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「おまえ、いつの間に携帯電話なんか買ったんだ」
『このあいだ。これはまだ誰にも言ってないんだ。夜鷹も携帯買えよ。海外に行くんだし』
「向こうで持つつもりだ」
『じゃあ持ったらここにかけて。いつでも出る。おれもかける』
「いいのかよ。婚約決まったんだろ」
『……ああ、聞いたか』
「浅野と?」
『うん。……両方の親への挨拶は、これからだけど』
「星も見ないのか」
『もう見る必要がなくなった。おれが見る星は夜鷹とあの山の上で見た星空が全部でいいから。……荷物になるけど、よかったら持ってってくれ。夜鷹はこれからいろんなところへ行きそうだから、おれが持つより活躍しそうだ』
「壊してやろうと思った」
『夜鷹がそうするなら、それでもいい』
沈黙ができた。夜鷹は絵葉書を手であそびながら、窓の外へ目を向ける。散りかけの梅の花がひらひらと花弁を落としていた。
「青、おまえもうさ、淋しいって言うの、やめな」
そう言うと、青はさらに黙った。
「言えば解消するってもんでもないって、とっくに分かってんだろ。だから飲み込め。淋しくても我慢しろ。浅野との生活で解消されればそれでいいし、されなくて溜まってっても、言うな。口にしない」
『……溜まって溜まって、どうにもならなくなったら?』
「おれに電話しろ。おれに言え。そのとき、おまえがあんまりにもひとりぼっちでがんじがらめで、淋しさで死にそうって言うなら、真っ昼間からやりまくろうぜ」
『……夜鷹、もう本当に、会えなくなる』
「電話があるんだろ。いつでも話せる。絵葉書だって送ってやるよ。日本に戻ることがあったら、会うこともあるだろう」
『夜鷹、好きだよ』
「ああ、愛してる。残念だったな、青。浅野とうまくやれよ」
電話を切った。子機を放り投げ、夜鷹はベッドに勢いよく沈む。
荷造りをしなければならなかった。だが身体が震える。青に愛されたかった。同化はないのに、夜鷹も同じものを求めていたと、気づいた。
『このあいだ。これはまだ誰にも言ってないんだ。夜鷹も携帯買えよ。海外に行くんだし』
「向こうで持つつもりだ」
『じゃあ持ったらここにかけて。いつでも出る。おれもかける』
「いいのかよ。婚約決まったんだろ」
『……ああ、聞いたか』
「浅野と?」
『うん。……両方の親への挨拶は、これからだけど』
「星も見ないのか」
『もう見る必要がなくなった。おれが見る星は夜鷹とあの山の上で見た星空が全部でいいから。……荷物になるけど、よかったら持ってってくれ。夜鷹はこれからいろんなところへ行きそうだから、おれが持つより活躍しそうだ』
「壊してやろうと思った」
『夜鷹がそうするなら、それでもいい』
沈黙ができた。夜鷹は絵葉書を手であそびながら、窓の外へ目を向ける。散りかけの梅の花がひらひらと花弁を落としていた。
「青、おまえもうさ、淋しいって言うの、やめな」
そう言うと、青はさらに黙った。
「言えば解消するってもんでもないって、とっくに分かってんだろ。だから飲み込め。淋しくても我慢しろ。浅野との生活で解消されればそれでいいし、されなくて溜まってっても、言うな。口にしない」
『……溜まって溜まって、どうにもならなくなったら?』
「おれに電話しろ。おれに言え。そのとき、おまえがあんまりにもひとりぼっちでがんじがらめで、淋しさで死にそうって言うなら、真っ昼間からやりまくろうぜ」
『……夜鷹、もう本当に、会えなくなる』
「電話があるんだろ。いつでも話せる。絵葉書だって送ってやるよ。日本に戻ることがあったら、会うこともあるだろう」
『夜鷹、好きだよ』
「ああ、愛してる。残念だったな、青。浅野とうまくやれよ」
電話を切った。子機を放り投げ、夜鷹はベッドに勢いよく沈む。
荷造りをしなければならなかった。だが身体が震える。青に愛されたかった。同化はないのに、夜鷹も同じものを求めていたと、気づいた。
新幹線の車掌に軽く肩を叩かれ、それがちょうど傷の真上だったので、思わず大きく呻いてしまった。眠っていたところを起こされたのだ。車掌に文句でも言ってやろうかと思ったが、相手が傷のありかを知るわけがない。それに彼は夜鷹があまりにも身体をのけぞらせて起き上がったものだから、びっくりしてひたすら申し訳なさそうな顔をしていた。日本人のこういうところ。嫌気が差したが毒気は抜けた。
「大丈夫ですか? あの、終点ですけど」
「ああ、……ありがとう。降ります」
終点で降りる新幹線で良かったと思った。荷物を引っ張り、車両を降りる。駅のホームに立ち、思いのほか暑くて上着を脱いだ。ここから何線に乗り継ぎだっけか。駅名を忘れたので青に電話をする。
コール数回で青は電話に出た。
「N駅まで来た。ここからどうすんだっけ」
『S線だな。新幹線ホームから在来線に乗り換え。これからだとこっちに昼過ぎに着く電車がある。それで来てくれ』
「なあ、なんで電子マネー使えねえんだよ。いまどきこんなのあるか?」
『田舎だから、としか……おれだって久々にこっち来て戸惑ったよ』
電話の向こうで青は苦笑した。夜鷹は息を吸い、「淋しいか、青」と訊ねた。
『……淋しい。気が狂って死にそうだ』
「そうだな」
また後で、と言って電話を切る。新幹線ホームの外側に、淀んだ雲が見える。
だがちらちらと青空が覗いていた。春と夏のあわいにいるのだと思った。
← 22
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「大丈夫ですか? あの、終点ですけど」
「ああ、……ありがとう。降ります」
終点で降りる新幹線で良かったと思った。荷物を引っ張り、車両を降りる。駅のホームに立ち、思いのほか暑くて上着を脱いだ。ここから何線に乗り継ぎだっけか。駅名を忘れたので青に電話をする。
コール数回で青は電話に出た。
「N駅まで来た。ここからどうすんだっけ」
『S線だな。新幹線ホームから在来線に乗り換え。これからだとこっちに昼過ぎに着く電車がある。それで来てくれ』
「なあ、なんで電子マネー使えねえんだよ。いまどきこんなのあるか?」
『田舎だから、としか……おれだって久々にこっち来て戸惑ったよ』
電話の向こうで青は苦笑した。夜鷹は息を吸い、「淋しいか、青」と訊ねた。
『……淋しい。気が狂って死にそうだ』
「そうだな」
また後で、と言って電話を切る。新幹線ホームの外側に、淀んだ雲が見える。
だがちらちらと青空が覗いていた。春と夏のあわいにいるのだと思った。
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プロフィール
HN:
粟津原栗子
性別:
非公開
自己紹介:
成人女性に向けたBL小説を書いています。苦手な方と年齢に満たない方は回れ右。
問い合わせ先→kurikoawaduhara★hotmail.co.jp(★を@に変えてください)か、コメント欄にお願いいたします。コメント欄は非公開設定になっています。
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2022*08*11-21
暑いですね。番外編短編、ちょこっと更新しています。
2021*12*04-2022*03*17
お久しぶりです。短編長編更新。
短編「さきごろのはる」
短編「月の椅子」
短編「みんな嬉しいお菓子の日」
長編「ファンタスティック・ブロウ」
短編「冬の日、林檎真っ赤に熟れて」
2021*08*16-08*19
甘いお菓子のある短編「最善最愛チョコレート」更新。
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