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「なんだこれ? 蕁麻疹?」青が慌てて身体を確かめる。
「熱持ってる」
「アレルギーだ。たまに出るんだ。日光に当たりすぎると発疹が出る」
「嘘? これまでのサマースクールであったか?」
「無理をすると熱が出たりするだろ。頭を使い過ぎると痛くなるとか。あんな感じで、コンディションによるんだ。アレルギーが出るときと、出ないとき」
「肌が出てたところだけ?」
「多分な」
シャツの裾をためらいなく捲られた。腹は白いままだったので、青は安堵したらしい。再び腫れた患部に触れた。ひんやりと冷たい指が気持ちよくてもっと触っていて欲しかった。
小雨も徐々に止みつつあった。青は地図を確認し、目の前の道に出来た川を見る。だいぶ水も引いていた。ルートを確認し終えた青は立ちあがり、「早く戻った方がいいと思う」と言った。
「救助は待たない。足の傷も心配だし、アレルギーも笑ってられないから。ルートは分かる。とにかく森を抜けよう」
夜鷹の持っていたリュックサックを前に引っかけ、青は「背中に乗って」と背を向けて屈んだ。
「……歩けるよ、」
「夜鷹の足並みに合わせてたら日が暮れる。その前に森を出たい」
「……くそ、」
青の肩に手をかけると、もっと体重を預けるように言われた。やけっぱちに背に乗る。青は夜鷹の足をしっかりと抱え込み、夜鷹には腕を自身の前にまわさせた。
「夜鷹、地図見てて。行こう」
滑らぬよう、慎重に、だが急いで青は道を進む。道はちょっと水たまりの多い地面程度に戻りつつあった。その代わり雨水が流れ込んだ沢が轟々と音を立てている。沢を横目に森を抜け、林道を下る。夜鷹はすぐ間近にある青の首筋や、髪の生え際、耳を見る。雨の滴か汗か分からないものが伝い降りるのを見て、舐めたらどんな味がするかを想像した。
は、は、は、と青の息遣いに合わせて、身体に備わっている確かな筋肉が動く。盛り上がり、伸び、力がこもり、解放される。夜鷹はたまらず目を閉じて、青の濡れた肩先に顔を埋めた。自分の吐息が青の首筋に熱く染みるのが分かった。
薄暗い森の影から抜けると、里はまだ今日最後の明るさを残していた。一台の軽トラックが近づいてくる。おーい、おーいと助手席に乗った男が手を振り、夜鷹を探してくれていた大人の誰かだと理解した。
「夜鷹、帰れるみたいだ」と青が呟く。
「ああ」と頷いたが同時に、終わっちゃったな、と思った、青の傍にいて、熱と質量を感じて、――なんだっけ、熱と質量。ああそうか、エネルギーだ。
青のエネルギーをもっと知りたいと思い、それは探究心ではなく、紛れもない飢餓だと気づいて、夜鷹は青の肩に額を擦り付けた。
「熱持ってる」
「アレルギーだ。たまに出るんだ。日光に当たりすぎると発疹が出る」
「嘘? これまでのサマースクールであったか?」
「無理をすると熱が出たりするだろ。頭を使い過ぎると痛くなるとか。あんな感じで、コンディションによるんだ。アレルギーが出るときと、出ないとき」
「肌が出てたところだけ?」
「多分な」
シャツの裾をためらいなく捲られた。腹は白いままだったので、青は安堵したらしい。再び腫れた患部に触れた。ひんやりと冷たい指が気持ちよくてもっと触っていて欲しかった。
小雨も徐々に止みつつあった。青は地図を確認し、目の前の道に出来た川を見る。だいぶ水も引いていた。ルートを確認し終えた青は立ちあがり、「早く戻った方がいいと思う」と言った。
「救助は待たない。足の傷も心配だし、アレルギーも笑ってられないから。ルートは分かる。とにかく森を抜けよう」
夜鷹の持っていたリュックサックを前に引っかけ、青は「背中に乗って」と背を向けて屈んだ。
「……歩けるよ、」
「夜鷹の足並みに合わせてたら日が暮れる。その前に森を出たい」
「……くそ、」
青の肩に手をかけると、もっと体重を預けるように言われた。やけっぱちに背に乗る。青は夜鷹の足をしっかりと抱え込み、夜鷹には腕を自身の前にまわさせた。
「夜鷹、地図見てて。行こう」
滑らぬよう、慎重に、だが急いで青は道を進む。道はちょっと水たまりの多い地面程度に戻りつつあった。その代わり雨水が流れ込んだ沢が轟々と音を立てている。沢を横目に森を抜け、林道を下る。夜鷹はすぐ間近にある青の首筋や、髪の生え際、耳を見る。雨の滴か汗か分からないものが伝い降りるのを見て、舐めたらどんな味がするかを想像した。
は、は、は、と青の息遣いに合わせて、身体に備わっている確かな筋肉が動く。盛り上がり、伸び、力がこもり、解放される。夜鷹はたまらず目を閉じて、青の濡れた肩先に顔を埋めた。自分の吐息が青の首筋に熱く染みるのが分かった。
薄暗い森の影から抜けると、里はまだ今日最後の明るさを残していた。一台の軽トラックが近づいてくる。おーい、おーいと助手席に乗った男が手を振り、夜鷹を探してくれていた大人の誰かだと理解した。
「夜鷹、帰れるみたいだ」と青が呟く。
「ああ」と頷いたが同時に、終わっちゃったな、と思った、青の傍にいて、熱と質量を感じて、――なんだっけ、熱と質量。ああそうか、エネルギーだ。
青のエネルギーをもっと知りたいと思い、それは探究心ではなく、紛れもない飢餓だと気づいて、夜鷹は青の肩に額を擦り付けた。
すぐに病院へ運ばれたので、その年はサマースクールどころではなくなってしまった。発疹は薬を塗ることで治まったが、膝の傷が思いのほか悪く、簡単とは言え外科治療を必要とした。翌日には東京から父親が来て、夜鷹のサマースクールはそれで終了してしまった。
帰宅する道すがら、車のハンドルを握って父親は「失敗も経験だ」と言った。
「夜鷹でも判断を誤るってことが立証されてよかったよ。おまえは橋の下で拾ってきた物の怪の類かと思うぐらいに人間離れしてるっていうか、僕らの子どもらしくなかったから」
「父さん、あのさ。中学は私立行きたいから受験する」
「反省の色が見えないなあ」
「それで来年もまたサマースクールに参加したいなって話。これに懲りてやめろって言わないで」
「言わないさ。この失敗を生かしてまた講座に参加すればいい。まあ、足を治すのが先だ」
帰宅して療養を余儀なくされて数日後、青から荷物が届いた。中身はノートやプリントのコピーで、サマースクールの残りの講座の内容を送ってくれたのだ。
見舞いの品と思しき箱も入っていた。中身はプラネタリウムの製作キットだった。星なんか興味ねえよと思いつつ箱を開けると、裏面にメモが貼り付いていた。
『もう少しで天体望遠鏡が買える。買ったら一緒に星を見よう』
ばからしいと思いながら、夜鷹は思い出す。青の熱、青の身体。雨に濡れて立ちのぼる青のこうばしいにおい。心拍の速さと確かさ。
あれをもっと知りたいと思う。
← 15
→ 17
帰宅する道すがら、車のハンドルを握って父親は「失敗も経験だ」と言った。
「夜鷹でも判断を誤るってことが立証されてよかったよ。おまえは橋の下で拾ってきた物の怪の類かと思うぐらいに人間離れしてるっていうか、僕らの子どもらしくなかったから」
「父さん、あのさ。中学は私立行きたいから受験する」
「反省の色が見えないなあ」
「それで来年もまたサマースクールに参加したいなって話。これに懲りてやめろって言わないで」
「言わないさ。この失敗を生かしてまた講座に参加すればいい。まあ、足を治すのが先だ」
帰宅して療養を余儀なくされて数日後、青から荷物が届いた。中身はノートやプリントのコピーで、サマースクールの残りの講座の内容を送ってくれたのだ。
見舞いの品と思しき箱も入っていた。中身はプラネタリウムの製作キットだった。星なんか興味ねえよと思いつつ箱を開けると、裏面にメモが貼り付いていた。
『もう少しで天体望遠鏡が買える。買ったら一緒に星を見よう』
ばからしいと思いながら、夜鷹は思い出す。青の熱、青の身体。雨に濡れて立ちのぼる青のこうばしいにおい。心拍の速さと確かさ。
あれをもっと知りたいと思う。
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プロフィール
HN:
粟津原栗子
性別:
非公開
自己紹介:
成人女性に向けたBL小説を書いています。苦手な方と年齢に満たない方は回れ右。
問い合わせ先→kurikoawaduhara★hotmail.co.jp(★を@に変えてください)か、コメント欄にお願いいたします。コメント欄は非公開設定になっています。
****
2022*08*11-21
暑いですね。番外編短編、ちょこっと更新しています。
2021*12*04-2022*03*17
お久しぶりです。短編長編更新。
短編「さきごろのはる」
短編「月の椅子」
短編「みんな嬉しいお菓子の日」
長編「ファンタスティック・ブロウ」
短編「冬の日、林檎真っ赤に熟れて」
2021*08*16-08*19
甘いお菓子のある短編「最善最愛チョコレート」更新。
問い合わせ先→kurikoawaduhara★hotmail.co.jp(★を@に変えてください)か、コメント欄にお願いいたします。コメント欄は非公開設定になっています。
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