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「……それよりも、この写真を出回らせた誰かがいるってことの方が問題なんじゃねえの、」
「まあな……」
「心当たりは?」
「ない。けど、気付いてないだけなんだと思う。おまえは疎いからって、よく言われるんだ」
「そうかな?」
「うん。ひとつに夢中になると周りが見えなくなる典型的なタイプ、らしいよ。あとは、そうだな。……どうもおれは『寄せる』タイプらしい」
「寄せる?」
「雨森には話したことなかったと思うけど、聞いたかな。なんかどうもね、おれは、おれが意図したかしないかにもかかわらず、そういうタイプの人間を寄せてしまうらしいんだ」
「そういうタイプ?」
「……男が好きな男とか、な。おれ自身にその気はないんだけど、ある一定のタイプの人間を、乱してしまうというか……」
「……」
「それがさ、おれの求めにかみ合っていればきっといいよ。きっと、赤城先生がそれだった。でも、そうじゃない人間もいるみたいで。だから中学のときに」
「……おまえが中学のときの話は、聞いた。人づての、噂の域の話だったけど」
「そっか。なら、話が早い」
あれは慈朗と青沼が付きあっていると噂が流れた際に写真部の仲間から聞かされた話で、ひどい噂だったと記憶している。もしあの噂が本当なら、当時の彼は、そして周囲は、相当に乱れたはずだ。またそれと同じことが起きようとしているかと考えると、気が塞ぐ。対処は早めにすべきだが、もうすでに親も学校に呼びされているというなら、事態はかなり深刻に、進んでいるのだろう。
「――なんとかしないとな。こういう場合、きっと責は赤城先生に重く取られるだろうから、……教師で、成人男性、という意味で」
「うん、そう、……先生、先生を辞めないよね?」
青沼の必死で悲痛な願いにも、慈朗はなんとも答えられなかった。
駅近くまで出てくると、一台の車がパンと短くクラクションを鳴らし、すっと近づいて傍に停車した。白いライトバンだ。またなにか展開があるのかととっさに身構えると、「おまえらふたりでなにやってんだ?」と運転席から声をかけてきたのは柾木だった。
「え、なんで先生? つか、車の運転できたんですか?」
「出来るよ、そりゃあな。学校には交通渋滞のこと考えて電車通勤してるだけだ」
「この車、先生の車ですか?」
「ばか、違う。学校で校務員さんが校務用に使ってるやつを借りて来た。知ってると思うけど、騒ぎがだいぶ大きくなっててな。職員は巡回に出ることになったんだ。遅くまで遊んでるやつがいないか、とかな」
それを聞いて青沼はあからさまにうつむいて見せた。「おまえがいちいち気にしても仕方ねえ、乗れ」と柾木は促す。「青沼のおふくろさん、息子がどこかへ出かけて帰らないって、学校に電話寄越したぞ」と言う。
「見つけたからには青沼を家まで送ってかなきゃいけねえ。時間も遅いしな。青沼の後で雨森も送ってってやるから、早くふたりとも乗りな」
そう言うので、青沼とふたりで後部座席に乗り込んだ。柾木が車を発進させる。思いのほか穏やかでなめらかな、車の構造を理解しきったやさしい運転だった、
「写真を流出させた犯人、見つかりましたか?」と青沼が柾木に訊ねる。
「いや、まだだ。あれだけもう拡散されているから、特定が難しくてな。……青沼、おまえ、あの写真は加工とかではなく、本物だな?」
「……そう、です。なにをしていたかまでは」
「言わなくていい。それはプライベートの話だ」
それからまた黙る。しばらくして青沼が「いま、赤城先生は」と訊いた。
「……ひとまず欠勤している。ひっきりなしに学校側と連絡は取ってて、今日、上席者が話を聞きにアパートまで行ってるらしいけどな」
「……」
「青沼、おまえは、黙ってろよ」
「え?」
「今回のこと。……事実があろうがなかろうが、おまえは黙秘してろ」
「でも、」
「こう言っちゃ悪いが、赤城も赤城だ。処分の程度は分からないが、一応、成人して働いてる大人だからな。相手が未成年、教師と生徒の間柄ってのは、本来なら教師としての枠から出ている。けど、それにしたっておまえが黙っていれば裏まで取れない。いいか、黙ってろ。大事なのは赤城よりも青沼の方だ。おまえにはこれから受験もある。受験の先には上級学校があって、さらにその先に社会がある。支えてく未来ってやつだよ。そういうおまえが、こんなことで時間を取られてる場合じゃない」
丁寧に車を動かし、滑るように青沼の暮らすアパートらしき建物も前に着いた。外には小雨が降っているというのに、アパートの軒下に女性が立っていた。どこかへ電話していたらしいが、青沼の姿を認めるとスマートフォンを仕舞って青沼の傍へ駆け寄った。「どこへ行ってたのこんな時間まで!」とか「あちこち電話して探してたのよ」と、疲労した顔で青沼に詰め寄る。
←(16)
→(18)
「まあな……」
「心当たりは?」
「ない。けど、気付いてないだけなんだと思う。おまえは疎いからって、よく言われるんだ」
「そうかな?」
「うん。ひとつに夢中になると周りが見えなくなる典型的なタイプ、らしいよ。あとは、そうだな。……どうもおれは『寄せる』タイプらしい」
「寄せる?」
「雨森には話したことなかったと思うけど、聞いたかな。なんかどうもね、おれは、おれが意図したかしないかにもかかわらず、そういうタイプの人間を寄せてしまうらしいんだ」
「そういうタイプ?」
「……男が好きな男とか、な。おれ自身にその気はないんだけど、ある一定のタイプの人間を、乱してしまうというか……」
「……」
「それがさ、おれの求めにかみ合っていればきっといいよ。きっと、赤城先生がそれだった。でも、そうじゃない人間もいるみたいで。だから中学のときに」
「……おまえが中学のときの話は、聞いた。人づての、噂の域の話だったけど」
「そっか。なら、話が早い」
あれは慈朗と青沼が付きあっていると噂が流れた際に写真部の仲間から聞かされた話で、ひどい噂だったと記憶している。もしあの噂が本当なら、当時の彼は、そして周囲は、相当に乱れたはずだ。またそれと同じことが起きようとしているかと考えると、気が塞ぐ。対処は早めにすべきだが、もうすでに親も学校に呼びされているというなら、事態はかなり深刻に、進んでいるのだろう。
「――なんとかしないとな。こういう場合、きっと責は赤城先生に重く取られるだろうから、……教師で、成人男性、という意味で」
「うん、そう、……先生、先生を辞めないよね?」
青沼の必死で悲痛な願いにも、慈朗はなんとも答えられなかった。
駅近くまで出てくると、一台の車がパンと短くクラクションを鳴らし、すっと近づいて傍に停車した。白いライトバンだ。またなにか展開があるのかととっさに身構えると、「おまえらふたりでなにやってんだ?」と運転席から声をかけてきたのは柾木だった。
「え、なんで先生? つか、車の運転できたんですか?」
「出来るよ、そりゃあな。学校には交通渋滞のこと考えて電車通勤してるだけだ」
「この車、先生の車ですか?」
「ばか、違う。学校で校務員さんが校務用に使ってるやつを借りて来た。知ってると思うけど、騒ぎがだいぶ大きくなっててな。職員は巡回に出ることになったんだ。遅くまで遊んでるやつがいないか、とかな」
それを聞いて青沼はあからさまにうつむいて見せた。「おまえがいちいち気にしても仕方ねえ、乗れ」と柾木は促す。「青沼のおふくろさん、息子がどこかへ出かけて帰らないって、学校に電話寄越したぞ」と言う。
「見つけたからには青沼を家まで送ってかなきゃいけねえ。時間も遅いしな。青沼の後で雨森も送ってってやるから、早くふたりとも乗りな」
そう言うので、青沼とふたりで後部座席に乗り込んだ。柾木が車を発進させる。思いのほか穏やかでなめらかな、車の構造を理解しきったやさしい運転だった、
「写真を流出させた犯人、見つかりましたか?」と青沼が柾木に訊ねる。
「いや、まだだ。あれだけもう拡散されているから、特定が難しくてな。……青沼、おまえ、あの写真は加工とかではなく、本物だな?」
「……そう、です。なにをしていたかまでは」
「言わなくていい。それはプライベートの話だ」
それからまた黙る。しばらくして青沼が「いま、赤城先生は」と訊いた。
「……ひとまず欠勤している。ひっきりなしに学校側と連絡は取ってて、今日、上席者が話を聞きにアパートまで行ってるらしいけどな」
「……」
「青沼、おまえは、黙ってろよ」
「え?」
「今回のこと。……事実があろうがなかろうが、おまえは黙秘してろ」
「でも、」
「こう言っちゃ悪いが、赤城も赤城だ。処分の程度は分からないが、一応、成人して働いてる大人だからな。相手が未成年、教師と生徒の間柄ってのは、本来なら教師としての枠から出ている。けど、それにしたっておまえが黙っていれば裏まで取れない。いいか、黙ってろ。大事なのは赤城よりも青沼の方だ。おまえにはこれから受験もある。受験の先には上級学校があって、さらにその先に社会がある。支えてく未来ってやつだよ。そういうおまえが、こんなことで時間を取られてる場合じゃない」
丁寧に車を動かし、滑るように青沼の暮らすアパートらしき建物も前に着いた。外には小雨が降っているというのに、アパートの軒下に女性が立っていた。どこかへ電話していたらしいが、青沼の姿を認めるとスマートフォンを仕舞って青沼の傍へ駆け寄った。「どこへ行ってたのこんな時間まで!」とか「あちこち電話して探してたのよ」と、疲労した顔で青沼に詰め寄る。
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プロフィール
HN:
粟津原栗子
性別:
非公開
自己紹介:
成人女性に向けたBL小説を書いています。苦手な方と年齢に満たない方は回れ右。
問い合わせ先→kurikoawaduhara★hotmail.co.jp(★を@に変えてください)か、コメント欄にお願いいたします。コメント欄は非公開設定になっています。
****
2022*08*11-21
暑いですね。番外編短編、ちょこっと更新しています。
2021*12*04-2022*03*17
お久しぶりです。短編長編更新。
短編「さきごろのはる」
短編「月の椅子」
短編「みんな嬉しいお菓子の日」
長編「ファンタスティック・ブロウ」
短編「冬の日、林檎真っ赤に熟れて」
2021*08*16-08*19
甘いお菓子のある短編「最善最愛チョコレート」更新。
問い合わせ先→kurikoawaduhara★hotmail.co.jp(★を@に変えてください)か、コメント欄にお願いいたします。コメント欄は非公開設定になっています。
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