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成人女性を対象とした自作小説を置いています。
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 三崎の仕事が終業するのを、村上は傍のファミリーレストランで待っていてくれていた。現れた三崎を見て、村上はほっと息をついた。そして「なにか食うか」と訊ねたが、三崎は首を横に振った。なにもいらないし、入りそうになかった。ただ、村上の傍にいたい。
 村上からもらった紙袋を片手に、村上の部屋へと並んで進む。寒い夜で、雪がちらちらと舞いはじめていた。その雪片を眺めながら、「人物写真は撮らない主義じゃなかったの、」と三崎は訊ねた。
「おまえ見てたら、気が変わった」
「あのね、おれはそんなに綺麗な人間じゃないんだよ。野口先輩とだって、……」
「知ってる」
 きっぱりと言い放たれ、三崎はとっさに村上の横顔を見た。心臓が飛び出しそうなぐらいに鳴っている。村上は「はじめの夜にそう聞いたからな」と穏やかに言った。
「なんてかわいそうなやつだと思った。そんないびつな寝方しかできないのか、って。おれの声で寝られるなら、って本気で思ったよ。『朗読は絶対に誰かのためにあるものだ』、そうおれはボランティアで教わってたんだけど、この声は、三崎のためだけにある声だと思った」
「……」
「おれは多分、高校の頃からあんたに惚れてたんだ。あの時はあんたの不眠なんか知らなかったけど、知ってたらっていま後悔してるぐらいさ。あの晩、ああいうかたちでも出会えて本当に良かった」
「……おれでいい?」
「あんたはおれじゃなきゃだめなんだろう。おれもそうだよ。……眠いか?」
 村上の問いには、「抱いて」と答えた。するりと出てきた言葉に、村上が目をまるくする。
「眠りたくない。もったいない。――身長が高いところが好き」
 三崎は村上の肩にすがり、頬をすり寄せた。
「声が好き。細い目が好き。自由な性格も、もう、全部、好き」
「……参ったな」
 村上は立ち止まり、三崎の頭の後ろを掴むと、三崎を抱き寄せた。三崎がずっとそうされたいと思っていたことだ。
「早く帰りてえのに、帰りたくない」
「……」
「夜が明けなきゃいいな」
 ぽつんと、村上はそうこぼした。


 全裸の三崎に、同じく全裸の村上が重なる。村上の手はあちこちを這い、三崎の肌をたわむれに弾き、引っかいて、摩擦し、三崎を高めようと躍起になる。三崎は「待って」と言って、村上の背を引き寄せ、抱きしめた。心臓の音を聞き、体温を共有して、血液の循環を確かめる。「いいよ」と、背を抱く腕の力を緩めると、村上は「ははっ」と笑ってから唐突にキスしてきた。
 くちびるを吸いあげられる。二度のキスでは果たせなかった口内へ、舌は自在に伸びる。そのあいだにも手指は三崎のわき腹のラインをずっと擦っている。先ほどそこを触られて三崎が声をあげたから、感じる場所だと認識されて、辿られている。
 キスも、セックスも、こんなのいつの間に、どこで覚えて来たんだろうな、と思う。誰としてきたんだろう。村上と過去体温を共有した誰かがいて、きっと村上の胸を掻き毟った存在で、でもいま村上はこうして、三崎の上で、瞳を弧にして笑っている。高校生だった三崎と村上はいつの間にか二十代も折り返し地点に来ていて、どんな縁だというんだろう、こうして互いを愛おしく思いながら行為に没頭している。村上は三崎の反応を窺い、それが良くなければ次を試し、良いようだったら、安心するらしい。もどかしいほど優しく触れるかと思えば、強く引っかかれる。乳首を甘噛みされて、三崎は鼻から声を漏らす。
「――あっ、」
「……だめか?」
 村上の手が三崎の臀部、ごく奥まった場所を押した。そこへの刺激に三崎はふるえる。指の腹で撫でるように押されると、つかうのは久々のはずなのに、そこは勝手に収縮をして、村上の指を誘った。
「……だめじゃない、いい。――ほしい」
「……なんか持ってる?」
 と、村上は潤滑剤のことを言ったが、ここは村上の部屋なので、村上が持っていなければ三崎にも準備がなかった。そのことを告げると村上は「まあ、そうだよな」と照れ笑いして、おもむろにずり下がった。三崎の股間に顔を埋め、まずは性器を、舐める。直接的な刺激に三崎は背をのけぞらせ、足先を引き攣らせた。
「あっ……はあっ……」
 三崎の先端も自然と濡れはじめるから、卑猥な音が室内に響いた。ちゅ、と音を立てて村上はくちびるを離し、「なあ」と三崎に呼びかけた。腹部を見れば、村上の顔が自分の育ちきった性器と並んでいて、恥ずかしくなって顔をそむけた。
「野口先輩もこういうことしたんだよな」
「……」
「悪い、人のセックス聞いて対抗心燃やそうとか嫉妬しようとかそういうつもりじゃねえんだ。ただちょっと、思っちゃっただけだから」
「なにを……」
「おれだけが知れる三崎の表情はあんのかね、ってさ」
 それなら、あのカメラ雑誌に掲載された写真。あれがそうだ。そう言おうとして、言えなくされた。村上は三崎の膝裏を抱えあげると、身体を深く折りたたんできた。でんぐりがえしでも促すかのように転ばされ、膝頭が、顔の横についた。苦しい、と思う間もなく、羞恥がよぎった。なにもかもをも村上に晒している状況で、あろうことか村上は、先ほど指で手繰った、奥まった場所に、舌を這わせてきた。
「あ……やっ、やめ、」
 わずかに抵抗を試みるも、無駄だった。三崎をほころばそうという動きはぬるりといやらしく、体勢のおかげもあって、簡単に身体はひらいた。こんなあられもない格好にされて、喜んでいる。そのうち指も入れられた。広がると、村上は嬉しそうに息を漏らした。唾液でよく濡らして、指を抜き差しする。また濡らして、広げる。丹念に繰り返す。
 もうころあい、と思ったから、どこまでも広げようとする村上に、そう言った。村上は頷いて、身体の位置をずらす。性器を、よく広げた窄まりに当て、ゆっくりと挿入した。もう我慢ならなくなっていた三崎は、村上の長い性器が内部をずり上がってゆく、その感触と衝撃だけで、あっけなく達した。びくりびくりと身体を痙攣させ、精液を数度にわたって吐きだす。内部が絞られたのがたまらなかったのか、村上も低く呻いたが、射精はしなかったようで、浅い呼吸を繰り返していた。
「気持ちいいか?」と村上は訊いた。
「……あ、気持ちいい……」
「おれはまだだよ、三崎」
「ん……いいよ、動いて、……おれでいっぱい、いって」
 三崎の台詞に村上はまた笑い、腰を強く掴むと、動きはじめた。三崎を貪り食うかのような遠慮ない獣の動きがかえって良かった。また沸点が、ちらつく。と村上は前傾姿勢になり、三崎の両頬の隣に手を突いた。
「――名前、呼べ」
「……むらかみ、」
「じゃなくて、下の名前」
「……しのぶ、」
「ああ」
「士信、」
 村上は微笑んだ。心底嬉しいようだった。また「士信」と呼んでみる。そのくちびるに、キスが落とされる。
「しのぶ、っ……あっ、あっ、ああっ」
 呼べ、と言っておいて、そのうち名前もろくに呼べなくされた。村上は再び三崎の腰を掴むと、夢中で腰をつかってくる。注挿は次第に早く深くなり、やがて最奥に、生暖かいものがじわりと注がれた。三崎はまた痙攣する。深い充足感に包まれながらも、村上がキスをしてきたので、三崎も舌を伸ばす。


 目が覚めてはじめに見たのは村上の寝顔だった。辺りはまだ薄暗く、夜明け前ということを示している。よく寝ているな、と思う。わずかに身じろぐと、村上の手が身体にしっかりとまわされていることが分かって、嬉しかった。
 村上、と呼ぼうとして、呼ぶのをやめた。眠る前に散々呼んだ「士信」の言葉も、言おうと思ったが、これもやめた。村上を起こしたくない。本当にいつもしみじみと思うけれど、村上は見ているこちらが気持ちのよい寝方をする。
 安寧が胸の内にじわりと広がる。こうやって眠れること。あるいは眠れないこと。三崎はまだ眠りたいと思う一方で、じっと目をあける。村上の顔を見つめる。
 村上は目覚めない。外の雪は止んだろうか。
 夜が白々と明けゆくこの一瞬に、村上を見ながら思う。



End.



← 6



なんとなくこのふたりは「Counting Stars」(OneRepublic)を聴きながら書いていました。
作品とマッチするか分かりませんが、気になった方は聴いてみてください。


拍手[57回]

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ellyさま(拍手コメント)
おはようございます。いつもありがとうございます。
全7話(一週間)でしたが、お付き合いいただいてありがとうございました。久々にこの長さのお話を書いて、更新して、不安も大きかったですが、楽しかったです。
そして、純粋な恋心、みたいなものを書くのも久々でした。村上くん、愛が深いですね。とにかくしんと静かで澄んでいる、という「冬」を書きたかったのでした。樹海の基本、を思い出して書いてみた感じがしました。
「Counting Stars」お聴きになられたのですね。そう、冒頭の「Lately I been losing sleep」というところはモチーフそのまま頂いています。ちょっと投げやりに歌う感じも好んでいます。お聴きいただきありがとうございました。
三崎くんと村上くんのその後みたいなものは、誰にもリクエストされていないですが書けたらいいなあと思っているので、またそんな更新も出来たらと思います。お楽しみに。
拍手・コメント、ありがとうございました!楽しい朝ごはんになさってください!
粟津原栗子 2015/02/07(Sat)08:47:50 編集
拍手コメントでお名前のなかった方
上記のような表記ですみません。
読んでくださってありがとうございます。
続きを楽しみにしてくださっているようで、嬉しいです。その続きですが、更新いたしておりますので、ぜひおつきあいください。
拍手・コメント、ありがとうございました。
粟津原栗子 2015/02/07(Sat)17:07:18 編集
美冬さま(拍手コメント)
お久しぶりですね。読んでいただいてありがとうございます。
「おもしろかった!」と言っていただけて、すごく嬉しかったです。私に近いところにあるネタだというのはすぐお分かりになられたかと思いますが、私としては久々に、王道を行くようなお話になりました。樹海の基本をなぞってみた感覚です。
続編、そちらには消えた(笑)野口くんも登場しておりますので、楽しんでいただけたらな、と思います。そして良ければ、ご感想をお聞かせください。
体調の件、ご心配をおかけして申し訳ありません。まだ快調とは言えないのですが、こうしてネットにつないでPCいじっていられるぐらいには元気です。大丈夫です。ありがとうございますw
良ければまた覗いてやってください。地味に更新しております。拍手・コメント、ありがとうございました!
粟津原栗子 2015/02/12(Thu)19:57:12 編集
プロフィール
HN:
粟津原栗子
性別:
非公開
自己紹介:
成人女性に向けたBL小説を書いています。苦手な方と年齢に満たない方は回れ右。
問い合わせ先→kurikoawaduhara★hotmail.co.jp(★を@に変えてください)か、コメント欄にお願いいたします。コメント欄は非公開設定になっています。

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