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 直生の話をきちんと聞いて、ようやく事情を把握した。風呂から上がった後、部屋に戻って話を聞いた。なぜだか料理人の有起哉も酒をちびちびと舐めながら混ざっていた。
 直生いわく、橋本は鳥飼のことが好きなのだという。
「根拠は?」
「見てれば分かるよ。用事もないのにやたら美術準備室に橋本先生が顔を出すから。理科準備室と美術準備室なんて階が違うのにわざわざ」
「用事があるんじゃないの? ほら、同じ学年でそれぞれ担任持ってるし」
「ないよ、用事なんて……多分。この間は美術準備室で関係ないこと喋ってた。星の話とか」
 話ながらも、直生の頬が紅潮していく。
「今日だって……鳥飼先生に対して橋本先生はすごく、親身で、」
「そりゃ企画した本人だからさ、足の遅いやつのこと面倒見るのは当たり前だと思うけど」
 そんなことを喋っていると、それまでずっと静かに酒を舐めていた有起哉が「独身?」と口を挟んだ。
 え、とふたりして有起哉を見る。
「その、ハシモトとトリカイは、独身なの?」
「あ、えーと、そうです。鳥飼先生も、橋本先生も、独身……」
「歳は?」
「橋本先生は分からないです、……でも多分、三十代半ばくらい。鳥飼先生は、今年、二十九歳」
「ふうん。じゃああり得るな」
 と、有起哉はあっさり言った。直生は瞬時に傷ついた顔をして、通孝はそれを見ていられなくて「どうしてさ?」と聞いた。
「年頃の男女で、話も合うなら『いいお友達』同士の方がおかしいだろ?」
「そんなの一般論じゃないか。あのふたりに当てはまると思えないけどな、僕は」
「大多数に当てはまるから一般論なんだろ」
「よく知ったふうに言うけど、有起哉さんだってまだ十代じゃないか」
「ばか、経験値なめんなよ。おまえらみたいに童貞じゃねえんだよ、とっくにな」
 それを聞いて俯いたのは直生だった。照れている、というよりは怯えて青白い。ぽんぽんと身内の気安さでつい言い合ってしまったが、話があからさま過ぎたかもしれない、と通孝は反省する。
 謝ったが、直生の表情は硬い。次第にはカタカタと震えだすので「あー、悪かった悪かった」と有起哉も謝った。
「大丈夫か? おい、えーと、」
「岩永直生だよ」
「直生、悪ふざけが過ぎた、ごめんな」
 有起哉は直生の肩に手を当て、さする。しばらくそうしていたが、有起哉はふと手元にあったコップ酒に気付くと、「ほら」と直生の口元に無理に寄せた。
「――有起哉さん、」
「別に、ちょっと飲ますぐらいいいだろ。本当は温かい牛乳にちょっとブランデー垂らしたやつがいいとか言うけど、まあ、要は一緒だろ」
「そんなざっくり」
「ひと口舐めるだけでいいから。直生、」
 言われて直生は顔を上げ、有起哉から渡された酒を一口舐める。みるみる顔が赤くなり、倒れるように布団の上に横たわった。
「そうそう、寝ちまいな」と有起哉は言った。直生に布団をかぶせ、目元を掌で覆う。
「そう、そうだよ直生――いい子」
 そうして直生が大人しくなり、やがて規則正しい寝息を吐き出すようになった頃、通孝と有起哉はそっと部屋を出た。
 部屋を出て廊下を降り、従業員一同がつかう談話室にひとまず腰を据える。もう深夜のような時刻で、朝早くから始まる仕事だということもあって起きている人間は誰もいなかった。
 明かりを点け、椅子を引っ張り出すと有起哉は「なんだありゃ」と呟いた。
「え? 岩永?」
「ああ。あいつ結構、なんていうかな――『揺らぐ』な」
 有起哉の言っていることの意味が分からず、通孝は首を傾げた。
「揺らぐ?」
「そう、……ぶれる、とでも言うんかね。落ちる、かもしれない。とにかく、安定しない。ここが」
 とんとん、と有起哉は親指で自分の胸を指した。
「思春期ってそんなもんなんじゃないの、」と通孝は知ったようなふりで言ったが、実際いま自分の年齢がそうであるのに、遠くの噂話みたいに思えた。
 有起哉は「は」と息を吐く。
「それにしちゃあな。生理前の女と相対してるみてぇだ」
「……有起哉さん、そういうことばっかり言うから」
「分かってるって。これでも言うやつは選んでるんだぜ。共同生活の節度ってやつ」
 有起哉は頭の後ろで手を組むと、後ろにふんぞり返って「まあ、あれだな」と言った。
「直生は本気でその、トリカイが好きなんだろうよ」
 ままなならんもんだな、と有起哉は呟いた。


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粟津原栗子
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自己紹介:
成人女性に向けたBL小説を書いています。苦手な方と年齢に満たない方は回れ右。
問い合わせ先→kurikoawaduhara★hotmail.co.jp(★を@に変えてください)か、コメント欄にお願いいたします。コメント欄は非公開設定になっています。

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