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成人女性を対象とした自作小説を置いています。
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 崩れるようにシーツに沈む。樹生は着ていたシャツを脱ぎ捨て、暁登の上にのしかかってくる。無我夢中でキスをした。暁登は樹生の両の頬を包んだし、樹生は樹生で暁登の体をまさぐり、衣類を簡単に剥がした。
 ふたりとも互いの体を残らず喰ってやろうと躍起になる。キスの痕ぐらいは簡単で、舐めるよりは噛んだし、噛むよりは齧った。手でひっかいては爪痕を残し、体がしなれば、そこばかり嬲った。擦って、すすり、吸いあげる。思いがけず樹生の精液を顔で受け止めるはめになっても、夢中で全く気にならず、むしろ喜んでそれを舐め、体に取り入れる。
 男の長いもので体を割りひらかれて、暁登は歓喜の声をあげた。同時に猛烈な寒気を感じて、気付けば射精していた。つま先が反り返る。いつもなら一度出してしまうと男に動かれるのがつらくて、出した後はすこし待ってくれと頼んでいた。それをよく分かっている男は、暁登がいったのを確認して動きを止める。浅く息を吐きながらも快感を殺している。それが今夜ばかりは、もったいない気がした。
 動いていい、と伝えると、樹生は戸惑うそぶりを見せた。
「辛いんだろ、」
「辛くていい」
「いいの?」
「いい。――おれ、多分、きっと、いままでで最高にどうにかなってるから、あんたもなってよ」
 言うと同時に奥の奥まで押し込まれて、息が詰まった。内部が熱く男に絡んでいるのが分かる。樹生とのセックスはいつも優しく、気遣われてばかりだった。樹生以外の他の誰とも経験はないし、これからもするつもりはないから比較しようがないが、こんなに擦り切れそうに肌を合わせておいてもどこかに「気遣い」という隙間があった。ほんの少しのゆとり、もしくは境界。
 そんなの惜しいに決まっているのに、いままで気付かなかったな。
 激しく腰をつかわれて、暁登も樹生の腰にしっかりと足を巻き付けて応える。ふたりしてヘッドボードへずり上がっていくのを樹生の腕がとどめ、態勢を変えてまた貫かれた。酩酊していく意識の底で、暁登には不思議と昼間の川名の発音が響いていた。これはね、恋人同士がつかう表現なんだって。愛している、よりは少しニュアンスが親密なの。
 乾いていた土は樹生でいっぱいに満たされる。満たされて、飽和する。
 ――ウォシャンニィ。
 貫かれたままたくさんキスをした。その合間、吐息とともに唇から言葉がこぼれ出る。樹生は低く呻いて暁登の中に熱く精を放つ。乗っ取られたみたいで、同化したみたいで、――それが本当に気持ちよかった。


 湯を浴びるとやんちゃをしたせいで体のあちこちがヒリヒリした。あー、こんなとこ引っ掻いたな、などと思いながらも遠慮なくシャワーをつかわせてもらう。朝の光が浴室を金色に染めていて、自身についた傷もよく確認出来た。
 約束は約束なので、暁登はこれから洗濯などの家事を担当する。ついでに弁当も作る。休みの日だからベッドで寝こけて樹生を見送らない選択をしても良かったのだが、どうせ炊いた米を握るぐらいしかしないしな、と思って起きた。シャワーを浴び終えて脱衣所を出ると、樹生は洗面台で髭をそっていた。おはよ、おはよう、と短く挨拶をする。
「昨夜、なんて言ったの?」と訊かれ、暁登は素直にとぼけた。
「なんとかかんとかって」
「なんとかかんとか」
「早口で聞き取れなかった。けど、あんな風に囁かれたらもう、だめになるよ」
 頭をかりかりと掻いて照れを逃している恋人を見て、あああれかと思い至る。飽和してしみ出したあの言葉。
「xiǎng」
「シャン?」
「うん。あんたはそれだけ分かってればいい」
「いや、全然分かんないんだけど」
「おれはあんたに対していつもそうだよ、ってこと」
 心底分からない、という顔をしていたから、その眉間を指で軽く突く。いて、と樹生はのけぞる。
「それっておれが自由に解釈してもいいってこと?」
「そうだね、お好きに」
「そういやおれ、暁登くんから好きだとか愛してるとか言われたことないよね」
「あんたも言わないだろ」
「恥ずかしいじゃん」
「そうだな」
 適当に答える中で、でも分かってしまった。恥ずかしいから口にしないだけで、想ってくれている、ということ。
「なあー、シャンってなにー?」
「ほら、着替えろって。遅刻すっぞ」
 暁登ぉ、とうだうだ言う大きな体をのかして、暁登はキッチンへ歩いて行く。
 ウォシャンニィ。よくも咄嗟に出て来たな、と暁登は思う。
『我想你(ウォシャンニィ)は、文字通り“あなたを想っているよ”って意味。我愛你(ウォアイニィ)はアイラブユー、とてもストレートで強い言葉だけど、親密な仲になるほどそういうのって使わない気がする。だからかな、こういう表現を持ってくるってのが、この人の詩がすごく深いところに突き刺さるっていうか』
 川名は、こう説明してくれた。早く出版にならないかな。暁登もそう思う。
 好きだ、も、愛してる、も、暁登は今後も言わないだろう。咄嗟に出た我想你でさえもきっとあれで最後だ。大事なことはいちばん伝えたいときに伝えられた。
 もう二度と言わない言葉の数々。けれど出版された愛の詩集は、恋人に贈るだろう。暁登からの数少ない贈り物。恋人は活字なんかまどろっこしくて嫌いだから、きっと読まない。三行読んで眠るのはもう分かりきっている。それでも贈りたい。
 あなたがかけがえなく大切で大好きだと、いつも思っている。あなただってそうなのだと、昨日よく教えてもらった。
(同じところに帰ろうよ)
 早と、樹生と、暁登と、三人で暮らすなんて。
 そんな夢みたいなこと。


End.


← 4


「秘密」は番外編も含めてこれでいったんおしまいとなります。
4月から約4か月間、ほぼ毎日お付き合いくださってありがとうございました。
この間、過去作を含め拍手をいただいたり、コメントをいただいたりと、あらゆる方にご訪問いただきました。こういうことが久しぶりでしたので、単純に嬉しかったです。
またしばらく地下潜伏に戻るわけですが、浮上した際には、よろしくお願いいたします。

暑く、災害の多い夏ですが、楽しい日々でありますよう。





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粟津原栗子
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自己紹介:
成人女性に向けたBL小説を書いています。苦手な方と年齢に満たない方は回れ右。
問い合わせ先→kurikoawaduhara★hotmail.co.jp(★を@に変えてください)か、コメント欄にお願いいたします。コメント欄は非公開設定になっています。

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