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「おはようございます」
「おはようございます。眠れましたか?」
樹生は苦笑して、「実はあまり」と答える。暁登父は目尻を下げて「実は僕も」と言った。
「それで散歩ですか?」
「ええ。この時期は朝歩くには最適ですよ」
「お姉さん、どうなったか連絡ありましたか?」
「あ、無事に生まれました」
暁登父ははにかんで答えた。その顔は皺が深かったが、表情が暁登によく似ていた。
「病院行ったら特に難産でもなかったみたいで。つるっと生まれた、と連絡がありました」
「――そうですか」
樹生も優しい気持ちになった。改めて「おめでとうございます」と言うと、暁登父は「ありがとう」と目を細めて頭を下げた。
「男の子ですか、女の子ですか?」
「女の子だそうです」
「早く顔を見たいんじゃないですか?」と聞くと、「まー、そうだけどねえ、」と言う。
「男親だって出産の時にすることなんかなんにもないですからね、爺がいっても余計にないです。岩永さん送り届けて、その足で様子見に行きますかねえ」
それを聞いて、樹生はふとその新生児の顔を見てみたい気がした。
「とりあえず家の中に入りますわ。岩永さん、目が覚めたならコーヒーでも飲みましょう」
そう言って暁登父は道を戻っていく。やがて廊下の向こうから玄関の扉が開く音がした。
樹生も立ちあがり、洗面所でトイレと洗顔を済ませてからリビングに顔を出す。家に残っているメンバーは皆すでに起きていた。暁登の祖母は座椅子に座って新聞を読んでいたし、妹の百夏は制服姿でキッチンに立っている。父親も手を洗い、コーヒーメーカーに豆をセットした。
「おはよう岩永さん」と百夏が明るく言った。
「岩永さんのお仕事って朝早いんだねえ。あきっちゃんから『六時半にはこの家出ないと』って聞いてびっくりしちゃった」
確かに、一度自分のアパートに戻ってから出勤するのであれば、その時間は妥当だ。むしろぎりぎりかもしれない。
「ごはんすぐ作るからその辺に座って待ってて。うち、朝はパン派だから自動的にパンだけど」
「充分だよ。ありがとう」
「なんのなんの」
百夏は快活な性格なのか、さっぱりとした口調で答える。昨夜のはしゃぎっぷりとはまた打って変わった逞しさを見る。フライパンや包丁の扱いは軽やかで手際がよかった。日ごろから馴れているのだろう。
「コーヒー、どうぞ」
暁登父がやって来て座卓にカップを置いた。樹生はありがたくそれを受け取る。コーヒーはブラックだったが、「甘くないと飲めなくて」と素直に言ったら「もちろんいいんですよ」と朗らかに笑い、ミルクと砂糖を出してくれた。
甘いミルクコーヒーは朝の胃を程よく刺激する。そうしているうちに百夏の手で食事が運ばれてきた。トーストに目玉焼きにアスパラガスのバター炒め、コンソメスープ。「簡単でごめんね」と言われたがここ最近の樹生の朝食の中では間違いなくトップグレードだ。最高に贅沢。
「さ、召し上がって下さい」と暁登父が言う。この食卓を見て、それを用意してくれた住人を見て、樹生は心を決めた。
「今日、私も一緒に病院へ行ってもいいですか?」
場が静まる。暁登の父親も妹の百夏も、きょとんとした顔でいる。
「でも、お仕事でしょう?」
「休みます」
笑ってそう告げると、親子はますます不思議そうな顔をする。祖母だけがのんびりとお茶を啜っていた。
「迷惑でなければ、私も新生児の顔が見てみたいなと思いまして」
百夏は父の顔を窺う。その父親は、やんわりと微笑んで「もちろん」と言ってくれた。
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「おはようございます。眠れましたか?」
樹生は苦笑して、「実はあまり」と答える。暁登父は目尻を下げて「実は僕も」と言った。
「それで散歩ですか?」
「ええ。この時期は朝歩くには最適ですよ」
「お姉さん、どうなったか連絡ありましたか?」
「あ、無事に生まれました」
暁登父ははにかんで答えた。その顔は皺が深かったが、表情が暁登によく似ていた。
「病院行ったら特に難産でもなかったみたいで。つるっと生まれた、と連絡がありました」
「――そうですか」
樹生も優しい気持ちになった。改めて「おめでとうございます」と言うと、暁登父は「ありがとう」と目を細めて頭を下げた。
「男の子ですか、女の子ですか?」
「女の子だそうです」
「早く顔を見たいんじゃないですか?」と聞くと、「まー、そうだけどねえ、」と言う。
「男親だって出産の時にすることなんかなんにもないですからね、爺がいっても余計にないです。岩永さん送り届けて、その足で様子見に行きますかねえ」
それを聞いて、樹生はふとその新生児の顔を見てみたい気がした。
「とりあえず家の中に入りますわ。岩永さん、目が覚めたならコーヒーでも飲みましょう」
そう言って暁登父は道を戻っていく。やがて廊下の向こうから玄関の扉が開く音がした。
樹生も立ちあがり、洗面所でトイレと洗顔を済ませてからリビングに顔を出す。家に残っているメンバーは皆すでに起きていた。暁登の祖母は座椅子に座って新聞を読んでいたし、妹の百夏は制服姿でキッチンに立っている。父親も手を洗い、コーヒーメーカーに豆をセットした。
「おはよう岩永さん」と百夏が明るく言った。
「岩永さんのお仕事って朝早いんだねえ。あきっちゃんから『六時半にはこの家出ないと』って聞いてびっくりしちゃった」
確かに、一度自分のアパートに戻ってから出勤するのであれば、その時間は妥当だ。むしろぎりぎりかもしれない。
「ごはんすぐ作るからその辺に座って待ってて。うち、朝はパン派だから自動的にパンだけど」
「充分だよ。ありがとう」
「なんのなんの」
百夏は快活な性格なのか、さっぱりとした口調で答える。昨夜のはしゃぎっぷりとはまた打って変わった逞しさを見る。フライパンや包丁の扱いは軽やかで手際がよかった。日ごろから馴れているのだろう。
「コーヒー、どうぞ」
暁登父がやって来て座卓にカップを置いた。樹生はありがたくそれを受け取る。コーヒーはブラックだったが、「甘くないと飲めなくて」と素直に言ったら「もちろんいいんですよ」と朗らかに笑い、ミルクと砂糖を出してくれた。
甘いミルクコーヒーは朝の胃を程よく刺激する。そうしているうちに百夏の手で食事が運ばれてきた。トーストに目玉焼きにアスパラガスのバター炒め、コンソメスープ。「簡単でごめんね」と言われたがここ最近の樹生の朝食の中では間違いなくトップグレードだ。最高に贅沢。
「さ、召し上がって下さい」と暁登父が言う。この食卓を見て、それを用意してくれた住人を見て、樹生は心を決めた。
「今日、私も一緒に病院へ行ってもいいですか?」
場が静まる。暁登の父親も妹の百夏も、きょとんとした顔でいる。
「でも、お仕事でしょう?」
「休みます」
笑ってそう告げると、親子はますます不思議そうな顔をする。祖母だけがのんびりとお茶を啜っていた。
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百夏は父の顔を窺う。その父親は、やんわりと微笑んで「もちろん」と言ってくれた。
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プロフィール
HN:
粟津原栗子
性別:
非公開
自己紹介:
成人女性に向けたBL小説を書いています。苦手な方と年齢に満たない方は回れ右。
問い合わせ先→kurikoawaduhara★hotmail.co.jp(★を@に変えてください)か、コメント欄にお願いいたします。コメント欄は非公開設定になっています。
****
2022*08*11-21
暑いですね。番外編短編、ちょこっと更新しています。
2021*12*04-2022*03*17
お久しぶりです。短編長編更新。
短編「さきごろのはる」
短編「月の椅子」
短編「みんな嬉しいお菓子の日」
長編「ファンタスティック・ブロウ」
短編「冬の日、林檎真っ赤に熟れて」
2021*08*16-08*19
甘いお菓子のある短編「最善最愛チョコレート」更新。
問い合わせ先→kurikoawaduhara★hotmail.co.jp(★を@に変えてください)か、コメント欄にお願いいたします。コメント欄は非公開設定になっています。
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2022*08*11-21
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