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「そういやあんた、子ども好きだよな」と暁登が発言したのは意外だった。
「好きだけど、……知ってたの?」
「いや、公園で遊んでる子どもとか、登下校の子どもとか、嬉しそうに見てるから」
「ああ。だってかわいいじゃん」
「まあな」
暁登は頬杖をやめず、そっぽを向くのもやめなかった。それでも樹生の台詞に耳を傾けてくれている。
「婚約者だった人――水尾、って言うんだけど。水尾との間に子どもが出来たらめちゃめちゃかわいがるだろうなって想像した」
「そう、」
「家族が欲しいとずっと思ってた。きれいじゃなくてもあったかい嫁さんとかわいい子どもと、一軒家で犬か猫でも飼ってさ。そういうのずっと憧れてたんだ」
「過去形にするのは早いんじゃないの、」
相変わらず暁登はこちらを見ない。
「あんたまだそんなの諦める年齢でもないだろ。また恋でもしてさ。新しい人見つけて、結婚して、ガキ作ったら、」
「……」
「おれ、男だし。ガキ作るとかぜってー無理だし。あったかい嫁さんとかなれないし。そういう、……できないことばっかりだから。そもそももうおれとあんたは、終わってて、おれはあんたに愛想尽かしたりしてて……だから、」
暁登の声の語尾がどんどん震えて来る。樹生は鼻から息を吐いた。
「まあな。その通りなんだけど」
樹生は組んでいた足を崩して、膝に肘をついて暁登の方を見た。
「そういうの、いままでずっと夢見て来たこと諦めてでも、暁登といる方が、いいんだ」
暁登は相変わらずこちらを向かなかったので、樹生は暁登の名を呼んだ。それでも暁登はこちらを向かない。
そういうことが煩わしいと思うよりは、微笑ましいと思う。久しぶりに凪いだ気持ちでいるのは目の前の部屋に赤ん坊が並んでいるせいだろうか。生まれて数日の子らの前では、誠実でありたい。
「暁登」
返事はない。
「暁登、こっち向け」
「……」
「暁登、おれを見て」
「……」
「暁登」
四度目で暁登はようやくこちらを見た。怒っているような、苦しそうな、そういう険しい顔をしている。思わず頬に触れたくなったが、即座に振り払われそうな気がしたのでやめた。
「諦められんの、嫁さんとか、ガキとか」
「だって仕方ないさ。おれがいま一番傍にいてほしいと思ってるのは、塩谷暁登っていう男だからな」
「気の迷いかもしんないじゃん。いまはそうでも、いずれ後悔する」
「かも、とか、もし、とか、そういうことは考えても仕方がないんだ。もし両親が生きていたら? とか、婚約が破棄されなかったら? とか、早先生と惣先生の元で暮らしていなかったら、とか。そうしたらおれは幸せだったのか? 可哀想ではなかったのか? 哀れまれたり、罵られたり、しなかったのか?」
「……」
「過去は過去、未来は未来なんだよ。で、いまはいま。おれはいまあることに正直に暮らしたい」
そこまで話すと、廊下の向こうから暁登の父親や母親、義兄が揃ってやって来た。暁登に「長くて面倒な話、聞くか?」と小声で咄嗟に訊ねる。暁登は僅かに逡巡した後、樹生を睨みつけるように目を見て頷いた。
「なら、行こう」
樹生は立ち上がる。やって来た暁登の家族に挨拶をして、「私はお暇しますので」と告げた。
家族は来訪をまたぜひ、と勧め、頭を下げる。暁登の義兄は握手を求めて来たので、照れながら「おめでとうございます」と握手をした。
「またぜひ我が家にいらしてください。賑やかしい家ですが」
「いえ、……そうですね、」
樹生はちらりと暁登を窺ったが、彼は知らん振りだった。
「また行きます。どうもありがとうございました」
深く頭を下げると家族はにこにこと笑った。
→ 82
← 80
「好きだけど、……知ってたの?」
「いや、公園で遊んでる子どもとか、登下校の子どもとか、嬉しそうに見てるから」
「ああ。だってかわいいじゃん」
「まあな」
暁登は頬杖をやめず、そっぽを向くのもやめなかった。それでも樹生の台詞に耳を傾けてくれている。
「婚約者だった人――水尾、って言うんだけど。水尾との間に子どもが出来たらめちゃめちゃかわいがるだろうなって想像した」
「そう、」
「家族が欲しいとずっと思ってた。きれいじゃなくてもあったかい嫁さんとかわいい子どもと、一軒家で犬か猫でも飼ってさ。そういうのずっと憧れてたんだ」
「過去形にするのは早いんじゃないの、」
相変わらず暁登はこちらを見ない。
「あんたまだそんなの諦める年齢でもないだろ。また恋でもしてさ。新しい人見つけて、結婚して、ガキ作ったら、」
「……」
「おれ、男だし。ガキ作るとかぜってー無理だし。あったかい嫁さんとかなれないし。そういう、……できないことばっかりだから。そもそももうおれとあんたは、終わってて、おれはあんたに愛想尽かしたりしてて……だから、」
暁登の声の語尾がどんどん震えて来る。樹生は鼻から息を吐いた。
「まあな。その通りなんだけど」
樹生は組んでいた足を崩して、膝に肘をついて暁登の方を見た。
「そういうの、いままでずっと夢見て来たこと諦めてでも、暁登といる方が、いいんだ」
暁登は相変わらずこちらを向かなかったので、樹生は暁登の名を呼んだ。それでも暁登はこちらを向かない。
そういうことが煩わしいと思うよりは、微笑ましいと思う。久しぶりに凪いだ気持ちでいるのは目の前の部屋に赤ん坊が並んでいるせいだろうか。生まれて数日の子らの前では、誠実でありたい。
「暁登」
返事はない。
「暁登、こっち向け」
「……」
「暁登、おれを見て」
「……」
「暁登」
四度目で暁登はようやくこちらを見た。怒っているような、苦しそうな、そういう険しい顔をしている。思わず頬に触れたくなったが、即座に振り払われそうな気がしたのでやめた。
「諦められんの、嫁さんとか、ガキとか」
「だって仕方ないさ。おれがいま一番傍にいてほしいと思ってるのは、塩谷暁登っていう男だからな」
「気の迷いかもしんないじゃん。いまはそうでも、いずれ後悔する」
「かも、とか、もし、とか、そういうことは考えても仕方がないんだ。もし両親が生きていたら? とか、婚約が破棄されなかったら? とか、早先生と惣先生の元で暮らしていなかったら、とか。そうしたらおれは幸せだったのか? 可哀想ではなかったのか? 哀れまれたり、罵られたり、しなかったのか?」
「……」
「過去は過去、未来は未来なんだよ。で、いまはいま。おれはいまあることに正直に暮らしたい」
そこまで話すと、廊下の向こうから暁登の父親や母親、義兄が揃ってやって来た。暁登に「長くて面倒な話、聞くか?」と小声で咄嗟に訊ねる。暁登は僅かに逡巡した後、樹生を睨みつけるように目を見て頷いた。
「なら、行こう」
樹生は立ち上がる。やって来た暁登の家族に挨拶をして、「私はお暇しますので」と告げた。
家族は来訪をまたぜひ、と勧め、頭を下げる。暁登の義兄は握手を求めて来たので、照れながら「おめでとうございます」と握手をした。
「またぜひ我が家にいらしてください。賑やかしい家ですが」
「いえ、……そうですね、」
樹生はちらりと暁登を窺ったが、彼は知らん振りだった。
「また行きます。どうもありがとうございました」
深く頭を下げると家族はにこにこと笑った。
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プロフィール
HN:
粟津原栗子
性別:
非公開
自己紹介:
成人女性に向けたBL小説を書いています。苦手な方と年齢に満たない方は回れ右。
問い合わせ先→kurikoawaduhara★hotmail.co.jp(★を@に変えてください)か、コメント欄にお願いいたします。コメント欄は非公開設定になっています。
****
2022*08*11-21
暑いですね。番外編短編、ちょこっと更新しています。
2021*12*04-2022*03*17
お久しぶりです。短編長編更新。
短編「さきごろのはる」
短編「月の椅子」
短編「みんな嬉しいお菓子の日」
長編「ファンタスティック・ブロウ」
短編「冬の日、林檎真っ赤に熟れて」
2021*08*16-08*19
甘いお菓子のある短編「最善最愛チョコレート」更新。
問い合わせ先→kurikoawaduhara★hotmail.co.jp(★を@に変えてください)か、コメント欄にお願いいたします。コメント欄は非公開設定になっています。
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