。ありがとな」あんまり切実に言うから、誠意が伝わるように心がけて発音した。透馬が満足の吐息を漏らす。
『良かった。――びっくりしました?』
「した。クリスマスの朝にクリスマスプレゼントが予想しないところから届いたから。でも嬉しいな、こういうの、な」
電話の向こうで照れ臭そうに笑う透馬の表情が、目蓋の裏に想像できた。
「二十八歳おめでとう、いい一年にしてくれ」
『強要してすいません。ありがとうございます』
「おれの誕生日には透馬になにか贈らないとな」
『え、本当に? 瑛佑さん、誕生日いつですか?』
「五月十一日」
『本当にくれます?』
「やるよ。疑うなよ」
『やばい、まじで嬉しい。五月楽しみになってきた』
こっちがプレゼントじゃん、と言って、また笑った。笑いっぱなしのまま電話は続いてしまいそうだったが、「やべもう昼休み終わる、」と言って慌ただしく切れた。携帯電話をベッドの上にそっと置き、改めてブランケットを広げてみる。自分の誕生日にそんな発想をするか? とブランケットを眺めて笑った。全く本当に分からない男だ。
ただ、その突拍子もない考えは、実は相手を和ませることに終始していると徐々に分かって来た。自分本位の興味だけで押し付けてくるものではなく、むしろ逆だ。どうか温かい気持ちになりますようにと必死で祈る姿勢が見える。切実で誠実に、本心ではとても怖がりながら。
秀実とはまた違う動機で他人を求めている。家庭不和と不倫、込み入った事情があるのは承知の上だが、それ以上は瑛佑の想像外、というよりも端から思考の仕方が違うのだ。瑛佑よりもきっとはるかに、あらゆる事象からの感受性が強い。
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プロフィール
HN:
粟津原栗子
性別:
非公開
自己紹介:
成人女性に向けたBL小説を書いています。苦手な方と年齢に満たない方は回れ右。
問い合わせ先→kurikoawaduhara★hotmail.co.jp(★を@に変えてください)か、コメント欄にお願いいたします。コメント欄は非公開設定になっています。
****
2022*08*11-21
暑いですね。番外編短編、ちょこっと更新しています。
2021*12*04-2022*03*17
お久しぶりです。短編長編更新。
短編「さきごろのはる」
短編「月の椅子」
短編「みんな嬉しいお菓子の日」
長編「ファンタスティック・ブロウ」
短編「冬の日、林檎真っ赤に熟れて」
2021*08*16-08*19
甘いお菓子のある短編「最善最愛チョコレート」更新。
問い合わせ先→kurikoawaduhara★hotmail.co.jp(★を@に変えてください)か、コメント欄にお願いいたします。コメント欄は非公開設定になっています。
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2022*08*11-21
暑いですね。番外編短編、ちょこっと更新しています。
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