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成人女性を対象とした自作小説を置いています。
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 暁登の手が樹生の手の上に重なる。その指と指を絡めて繋ぐ。シャツのボタンは全部外して欲しかったな、と今更ながら思う。
「あの、もういいです」と暁登の声が上から降った。
「いいって、なにが、」
 腹に頬を当てたまま、樹生は訊ねる。
「確認とか、金とか、そういうのいいです」
「……やめる、ってこと」
「そうじゃなくて、……金はいりません。むしろおれからお願いします。あんまり豊かに生活してないので、大きな額は出せないですけど、……岩永さんと、してみたいです」
 消え入るような懇願に、樹生は思わず顔を上げた。
 暁登は繋いでいない方の手で樹生の視線から逃れるように顔を覆い隠した。
「岩永さんに触ってもらったら、とんでもなく嬉しいんだって、よく分かりました」
「……何故? おれに憧れがあるから?」
「分かりません。分かんないよ、だってこんな感情は初めてだし、」
 繋いだ手が離される。そのまま暁登の手は自身の心臓の上に置かれた。シャツをくしゃっと掴む。
「おれだってここが、こんなになってる」
「……」
「痛い」
 と言い、暁登も膝から崩れた。床に座り込み、彼はうなだれた。うなだれてまた、脊椎の出っ張りが見えた。樹生はそこに歯を当てる想像をした。
 それをしてよいのだと思ったら、体中に凄まじい歓喜が駆け抜けて、樹生は目を見開く。いまこの目の前で崩れている、まだ少年みたいな青年のことをいとおしいと思い、淋しいと思い、乱暴に扱いたいとも、優しく触れたいとも思った。見せてもらってよかった。暁登の気持ちを知れて、自分の気持ちもいまなら分かる。ぶれずに心臓の辺りに存在する痛みは、痛くて吐きそうだけれど、心地よい。
 この感覚には覚えがあったが、こんなに痛んだか、と思うぐらいの拍動だった。ツキツキと痛む心臓は、確かに恋を訴えていた。
 樹生は暁登の頬に手を添え、上を向かせた。暁登はまなざしをきつく尖らせる。睨んでいるのではなく、戸惑っている表情なのだと分かった。それを見て樹生は微笑む。溢れかえる愛おしさで自分はと言えば泣きそうだった。
「おれも金は、いらない」
 そう言いながら、暁登の眼鏡をゆっくり外した。外して、たたみ、窓の桟にそれを置く。
 今度は両の手で暁登の顔を包み、額と額を合わせた。
「それで、いいんだよな」
「……」
「おれもきみも、金はいらない。いらないままこれから、そういうことをする。それで、いいんだよな」
「……いい、」
 暁登はきつい目をいったん閉じて、また開けた。至近距離で合った目は怖いぐらいに澄んでいる。それを合図に、固く抱き合う。暁登は樹生の背に手を回して肩口に縋ったし、樹生は暁登の腰と後頭部をしっかり抱えた。
「布団行こう、布団」
 樹生は暁登を誘って立ち上がる。手を取ったままで、たった数歩の距離にあったフローリングに敷きっぱなしの布団へと歩き、その上に崩れた。
 暁登のシャツのボタンを、今度は上から外していく。肩をむき出しにさせて、樹生はそこに唇を押し当てる。女の肌のように脂肪をまとっているわけではないので、それは樹生にとって新鮮な感触だった。少しずつ唇を下ろして、胸、胸の先の尖り、浮いたあばら骨、と辿っていく。
 途中で暁登の心臓の音を聞いた。走っていて、唸っていて、強く鼓動しているのが嬉しいと思った。
 臍や脇腹の辺りまで辿ると、暁登は鼻に抜けた声を漏らした。聞いたことのないなまめかしい声は、樹生をたまらなく興奮させる。もっと聞きたくてジーンズの前を寛げ、下着のふくらみに上から唇を寄せると、暁登は樹生の頭に手をやって、「そこは駄目です」と上ずった声色で言った。
 樹生は顔を上げた。
「なんで駄目なの、」
「……おれは男なので、女の人みたいなことには、なってないし」
「別に、女を抱いているつもりは全くない――いや、違うかな。同じ感覚」
「……どういうことですか、」
「女とか男とかいう性別を抱いてるんじゃなくて、塩谷くんとこういうことをしているんだって思ってる」
「……」暁登は黙った。
「それにさ、駄目、でも、嫌、じゃないんだな」
「それは、……」
 暁登は頬を赤くしながら、ためらいがちに「そうです」と答えた。
「岩永さんが触る場所から熱い。なんか、ぞわぞわして、」
「気持ち悪い?」
「違う。……自分の体じゃないみたいに、思います」
「……」
「いままで全然知らなかった感覚で、こう、ピリピリして、……フィラメントになったらこんな感じかな、みたいな」
 その例えはよく分からなかった。フィラメントという言葉自体を知らなかったので、訊いた。
「えーと、電球とかで、光っているところ。あの部品のこと」
「へえ、知らなかった」
「小学校で習いますよ」
「小学校で覚えたことなんて、国語と算数ぐらいだよ。後半は通ってないしな」
 と言うと、暁登は「すみません」と神妙に頭を下げた。
「ばか、それはいいんだ」
 で、それが? と尋ねる。
「なんでフィラメントなの、」
「……岩永さんが触るのに、耐えられなくて目を瞑ると、目蓋の裏が光ってて。それで目を開けると岩永さんがおれの体舐めたりしてるから、ずっと、体中に電気が走っている感じが、します」
「そっか」
 そう言って樹生は再び暁登の性器を下着の上から口に含む。暁登が声を漏らした。嫌でないのだからと、樹生はむしろ大胆にそこを嬲った。暁登のそこはすでに硬くなり始めていたが、樹生が触れたことでしっかりと形を変えた。



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プロフィール
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粟津原栗子
性別:
非公開
自己紹介:
成人女性に向けたBL小説を書いています。苦手な方と年齢に満たない方は回れ右。
問い合わせ先→kurikoawaduhara★hotmail.co.jp(★を@に変えてください)か、コメント欄にお願いいたします。コメント欄は非公開設定になっています。

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