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そもそもまっとうな恋人同士である僕らがなんで一年に一度の七夕伝説みたいなことをしているかというと、全部和のせいだ。
僕らが出会ったのは六年前。和が二十二歳で僕が二十七歳の時。僕はいまと同じ会社のいまとは違う部署にいて、仕事に手一杯だけど遊びも大事だった。和は近くの大学の四年生で、実家を継ぐべく農学部で勉強していた。
飲み屋で僕らのいる会社員連中と和のいる学生連中のテーブルが隣同士だった。僕らはお互いそれぞれの端っこに座っていて、据え付けの長椅子で隣り合っていた。僕はしたたかに酔っぱらっていて、この時の記憶は今でも思い出せない。気が付いたら和の部屋で、朝だった。
後で和から聞いた話によれば、酔っぱらった僕はいつの間に和と話しこんでいて、そのまま酔いつぶれて放置されたのを和が介抱してくれたという。話を聞き、すぐに謝罪した。その時まともに相手の顔を見た。なんとも牧歌的で、こんな都会で四年も大学生をやっている人間とは思えないほどのんびりとしていた。
大学四年の和に、社会人とは、みたいなことを酔いながら説教していたようだ。和は何が面白かったのか、僕になついた。遊べるならそれでいいやと思い、弟分が出来たようで楽しくて、僕も色々と構いこんだ。何より和は気が楽だった。側にいて苦にならない奴。
ある日いつものように居酒屋で飲んで酔っ払って、さあ帰るかという段になり座敷を降りた。和の靴が僕の靴と並んでいる。白地に青いラインのスニーカー。おおきい、と意識したら急にずきっときた。
前を歩く背中が広いとか、狭い階段を降りるときにそっと振り向いてくれるとか、傘を差しかけてくれる手が骨ばっているとか、普段は低い声が笑う時だけちょっと上がるとか。案外釣り目だったとかコートの袖口から手首の骨の出っ張りを見てしまったとか細い腰だとか襟足のくせ毛だとか。
びっくりした。恋がいきなりやってきた。それ以降なにを見てもときめいてしまって、心臓がどきどきした。
だがこいつは卒業が決まっている。卒業したら実家に帰って跡を継ぐのだ。桃だかぶどうだか梨だかを作っている果樹園を。男だしな、言っても仕方ない。僕がひっそりと恋を諦めようとしていた矢先、和は「すきだと思うんですが」と非常にあいまいな告白をしてきた。
どうしていま言うのか、三月だぞ。こっちは大人の態度で諦めようと必死だったのにこいつ――言われて真っ先にそう思ったし、言ってしまった。つまり俺も好きだと告げたのと同じだったわけだが、和は自分の告白に手一杯で、両想いというこの重大な事実に気付いてくれなかった。
「――その、好きになった人に好きだって言うの初めてで、どうしたらいいのかよく分からなくて」
「え?」
「記念だと思って、聞いておいてください。ぼくは倉島さんが好きです。今までありがとうございました」
勝手に過去形にして、頭を下げやがる。和のつむじをまじまじと見ながら、ふつりと怒りが沸いた。
何事にも逆らってみたいのが僕の性格の面倒なところだ。自己完結で幕引きをする和を叱り飛ばし、説得して、僕らは付き合いを始めた。始めて三日で和は大学を卒業した。引っ越して、遠くなった。
農家っていうのは思っていたより忙しい職業だった。朝が早い。夜も早い。農繁期は休みもない。おまけに初めの数年は、給料もなかった。家を直すとか機械を買うとかいまは我慢の時期だからとかなんとかで、自分の小遣いは別口のアルバイトで稼いでいた。
はじめはもっとマメに会おうと努力もしたが、数年が過ぎたら自然とペースが出来た。のんびり和に合わせた、一年に一度の、慰安旅行みたいな恋の仕方だ。
会えるときは精一杯お互いの時間に尽くした。和が二週間まるまる僕の部屋にいたときもあった。去年はなんだか忙しくて外で会うだけだったが、その代わりに夜景で有名なホテルで豪遊した。和の言う二年ぶりはその通りだ。そういえば今年はいつ帰るのか、泊まっていくならどこにいるつもりなのか。ミモザに気を取られて聞くのをすっかり忘れていた。
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短編「月の椅子」
短編「みんな嬉しいお菓子の日」
長編「ファンタスティック・ブロウ」
短編「冬の日、林檎真っ赤に熟れて」
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甘いお菓子のある短編「最善最愛チョコレート」更新。
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