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成人女性を対象とした自作小説を置いています。
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 昼飯を一緒に作って食べた。冷蔵庫に余っていた野菜を刻みまくって嵩増ししたチャーハンだ。実家暮らしの浅野は、料理をしない。一緒に作ると言ってもあまり役に立たない。調味料の瓶を背の順に並べて喜んでいたぐらいだ。
 一息つくと、ふらっと浅野は立ち上がり、僕のベッドへ勢いよく倒れ込んだ。昼を過ぎて日差しがダイレクトに部屋に入り始めた。ベッドの場所は、日当たりがいい。差し込む光に浅野は目を固く瞑った。
「美味かった。はらはちきれる。ねむい」
「寝るのは構わないけど、それじゃ眩しすぎるだろ」
 傍へ行き、窓のブラインドを下げた。薄い緑色の綿地越しにも日光の強さが感じられる。ベッドの上でころんと寝返りを打った浅野は、ふと何かをつまみ上げた。「ネコの毛」
「今朝、掃除機もコロコロもかけたんだけど、残ってたか」
「……毎晩ここで一緒に寝てるんだよな、」
「……なんかそういう言い方だと、本妻の留守中に逢瀬に来た愛人、みたいだな、浅野」
「そういう話が好きだよな、宋ちゃん」
「見ちゃうね、昼ドラとか」
 ちょっと眉間にしわを寄せて、ネコに本気で嫉妬を見せる恋人が、かわいい。乗り上げて顔を近付ける。一瞬だけためらい、僕を受け入れた。こんな時でもコムギを警戒しているのだ。
 以前、夏場に僕の部屋でセックスをして、ネコのおかげで中断したことがあった。二人して夢中になっていたから、物音に気が付かなかった。浅野がいきなり「うわっ」と身体をこわばらせ、ぎょっとした。裏だからいいと思ってあけていた風呂場の窓から、どうしても中に入りたいコムギが侵入して、僕らの情事へ踏み込んだのだ。
 反り返らせた爪先にあたたかい猫毛が触れて、浅野はパニックに陥った。よりにもよってこのタイミングで侵入を図る辺りさすがは僕の飼い猫である。ようやく浅野の中に入り込み、馴染むまでキスをして、いよいよ動こうかという頃だった。委縮した身体にきつく締め上げられ、僕は呻いた。
 ここで止まるのは無理、と思ったのに止めざるを得なくなった。ケージに餌を置きコムギを閉じこめても、浅野の身体は警戒心でかたい。鳴き声に反応しては切なく僕を見上げるので、欲情していいんだかわるいんだか、僕も大変だった。再び沸騰状態へ持ち上げるのにかなり時間がかかった。
 今日は大丈夫だから、と言い聞かす。どれだけ用心しているか、家じゅうの窓を示して聞かせた。腕に抱え込んで囁いているうちに、浅野の緊張がほどけてきた。「あー」と大きく息を吐く。
「ネコぐらいで情けないな、ぼくは」
「場所変えようか」
「いや、ここがいい」
 起き上がり、浅野はTシャツを脱いだ。僕のシャツをたくし上げ、心臓の真上に耳を置いた。
「シーツから宋ちゃんのにおいがするから、ここがいいんだ」
 もちろん、僕の心臓はとび跳ねる。全部どうでもよくなる。





 浅野のいいところは、一度眠るとなかなか起きない点だ。ぐっすりとよく眠る。ネコもよく寝るから「寝子」なんだぞー、と小声で言ったが起きない。
 外から聞こえたわずかな物音で、僕は起き上がった。
 コムギの夕飯の時間は決まっている。夕方のちょっと早い時間に必ず戻ってくる。今日も庭石にちょこんと座り僕が家に入れてくれるのを待っていた。浅野が寝ているのをもう一度確認して、家に入れた。飯だけ食わせたらまた外へ出すか、ケージへ入れるかすれば、大丈夫だ。不意打ちがなければ、浅野が以前ほど極端にネコを怖がることは少なくなった。
 今夜浅野は泊まっていくのか聞き損ねていた。僕らの夕飯はどうしようか。結局午後は寝たなあなどと思いつつ、流しに放っておいた食器を洗った。シャワーを浴びようかとか、コムギが家にいるなら外で飯を食おうかとか、あれこれ考えていたらコムギを見失った。慌ててベッドを覗く。コムギは、布団を巻きつけて寝入っている浅野の足もとで、手足を投げ出して毛づくろいをしていた。
 ネコが、苦手な人間の傍ほど行きたがる話は有名だ。仲いいなあ、と笑みがこぼれる。テレビの横に置きっぱなしのコンパクトデジカメを取って来て、そっとシャッターを切った。浅野は起きず、コムギはつまらなそうにあくびをする。調子に乗って二・三枚撮った。
 彼らにはぜひとも和解して頂きたい、と僕は思っている。いずれ僕は浅野と暮らしたい。どうしても無理だと言うなら諦めるが、どちらかを選べと言われても、かなり真剣に迷う。双方が仲良く僕の元で暮らしてくれるのが理想だ。両手に花、っていうのか。楽しい毎日になるともくろんでいる。
 冷蔵庫に向かい、今夜のメニューをひねり出した。実家からせしめてきた蕎麦がある。桜エビと玉ねぎもあるからかき揚げがいい。ビールも冷えている。
 そのうち匂いにつられて浅野が目を覚ます。足元にいるネコにぎょっとして、おそらく悲鳴をあげる。耳をすませながら支度を始めた。人が悪くて申し訳ないが、ちょっとわくわくしている。


End.



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無題
今日も来てしまいましたwww

もー!君の匂いがするから、とか!

にゃんこに気づかない浅野くんとか!

てか、猫の恐怖で中断て(笑)!

可愛い、可愛いょ~!と、モエモエにやにやしてしまいました♪ヽ(´▽`)/

コムギと和解して、ややビビりつつも猫との生活をスタートさせる浅野くんも見てみたいなぁ、ハーレム状態な宋ちゃん、ぜひとも見たいです(笑)。

可愛いお話、ありがとうございました~(о´∀`о)
2013/04/09(Tue)22:44:11 編集
Re:宰さま
ようこそ!
いつもありがとうございますw

>今日も来てしまいましたwww
>もー!君の匂いがするから、とか!
>にゃんこに気づかない浅野くんとか!
>てか、猫の恐怖で中断て(笑)!
>可愛い、可愛いょ~!と、モエモエにやにやしてしまいました♪ヽ(´▽`)/

そうなのです!ここの萌えを書きたくて書いたので宰さんのコメントがどれだけ嬉しかったか…!!ww
ネコで中断、というか、「これからすっからおまえ外行ってろよ」「にゃー!!?」という、情事につき締め出しを喰らうネコの話をネコ目線で書こうかな、っていうのが書き始めの構想でした。いつか書きたいと思います。いや、ネコと男の子ネタでまだいくらでも書けそうです(笑

>コムギと和解して、ややビビりつつも猫との生活をスタートさせる浅野くんも見てみたいなぁ、ハーレム状態な宋ちゃん、ぜひとも見たいです(笑)。
>可愛いお話、ありがとうございました~(о´∀`о)

多分、その日は近いのでしょう。宋ちゃんは考えるだけでにやにやが止まらないかと。シアワセな人たちです。書いてて和みっぱなしでした。こちらこそ読んで頂いてありがとうございましたw

栗子
【2013/04/10 07:52】
無題
すみません、何度も何度も・・・(-_-;)

栗子さんからのお返事読んでて、どうしても言いたいことがあって・・・!

コムギ目線のSS、読みたい~(笑)!!!

お返事いただいた中で、「にゃー!!?」って書いてるの見て、この「にゃー!!?」に一体どんな気持ちが込められているのか・・・!と、ヌフフと妄想してしまいましたwww

そんなこんなで、妄想が漲りすぎて、思わずもっかいコメントしてしまいました(笑)。

でも、栗子さんが書きたい作品を、私はのんびりと待っておりますのでっ☆
2013/04/10(Wed)23:58:58 編集
Re:宰さま
おはようございます。いつもありがとうございますw

>すみません、何度も何度も・・・(-_-;)
>栗子さんからのお返事読んでて、どうしても言いたいことがあって・・・!
>コムギ目線のSS、読みたい~(笑)!!!
>お返事いただいた中で、「にゃー!!?」って書いてるの見て、この「にゃー!!?」に一体どんな気持ちが込められているのか・・・!と、ヌフフと妄想してしまいましたwww
>そんなこんなで、妄想が漲りすぎて、思わずもっかいコメントしてしまいました(笑)。
>でも、栗子さんが書きたい作品を、私はのんびりと待っておりますのでっ☆

分かりました。書きましょう!(笑)
元々書こうとしていた視点ですしね。リクエスト賜りました。ただ、お時間はいただくかもしれませんし、どうしても書けないこともあるかもしれません。載るかな載らないかなー…ぐらいの気持ちでお待ちいただけたら幸いです。
妄想に添えられるように(?)頑張りますw
コムギちゃん、あれでもオスですからね…男気見せて頂こうと思います(笑

コメントありがとうございました!

栗子
【2013/04/11 07:21】
プロフィール
HN:
粟津原栗子
性別:
非公開
自己紹介:
成人女性に向けたBL小説を書いています。苦手な方と年齢に満たない方は回れ右。
問い合わせ先→kurikoawaduhara★hotmail.co.jp(★を@に変えてください)か、コメント欄にお願いいたします。コメント欄は非公開設定になっています。

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