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成人女性を対象とした自作小説を置いています。
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 ふと思いついて、樹生は巌に嘉彦のことを尋ねた。
「知ってるんですか? 父親によそで作った子どもがいること。その子どもが大学の同級生と結婚して、子どもを産んでいること」
「さあな、知らんだろうとは思う。おれの妻はうすうすは知っとったとは思うが、ちゃんと話したこともない」
 ふたりでゆっくり歩いていると、前方から男が歩いてきた。嘉彦だ。「親父」と呼ぶ。
「部屋覗いたら草刈さんひとりだったから驚いたよ」
「ちょっと散歩がしたくなったんだが、あのばあさんには足が痛いからおふたりでどうぞと断られてな」
 巌がしれっとついた嘘に、樹生は内心で狸め、と思う。いや、狡猾なのだから狐か。よく知らないけれど。
「まあいいよ」と嘉彦が言った。
「ジュニアが来たら見せてやろうと思って、花見客に手間取られて忘れてた。写真を見るか?」
「え? おれですか?」
「おまえだよ、岩永ジュニア。岩永がうちの旅館に遊びに来た時の写真があるんだ。学生時代だから、もうン十年前だけどな。見ろよ、おまえにそっくりだから」
「……父の昔の写真って、他にもあります?」
「あー、探せばあるかな?」
「なら、見たいです」
 と嘉彦に告げる。嘉彦は「お」と目を丸く開いたが、すぐににやりと笑って「いいぜ」と答えた。
「両親のこと、おれはあんまりよく知らないんです。あと、早先生と惣先生のことも実はそんなに。だから、よければ話してもらえませんか? 部屋に戻って、みんなで、花でも見て」
 そう言ったら、巌が大きな声で笑いだした。よく響く快活な声で、こいつあと何十年は元気なんじゃないかと樹生は思った。自分の方が早死にしそうだ。
「じゃあおまえ、嘉彦と一緒に『みよし』に行って団子でも買って来い」
 巌は笑いながら樹生に言った。
「『みよし』?」
「すぐ近くにある和菓子屋だ。ここの団子は美味い。花見なら、団子だろう。嘉彦、連れてけ」
「よし、じゃあ行くか、ジュニア」
 それで老人とは別れて嘉彦とふたりで別の方向へ歩き出した。もし父親が生きていて樹生の隣を歩く機会があったとすればこんな感じかと思ったが、その想像はすぐに消した。樹生にとって父は亡くなった早の夫、惣先生。それだけでいい。
 嘉彦が「ジュニアは聞く気がないんだと思ってた」と言ったので、なんのことか分からなかった。
「え?」
「岩永のことだよ。岩永は病気で死んじまって、おまえさんはほとんど草刈さんところで育った、っていう境遇なんだろ? だから教えてやろうと思ったのに、草刈さんがやめとけって言うから」
「いや、……別に、」
 樹生は今更だけど、暁登のことを思う。
「話したいと思う人がいるんですよ」
「親のことを?」
「そうですね。色々と」
 嘉彦は「ふうん」と頷いたが、それだけだった。やがて古い材木に「みよし」と書かれた看板を目線の先に見つけた。


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プロフィール
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粟津原栗子
性別:
非公開
自己紹介:
成人女性に向けたBL小説を書いています。苦手な方と年齢に満たない方は回れ右。
問い合わせ先→kurikoawaduhara★hotmail.co.jp(★を@に変えてください)か、コメント欄にお願いいたします。コメント欄は非公開設定になっています。

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