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成人女性を対象とした自作小説を置いています。
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「岩永さんは煙草っていつ覚えました?」
 火を点けて一息吐いたところで暁登はそう訊いた。
「んー、十七とか、八とか、その辺だったかな」
「じゃあ、未成年ですね」
「そうだね。でもみんな黙ってるだけで割とそんなもんじゃないかな」
 煙草を吸いながら樹生は答える。暁登はしばらくその姿をぼんやりと眺めていたが、やがて口を開く。「おれももう、煙草吸えます」
「――え? 塩谷くん、煙草吸うようになったの?」
「あ、年齢の話です。六月に二十歳になったんで。飲酒も煙草も解禁です」
「あー、成人したっていう意味か。おめでとう」
 樹生は指で挟んでいた煙草の吸い口をたわむれに暁登へと差し出し、「吸う?」と言った。もちろん冗談のつもりだったのだが、暁登は煙ののぼるそれをしばらく見つめていた。真剣で、あまりにまっすぐで強い色を放つ瞳に吸い込まれそうで怖かった。
「冗談、冗談。塩谷くんが煙草吸ったり酒飲んだりするのはさ、正直おれにはあんまりイメージ湧かないわ。実際、飲んだり吸ったりしてんの?」
「いえ、……飲酒は、成人したときに父親にもらって、してみました。けど、ビールの味の良さがよく分からなくて、それきり。それに多分、アルコールに弱いんだと思います。貧血も起こしちゃって、」
「あらら」
「すごく気持ち悪くなって、目の前が暗くなって、耳鳴りがひどくて。しばらくトイレから出られなかったんですよ。それが初飲酒の思い出」
「あー、そりゃ飲まない方がいいね」
 樹生は携帯灰皿に煙草の灰を落とし、また吸う。
「でも、飲めたり吸えたりした方がストレスをうまく逃がせるなら、そうした方がいい気がしてます」
 と暁登は真顔で言う。それこそ真面目な意見で、樹生のように「なんとなく興味を持って吸い始めてやめられなくなった」とは根本的に違う。飲酒や喫煙をそんな風に考えたことがなかった。樹生は「やめときな」と暁登に言う。
「百害あって一利なし、っていうでしょ。体にいいわけないし、金だってなんだかんだで地味にかかるしね」
「でも岩永さんは煙草も吸うしお酒も飲みますよね。昨夜も飲んだんでしょう?」
「おれはおれで、塩谷くんは塩谷くんだ。まあ、……おれが言っても説得力はないよな。塩谷くんが飲むなら飲む、吸うなら吸うで、止められない。自由だ」
「じゃあ、教えてください」
「おれが? なにを?」
「煙草の吸い方」
 あんまりにも思い詰めて言われたので、樹生は吹き出した。
「やだよ。教えない」
「どうしてですか」
「塩谷くんには教えたくない」
 と言ったが、手はポケットの煙草の箱をまた探っていた。それを暁登に渡す。
「ほら」
「……言っていることとやることが、違いませんか」
「そうだね」
 暁登は渡された煙草の箱をしばらく眺めていたが、やがて「火、ありますか」と訊いてきた。
「チャレンジ?」
「はい」
 ほら、とライターも渡す。暁登は不慣れな手つきで煙草の箱を開けるも、「入ってない」と言った。
「岩永さん、空です」
「あれ? そうだっけ?」
 暁登に返された煙草の箱を見ると、確かに一本たりとも入ってはいなかった。
「そっか、これが最後か」といま手にしている煙草を見て言った。ゴミ箱がなかったので空になった箱を後で捨てようと思い、ポケットに入れた、そのことをいまさっきのことだったのに、忘れていた。
「じゃあやっぱりこれ吸う?」
 と随分と短くなった煙草を差し出すと、暁登はそれを親指と人差し指でつまんで受け取った。そのまま唇に近づける姿は、煙草を吸うにしてはちょっと貧乏じみていた。
「そうじゃなくて。人差し指と中指で挟むんだよ」
 こう、と暁登の手を取って教えてやる。暁登は手にした煙草の吸い口を唇に寄せて、こわごわ吸った。吸って、案の定むせた。
 ごほごほと咳き込みながら「やっぱいいです」と樹生に煙草を寄越す。樹生はそれを吸いきって、携帯灰皿に押しつぶした。
「な、やめときなって」
「……でも、馴れかもしれないです」
「いや、塩谷くんは吸わない方がいいよ」
 と、根拠もなく樹生は言った。暁登は不満そうな顔をしたが、ペットボトルの茶を飲むと、ふっと息を吐いた。
「軽蔑しましたか、おれのこと」と言う。
「なんで?」
「めちゃくちゃだから」
「ああ、昨夜のこと?」
「それもそうだし、……色々と、ぐっちゃぐちゃで」
 消え入りそうな声で、暁登は言う。うなだれてから、それでも意を決したように顔をあげた。



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プロフィール
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粟津原栗子
性別:
非公開
自己紹介:
成人女性に向けたBL小説を書いています。苦手な方と年齢に満たない方は回れ右。
問い合わせ先→kurikoawaduhara★hotmail.co.jp(★を@に変えてください)か、コメント欄にお願いいたします。コメント欄は非公開設定になっています。

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