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成人女性を対象とした自作小説を置いています。
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 それから三か月の間、私は新居及びその周囲をらんらんと駆けまくった。前の住居よりも私の野性を刺激する場所がそこらにあり、トカゲを捕まえたり鳥を追い回したりバッタをいたぶったりするので本当に忙しかった。なわばりを主張するボスネコとも決闘したし、近所のマドンナにアピールもした。ごしゅじんの引越しは、私からすれば正解だ。前のアパートよりも格段に楽しい生活だ。
 一方、ごしゅじんはヒマそうである。休日は寝ているか、庭の草むしりをするか、えらく手の込んだ料理を作り、一人でだらだらと食べる。ご友人と出かける日もあったが、浅野氏がいないのでつまらなそうだ。
 浅野氏は五月の引越しにちょっとだけ顔を出したきり、一度も部屋に来ていない。
 外では、浅野氏とごしゅじんは会っているようである。ごしゅじんがいつもと違うにおいをさせて深夜に帰宅する日もある。だがその回数も、そう多くはない。
 部屋は中途半端に広いまま、ごしゅじんのベッドの枕元には浅野氏のパンツが畳んでおいてある。「なんかせめておまえの私物のひとつふたつは置いてってよ」とごしゅじんが淋しがった結果、なぜだかパンツである。取りこんだ洗濯物には頭から顔を突っ込んで引っ張りまわすのが好きな私にとっては格好の餌食で、じゃれていたら、ずいぶんと怒られた。ごしゅじんはたまに、寝起きにそれを頭上で広げ、見つめ、物憂げにためいきなどついて、また畳んで元に戻す。恋人を想う男としてその姿どうだろうか、と私は思っている。
 八月、自慢の毛並にもうっとうしさを感じていた夏の盛り。窓の外の真っ青な空を眺めていると、玄関の向こうから物音がした。朝の涼しいうちに買い物をする、と言ってごしゅじんは出かけているが、帰って来た足音ではない。むしろ知らない誰かではないかと私は警戒した。鍵がまわり、ためらいがちに「こんにちは、」と声がする。
 久しぶりすぎる浅野氏である。久しぶりすぎて顔を忘れていた私は危うく毛を逆立て威嚇しそうになった。私の姿を見て浅野氏はぎょっとし、同時に私は、その表情で浅野氏のことを思い出した。浅野氏は「おお、コムギ」と力のない声で呟く。鳴くと、後ずさった。
「――すれ違っちゃったかな、宋ちゃんと」
 こわごわと靴を脱ぎ、部屋にそっと上がる。荷物を抱えたままぐるっと部屋を見渡した。「暑いな」
 浅野氏の目線は、常に私から外れない。警戒しまくっている。手にしていたスーパーの袋から缶詰を取り出すと、かぱっ、と私の大好きな音をさせて、それをあけた。
「た、べるか」
 もちろん食べる。元気よく返事をし、浅野氏の足もとへ駆け寄る。浅野氏は情けない声をあげた。床に缶詰を置き、ささっと私から離れる。
 缶詰に夢中になっている途中で、私のひげが揺れた。浅野氏がベランダの窓を開けたのだ。わずかに風が通る。外からやかましい蝉の声と、日向に温められた水や土のにおいがしてくる。
 浅野氏はやけに大人しい。振り向いたら、浅野氏は床の上に大の字で転がっていた。以前見かけた時よりも日焼けをしたようだ。ふー、と長く息を吐き、腕で顔を覆う。腹が満たされ、私は構ってほしくなった。近付くとびくりとしたが、指先がためらいがちに耳に触れた。私は喉を鳴らす。
 浅野氏が自分から私に触れたのは、これが初めてである。私は少々感動した。さあ腕に抱いてくれないかと指にすり寄っていると、また外から物音がした。今度こそごしゅじんである。駆け寄った私と、床に寝転んでいた浅野氏を見て、ごしゅじんは「おおお!!?」と変な声をあげた。
「――ごめん勝手に入った。ただいま、宋ちゃん」
「お、おおかえり」
 やけにびっくりしている、と思ったら、「浅野がコムギと普通にしてる」とごしゅじんは呟いた。浅野氏は苦笑する。普通にしているわけではないが、ごしゅじん抜きで同じ空間にいたことは、確かに驚くべき進歩である。
「メール見て慌てて帰って来たのにさ、損した。おまえとコムギが鉢合わせたらまずいと思って急いだから、アイス買い損ねた」
「これから同居人になるっていうのに、そんなに緊張するのもね。お近づきのしるしに、ネコ缶で仲良くなる作戦に出てみたんだけど、」
「おお」
「すげえ緊張する。触るまでは、やっぱ無理」
「いや、進歩だ。偉い」
 台所の床に置かれた缶詰を見て、ごしゅじんは嬉しそうに笑った。笑いながら浅野氏の元へ寄り、床にダイブするように、浅野氏を強く抱きしめる。全身で喜びを示すごしゅじんに浅野氏は「痛い」「暑い」と、やはり笑いながら抗議する。
「――でさ、いつ引っ越してくれんの」
「いつがいいかな。宋ちゃんが手伝ってくれる日がいい」
「任せろよ。なんかご馳走でも作るか。なに食いたい」
「宋ちゃん作ってくれんの?」
「浅野がいなくて暇すぎて、すげえ腕あがってんだ。期待していい」
 床に転がりながら、二人してそんなことを話している。いよいよ浅野氏がここへ来るようである。ごしゅじんはずいぶんと嬉しそうだ。部屋の家具の配置から近所のパン屋の話まで、浅野氏の髪を梳きながら熱心に語っている。浅野氏もそれを楽しそうに聞き、頷いている。
 構ってほしくなり、私はごしゅじんの元へすり寄った。踏み踏みと肉球でマッサージでもするようにごしゅじんの背中に前足を置き、少しだけ爪を立てる。本当は二人の間に行くのもいいかと思ったのだが、二人は暑さも構わず密着して転がっており、隙間がない。ごしゅじんは私を振り向いてはくれない。仕方がなくご主人の背中を背もたれにして私も寝転んだ。
 しばらく二人と一匹で床にいた。やがて二人は、立ち上がった。いつの間にか浅野氏は半裸で、立ち上がる際にごしゅじんのTシャツも浅野氏が取り去った。お互いがお互いに絡みつくようにしてベッドが置いてある部屋へ向かう。
 これから午後、この家の中でいちばん涼しいのがごしゅじんの部屋の窓のすぐ下であることを、私はすでに知っている。腹もいっぱいであるし、私もくつろごうかと二人の後へ続いたら、ごしゅじんが「おっと」と私を足で制した。
「悪いなコムギ、ちょっと外で遊んで来いよ」
 そう言って寝室の扉をぱたんと閉めた。なんてことだ、いつも昼下がりはここで過ごす私を知っているくせに!! 鳴いて訴えたがごしゅじんは開けてくれない。
 私は諦めの悪い男だ。扉を爪で引っかき、ここを開けて入れてくれ、と催促する。五分おきに一鳴きするのも忘れなかった。だがごしゅじんと浅野氏は中で何を夢中になっているのか、扉は絶対にあけてくれないのである。


End.


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無題
なぁぁ!

ちょっと仕事で出ていたら、いつのまにかアップされてた~(´;ω;`)

コムギ、とうとう浅野くんと和解・・・!喉をごろごろ鳴らすコムギと、ちょっとコムギに触れる浅野くんを想像して、なんだか胸が温かくなりました★
そしてコムギ、可愛そう(笑)。追い出されちゃうんですね~!そりゃ抗議もしたくなりますねwwwこれからラブラブな2人にコムギは大変そう(笑)。

ちなみに今回一番ツボだったのは、パンツを眺める宋ちゃんでした(笑)。さみしいんだろうけど、笑える絵面( ´_ゝ`)

お忙しいにも関わらず、リクエスト聞いてくださりありがとうございました~あ幸せです(*´ω`*)
2013/04/15(Mon)22:44:52 編集
>宰さま
>なぁぁ!
>ちょっと仕事で出ていたら、いつのまにかアップされてた~(´;ω;`)

こんにちは。なぁぁ!w(これ結構好きですよ)
お仕事お疲れ様です。

>コムギ、とうとう浅野くんと和解・・・!喉をごろごろ鳴らすコムギと、ちょっとコムギに触れる浅野くんを想像して、なんだか胸が温かくなりました★
>そしてコムギ、可愛そう(笑)。追い出されちゃうんですね~!そりゃ抗議もしたくなりますねwwwこれからラブラブな2人にコムギは大変そう(笑)。

以前、猫の苦手な方が家に来た際にえらく緊張して固まっちゃった記憶があります。本当に怖いんですね。その方は膝に乗っかられて停止していたので、浅野くんもしばらくそんな感じだと思います(笑)
飼い猫と恋人に挟まれて幸せな俺!状態の宋ちゃんをもう少し詳しく書いてあげたかったです。

>ちなみに今回一番ツボだったのは、パンツを眺める宋ちゃんでした(笑)。さみしいんだろうけど、笑える絵面( ´_ゝ`)
>お忙しいにも関わらず、リクエスト聞いてくださりありがとうございました~あ幸せです(*´ω`*)

浅野くんがくれたストラップだとか、写真だとか、アイテムとしてもっと可愛くてセンチメンタルなものあったはずなんですが、パンツです。コムギちゃんの偉そうな口調で書くと大したことなさそうですが、とんだ変態です。楽しんで頂けて良かったです。
リクエスト頂かなければ飼い猫目線でもう一度この二人と一匹を書くことはなかったと思います。急ごしらえでしたが、楽しんで書けました。こちらこそありがとうございました!w
粟津原栗子 2013/04/16(Tue)08:10:07 編集
プロフィール
HN:
粟津原栗子
性別:
非公開
自己紹介:
成人女性に向けたBL小説を書いています。苦手な方と年齢に満たない方は回れ右。
問い合わせ先→kurikoawaduhara★hotmail.co.jp(★を@に変えてください)か、コメント欄にお願いいたします。コメント欄は非公開設定になっています。

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