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「――ていうかさ」仕切り直される。「子どもに恵まれない夫婦が積極的にバザーやボランティア活動に関わっていく動機、みたいなの」
また、間。
「――いや、やっぱりちょっと違うか。…うまく説明にならないな」
「子ども、ほしいんですか、高坂さん」
だったとしたらとても生々しくて切実で、生半可には返事をしてはいけないと思った。同性愛者の婚姻やパートナー制度についていま各国どうなっていたんだっけと頭の中をフル回転させ、注意深く訊ねる。
「いや、そうじゃない。ほしいわけじゃないし、ほしくなったとしても無理じゃん。海外行きゃ少しは現実的になるのかもしれないけど、それにしたって絶対におれと夏のだけの子どもってならないし。それは違うんだけど」
夏、と呼んだことをなんとなく頭の中で反芻した。普段は「夏人」と潔く呼んでいる。
「子どもいる夫婦なら、例えば柳田みたいな家族だったら、育ててかなきゃいけないからどうしたって人と関わっていくだろ、当たり前に。人も寄ってくるだろうしな。おれと夏はそれがないから、孤立する可能性がある」
「人から、ですか。社会から? 考えすぎですよ」
二人とも働いているし、おまけに接客商売だ。人を嫌う人たちでもない。あり得ない、と即座に首を横に振ったが、高坂は深く息を吐いた。
「おれたちの性質みたいなもんだよ。黙ってても一日過ごせてしまう、ずっと二人っきりで閉じたまんまで、なんにも困らねえんだ。付き合いはじめの頃は本当にさ、夏とだけで人生終わっていいと思ったんだよ。夏が死んだらおれも死んで、おれが死んだら夏も死んで、おしまい。でも、いっせーの、で死ねないからさ、現実は」
いつの間にか高坂は両手を組んでソファに深く沈み込んでいる。その手に強く力が込められている訳ではない。指輪もはまらないなめらかな指だが、重なっているのは夏人の無骨な指なんじゃないかという気がして、心臓がひやりとした。
「二人きりじゃいけないよな、っていう話をしたんだ。夏が言った。もっと誰かと関わっていこうって。なにかの拍子にひとりになることは避けなきゃならない。それを望んだりはしていない。いつかなんらかの理由で別れる時が来てしまっても、お互いの人生はきちんと全うすること。そのためには、他人も混ぜていかないと」
なあ、夏。そう言って高坂が斜め上を見た。夏人が高坂の背後に立っていたことに、視界に入っていたはずなのに気付かなかった。
夏人は無言で頷いて、「後から来る子、連絡来た?」と瑛佑に訊いた。瑛佑が首を横に振るのを見て、やはり無言で頷き返す、のを高坂が「やっぱおまえら面白いよな」と笑った。
「夏人、今日たのしいか?」
高坂が夏人に訊く。
「楽しいよ。滋樹も楽しいだろ。瑛佑くんも楽しい?」訊かれたので頷く。「よな。みんなそれぞれに楽しく過ごしている。そうやって集まってる。それでいいんだ」
「ってのが、夏人の持論」
推し量るにはちょっと足りない単語数をそうまとめられた。多分、二人だけに通じる言語なんだろう。
夏人の手が、そっと高坂の肩に触れている。そういやうちの新・両親たちも外出先じゃ手をつないで歩く。ここ数年、彼女のいない瑛佑にはない触れ方が、唐突に恋しく、懐かしくなった。
いいなと思ったから、瑛佑は頷いた。「おれもそれ、持論にします」
← 15
→ 17
また、間。
「――いや、やっぱりちょっと違うか。…うまく説明にならないな」
「子ども、ほしいんですか、高坂さん」
だったとしたらとても生々しくて切実で、生半可には返事をしてはいけないと思った。同性愛者の婚姻やパートナー制度についていま各国どうなっていたんだっけと頭の中をフル回転させ、注意深く訊ねる。
「いや、そうじゃない。ほしいわけじゃないし、ほしくなったとしても無理じゃん。海外行きゃ少しは現実的になるのかもしれないけど、それにしたって絶対におれと夏のだけの子どもってならないし。それは違うんだけど」
夏、と呼んだことをなんとなく頭の中で反芻した。普段は「夏人」と潔く呼んでいる。
「子どもいる夫婦なら、例えば柳田みたいな家族だったら、育ててかなきゃいけないからどうしたって人と関わっていくだろ、当たり前に。人も寄ってくるだろうしな。おれと夏はそれがないから、孤立する可能性がある」
「人から、ですか。社会から? 考えすぎですよ」
二人とも働いているし、おまけに接客商売だ。人を嫌う人たちでもない。あり得ない、と即座に首を横に振ったが、高坂は深く息を吐いた。
「おれたちの性質みたいなもんだよ。黙ってても一日過ごせてしまう、ずっと二人っきりで閉じたまんまで、なんにも困らねえんだ。付き合いはじめの頃は本当にさ、夏とだけで人生終わっていいと思ったんだよ。夏が死んだらおれも死んで、おれが死んだら夏も死んで、おしまい。でも、いっせーの、で死ねないからさ、現実は」
いつの間にか高坂は両手を組んでソファに深く沈み込んでいる。その手に強く力が込められている訳ではない。指輪もはまらないなめらかな指だが、重なっているのは夏人の無骨な指なんじゃないかという気がして、心臓がひやりとした。
「二人きりじゃいけないよな、っていう話をしたんだ。夏が言った。もっと誰かと関わっていこうって。なにかの拍子にひとりになることは避けなきゃならない。それを望んだりはしていない。いつかなんらかの理由で別れる時が来てしまっても、お互いの人生はきちんと全うすること。そのためには、他人も混ぜていかないと」
なあ、夏。そう言って高坂が斜め上を見た。夏人が高坂の背後に立っていたことに、視界に入っていたはずなのに気付かなかった。
夏人は無言で頷いて、「後から来る子、連絡来た?」と瑛佑に訊いた。瑛佑が首を横に振るのを見て、やはり無言で頷き返す、のを高坂が「やっぱおまえら面白いよな」と笑った。
「夏人、今日たのしいか?」
高坂が夏人に訊く。
「楽しいよ。滋樹も楽しいだろ。瑛佑くんも楽しい?」訊かれたので頷く。「よな。みんなそれぞれに楽しく過ごしている。そうやって集まってる。それでいいんだ」
「ってのが、夏人の持論」
推し量るにはちょっと足りない単語数をそうまとめられた。多分、二人だけに通じる言語なんだろう。
夏人の手が、そっと高坂の肩に触れている。そういやうちの新・両親たちも外出先じゃ手をつないで歩く。ここ数年、彼女のいない瑛佑にはない触れ方が、唐突に恋しく、懐かしくなった。
いいなと思ったから、瑛佑は頷いた。「おれもそれ、持論にします」
← 15
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無題
前回のコメントに返信ありがとうございます。
不快に思われなくて安心しました。
作風が似ているのではなくて、おそらくBL小説なのに純文学であるかのような描写の細かさに惹かれたんだと思います。粟津原様も村上春樹先生も人物描写が素敵です。
まだ現在更新されている小説までは読めていませんが、ごりごり読み進めさせていただきたいと思っています。
今は大希が貢の絵を見つけたところです。笑
作品が多いので大変だったことと思います。背後から隠れて、でも激しく応援しております。頑張ってください!!
ちなみに
村上春樹先生の小説で1番好きなのは「世界の終わりとハードボイルド」です。今とは作風が違いますが、素敵な本です。
不快に思われなくて安心しました。
作風が似ているのではなくて、おそらくBL小説なのに純文学であるかのような描写の細かさに惹かれたんだと思います。粟津原様も村上春樹先生も人物描写が素敵です。
まだ現在更新されている小説までは読めていませんが、ごりごり読み進めさせていただきたいと思っています。
今は大希が貢の絵を見つけたところです。笑
作品が多いので大変だったことと思います。背後から隠れて、でも激しく応援しております。頑張ってください!!
ちなみに
村上春樹先生の小説で1番好きなのは「世界の終わりとハードボイルド」です。今とは作風が違いますが、素敵な本です。
Re:佳子さま
お越しいただきありがとうございます。
>不快に思われなくて安心しました。
>作風が似ているのではなくて、おそらくBL小説なのに純文学であるかのような描写の細かさに惹かれたんだと思います。粟津原様も村上春樹先生も人物描写が素敵です。
>まだ現在更新されている小説までは読めていませんが、ごりごり読み進めさせていただきたいと思っています。
>今は大希が貢の絵を見つけたところです。笑
>作品が多いので大変だったことと思います。背後から隠れて、でも激しく応援しております。頑張ってください!!
人物描写が素敵、と仰って頂けてとても嬉しいです。ありがとうございます。
村上春樹さんのお名前が挙がるなんて思ってもみなくてですね…驚きました。描写の細かさは意識しています。おろそかにならないよう、出来るだけ想像して頂けるようにあれやこれやとやっています。(が、成果があがっているのかは謎です…)
こんなんでももう4年目に突入しておりまして、「パーフェクトサイレンス」もかなり前の作品に感じます。いま読むと直したい箇所満載、恥ずかしさがこみあげてくるので、こうして感想を頂くとおなかがすうすうします。(笑)
>ちなみに
>村上春樹先生の小説で1番好きなのは「世界の終わりとハードボイルド」です。今とは作風が違いますが、素敵な本です。
厚かましいリクエストにこたえても頂き、大変恐縮です。今度借りるか買うかしたいと思います。
心のメモ帳にメモしておきます。
またぜひ作品の感想を聞かせてください。
コメントありがとうございました!
栗子
>不快に思われなくて安心しました。
>作風が似ているのではなくて、おそらくBL小説なのに純文学であるかのような描写の細かさに惹かれたんだと思います。粟津原様も村上春樹先生も人物描写が素敵です。
>まだ現在更新されている小説までは読めていませんが、ごりごり読み進めさせていただきたいと思っています。
>今は大希が貢の絵を見つけたところです。笑
>作品が多いので大変だったことと思います。背後から隠れて、でも激しく応援しております。頑張ってください!!
人物描写が素敵、と仰って頂けてとても嬉しいです。ありがとうございます。
村上春樹さんのお名前が挙がるなんて思ってもみなくてですね…驚きました。描写の細かさは意識しています。おろそかにならないよう、出来るだけ想像して頂けるようにあれやこれやとやっています。(が、成果があがっているのかは謎です…)
こんなんでももう4年目に突入しておりまして、「パーフェクトサイレンス」もかなり前の作品に感じます。いま読むと直したい箇所満載、恥ずかしさがこみあげてくるので、こうして感想を頂くとおなかがすうすうします。(笑)
>ちなみに
>村上春樹先生の小説で1番好きなのは「世界の終わりとハードボイルド」です。今とは作風が違いますが、素敵な本です。
厚かましいリクエストにこたえても頂き、大変恐縮です。今度借りるか買うかしたいと思います。
心のメモ帳にメモしておきます。
またぜひ作品の感想を聞かせてください。
コメントありがとうございました!
栗子
プロフィール
HN:
粟津原栗子
性別:
非公開
自己紹介:
成人女性に向けたBL小説を書いています。苦手な方と年齢に満たない方は回れ右。
問い合わせ先→kurikoawaduhara★hotmail.co.jp(★を@に変えてください)か、コメント欄にお願いいたします。コメント欄は非公開設定になっています。
****
2022*08*11-21
暑いですね。番外編短編、ちょこっと更新しています。
2021*12*04-2022*03*17
お久しぶりです。短編長編更新。
短編「さきごろのはる」
短編「月の椅子」
短編「みんな嬉しいお菓子の日」
長編「ファンタスティック・ブロウ」
短編「冬の日、林檎真っ赤に熟れて」
2021*08*16-08*19
甘いお菓子のある短編「最善最愛チョコレート」更新。
問い合わせ先→kurikoawaduhara★hotmail.co.jp(★を@に変えてください)か、コメント欄にお願いいたします。コメント欄は非公開設定になっています。
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2022*08*11-21
暑いですね。番外編短編、ちょこっと更新しています。
2021*12*04-2022*03*17
お久しぶりです。短編長編更新。
短編「さきごろのはる」
短編「月の椅子」
短編「みんな嬉しいお菓子の日」
長編「ファンタスティック・ブロウ」
短編「冬の日、林檎真っ赤に熟れて」
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