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「あっ」と暁登は声を漏らし、同時にびくりと腿を引きつらせた。内部に樹生を迎え入れるまではひと言も漏らすまいと拳を握って必死で枕に顔を押し付けていたが、樹生が確かな質量で侵入して動き始めると、鼓膜を溶かすような甘い声で啼きはじめた。もう暁登の体には何度も猛った雄を押し込んできていて、体は樹生のかたちを覚えてぴったりと隙間なく抱きあえるようになった。だというのに暁登の反応は常に硬い。体は素直だ。気持ちがよいことを突き詰めようと樹生をねっとりと咥え込む。心だけが未だに樹生に馴れてくれない。
 そういう態度をされると、樹生の胸の内では意地の悪い気持ちが浮かぶ。もっと啼かせて落としたくなる。だから樹生は声などお構いなしに体を揺する。
 何度もしていることだから、暁登の気持ちの良い場所はわかるし、どうされると泣きだすかも知っている。きっと暁登ですら分かっていなかった芽みたいなものを自分が芽吹かせたのだと思うと心臓がきゅっと締まる。一拍呼吸を忘れて、苦しくなる。
 荒く息を吐きながら暁登の細い腰をしっかりと掴み、背後から暁登のよい場所を探った。この辺り、と思う場所を穿つと、暁登が切ない声をあげた。はじめは強めに押して、あとは小刻みに動く。しばらくそうしてたわむれに幾度か押すと、暁登は観念したかのようにびしゃびしゃとシーツの上に射精した。
 ぐったりと放心する体を、やさしく扱うつもりはなかった。ゆっくりと自身を引き抜いてから暁登の体を仰向けに転がす。そうして膝を掴んで足を開かせ、再び自身を押し込む。また内部をこすられて、刺激に、暁登はついに「やめろ」と言う。
「いやだ、少し待って、……つらい、」
「残念。こっちはそうもいかない」そう言いながらぐるりと暁登の内部を掻きまわすと、暁登はまた嬌声をあげた。それが悔しいのか、腕で口元を覆い、手首を齧る。暁登がいつもする癖だ。
 早く終わらせてあげたいとは思う。だが暁登の痴態を見ていたい気持ちも沸く。沸騰に届くか届かないかのぎりぎりのところをいつまでも味わっていたい欲だってある。とにかく暁登の肌が気持ちよい。冬でも荒れない、みずみずしく若い体だ。
 腰を抱えなおし、足を胴に巻き付けさせてぴったりと添う。暁登が噛んでいる手首のちょうど裏側に唇を這わせ軽く食むと、暁登の内部がきゅっと蠢いた。
「あき、」と、耳元で暁登に囁く。「悪いな」
 それから先はすべて自分のタイミングとリズムで動いた。暁登は相当に辛そうだったが手加減はできない。暁登のこらえきれない声が漏れる。暁登自身に手を伸ばすとまた硬く立ちあがっていて、それを掌で刺激しながら、夢中で男の体をむさぼった。

 風呂に入り直し、あがった後で今度はしっかりとクリームを塗ってもらい、ふたりでリビングに移った。髪を拭いながら少し遅い食事の支度をする。面倒なので米とインスタントのスープでもあったらいいかと思う。暁登を見ると、誘っておいてかなり疲労したようで、リビングのフローリングにじかに寝ころんでいた。
「あき、そんなところで寝たら風邪ひく」
「んー……」
 声をかけたが、暁登の反応は薄かった。仕方がないので朝炊いた白米の残りを電子レンジにかけているあいだに、暁登の傍に寄って腕を取った。
「ほら、……少しは食った方がいい、絶対に」
 声をかけながら暁登を椅子まで運ぶ。取った腕が視界に入り、そこには暁登が行為の最中に噛んだ痕がうっすらと残っていて、なんだかやるせない気持ちになった。
 暁登の生活そのものが、言ってしまえば生き方が、樹生にはむなしく、淋しく思える。
 いつ死んでもいいとでも言うような、投げやりな行動ばかりしている。食べる気がしないから食事をしないとか、雨の日はただひたすら昏々と眠るとか。樹生が教えたから性衝動だけには正直で、でもこれも樹生が教えなければなかったことにして過ごしていただろうと思う。
 電子レンジが温め終了の電子音を鳴らす。器にそれをよそい、ちょうどよく湧いた湯でインスタントスープを入れたカップに湯を注いだ。暁登はぼんやりとそれを見ていたが、「食おう」と椅子に腰かけながら言うと、彼も箸を取った。
「明日は先生のところだろ」と食事の合間に尋ねる。暁登はゆっくりと白米を噛みながら、うん、と頷いた。
「おれも明日出かけるからさ。時間が合うなら車で送るよ」
「別に時間が決まっているわけじゃない。いつも通り」
「じゃあ、乗ってけばいい。おれは十一時に駅前で待ち合わせ」
 暁登はしばらく無言で食べ物を咀嚼していたが、しばらくして「どこ行くの」と聞いてきた。
「いや、姉貴に会うだけだよ」
「ああ、月一の定例会」
「まあね。帰りに買い物して帰る。なにか必要なものある?」
「……わかんない。トイレットペーパーの買い置きがなかった、気がする」
 暁登は目を閉じてぼんやりと喋った。また眠りが彼の内に押し寄せているんだろう。まだ雨はやまない。
「――ま、いいや。めし食って寝ちまおう」
「うん」
「……今夜、」
 と言いかけて、樹生は口をつぐんだ。本当は「一緒に寝ないか」と言いたかった。もしくは「おれの部屋に来るか」でもいい。暁登をあのままひとりの部屋に帰したくなかったし、あるいは樹生自身が、こういう夜はなにか温かなものを抱いて眠りたかった。
 だが言えない。体を合わせることは出来ても、睦むことを暁登は拒絶すると分かっていた。
「冷えてるから、あったかくして寝ろよ」
 結局言えたのはそんなどうでもよい言葉だった。それでも暁登は言葉に素直に頷く。
 食事は、樹生の方が先に食べ終えた。けれど自室に引き下がるのも嫌で、暁登がゆっくりと食事を終えるのを待つ。
 明日は姉に会う。嘘はついていない。月に一度は姉に会う約束でいるし、暁登も承知しているぐらいに日常に組み込まれたことでもある。
 ただ、言わないことはある。
 明日は墓参りに行く。


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プロフィール
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粟津原栗子
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自己紹介:
成人女性に向けたBL小説を書いています。苦手な方と年齢に満たない方は回れ右。
問い合わせ先→kurikoawaduhara★hotmail.co.jp(★を@に変えてください)か、コメント欄にお願いいたします。コメント欄は非公開設定になっています。

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