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成人女性を対象とした自作小説を置いています。
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 寝室としてつかう部屋にベッドはふたつだ。いきなりダブルベッドでも良かったのだが透馬が照れ、「きっとひとりで寝たいと思う時もあるじゃないすか」と主張し、考えの末に揃いのベッドを二つ購入した。なにも一緒に眠るだけがカップルではないし、透馬の眠りの浅さも考慮した結果だ。ひとりぶんのスペースをきちんと確保した方が寝やすいというから、いざ困ったら(なにに困るんだかよく分からないが)その時考えることにして、ベッドは分けた。これは遠慮なんかじゃない、ときちんと確認をして。
 自分のベッドに寝転んだ透馬は、なにやら絵を描くのに夢中になっている。ボールペンでぐりぐりと丸をつなげて描いていたかと思えば、そこに色鉛筆で好きに色を塗り出す。テキスタイルのパターンのような、抽象的なかたちの方が描くのを得意とするらしいことも最近知った。絵を見せてもらったのがつい先日だからだ。
 撫でていた飼い猫は膝の上にそのまま、透馬を眺める。まだ歌を口ずさんでいる。「その歌さ、」と声をかけると、素の顔で透馬はこちらを向いた。
「春よ来い?」
「だっけ、タイトル」
「いやおれもろくに分かんないでテキトー歌ってますけど」
「まあいいや、それな。透馬のことみたいだな」
 そう言うと、どこが? という顔をしてはじめから歌いだした。はーるよこい、はーやくこい。あーるきはじめたみーちゃんが。
「ちーちゃんでしたっけ?」
「知らないけど、そこ」
「みーちゃん?」
「歩き始めた、ってところが、この春の透馬にぴったりくるような気がしてさ」
 就職先を決めて働き出した。こだわっていた家と恋と決別した代わりに、瑛佑と暮らすことを選んでくれた。変化は誰が見ても手に取るように分かる。透馬はいま、いっせいに芽吹き出した春の樹木だ。
 笑っていた顔はふと、泣き出しそうにきゅ、と歪んだ。
「そう、すかね」
「うん、そう思うよ」
「――でもおれだと、あるきはじめたとうちゃんが、になっちゃう」
「ふ、」
「要介護の徘徊老人の歌になっちゃいませんか」
 言葉遊びが楽しくてつい笑った。透馬も笑った。歌詞を自分の名に置き換えてまた歌いだす。今夜はいつまでさえずっているつもりだろう。
 おんもにでたいとまっている、まで歌って、ふあ、とあくびをした。
「――瑛佑さん」
「ん?」
 ひらいていたスケッチブックを閉じてヘッドボードへ置くので寝るのかと思いきや、透馬は半分かけていた布団を軽く持ち上げた。
「こっち、来ませんか」
「……」
「……来ませんか?」
 ためらいがちな声色に、わずかな戸惑いが含まれているのを感じ取る。勇気を出して言った台詞だと分かる。うん、と頷き、飼い猫を残してベッドを抜け出た。ベッドに立ちあがりそのまま透馬のベッドへ足を踏み込むと、思いのほか沈むスプリングに透馬が驚いて声をあげた。
「瑛佑さん、大胆」
「思い切りが大事」
「ちょっと、夢の通りだったかも」
「え?」
「おねだり、じゃないけど、大胆に踏み込んでくれるところが」
 その体勢のまま、透馬の膝の上に載せられる。寝る前だったから二人とも薄着で、綿地越しに下半身が触れ合って芯にぽっと火がともされたと感じた。
「この時期っていいですよね」と透馬が言った。
「なに?」
「長袖のTシャツにパンツ一枚ってそそるなあって思って」
「ばか」
「半そでTシャツにパンツでも、パンツ一枚でも、全裸でも、まあなに着てたって着てなくたってそそるんすけど」
「大概だろ、それ」
「……久しぶり、すね」
 うつむき、瑛佑の胸に額を押し付けて透馬は呟く。
 透馬がFから戻って来てから引越しまで透馬はずっと瑛佑の部屋で暮らしたわけだが、完全に仲直りですぐさま元通り、というわけにはいかなかった。まず透馬は生活に馴染むことに対してずっと緊張していたし、その緊張をほぐすだけでもだいぶ時間を要した。瑛佑の方にだってわだかまりがあった。一度は大嘘ついて逃げられたのだ。しかも未遂とはいえ浮気を試みた事実があって、それは透馬の複雑な臆病さが原因だと分かっているのだけれど、簡単に許しきれるほど器も大きくはない。
 微妙に触れられないまま、瑛佑の部屋では手狭だからと部屋を探す方へと流れ、透馬も就職活動をはじめて気が逸れた。正直、部屋を探したり就活を応援したりする生活はありがたかった。そうやって少しずつ間を詰めて、ようやく現状だ。
 透馬の髪をゆっくりと撫でる。透馬が顔を上げたことが、キスの合図になった。こわごわと触れてくる癖は変わらない。一度目はノック、二度目は靴を揃えてお邪魔します、三度目にようやく上がりこんで本題に、と手順を踏まねば積極になれない透馬のキスのやり方が好きだ。真面目に愛されていると分かって。
 キスに夢中になり、そればかり繰り返していた。透馬の手は上から下へと瑛佑の背筋を絶えず撫で、性器はボクサーパンツの布地越しに重ねたままだ。淡い性感を確かなものへと育てるように、ゆらゆらと腰を動かしながらキスをする。
 透馬の手がシャツの下へ伸びる。腰を撫でさすり、胸へ、すでにとがっている乳首を指の腹でつまみ、つぶす。透馬の背に手をまわしながら、は、と息を吐いた。その吐息に透馬も嬉しそうに息を吐く。
「どこまでしていいですか」と訊かれた。はじめから全部やり直すかのように聞く。瑛佑がやめろと言えば、お互いの腰のあいだで膨らんでいるものを放置してでも中断するつもりか? 好きなだけどうぞ、という台詞は脳内に浮かんだだけで言わなかった。その代わりに透馬の手を制し、透馬の膝から降りる。
「――瑛佑さん?」
「してやる」
 腰元へ屈み、やわらかな布地を押し上げている塊を取り出す。べろりと先端を舐めると透馬は息を詰め、その様子を窺いたくて上目づかいに透馬を見やると、目が合った。手の中の勃起がぐんと嵩増す。素直な反応に笑ってやると、透馬はますます困った顔をした。


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粟津原栗子
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自己紹介:
成人女性に向けたBL小説を書いています。苦手な方と年齢に満たない方は回れ右。
問い合わせ先→kurikoawaduhara★hotmail.co.jp(★を@に変えてください)か、コメント欄にお願いいたします。コメント欄は非公開設定になっています。

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