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成人女性を対象とした自作小説を置いています。
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 おじゃまします、と和が部屋に上がる。狭い玄関に大きなスニーカーが増える。恋のきっかけだからか、僕はこの光景にちょっと弱い。頬が緩む。
 和から受け取った土産の紙袋はずっしり重たかった。言った通りのものが中からあれこれ出てくる。全部僕のためだ。笑いながら中身を改めている間に和は部屋を歩き回って、窓際の日当たりのいい場所に花を置いた。
「倉島さん、見て」
「――へえ、」
「花瓶がないから。皿、借りたよ」
 僕が使っている食器の中で一番大きくて深い白地の皿に、和は上手にミモザを生けた。リースみたいに丸くしたものを水を張った皿に置き、変化をつけるように房や葉を散らす。恋人はこういうことに抜群のセンスを発揮する。だったら自分の身なりを整えろと言いたいが、それはともかく、上手い。感心する。
「相変わらずこういうことが得意な、おまえは」
「ちょっとは花もいいと思った?」
「うん、いま思った」
 いい香りがする。ミモザといえば、芳香剤や洗剤の香料として名前を目にする花だ。黄色いぽんぽんがやっぱり甘そうに見える。食べられそうだ。
 見透かすように「食べちゃだめだよ」と和が言った。
「この枝はばあちゃんが消毒をした。おなかこわすからだめだよ」
「においがいい。洗面台にも置いとけよ」
「――気に入った?」
「わりと」
 和は満足げな顔を僕に向けた。ああ、この顔。和のうなじを掴んで引き寄せて、背伸びをした。身長差があるからこれぐらいしないとキスが出来ない。
 おずおずと和も応じてくる。キスが出来るようになったのは、付き合って一年経った頃だった。えらく長かった。手をつなぐようになるだけで半年かかっていたわけで、セックスまでは二年かかった。
 したのは軽いキスだけ。でも和の頬がじんわりと熱くなっているのが伝わる。これだけで照れるのがかわいい。
わざと音を立てて唇を離すと、音に和の肩がびくりと震えた。至近距離で目があく。見る間に頬を赤らめ、動揺を瞳に浮かべた。初めてキスをした中学生並みに顔をそむけ、くちびるには手を当てている。
 もう、どれだけうぶなんだおまえ。
 逃げる恋人を追いかけてキスをした。舌をねじ込み、絡ませる。「ん」と鼻にかかった声が和から漏れて、下腹がずきっと来た。声に自分で驚いた和は、慌てて僕の肩を抑え離してしまう。
「……ああ、……どーしよ」
 呟いたと思ったら、大きな手で頭を掴まれ、胸に抱え込まれた。
 どっどっどっど、と走る心音が聞こえる。
「なんかぼくばっかり倉島さんをすきな気がする」
 髪に和の吐息がかかる。腹にかたく当たる感触がある。
 ぼくばっかり、という台詞は大間違いだ。どう訂正しようか。楽しく考えていると和が再び「どうしよう」と呟く。くっついていると色々まずいらしい。
「そこ、座れよ。口でしてやるよ」
 今度こそ和は耳まで真っ赤になった。


  






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粟津原栗子
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自己紹介:
成人女性に向けたBL小説を書いています。苦手な方と年齢に満たない方は回れ右。
問い合わせ先→kurikoawaduhara★hotmail.co.jp(★を@に変えてください)か、コメント欄にお願いいたします。コメント欄は非公開設定になっています。

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