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成人女性を対象とした自作小説を置いています。
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 駅の改札口、かかしが黄色い花を携えて立ちんぼしていた。一年で最も冷え込むこの季節、グレーや白、黒、なんて地味な色合いが多い中で黄色の花束はとても目立つ。まるで星を抱えているような眩しさだ。
 のっぽが花束。認識した途端、僕は「よし、帰る」とまわれ右をした。背が高いだけで目立つのに、あんな花束、ばかじゃないのか。注目されるに決まっている。待ち合わせの相手がおとこだと知れた時の周囲の目を想像するだけで背筋がぞわぞわする。
 ところがやつは目がいい。両目2.5を誇り、視野が広く、動体視力もいい。僕はあえなく見つかって、大声で「倉島さん!」と呼ばれた。
 長い足で人混みを難なく進む。距離があった気がしたのに、彼の歩幅ではここまで五歩だった。
 一年ぶりに会う恋人の顔を、僕は少々複雑な気持ちで見上げた。
「その花、なに」
 恋人――和(かずし)がなにか言いたげに口をひらいた、息を吸うその瞬間を狙って僕は喋った。このタイミングを制すると、相手は大体黙る。口うるさい上司の意見を遮りたいときにこの手を使う。
 手の中にあるのは、黄色のふさふさした花。まるい花がしっぽのように房になっており、和の長い腕の中でぽんぽんと揺れている。辺りに少しだけ花が散る。
 星というよりは、あまい砂糖菓子を抱えているようにも見えてきた。子どもが齧るたまごボーロを連想した。
「ミモザアカシア。時期はもう少し先なんだけど、間違って折っちゃった枝をハウスに置いといたら花狂いして咲いた。綺麗だから、倉島さんに持ってきた」
「綺麗だよ。綺麗だがおまえばかか。どうするんだよこの花」
「だから、倉島さんの部屋に飾るとか職場に持ってくとか、どうかな」
「やだ。散るからめんどうくさい」
 僕の言葉に、黄色い砂糖菓子を抱えたまま和はしょぼんと下を向く。
 花に隠れて見えなかったが、和の腕にも荷物がかかっている。銀色の波模様がプリントされた紙袋。中から酒の瓶らしき包装紙やお菓子みたいな四角い箱が見える。
 そっちなに、と聞いたら、和は「おみやげ、です」としょぼけたまま言った。
「地元のお酒、まえに倉島さんが美味しいって言ってた酒造のやつ。こっちがジャム。うち去年から加工品も始めてさ、これが美味く出来たんだ。あとドーナツ、駅で売ってて美味しそうだったのと、こっち生姜ののど飴と、地元で有名な画家のポストカードと電車のピンバッジがかっこよかったからそれと」
「おまえおれのかあちゃんか!」
 呆れた。でかい紙袋にそれだけ入れてきたとは。知らなかった、おまえはおれの恋人だと思っていたが母ちゃんだったんだなぁと、縦に長い男を上から下までしげしげと眺める。
 恋人、各務和は二十八歳。身長は百八十八㎝もあり、百六十三㎝の僕とはなんと二十五㎝も開きがある。身長の割に体重がなく、ひょろひょろと長く見える。肩幅は広いが厚みがないので重いコートが似合わない。自由に跳ねた癖毛は短く、薄い顔でぼんやりと笑っているから印象に残りにくい。名前と見た目で仲間内には「かかし」と呼ばれている。確かに田んぼに立っていたら鳥と仲良くなれそうだ。
(もっともかかしが鳥と仲良しじゃいけないんだけど。)
 首にぐるりと巻いた雪柄のマフラーはおととし僕があげたやつだ。僕より5つも若いんだからそういう色柄を与えれば多少は洒落ると思ったのに、こいつには野暮にしかならなかった。今日はちょうちょ結びになっている。田んぼのかかしが首の下で手ぬぐいを縛るが、あれの結び目に見えないこともない。
 これでも、僕の恋人なのだ。
 重たそうな紙袋を差し、「それどうすんの」と聞いた。和はそっと顔を上げる。
「だから、倉島さんにお土産、です」
「今日はこのままメシ食いがてら出かける予定だったんだけど、」
「あ、……じゃあ、ロッカーに預けてくるよ」
「花も?」
 今日は今年一番の冷え込みで、とニュースで言っていた。目立つし、あまりそのまま出歩きたくない。大体、地方から出てくる人間は生花なんか持って来ない。電車だけで四時間かかる道のり、耐える花も花だ。
 仕方がないので和の右腕に下がった紙袋を引っ張った。
「部屋、先行くよ」
「え」
「え、てなんだ、え、って」
「今日は寄らせてくれないんだと思った。倉島さんはぼくが行くの嫌がるから」
「仕方ないだろ。花は持ち歩けない」
 年に一回程度しか会わない僕らのデートは基本的に外だ。理由は腹が立つから。身長のせいで僕がぶつけない場所で頭をぶつける。僕がぴったりの椅子で膝を余らせてやっぱりぶつける。長くて邪魔。可哀想に見えるし羨ましくもあるし腹立たしいから、部屋には呼ばない。
 部屋に行けると分かった途端、和は嬉しそうに「二年ぶりだ」と呟いた。そうだったか。
「倉島さんの部屋、変わったかなぁ。前はカーテンが水色だったなぁ」
「なあ、それ夏用のシーツの色だったと思うけど」
「そうだっけ?」
「そんな色のカーテンは使ったことないよ。あと、そのシーツは処分した。いまは白い」
「そんな無難すぎるの、倉島さんらしくないよ」
「起毛のふわっふわに変えたの。今年は寒くてつらい」
 紙袋を持とうと思ったのに、和は花を寄越してくる。絶対に嫌だから拒む。結局、荷物は全部和が引き受けた。僕より若い農家は、これぐらいの荷物はどうってことないらしい。やっぱり複雑な気分だ。









拍手[59回]

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きゃ~、新作だ~~~!!!!!
いや~~~いい雰囲気の二人ですね。
栗子さんワールドだ~~~、と、久しぶりのお話に、ちょっと興奮気味で、コメント書いてます。


年に一度しか会わない恋人同士って、織姫と彦星みたい。
どうして年に一度なのかな?
部屋に行くのは2年ぶりなんて呟くとこ見ると、それなりに長い付き合いだよね??
どんな風に出会ったのかな???
なんて具合に、知りたいことがたくさんあって、続きが楽しみで楽しみで仕方ありません。
早く17時が来ないかなぁ。
Bei 2013/02/05(Tue)08:59:06 編集
Re:Beiさま
こんばんは。ご無沙汰しております!

>いや~~~いい雰囲気の二人ですね。
>栗子さんワールドだ~~~、と、久しぶりのお話に、ちょっと興奮気味で、コメント書いてます。


あーよかった嬉しいです。それにしても久々なのに短編って…(すみません。書いてはいるんですがー
春花の季節が迫ってきていますから、そんなお話です。ミモザくん。

>年に一度しか会わない恋人同士って、織姫と彦星みたい。
>どうして年に一度なのかな?
>部屋に行くのは2年ぶりなんて呟くとこ見ると、それなりに長い付き合いだよね??
>どんな風に出会ったのかな???
>なんて具合に、知りたいことがあってたくさん、続きが楽しみで楽しみで仕方ありません。
>早く17時が来ないかなぁ。

その辺の答えは本日分の更新で分かってしまいますが(笑
はじめ、このお話はとても暗かったです。タイトル(仮)は「年に一度だけ俺を抱きに来る男の話」だったぐらいですから。自分も書いてて暗くなったので、のんびりの方向へ持って行くことにしました。
和くんと倉島さんの恋、数日ですがお付き合いくださいね。
コメント励みになります。ありがとうございました!!

栗子
【2013/02/05 20:13】
プロフィール
HN:
粟津原栗子
性別:
非公開
自己紹介:
成人女性に向けたBL小説を書いています。苦手な方と年齢に満たない方は回れ右。
問い合わせ先→kurikoawaduhara★hotmail.co.jp(★を@に変えてください)か、コメント欄にお願いいたします。コメント欄は非公開設定になっています。

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