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成人女性を対象とした自作小説を置いています。
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 大先生が町内会の旅行で留守をするという。その隙を狙って日野辺の家、日野辺の自室でセックスをした。昼間の、なにも隠せない交合。日野辺のごく平均的な身体が硬く張り詰め、声をうわずらせ、頂点を迎える、その先端からの体液の放出も、余すことなく全部見た。
 日野辺の中は、狭くて、蠢いて、温かかった。熱い、ではなくて、温かい。包まれる性器は自分のものなのに、羨ましいと感じた。こうして日野辺の中に全身で潜り込んで、日野辺の身体の中に取り込まれたい。それはさぞかし温かくて優しいのだろうかと思ったら、知らずで目元が濡れていた。
 下になった日野辺は「汗?」と額を撫でた。
「それとも泣いてるのか、現」
「わかんない」
「ばかだなあ」
 そのまま目蓋に唇を押し付け、体液を吸われ、唇に行きついてままならない息継ぎを夢中で貪った。
 対位を変え、日野辺を上に乗せた。この方が奥まで入り込める。日野辺が辛いのもわかる。けれど求めても求めきれない焦燥感でどうにかなりそうだった。
 がたがた、と窓が鳴る。薄い生成りのカーテンの向こうはしんしんと冷え込む冬がある。身体の熱さに隙間風が心地いい。日野辺を揺すり、腰を抱え、突き上げながら、あちこちに唇を落とした。
「――あっ、現、……またいく、」
「おれもいくよ」
 がつがつと突きあげ、日野辺はその喉仏を晒す。そこに噛み付いて最後の坂を駆けあがり、先にいったのは日野辺だった。間髪入れずに日野辺を倒し、心地よかった狭間から性器を引き抜いて、思いきり日野辺の腹にかけた。
 荒い呼吸の中で、日野辺は自身の腹に散ったどっちつかずの精液を、すくって舐めた。不味そうな顔をして、「あんまりいいもんじゃないな」とコメントする。
「身体拭いてやるよ。ちょっと待ってろ」
「このまんまがいい」
「あちこち汚れたろ」
「現に離れてほしくない」
 日野辺はそっとカーテンをあけた。真冬の青空が広がっていた。なにか種類は分からぬが、ちいさな鳥が散らばるように渡っていく。カーテンをあけても室内が見られるような高所に建物があるわけではないから(以前住んでいた街ならあった)、日野辺の手をそのままにしておいた。
 窓辺に伸びていた手は、探るように目元に当てられた。
「涙、乾いたな」
「……泣いてねえし」
「ちょっと寝ろ。うちの親父の戻りは明日だから。泊まっていけるんだろ、現」
「ん、」
「まだするか?」
 絡んでいる身体の健全を安直にからかわれた。
「するなら僕はいったんインターバルを置きたいんだけど。連続は無理」
「さほど若いわけじゃないんだよな、あんたも、おれも」
「そう、昔みたいに爆発する感じでセックスってできなくなったなあ」
 しみじみと言った男は、もっと若い身体があったころ、どんな爆発力でセックスに及んでいたのか気になった。でもそれを訊くのも野暮なのかもしれない。少なくとも自分はもう、義兄とのセックスのことは過去の話にとどめておいて、そこに付随する感傷には浸りたくないし。
 過去は過去。いまはいま。日野辺と裸体をベッドに沈ませている、いまがあったらそれでいい。
「悪いことじゃないよな」
「そうだな。じっくりやれるっていうか。相手の身体の声が聞こえるようになった気がする。抽象的な表現かな?」
「いや、分かるよ。自分勝手じゃなくなったってことだろ」
 ふあ、とあくびをした。
「――寝る。起きたら飯食って、する」
「いいよ。三大欲求を素直に備えてるな」
「ばかにしてるか?」
「そんなわけないよ。健康な証拠じゃん」
 医者の台詞には説得力がありすぎた。そうだな、とみじろぎ、日野辺の肩に頭を載せた。
 そのままとろとろと、じっくりと煮込まれるような心地で布団と日野辺に親和する。

 *


 目が覚めたら、日が暮れかかっていた。傍にあったはずの日野辺の身体がない。あれ、と思って半身を起こすと、日野辺は箪笥から衣類を漁っている最中だった。下は下着を身につけただけで、でも上半身にはたっぷりとした起毛のセーターをかぶる。
 それからベッドに戻ってきて、現の隣に「さむさむ」と潜り込んだ。
「汗かいたまま寝たら寒くなった」
「そのセーター、よれよれだな。毛玉だらけだし」
「昔買った安いのだからなあ。もう首元が伸びちゃったんだよね。ぶかぶか」
 ハイネックのセーターだったが、喉仏がしっかり見えるほど緩んでいた。
「でも肌触りが馴染んでてつい着ちゃう」
「風呂沸かすか?」
「んー、もうちょっとこのままごろごろしてたい」
 セーターの裾から手を入れて日野辺の肌にじかに手のひらを滑らせる。熱く湿っていた肌は乾いて、鳥肌がぷつぷつと立つ。
「寒い?」
「寒い。鼻水出てきた」
「せめてストーブ入れろよ。この部屋隙間風ありすぎ」
「このあたりってさ、この時期は風が強くて」
 その台詞を裏付けるかのように、カタカタと窓はまだ鳴っていた。
「寒冷蕁麻疹出てうちに駆け込んでくる患者もいるよ。うちは内科だから、皮膚科行けよってなるんだけど」
「あんた、まだ鳥肌立ってる」
「寒いんだよ」
 日野辺からすれば、おそらく自分の方が体温は高いのだと思う。日野辺の腹にひたひたと当てていた手をそのまま滑らせ、ニットを引っ張って裾から頭を潜り込ませた。
「おい、現、」
 衣服の中で出口を探す。冷えた日野辺の身体に密着しながら、ぷは、と顔を出せたのは緩んだセーターの襟口だった。
 至近距離で日野辺と目を合わせる。「このセーター伸びすぎ」と言ってやると、日野辺は「でも役に立つな」と笑った。
 同じセーターに潜り、顔だけ同じところから出して、身体をすり合わせて抱きあう。
「寒いけど、冬って悪くない」
「送、もっと体重のせろよ。収まりが悪い」
「いやあ、この体勢だと無理でしょ」
 笑って、近い場所にある顔に頬を擦り寄せた。
「飯、なに食う?」
「なにがあんの? この家に」
「あー、いただきものの白菜がある。あとそこの牛飼ってるところが肉牛つぶしたとかで牛肉もあるな。すき焼きもどきでどうだ。ねぎと焼き豆腐もあったはず」
「田舎の贅沢きわまれり、だな」
「どうせならちょっといい酒も入れよう。地酒がある」
「いいな」
 それでもこの、せまっ苦しい状況から脱する気になれない。セーターの下で身体が確実に温まっていく。それが分かる。
 もうしばらく、もうすこしだけ。身体が完全に温まるまで、互いの体温で高めあう。
 ひとつのセーター、ふたつの身体。分かちあっていくうちに境界が曖昧になる。ひとつになれると錯覚する、その勘違いこそいまは幸福でいとおしい。


end.


関連:冬の日、林檎真っ赤に熟れて



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粟津原栗子
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成人女性に向けたBL小説を書いています。苦手な方と年齢に満たない方は回れ右。
問い合わせ先→kurikoawaduhara★hotmail.co.jp(★を@に変えてください)か、コメント欄にお願いいたします。コメント欄は非公開設定になっています。

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