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それからはもう照れも臆面もなく、朝も昼も夜も暁登に情をアピールした。仕事があれば朝と夜の挨拶をスマートフォンのメッセージで、休みの日は暁登を誘ってあらゆる所に出掛けた。とりわけよくしたのはドライブで、行き先は様々だった。天候に悩まされた時は近所のカフェや食堂に行った。会う度に暁登を愛しく思う気持ちが募り、心の中では毎回パレードでもしているような高揚した気分だった。
春になる前に、二回目のセックスをした。樹生の部屋だった。寒くて家から出たくなくて、なによりも恋しくて、肌を求めた。
火が熾れば炎が上がる。とぼっていた情熱は燃えさかり、二度目が終えると飽きず懲りず、すぐに三回目をした。覚えたての中学生のような貪欲さで耽る。四回目で挿入に至った。暁登は痛いと言って身を捩ったが、やめろとは言わなかった。
春が来て雪が解けた頃、遠出をした。樹生の運転で海を見に行った。春の行楽シーズン、どこも混雑していたが、かろうじて見つけたパーキングに車を駐めて、モノレールに乗った。モノレールの中からは海がよく見えた。
モノレールの終着駅は海が近かったので、降りて浜辺を歩いた。その時、樹生はようやく「付きあいませんか」と言った。
暁登は鋭い眼差しを向けたが、樹生はもう怯まなかった。
「おれのところに来て、一緒に暮らしませんか」
「……」
「抵抗があるかもしれないけど、おれはきみといたい」
しばらく黙った暁登は、考えてから「金がない」と言った。
「定職っていう職には就いてないし、貯金もろくにない。家を出られるのは嬉しいけど、岩永さんと暮らすのは、なんか、キセイみたいになると思う」
「キセイ?」
「寄生。寄生虫の寄生」
そういうのはもっとふてぶてしい奴がなれるものだ、と思ったが口にはしなかった。それに樹生にとってそれはどうでもよいことでもあった。暁登に求めているのは単なるルームメイトじゃなく、友達でもなく、恋人だったからだ。
「おれと暮らすのは嫌?」と訊くと、暁登は細い目を少し大きくして、目線をそっと逸らした。
「……分かんない。誰かと暮らしたことがないから、」
「嬉しい気持ちには、ならない?」
「……」
暁登は立ち止まり、海の方向を向いた。春の凪いだ海が光っている。「塩谷くん」と呼ぶと、暁登はくるりと踵を返して元来た道を辿り始めた。
砂の上をすたすたと足早に歩く。樹生は追いかける。暁登の名を何度も呼ぶが、暁登は振り向かないし止まらない。
歩幅を大きくして暁登に近付き、その腕を取った。力の差は樹生の方が体が大きい分だけ勝っていた。「待って」と言って立ち止まらせる。
「なあ、逃げるな」
「……」
「逃げないでよ……」
祈りを捧げるように、樹生は暁登の手を掴んだまま上体を折った。ふ、と強張っていた暁登の力が抜ける。顔を上げると、暁登の真っ直ぐな視線とぶつかった。瞳が赤く滲んでいた。
ぷい、と暁登はそっぽを向いた。小さくか細い声で何か言うが、波音と風音にかき消されてうまく聞き取れない。
訊ね返すと、耳を真っ赤にしながらも暁登は「嬉しい」と答えた。
「おれは岩永さんを尊敬してて、あんたみたいになりたいと思ってるから」
「……」
「そんな人とこんなに近くにいて、っていうのが異常なのに、まだ近くにいられるって思ったら」
嬉しい、と言って暁登はうなだれた。まるで絶望してるかのような仕草に胸が絞られる。この青年は喜びながら悲しんでいる。その事がいじらしくて、息が詰まって苦しかった。
それで、その日から二人で探せる住居を探した。その住居が今のアパートだ。一刻も早く、と焦って探した物件だったのであまり数を選んで検討せず入居した。結果、不都合は後から多数出たが、暁登は笑っていたのでいいと思った。
そう、ここで暮らし始めたころ、暁登は嬉しそうだった。いつも笑っているのがよかった。
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粟津原栗子
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自己紹介:
成人女性に向けたBL小説を書いています。苦手な方と年齢に満たない方は回れ右。
問い合わせ先→kurikoawaduhara★hotmail.co.jp(★を@に変えてください)か、コメント欄にお願いいたします。コメント欄は非公開設定になっています。
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暑いですね。番外編短編、ちょこっと更新しています。
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お久しぶりです。短編長編更新。
短編「さきごろのはる」
短編「月の椅子」
短編「みんな嬉しいお菓子の日」
長編「ファンタスティック・ブロウ」
短編「冬の日、林檎真っ赤に熟れて」
2021*08*16-08*19
甘いお菓子のある短編「最善最愛チョコレート」更新。
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