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成人女性を対象とした自作小説を置いています。
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「雄大、お疲れ。慰労会終わったか?」
「いや、抜けて来た」
「いいのかよ、今日いちばんの主役がさ」
「いいんだよ。ここ座っていい?」
 雄大、と呼ばれた青年が仁科の隣に座る。樹生はふたりのやり取りを眺めていたが、仁科が改めて「速水雄大(はやみ ゆうだい)」と青年を紹介したので、頭を下げた。
「今日走ってた張本人」
「すげー速かった人」
「そう。今日は区間新記録でびりっけつから三位に返り咲いたんだよ」
「え、まじですごい」
 パチパチと拍手をすると、速水は照れるでもなくごく自然に「ありがとう」と答えた。今日どのくらい走ったのか分からないが、疲れを感じさせない物言いに若さを感じる。だが年齢を聞いて驚いてしまった。樹生より年上だったからだ。
「えー、嘘でしょう? 絶対にまだ二十代ですって」
「変わんないんだよな、こいつ。怖いぐらい」
「でも現役でいることはそろそろやめるよ」
「……おまえ、そういう進退の話を、おいそれとするんじゃないよ」
 仁科は速水をたしなめる。樹生はふたりの会話についていけなかったが、速水の左手薬指はまった指輪を見て、同じだ、と分かった。
 揃いの指輪をつけている。
(仁科さんが異動になったときの理由、客からしつこいクレームがあったせいだって聞いた)
 速水は仁科から割り箸をもらうと、仁科が口をつけていたカレイの煮つけを食べ、「美味いな」と言って同じものを単品で注文した。それからソフトドリンクも。
(「仁科朗はゲイだから配達をさせるな。気持ち悪い。」確か、そういうクレームだった)
 仁科と速水、ふたりでいる姿は、こんなにもありきたりで、自然だ。ふたりともくつろいでいる。
(この人が、そのクレームの原因か)
 そしてすとんと納得する。仁科は確かに転勤になったが、ちゃんと年月を経ていまに至っている。
 ふたりで至っている。


 帰宅すると部屋の中に暁登がいて驚いた。テレビを見ている。ちょうどローカルニュースが放映されている時間で、昼間の市町村対抗駅伝の様子を放映していた。
「おかえり」と暁登はテレビを見たまま言った。
「早先生がおかず作りすぎちゃったからって、弁当に詰めてくれたから持って来た。明日温め直してどうぞって」
「さんきゅ」
 暁登は熱心にニュース番組を見ている。そこには速水雄大の力走する姿もあった。綺麗なフォームで、しなやかな筋肉を動かして速攻で駆け抜ける。
「この人、陸上の元・日本代表なんだって」と暁登は画面を注視しながら言った。
「なんか格好いいよな。フォームが綺麗で軽やかで、人ってこんな風に走れるんだなって思っちゃう。見惚れる」
「うん、格好良かったよ」
「え? 見たの?」
「ん、」
 イエスともノーともつかない返事で、樹生はテレビを消す。「あ?」と暁登が顔を上げた。その体を思い切り抱きしめる。
 きっと痛いだろうと想像しながらも容赦せず抱きしめながら床に押し倒す。
「おい、」
「他の男に夢中になってるなんて面白くないからとにかくやらせて」
「ちょ、意味が」
 じたばたと抵抗する体を抑え込み、うるさい口を口で塞ぐ。舌を絡ませると抵抗は収まったが、隙をついて背中を拳で思いきり叩かれた。
「いって、」
「なにがっついてんだ、ばか」
「うるさい」
「はあ?」
「いいからやらせろ」
「なにが『やらせろ』だ、こら、樹生!」
 床に転がり、力と力で苦戦しながらも、互いの境界を埋めていく。昼間見た、速水雄大の加速していくスピード。あんなふうにふたりで落っこちる。


End.


← 中編



7月12日19時追記:
明日も更新の予定でいましたがちょっと諸々間にあっていません。
次回、7月14日(土)より再開したいと思います。よろしくお願いします。



拍手[17回]

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チカ。さま(拍手コメント)
読んでくださってありがとうございます。
久々に訪問くださったとのことで、とても嬉しく思います。常に最新を追うのも楽しみですが、「あとで一気読み」が出来る楽しさもまたありますね。それを樹海でしてくださったとのことで、続けていてよかったな、と思いました。
朗と雄大に関してはご存知ない方は分からないでしょうし、また過去作を下げてしまったのでさらに分からない仕様となっていることを申し訳なく思いながらも、私がただ書きたかったという理由で書きました。お礼にもなんにもなっていませんね。ですがこうやって過去を知る方にコメントいただくと、自分勝手なものだったけれどあげてよかったな、と思います。朗と雄大はこんな感じで、年をとっても相変わらず暮らしているようです。

毎日暑くて嫌になりますね。私の暮らす町は比較的冷涼な気候のはずで、でもしっかりと暑いです。本当に本気で暑さ対策をなさってください。日中の暑さを乗り越えると樹海の更新が読めるよって、誰かにとってそんなブログだったらいいなと思っております。

拍手・コメント、ありがとうございました。嬉しかったです。またお気軽に。
粟津原栗子 2018/07/18(Wed)06:10:27 編集
プロフィール
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粟津原栗子
性別:
非公開
自己紹介:
成人女性に向けたBL小説を書いています。苦手な方と年齢に満たない方は回れ右。
問い合わせ先→kurikoawaduhara★hotmail.co.jp(★を@に変えてください)か、コメント欄にお願いいたします。コメント欄は非公開設定になっています。

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