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 野口の歌は突然、予言のように響いた。目が覚めるなり、「うららかに春の光が降ってくる」と音が鳴った。同時に三崎は思い出す。ああ、確かにこれを小学校の卒業式で歌ったかもしれない。卒業式の時期はいつも風邪を引いて、ろくに出席した覚えがないから、忘れていたのだけれど。
 起きてしばらく、村上の寝顔を眺める。外は良い天気で、野口の言う「うららかな日」にぴったりだった。それから少しだけ考えて、三崎は本日の欠勤を決め込んだ。職場に「熱を出したので」と嘘の電話をかけ終えると不思議と気持ち良く、しばらくの間、窓をあけて春のにおいに浸ってから、シャワーを浴びた。
 浴び終えると、村上が起きていた。ベッドで片膝を抱えて、ぼーっとしている。その顔に、今日、休むことにしたよ、と言ってやった。村上は驚いた顔をした。
「出かけるならどこでも行こう」
「……この展開は意外だった」
「出かけない?」
「いや、……」
 村上は窓の外を見た。「確かにな」と呟くので、三崎は首を傾げる。
「なんだっけ、昨夜野口先輩が言ってたやつ。『うららかに』」
「『春の光が降ってくる』。おれ、思い出したよ。歌ったことある。全校で歌ったあと、低学年、中学年、高学年、あとは保護者とか先生とか卒業生とか、歌いつないでいくんだ。すごく長い歌だった」
「へえ、タイトルは?」
「思い出せない」
「ふうん。まあ、そう、それ。そんな日、そんなにおい。『良い日よ』って言ったな」
「うん」
「春の晴れ間ってだけでなんかもう、良い日、だよな」
 梅の花は何日も前から咲いて散り始めている。そのうちすぐに桜が咲くのだろう。村上につられて移していた視線を戻すと、村上がじっと三崎を見つめていたことに気付いた。細い瞳の中に、三崎への情熱が宿っているのを、確かに見た。ずくん、と心臓や、腹の奥が、疼いた。
「まっぴるまからセックスしたことあるか?」と村上が笑いながら訊ねる。
「ない気がする」
「おれも」
「する?」
 訊ねるまでもなかった。村上は瞳をうすくさせて笑う。
「してえな」
 三崎はそれを聞いて、ベッドに腰掛けた。左手で村上の右手を取り、湿布薬のにおいがする包帯の上に、軽くキスをした。
「でも、手がこんなだね、村上」
「ああ」
「残念だけど、村上はなんにもしなくていいよ」
 そう言って三崎の方から村上のシャツを脱がせた。


 村上の左手に、チューブのジェルを垂らす。三崎は香りが気に入ってつかっているが、うっすらと透明なピンク色をしているので、村上はその女性的な(あるいは卑猥な)色あいをあまり好んでいないのも知っている。ただ、今日は違った。垂らすと、村上はそれを指でぬるぬると粘つかせて、「なにしてくれんの」と楽しそうに言った。
 あぐらをかいて座る村上の腿を跨ぐ。濡らした左手を取って、奥へ導いてやる。村上は「ふ」と息を漏らして、三崎の秘められた場所を数度押した。ぬるみを纏っているおかげで抵抗はささやかなもので、肉をかき分けて中指がぬるりと入り込んできた。異物感に、三崎は息を吐く。
「狭い」と村上は文句を言った。
「あ、……こすって、なか、広げて、……」
「おれ、なにもしないでいいんじゃなかったのか」
「んん……」
 侵入したはいいものの、村上は指を動かそうとしない。三崎はそれをなんとか動かそうと、まるで村上の手指をいやらしい自慰道具のようにつかって、上下に揺すった。
 意図を汲んだ村上は、三崎が好きに道具としてつかえるように、手をあえて固定する。「にほんめ、入れて」と耳元で囁くと、村上は中指にひとさし指を添えて、束ねた。それをつかって、また中を熱心に擦る。圧迫感はさほどでもなく、とろけてすぐに緩む。
 不意に、村上の指が動いた。道具としてつかわれることに飽きた、という風に、三崎の中で、指を鉤の字に折り曲げる。触れられてこすられると性感がみなぎってどうしようもなくなる場所があって、そこを、狙っているようだった。指がかすって、三崎は「あっ、うんっ」と声をあげた。
 びりびりとした快感が身体中をめぐり、それは三崎の腹の中心へと集まってくる。性器がぴんと跳ねた。村上は中を執拗に押しながら、「はじめてのセックス覚えてる?」と訊いた。
「おれとした、はじめての夜」
「んっ、……覚えてっ、る、」
「あん時あんたさ、後ろだけでいったじゃん」
 ずるりと手を引き抜かれ、背後が閉じていく。寒気にも似た性感がぞくぞくと背筋をふるわせた。すぐに三本にまとまった指が、三崎をひらいてゆく。
「あっ、はあっ」
「びっくりして、いやらしいのがかわいいなと思った。……指だけでいけるか?」
「――んんっ!」
 ぐちゃぐちゃと、性行そのものの動きで三崎の中を突いてくる。もはや道具でもなんでもなく、村上の意思を持った村上の手指だった。上下に揺すったかと思えば、中でねじられる。指先を広げて、奔放な動きで三崎の性感を自在に操った。
「あっ、むらっ、かみっ」
「――士信」
「しのぶ、……」
 普段はなんにも言わないくせに、性行の時だけ下の名前を呼ぶように促してくるのが、かわいいと思った。三崎は「もう、やだ」とかぶりを振って懇願する。
「士信のでいきたい……」
「ふうん……ほら、いいぜ」
 また村上の指が抜けてゆく。そのまま村上は、自分の性器を二・三度扱く。それをぴとりと後ろへあてがって、三崎は腰を下ろした。途中、ふるえて足が突っ張ったが、村上が尾てい骨の付近ををくるくるとくすぐるから、背をしならせているうちに、簡単に腰が落ちた。
「――はあっ」
「……っ、」
 いちばん嵩のある部分がぬくりと中へ収まってしまえば、あとは苦しみもなくむしろ悦びとして、迎え入れられるのを知っている。びったりと陰毛が当たるほど奥まで差し込み終えると、三崎は一度ぶるりとふるえた。
「――おれ、」
「ん?」
 村上は、右手に負担をかけぬよう、上体まですっかりベッドに沈み込んでいる。は、は、と浅く呼吸を繰り返し、押し寄せる性感をわざと逃している。その、こらえている時の表情が、三崎は好きだ。
「士信のこと、大きくていいなあって思ってた。……おれは、すごく欲深くて、いやらしい人間だから、」
 自らわざと大きく腰を振る。村上は性感を逃そうと奥歯を噛みしめて、左目が少し、歪む。
「士信の、これ、が、大きいのも、好き」
「……ばあか、」
「ふふ」
 改めて村上の腹部に手を突き、膝をすっかり立てて、腰を上下に揺らす。三崎の好きな速度で出来るのがやっぱり自慰みたいで、もの足りない、と思った。つまらない。せっかく村上とセックスしているのに、村上の漲った性器が三崎を虜にしているのに、もったいない。もどかしくなりながらぐずぐずと腰を揺すっていると、村上は左手を突いて上体を起こし、三崎に視線を合わせてきた。
「――交替。おれの好きにさせろ」
 オーケーの代わりに、三崎は村上の額にキスをした。大きな絆創膏は汗でぬめって浮きかけているから、後で貼り替えてやらねばならない、と思う。きっと右手の包帯も。村上の短い髪がちくりと鼻に当たって、こういう感触ははじめてだな、と、少し感動した。いつもなら長い前髪をオールバックの風に後ろに梳いてやるのが楽しかったが、その必要のないほど、短く刈られた髪。
 いったん離れて、三崎は改めてベッドに背を落とす。その膝に村上の手がかかったのを合図に、三崎から足をひらいた。


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粟津原栗子
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成人女性に向けたBL小説を書いています。苦手な方と年齢に満たない方は回れ右。
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