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成人女性を対象とした自作小説を置いています。
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「夏人がなんか作るから、適当に人呼んで、飲んで食って。秀実の『失恋パーティ』とでも銘打とうか」
 高坂はにやりと笑った。
「そんなことして大丈夫ですか? ただでさえ貴重な休日が、台無しになりますよ」
「夏人がメシ作って、おれが酒を用意するんだ。台無しになるわけあるかよ」
 高坂の台詞に、改めて高坂の顔を見た。そりゃそうか、と納得した。夏人の食事が美味くないはずがないし、高坂の酒が外れるわけがないし、最高の料理とドリンクが振る舞われて、楽しくないはずがない。
 シフトを擦り合わせて、十二月中旬の水曜日に決行となった。高坂たちはこの手のことが意外に好きで、こんな忙しいシーズンでなければ何度か呼ばれたことがある。高坂は「柳田も呼んだら来るかなー」と同僚の名を挙げた。それで瑛佑も、透馬を呼んでみるのもいいかもしれない、と思った。
 メールのやり取りは毎日あっても、顔は全く合わせていない。夏人の店にだって連れて行けていないから、料理を食べさせるのにいい機会じゃないかと思った。誘いのメールをしてみると即座に「行きます」と返信があった。
『あ、でも水曜日なら仕事だ。夜までやってますか?』
『夜までやるような予定にしてもらうよ。初対面な上に無口が揃うけど大丈夫か?』
『慣れてる、って言ったでしょ。それにヒデくん来るんですよね』
『あいつが主役で花だから』
『うわー、調子乗ってそうなヒデくんが思い浮かぶ。おれ花輪持って行ってやろうかな』
『想像でもう気持ち悪い』
『おれが行く頃に、シメになります? 食後はケーキ? アイス? ご希望のスイーツ、引き受けますよ』
 それで甘えることにした。仕事帰り、透馬がどこかに寄って甘いものを買ってくる。その話を高坂にしたら「夏人が気にしてる洋菓子屋があるんだけど」と早々と店を指定され、秀実にしたら「おれもなにかしたい!」と張り合った。なに言ってんだか。楽しくなる。
 迎えた当日はひどい寒波がやって来て、芯から冷える日だった。瑛佑は夜勤明けで、昼ごろまで仮眠を取ってから出かけた。寒いので、アウターの上からマフラーをぐるぐる巻く。街行く人も重たい身なりの人間が多かった。
 秀実が食材の買い出しをして、あらかじめ高坂と夏人の家に向かう手筈だ。高坂の同僚の柳田も妻と子ども二人の一家四人でやって来ていた。後から来る透馬も入れれば九人の、普段の瑛佑の交友なら信じられない人数だった。
 昼過ぎに現れた瑛佑を見て、柳田は「場に華がない!」と明るく唸った。柳田の妻と、四歳になる上の娘とを除けば後は男。瑛佑は「しょうがないでしょう」と苦笑した。
「カノジョ連れてくるかと思ってたら連れは男だって言うから、おれもうあからさまにえーって高坂にゆっちゃったよ」
「秀実の気に入りです、久々に会うらしいんで勘弁してやってください」
「ヒデのお気に入りはいいけどさあ、野郎ばっかじゃ失恋の慰めにはならんだろ」
 準備でせわしない高坂が「野郎ばっかじゃ」の部分で通りかかりに柳田と目を合わせ、お互いに半笑いしていた。
「あいつはいいんですよ、楽しけりゃなんでも。柳田さんの奥さんとお嬢さんとで華は十分です」
「まあ、そうだよな」
 真顔で言う。四年ほど前に結婚して、柳田はますます明るくなった。柳田の子どもたちのために途中で買い求めたクッキーの小包を出すと、赤と金色のラッピングのそれを素直な笑顔で喜び、子どもたちを呼んでくれた。
 失恋会のメニュー。香草とピラフを詰めた鶏の丸焼き。ホタテとエビと玉ねぎとジャガイモのフライ盛り合わせ。白身魚とトマトの煮込み。ホワイトソースのオムレツ。野菜だしのスープ。蒸し野菜にソース三種類。普段夏人が作る料理よりも家庭的なのは、子どもに合わせて考えたからだ。秀実も味覚が子どもなので、肉と揚げ物ばかりだと単純に喜ぶ。柳田の下の息子とすっかり意気投合して、喋ったり食べたり食べたり飲んだりと忙しい。
 料理は舌の上で踊るように美味で、あまり飲めない瑛佑にも酒がするりと入ってしまう。日野は主に柳田夫妻と、瑛佑は高坂ととりとめもなく話をしながら飲んでいた。各々に好きに休憩を挟みながら、休みながら、適度にくつろいだ時間が流れる。
 夕方、腹休めに高坂の蔵書をめくりながら透馬からの連絡を待っている間に、再び高坂が近付いてきた。
「なんか読みたい本でもあったら貸すよ」そう言って手渡してくれたのは、ライムとレモンのスライスの入ったソーダ水だった。
「連れ、何時頃来るの」
「多分そろそろ」
「どんな奴?」
「んー……秀実二号、みたいな奴です」
 と言ったら高坂は「えっ」と声を上げた。「そりゃやかましくなるな」と吹き出す。
「や、バカでハッピーって意味ではなくて、お喋りで淋しがりで子どもっぽいかと思えば実はちゃんと大人で、その逆で、おれにとっては正体のつかめない地球外生物な辺りが」
「ふうん、複雑なやつと付き合ってんだな」
「高坂さん、今日のこと色々と、ありがとうございます」
「いや、おれたちも騒ぎたかっただけだから。礼言うほどのことじゃないって」
 そう一度はひらひらと手を振った高坂だが、しばらく考えて、「んー、と」と言葉を探り始めた。なんだろうか、珍しい。


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はじめまして
最近このブログを見つけて、今頭から読んでいるところです。
文書がとても好きです。
もしかしたら、ですが、村上春樹さんを読まれますか?文の雰囲気や主人公の立ち方(うまく表現できなくてすみません)みたいなものが似ているなとおもいまして。
私が村上春樹さんを好きだから、好きだと思った栗子さんの文書が似ているような気がするだけかもしれませんが汗
不快にさせてしまったら申し訳ありません。
ただ、ファンですとお伝えしたかったのです
佳子 2013/11/15(Fri)20:03:46 編集
Re:はじめまして
佳子さま

はじめまして。読んでくださってありがとうございます。

>最近このブログを見つけて、今頭から読んでいるところです。
>文書がとても好きです。
>もしかしたら、ですが、村上春樹さんを読まれますか?文の雰囲気や主人公の立ち方(うまく表現できなくてすみません)みたいなものが似ているなとおもいまして。
>私が村上春樹さんを好きだから、好きだと思った栗子さんの文書が似ているような気がするだけかもしれませんが汗
>不快にさせてしまったら申し訳ありません。
>ただ、ファンですとお伝えしたかったのです

不快にだなんてとんでもない! こうして率直な感想を頂けるのはとても嬉しいことです。
村上春樹さんの作品は三作だけ読みました。「神の子どもたちはみな踊る」「ノルウェイの森」「遠い太鼓」です。たったこれだけですので「村上春樹読んでます」とは言いにくいですね…(^_^;)
似ている、という意識は全くありませんでした。面白いご指摘だと思います。
もう少し村上作品を読んでみようかな、という気になりました。読んでみたいと思います。
オススメありましたらご紹介ください。コメント欄でもメールフォームでも構いませんので。

ファンです、というお言葉が何よりも嬉しかったです。これからもどうかよろしくお願いいたします。
コメントありがとうございました!

栗子
【2013/11/16 07:21】
「んー、と」の続きは?、高坂さん!?、
高坂さんが、ちょっと言いにくいことを言いたいんだろうなぁと想像はできるのですが…。

何を言われるのだろうか…と、瑛佑さんと同じような気持ちになって、ドキドキと明日の続きを待っています。
Bei 2013/11/15(Fri)23:37:36 編集
Re:「んー、と」の続きは?、高坂さん!?、
Beiさま
いつもありがとうございますw

>高坂さんが、ちょっと言いにくいことを言いたいんだろうなぁと想像はできるのですが…。
>何を言われるのだろうか…と、瑛佑さんと同じような気持ちになって、ドキドキと明日の続きを待っています。

高坂さん、なにを言うのか気になりますよね。ここで切るか私、と記事を作成する際に思ったぐらいです(笑)
今日の更新で明らかになります。この更新分を書いていて「あ、高坂さんと夏人くんのこと書きたいや」と思ったので「パラダイス」がある、と思ってください。
というわけで本日の更新分は「パラダイス」と合わせてお読み頂けるとなお楽しめるかと思いますw

なんかCMみたいなお返事になってしまいました。
本日の更新もどうぞお楽しみに。
コメントありがとうございましたw

栗子
【2013/11/16 07:26】
プロフィール
HN:
粟津原栗子
性別:
非公開
自己紹介:
成人女性に向けたBL小説を書いています。苦手な方と年齢に満たない方は回れ右。
問い合わせ先→kurikoawaduhara★hotmail.co.jp(★を@に変えてください)か、コメント欄にお願いいたします。コメント欄は非公開設定になっています。

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