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「少し、話してもいいですか?」
「いいよ」
「おれ、本当は大学に行きたかったんです。大学行って、国際系の仕事に就きたかった。だから高校は進学校を選んで」
と、暁登はこの辺ではかなり偏差値の高い有名校の名を挙げた。その高校は英語教育に力を入れていて、留学制度を熱心に取り入れている学校でもあった。
「でも、なんか学校生活がうまくいかなくて。……勉強は好きでしたけど、こう、クラスメイトと仲良くするとか、委員会や部活動に力を入れるとか、そういうのがあんまりで。そうやってたら、クラスから浮いて」
「うん」
「別にいいかな、とは思ったんです。学校は勉強するところだから、勉強さえできていれば、って。でも、周囲の環境に一向に馴れないことにだんだんストレスを感じるようになって、……だめになってきて。あんまり食べる気がしないとか、眠れないとか、学校へ行くのに足がこわばったり、クラス内の音が増幅されて、まるで騒音聞いてるみたいに苦痛に感じたり、……そういうのが毎日続いて。学校に通えなくなりました」
「……でも、卒業はしたんでしょ?」
「かろうじて。でも成績なんか本当に底辺でしたし、日数もぎりぎりで、……高校卒業のころは、もう、ほとんど引きこもり状態。大学受験なんかできるわけなくて、」
それを聞いて、樹生はなんとなく理解したように思った。暁登が高校卒業後すぐに就職せず、秋に中途採用で雇用された理由だ。
暁登も「卒業して半年ぐらいは引きこもってました」と言ったので、確信に変わった。
「じゃあ、局に入ったのが本当に初めての就職だったのか」
「そうです。このまんまじゃだめだってずーっと思い続けてて、でもどうしていいのか分からないし、家を出る気力も金もない。そしたらちょうどポストに配達員募集のチラシが入ってて。家からいちばん近いところの集配局だったから、とりあえず実家から通えるならいいんじゃないか、って両親にも言われて。だから応募しました」
それで暁登と樹生が出会うことになる。「岩永さんに丁寧に仕事教えてもらったから、なんとか続いてたんですけど」と暁登は続けた。
「……岩永さんいなくなって、代わりに転勤してきた正社員の人の当たりがきつくて。リーダーともどんどん噛み合わなくなって、苛々するし、朝起きて心臓が痛かったり、ずっと緊張してたりで、……だから結局、続けられませんでした」
「……仕方がないんじゃないかな」
「でも、また結局は引きこもりに後戻りですよ」
「いま、なんにもしてない?」
「……朝早く起きて、ちょっとだけ新聞配達の仕事をしています。これは親戚が新聞店をやっているので、そのコネみたいな。小遣い稼ぎ程度です」
「なんだ、してんじゃん」
樹生は暁登の背中をポンポンと叩いた。
「高校出て、バイトして。充分なんじゃない?」
「でも、」
「おれなんか中卒だから」
と言うと、暁登はさすがに意外だったらしい。「え」と台詞には驚きの色が滲んだ。
「……四大とか、普通に出てたんだと思ってました」
「いや、中卒。でも中学もほぼ行ってない。小学校の中学年ぐらいから学校とかそういうの、無縁」
「……なんで、ですか?」
「んー、アトピーがひどかったせいかな。生活に支障が出るほどじゃなかったけど、肌のことで笑われた。それが嫌でさ」
と樹生は笑って見せた。これは本当のことで、嘘は言っていない。学校へ行かなかった理由は、アトピーで常に肌が荒れていたのをクラスメイトに「汚い」と言われからかわれたことで、こんなやつらと同じ空間にいて仲良くしてかなきゃならないのを面倒くさいと思い、時間の無駄だと思った。周囲はほかに理由を見つけたがったが、樹生の中では単にそれだけだった。
「だから高校まで行って卒業したっていう塩谷くんは偉いよ。おれなんか大学に行こうっていう夢? 将来の目標? そういうのすら全くなかった。ないままなんとなくいまの職に就いてやってんだからさ」
「自分のことを偉いとか、思わないです」
「思っときなって。立派だよ、おれよりはるかに」
暁登はそこで黙った。風が次第に強く吹き始め、寒さを感じていた。「車に戻るか」と言うと、暁登も頷いて弁当のごみを片付け始めた。
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「いいよ」
「おれ、本当は大学に行きたかったんです。大学行って、国際系の仕事に就きたかった。だから高校は進学校を選んで」
と、暁登はこの辺ではかなり偏差値の高い有名校の名を挙げた。その高校は英語教育に力を入れていて、留学制度を熱心に取り入れている学校でもあった。
「でも、なんか学校生活がうまくいかなくて。……勉強は好きでしたけど、こう、クラスメイトと仲良くするとか、委員会や部活動に力を入れるとか、そういうのがあんまりで。そうやってたら、クラスから浮いて」
「うん」
「別にいいかな、とは思ったんです。学校は勉強するところだから、勉強さえできていれば、って。でも、周囲の環境に一向に馴れないことにだんだんストレスを感じるようになって、……だめになってきて。あんまり食べる気がしないとか、眠れないとか、学校へ行くのに足がこわばったり、クラス内の音が増幅されて、まるで騒音聞いてるみたいに苦痛に感じたり、……そういうのが毎日続いて。学校に通えなくなりました」
「……でも、卒業はしたんでしょ?」
「かろうじて。でも成績なんか本当に底辺でしたし、日数もぎりぎりで、……高校卒業のころは、もう、ほとんど引きこもり状態。大学受験なんかできるわけなくて、」
それを聞いて、樹生はなんとなく理解したように思った。暁登が高校卒業後すぐに就職せず、秋に中途採用で雇用された理由だ。
暁登も「卒業して半年ぐらいは引きこもってました」と言ったので、確信に変わった。
「じゃあ、局に入ったのが本当に初めての就職だったのか」
「そうです。このまんまじゃだめだってずーっと思い続けてて、でもどうしていいのか分からないし、家を出る気力も金もない。そしたらちょうどポストに配達員募集のチラシが入ってて。家からいちばん近いところの集配局だったから、とりあえず実家から通えるならいいんじゃないか、って両親にも言われて。だから応募しました」
それで暁登と樹生が出会うことになる。「岩永さんに丁寧に仕事教えてもらったから、なんとか続いてたんですけど」と暁登は続けた。
「……岩永さんいなくなって、代わりに転勤してきた正社員の人の当たりがきつくて。リーダーともどんどん噛み合わなくなって、苛々するし、朝起きて心臓が痛かったり、ずっと緊張してたりで、……だから結局、続けられませんでした」
「……仕方がないんじゃないかな」
「でも、また結局は引きこもりに後戻りですよ」
「いま、なんにもしてない?」
「……朝早く起きて、ちょっとだけ新聞配達の仕事をしています。これは親戚が新聞店をやっているので、そのコネみたいな。小遣い稼ぎ程度です」
「なんだ、してんじゃん」
樹生は暁登の背中をポンポンと叩いた。
「高校出て、バイトして。充分なんじゃない?」
「でも、」
「おれなんか中卒だから」
と言うと、暁登はさすがに意外だったらしい。「え」と台詞には驚きの色が滲んだ。
「……四大とか、普通に出てたんだと思ってました」
「いや、中卒。でも中学もほぼ行ってない。小学校の中学年ぐらいから学校とかそういうの、無縁」
「……なんで、ですか?」
「んー、アトピーがひどかったせいかな。生活に支障が出るほどじゃなかったけど、肌のことで笑われた。それが嫌でさ」
と樹生は笑って見せた。これは本当のことで、嘘は言っていない。学校へ行かなかった理由は、アトピーで常に肌が荒れていたのをクラスメイトに「汚い」と言われからかわれたことで、こんなやつらと同じ空間にいて仲良くしてかなきゃならないのを面倒くさいと思い、時間の無駄だと思った。周囲はほかに理由を見つけたがったが、樹生の中では単にそれだけだった。
「だから高校まで行って卒業したっていう塩谷くんは偉いよ。おれなんか大学に行こうっていう夢? 将来の目標? そういうのすら全くなかった。ないままなんとなくいまの職に就いてやってんだからさ」
「自分のことを偉いとか、思わないです」
「思っときなって。立派だよ、おれよりはるかに」
暁登はそこで黙った。風が次第に強く吹き始め、寒さを感じていた。「車に戻るか」と言うと、暁登も頷いて弁当のごみを片付け始めた。
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プロフィール
HN:
粟津原栗子
性別:
非公開
自己紹介:
成人女性に向けたBL小説を書いています。苦手な方と年齢に満たない方は回れ右。
問い合わせ先→kurikoawaduhara★hotmail.co.jp(★を@に変えてください)か、コメント欄にお願いいたします。コメント欄は非公開設定になっています。
****
2022*08*11-21
暑いですね。番外編短編、ちょこっと更新しています。
2021*12*04-2022*03*17
お久しぶりです。短編長編更新。
短編「さきごろのはる」
短編「月の椅子」
短編「みんな嬉しいお菓子の日」
長編「ファンタスティック・ブロウ」
短編「冬の日、林檎真っ赤に熟れて」
2021*08*16-08*19
甘いお菓子のある短編「最善最愛チョコレート」更新。
問い合わせ先→kurikoawaduhara★hotmail.co.jp(★を@に変えてください)か、コメント欄にお願いいたします。コメント欄は非公開設定になっています。
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2022*08*11-21
暑いですね。番外編短編、ちょこっと更新しています。
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